マルク・ドンナルナ その家族とこの世界
主人公マルク・ドンナルナとその家族、そして世界のこと
朝になった。
父上と母上と姉上らがいる。
「父上、母上、メル姉、エル姉、おはようございます。」
「うむ、マルク、おはよう」
「マルク、おはよう」
「マル君、おはよう」
父、母、メル姉の順に挨拶を返してくれた。
「?マルク、エル姉様と呼ぶ」
前世の記憶で言うと、エルカ姉様はツンデレだ。
メル姉もエルカ姉様はいわゆるブラコンだ。俺のことが好きすぎる。
「兄上はもう出かけたのですか?」
「ええ、騎士宿舎に行ったわよ。あの子も明日から仕事だから張り切ってねぇ。朝早くからマルクに会わずに、みんなにも何も言わないで行くんだもん。誰に似たのかしら」
母上は父上を少し見た。父上は目をそらす。
兄上は、先日に騎士学院を卒業し、騎士として明日より就職だ。
真面目な兄上はもう宿舎に向かったらしい。明日から宿舎で住み込み騎士として働くのに本当に真面目だ。一般的な新人騎士たちは昼過ぎに宿舎に入り、宿舎の部屋を片付けたり、明日以降の任務の準備をするのが通例らしい。兄上は真面目すぎる。
この国の騎士は貴族だろうが、王族だろうが騎士になれば騎士宿舎で暮らす。
家族を得たものや、騎士として隊長以上の者は宿舎を出ることが許される。それまでは宿舎で暮らす。
これがルールだ。まぁ王族が騎士になることはないが。
騎士は平民も貴族もなれる。
ただし、騎士学校を出るか、騎士試験に合格することが必要だ。
試験を受けるには剣や槍などの武器スキルか、盾術などの防具スキルが必要だ。
この世界はスキルが絶対の世界だ。
明日、俺もスキルを神殿で調べる。
この国では、7歳で調べる。この費用は全て国が出す。
こんなルールがあるのも、
騎士に厳しいルールがあるのも、
大戦があったからだ。
俺が生まれる7年前まで、この国は戦争をしていた。
隣の帝国や宗教国家の聖国はまだ戦争をしている。正確に言うと、なし崩し的に停戦状態になっているので、戦争はしていないが、やめてもいない。
世界はまだ緊張状態にある。
王国こと、我が国レオナルク王国は休戦中で比較的に平和だ。
ただし、それでも兵の育成や、軍の維持は必要だ。
だから、7歳でスキルを調べる費用、騎士の衣食住の費用は国が負担している。
また、宮廷魔術師や宮廷回復士も騎士同様に衣食住を担保される。
この世界では、武官が重用されるのは仕方ないんだ。
平和とは程遠い世界だ。
この世界のこと、あの世界のこと、俺のこと、前の俺のことをご飯を食べたら少し整理しよう。
「マルク、緊張しているのか?」
「はい、父上。父上や兄上のように、武官としてのスキルが私にもあるのか?それとも母上や姉上らのように魔術師のスキルがあるのか?気になってしまい」
「マルク、大丈夫よ。私リネア・ドンナルナとラルク・フィン・ドンナルナの子なんだから。」
「そうよ。マル君。お母様の言う通り。それにこの『死滅の女神』と言われるメル・ドンナルナの弟なんだから」
「ふん、当たり前。そんなこともわからないマルクはダメな弟」
そう、みんなが緊張を説くように話してくれる。なおエルカ姉様はさりげなく手を握ってくれてた。
部屋に戻ってきた。
明日の大事なイベントの前に自分のことを思い出さなくちゃ。
俺はマルク・ドンナルナだ、
年は7歳だ。
英雄2人の息子で次男だ。
父上は近衛騎士隊の副隊長で、風魔法と槍術を得意とし、疾駆と硬化、武闘オーラで早く駆けて、硬く守り、戦争で多くの命を救った英雄だ。第二次レオアル大戦や天月大戦時に騎士として多くの戦場で一番槍として先駆けをし、負けそうな場合には殿で多くの者を足止めした。それに救われた人は多く、正に英雄だ。『王国の風壁』と呼ばれるのも頷ける。実際に父上を主人公にした多くの戯曲が作られた。
