騎士としての日々②
翌日
今日の午前中はミカさんと訓練をして、その後は騎士団全体の訓練に参加して、集団の動き方や各騎士団員との訓練をする。ミカさんも参加する。
俺は集団の訓練後は、騎士団で同期になるリオル先輩らと模擬戦をする。
「リオル先輩、よろしくお願いします」
「マルク小隊長、よろしくお願いします」
「リオル先輩、今だけは普通でお願いします」
「ああ、わかった。まあ、マルクは小隊長だ。あんまり、馴れ馴れしいと俺も怒られる」
「そうですか。わかった。よろしく」
「はい」
そして、俺とリオル先輩は模擬戦をしていく。学院時代よりさらにリオル先輩は強くなっていた。それでも俺はもっと強くなった。お互いにスキルなしで武術だけで戦う。
それでも完璧にリオル先輩の間合いを潰し、俺の攻撃をしていく。リオル先輩は自分の間合いにするために動くが、その瞬間を狙い、攻撃していく。それでリオル先輩は防戦一方になる。俺は数度の攻撃で完全に追い詰め、勝負を決めた。
すると、周りから拍手が起きる。ああ、見られていた。リットさん(リック先輩の父)がいらっしゃった。
「さすが、マルク小隊長だ。実に上手い戦い方で、リオルに一切の反撃を許さなかった」
「ありがとうございます。リット小隊長」
「いやあ、多くの団員が学ぶべき戦いです」
「そうですか」
「できれば一戦頼めますか?」
「わかりました」
リット小隊長から一戦を望まれたので、胸を借りる。リット小隊長は実に老練な戦いをしてくる。いわゆる死なない戦いだ。決して単体の強さはないが、決して死なない、生き残る強か(したたか)がある。
だが、俺はそれに迷わされず、俺とリット小隊長との間にある間合いに関係なくしかけて攻めていき、俺の間合いに持っていく。そして、俺の間合い、俺の戦い、俺の攻撃をしていく。
だが、リット小隊長も実に上手い。ギリギリのところでこちらのやりたい事させてくれない。だが、それでも俺は攻撃をして、リットさんの間合いにさせない。そして、リットさんが捌き切れなくなったところで一気に決めた。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。リットさんの戦い上手は凄いですね。なかなか決められなかったです。なんとか最後は攻め切ることができました」
「そうですか。しかし、マルク小隊長は実に上手い。まるで老練な大将軍を相手にしているような感じでした」
「ありがとうございます。そう言ってもらえ、励みになります」
「こちらこそ」
そして次はクリス先輩と。クリス先輩は剣技がよくなっている。地味な訓練を一つずつしている剣術だ。これは強くなる。でも今はまだまだ。俺は守りの甘いところ一気について、俺の間合いに持っていき、そこから連撃で決めた。
そしてジュライ先輩、ジンダ先輩と戦う。2人は守りが固くなっていた。とてもいい構えで守るため隙は見えなかった。まあ、それはそれでやりようはある。相手の隙を作り出せばいい。フェイントを入れながら、相手の隙を作り、ついていく。
それから一瞬の集中力が切れたところで勝負を決めた。2人とも同じような負け方であったので、もう少し訓練を励んで行けば、強くなると思う。
そして、ラックス、ルックス先輩らは2人でくる。1人での戦いは捨てたようだ。いい連携だが、まだ甘い所があるため、そこをついて連携を崩すと勝てた。
この中でジュライ先輩とジンダ先輩が一番騎士団に入り、伸びていると思う。戦い方が合っているのだろうな。それに対して、リオル先輩が伸び悩んでいる。多分、俺が陥ったのと同じ状況になったんだと思う。
命のやり取りが必要だ。技術に、スキルに目が行き過ぎで、殺すことや生き残ることを気にしていない。そのために勝ちにいくことに固執できていない。勝たないと死ぬという危機感、もしくは絶対に生き残るという意思がない。
「マルクは強いな」
「ほんとにマルクとの距離が離れていくよ」
「ああ、まだまだだ」
「そうだよ。マルクはどんどんと前にいく」
「そうですか。皆さんそれぞれに良くなっています。ジュライ先輩とジンダ先輩は自分の戦いを徹底してできてきています。今の道を進み続ければ、私とは違う強さを持つと思います。集団の中で生きる強さを持てると思います。2人とも騎士団の戦いが合っていると思います」
「そうか、だってよ。ジュライ」
「ああ、ジンダ」
「そしてクリス先輩は今なされていることを極めて行けばいいと思います」
「そうかな。これでいいんだ」
「はい、足りない所をちゃんと磨けていると思います」
「ああ、そうか。マルクに言われると嬉しいね」
「そうですか。リオル先輩は問題です。皆さんもたどり着く問題にぶつかっています。今のままでは成長は難しいですね」
俺はあえて、はっきりと告げた。リオル先輩は顔を歪める。
「やっぱり、そうか。最近、成長ができてないような気がしてな。少し焦っている」
「それがわかっているだけ凄いです。俺も前に同じ状況になりました。問題をわかっても、原因が掴めないのでは?」
「ああ、そうだ」
本当に悩んでいるという表情だ。
「そうですか。問題は死の危険感を忘れていることです。ある程度強くなったことで模擬戦では負けないと思います。そして、死ぬかもと思うことがないとどうしても受けてしまいます。又は間合いを気にしすぎて、動けなくなる」
リオル先輩はハッとした表情になる。