母上は元宮廷回復士にて宮廷魔術士で、聖女や大賢者と呼ばれる魔法・魔術の天才だ。
第一次、第二次レオアル大戦では、回復魔法で多くの者の命を救い、攻撃魔法で敵を殲滅し、付与魔法で兵を強くし、天月大戦では結界魔法を張り、都市や王宮の守りを担当した。母も英雄だ。
兄上は今年、王立騎士学院を卒業して、騎士になった。王立騎士学院時代に強い魔物を倒し、『疾風の槍』と呼ばれる通り名がついた。風魔法と土魔法を得意にして、火魔法、付与魔法も使える。特に疾駆と風の魔法の付与で早く駆け、武闘オーラで槍の鋭い突きをする姿が有名だ。
姉上2人は双子で、まだ王立魔法学院の生徒だが、魔法に天賦の才能を持つことで有名だ。
メル姉は王立魔法学院の学生で、火、風、土魔法に、光魔法を使え、同時詠唱や短縮詠唱をできる。特に火魔法、土魔法と風魔法を合わせた『アースキャノン』と呼ばれる、燃える大きな土の塊を、風ですごいスピードで発射する広範囲殲滅魔法は、姉が作り出した最強の魔法として有名だ。メル姉は母同様に殲滅魔法を得意とすることから『死滅の女神』と呼ばれる。最初は死滅の悪魔と呼ばれたが、メル姉がそう呼ばせるように周りの人を脅したそうだ。
エルカ姉様も王立魔法学院の学生だ。いつもはツンだが、実はすごく優しい性格で、それが現れているのか?回復魔法を得意とする。さらに母同様に結界魔法、付与魔法が得意でこちらも多くの人から母の後継者として評判が良い。そんなエルカ姉様は「聖天の守護天使」と呼ばれる。
そんな家族に囲まれた俺は、小さい頃から体が強く、大きい。今7歳だが135cmと、他の子供より10から20cmほど大きい。英雄の子として期待されている。
俺は小さい頃から体術などを学んでいる。走り方などを小さい頃から学び、スキルがわかってから実際の武術を学んでていく。それが一般的なこの国の男の子だ。
また、マナと呼ばれる、魔法を放つエネルギーの体内保有量も多い。マナの操作に慣れた母や姉が言うのだから本当だ。
父上や兄上はきっと良い騎士になれると言われてきた。
母上や姉上らにはいい魔術師になれると言われてきた。
明日スキルを知れば、それに合わせて武術や魔術を鍛え始める。
次はこの世界のこと。
この世界は、天神教が唯一教で、天神教は天神様が唯一神にて、創造神だというのが教義だ。王国ではその天神様の下に精霊がいて、世界を調律しているというのが天神教の宗教概念だ。
この天神教を唯一の国教とする国が帝国と聖国で、国教としながらも、自然崇拝を認めているのが王国と商業都市国家、自然崇拝を中心にしているのが獣人国だ。
商業都市国家にはドワーフの国も入る。彼らは商人ではないが商人と切っても切れぬ仲であり、地理的にも近いため商業都市国家にはいっている。
他に小国国家郡と呼ばれる地域があり、小国が多い地域だ。こちらは、ほとんどの国が帝国の属国に近い。数カ国は帝国に与していない。
対して、天神教を信じてないのは魔族と呼ばれる者たちとエルフと呼ばれる者たちだ。
魔族は月夜神と呼ばれる神を主神にして、唯一神とする月夜教を信じている。そして人族と大きく異なり、角を有する有角族だ。
エルフは他の種族と付き合わないため、いまいちどんな種族かわからない種族だ。彼らは異なる神を崇めている。ただそれが何というのかは知られていない。それ以外でエルフ族について知られているのは、見た目が美麗で、耳がとんがっているものが多い。ただし、住んでいる地域によって耳はとんがってないらしい。
そしてこの世界はここ三十一年間も戦争を続けている。まず、この世界の二つのみの大国、レオナルク王国とアルガレス帝国の戦争だ。一時的に休戦になったが、その後に獣人国家も巻き込み戦争をした。これをレオアル大戦といい、王国と帝国の戦争を第一次レオアル大戦、王国と獣人国の連合対帝国の戦いを第二次レオアル大戦という。聖国が帝国を助けていたことで、帝国や聖国と王国は未だに仲は良くない。今は両国とも終戦して一応友好国だ。
事の発端は小国国家郡に訪れていた帝国の皇太子が死んだことだった。それを当時の帝国貴族が王国の策略だと言い出したことが原因だ。そこから、世界を巻き込んだ大戦へと進んだ。
レオアル大戦が終了する原因となったのは、王国の王太子、現在の王が、王国が皇太子を殺したと言った帝国貴族が魔族の手の者に操られていたことを突きとめたためだ。その貴族が魔族と協力して帝国の皇太子を殺した。そのため、帝国と王国は終戦して、魔族との戦争を始める。
王国と帝国は終戦と同時に魔族の殲滅を目的とした同盟を組んで魔族国家に侵攻した。これが天月大戦と呼ばれる。この戦争は数の少ない魔族が負けるとは思われたが、一部の部隊を除き、その圧倒的なマナと魔法の扱いに慣れた魔族に人族の侵攻を阻まれ、人族は被害を多く出した。
しかし、魔族の中に非戦争主義者がおり、その者らと王国が手を結ぶ形で停戦をしたことで一気に形勢は人族に傾いた。
永い戦争をしてきた王国は魔族と停戦および不可侵を結び戦争の終結を行う事を帝国および聖国に主張したが、帝国と聖国は聞く耳を持たない。それに不穏な雰囲気を感じ、国内も荒れていた王国と獣人国家は同盟から抜け、魔族と正式に停戦および不可侵の条約をむすぶ。停戦を結んだ魔族らは魔族国家から抜け、有角族国家ラムオレと名乗り、新たな国家を作った。
これに倣うや、魔族でも好戦派が魔族国家リズルを、好戦派ではないが人族と交流はしない中立派が魔族国家ランブルを作った。魔族の国は三つに割れた。
そして、魔族二国(とそれを支援はするラムオレ)と帝国・聖国の戦争は永き戦争を続けた。
しかし、帝国内で厭戦感情が高まり、帝国は有角族国家ラムオレと停戦し、魔族との戦争を一進一退に持ち込み、撤退した。魔族国家であるリズルやランブルは永きに渡る侵略を受けて、国内がボロボロになっており、帝国や王国には侵攻しなかった。
ただ、聖国だけが何度も魔族国家に侵攻した。しかし、魔族の強さに失敗を繰り返した。
これが歴史で、現在は停戦状態で、何とか平和を保っている。しかし、どこもかしこも戦争へと進む危うさが蔓延していて、この世界は危険なんだ。
今度は前世だ。
前世でオレが生きていた国は日本という国家で、長い間自国内で戦争や政争を繰り返してきた国だ。そしてオレが生きていた時代の前には、世界を二つに分けた大戦に2度参加して、一度目は勝利した側、2度目は負けた側だ。
そのため、2度目の大戦の戦後は勝利国によって、戦争をしない国に生まれ変わらされ、かなり裕福で、平和な国になったようだ。この世界より技術が進歩して、それを科学というのだが、それがすごい。オレが最初に思い出した風景はやはり病院だ。すごい技術だ。そんなところらしい。
前世の俺は、
織田流星といい、父と母と姉と4人暮らしだ。
といっても、3歳で小児がんという病気になり、人生のほとんどを病院で暮らした。
16歳で病院のベッドで死んだ。
趣味は読書だ。いや、それしかできなかった。
はぁ、前世の記憶のほとんどがベッドと読書しか無い。
なんとなく、前世を思うと、父と母の悲しいそうな、心配そうな顔しか思い浮かばない。
もう思い出すのはやめよう。彼らも俺が元気に楽しく生きることを望んでいるはずだ。
俺は彼の、前世も俺の分まで、ここで強く生きる。あの時できなかった全てをしてやる。それが俺だ。そうするんだ。何事があってもあれより辛いことなんてない。強く生きてやる。
そんなことを考えてたら、疲れた。のんびりしよう。
ここまではプロローグです。次から本編の本当のストーリーです。