「悪いことではないですが、それを重視しすぎるとまずいです。俺もそうでした。俺の場合はガイス師匠に無理矢理に魔獣の森で同格と殺し合いをさせられました。そのため、間合いとかより、生きる、殺すことを考えます」
リオル先輩は悩み始めた表情だ。
「その結果、間合いが悪くても自分の間合いに持っていくための攻撃をして、無理矢理に自分の間合いにすることをしたり、相手の弱い所を攻めて、相手を崩すことを重視するようになったら、もっと強くなれました」
「そうか。俺はどこかで死なないと思って、戦っているのか?」
「ええ、死なないと感じ、殺す気もないので緩い手をしてしまっています。そして模擬戦を勉強と思っています。その結果、初めに見ることに徹して、先輩自身の間合いを掴む前に攻められ、全く何もできずに負けました」
「そうか、俺に足りないのは死ぬかもしれない経験か」
「はい」
「ありがとう」
「いえ」
深く考えているようだ。これで気づいて、命をかけていることを感じる経験を持てたらいいな。なかなか騎士団では難しいかもな。
「皆さんもいずれぶつかります。命を取り合わない模擬戦ばかりだと、死合ではなく、試合となっていくと思います。ですが試合にはならないように」
「「「「はい」」」」
ヤイはあまり気にしない。元々、生き死にを仕事にする冒険者を弱いうちからしていたから、常に死は隣にあったようだ。さっきのは騎士の病だからな。
「俺は訓練でたまに感じている。それにもともと冒険者だからね」
「ヤイが死を訓練で感じた時は余計なことを言って俺に怒られている時だよね?」
「な、それを今言う?」
「いや、先にひどいことを言ったのはヤイだよね?」
「隊長」
「まあ、ヤイ。じゃあ、死を感じてみようか?」
「ちょっと」
そして、ヤイを扱く。それを見て何人かが引いていた。
「マルク、俺も扱いてくれないか?」
「リオル先輩を?リオル先輩がいる隊の隊長がいいならいいですよ」
「わかった」
そして騎士団の訓練が終わって、俺とヤイとミカさんは外に食事に行く。明日当番の隊以外はほとんどの騎士団が光の曜日の訓練終わりでお酒を飲みに行く。これが通例だ。
そして俺らは
「いつもの店がいい」
「わかってるよ。予約しといた」
「よっしゃー。リルもいいよな?」
「どうせ、毎回来てるんだから、確認いらないよ」
「よっしゃー」
「私も参加してすみません」
「ミカさんも半分、隊員みたいなものだからね」
「ふふ。そうですか」
そして、リルちゃんも合流してシューガルトへ行く。最近はシューガルトのオーナーは母上だけでなく、俺にも感謝するようになった。結構魔道具や俺の魔法理論でお店が楽になったり。お孫さんが母上に憧れていたのに魔法スキルがないことに落ち込んでいたが、冒険者に成り立ての頃に魔法理論を俺が教えたら使えるようになったりで、とても感謝してくれる。
「どうも」
「はい。マルク様、ご予約は承っております。いつものお部屋にご案内します」
「いつもありがとうございます」
「いいえ、孫が最近は元気に勉強に励んでいて、マルク様には感謝しております」
「そうですか」
「ふふ。リネア様にも、マルク様にもお世話になりっぱなしですから、こうしてマルク様に利用いただけ、嬉しいです」
「そうですか。なんだか迷惑をおかけしていると思いますが」
「いえ、むしろ毎日でもいらしてください」
「ありがとうございます」
そして、いつもの部屋で食事をして行く。
「では、今週もお疲れ様でした。今日は俺のおごりなので、楽しんでください。乾杯」
「「「「乾杯」」」」
「よっしゃー、食うぞ」
「マルクさん、いつも兄がすみません。それにいつもこんな高い店を」
「ふふ。リルちゃんは気を使いすぎだよ。ヤイにはいつも助けてもらってるしね。それに俺は使いきれないほど金を持っているんだ。カリムさんの所で働いているからわかるでしょう?俺の作った魔道具が凄く売れるんだ。その売り上げの一部をもらってるんだよね」
「確かに。凄い売り上げです」
「そう、もう使いきれないくらい」
「あの〜、マルク様、いくらぐらいもらってるんですか?」
「ミカさん、だいたいこれくらい」
「え?それって一生で稼げるかぐらいでは?」
額を教えるとリルちゃんもミカさんも口が閉まらなくなる。まぁ、王国の予算の十分の1くらいだからね。俺も最初は驚いた。
「これで一年分だよ。しかも前の方が良かった時期もあるよ」
「本当に、マルクは金持ちだよ。こんな裕福な隊長がいて、俺は嬉しい」
「ヤイは奢って貰える時だけは褒めるよね。冒険者の時から変わらないよ」
「冒険者の時から、こんな感じだったのですか?」
「ミカさん。そう。ランクが上がったよね?とか、高い金額の依頼をこなしたよね?とかでしゅっちゅう食べに行って奢らせられたよ」
「マルク、いつのことを言っているんだよ。小さい」
「すみません。兄が」
「いいよ。リルちゃん。俺らの間はこうだから。これが楽しいしね。だからリルちゃんも楽しんでね」
「おい、マルク。リルはやらないぞ」
「お兄ちゃん」
「ヤイ、酔っ払うのが早くない?」
「はあ、マルクはこれだからね。大丈夫か?」
ヤイがリルちゃんを心配する。
「ふふ。そうですよ」
「そうなんですか」
「あれ?何で俺はひどいことを言われてるのかな?」
「「天然だから」」
「何が?」
「「「プッハハハハハ」」」
「笑いすぎじゃない?」
そして皆で楽しんでお酒やご飯を嗜んだ。




