ガイアス② ガイアスの戦い
2週間後
今日は武闘会だ。次の騎士団長と王太子殿下を決める武闘会だ。多くの者が参加する。ガイアスやマリアもそして、ガイザという王子も。他にガンソ第2王子殿下らも出場する。今回の王太子を決める武闘会の優勝候補はマリアとガイザとガンソ第2王子殿下らしい。陛下はマリアかガンソ第2王子殿下がいいようだ。
騎士団長は現在の副騎士団長と、前騎士団長の子が優勝候補らしいが、前騎士団長の子はガイザの派閥らしく、陛下は乗り気じゃないらしい。むしろ現在の副騎士団長か騎士団長の子がいいとか。騎士団長の子はまだ若く、まだまだらしい。なので副騎士団長に期待したいとのことだ。
獣人族は強さを重んじるために、このように武闘会で王を決めるようだ。対戦表が発表になった。ガイアスはいきなり、前騎士団長の子とやるらしい。そしてマリアは24人いる子供の中で決める戦いで、準決勝でガイザと戦う。なお、ガイザは対戦表をいじったようで、一戦少ない。ああ、これはダメな奴だ。こういうのが王になれば国が壊れるな。
今日から2日間で次期騎士団長を決める武闘会の準決勝まで終わる。その後に2日かけて王太子を決める武闘会が行われて準決勝まで行われる。そして、最終日の5日後に次期騎士団長と王太子を決める決勝が行われる。それで次期騎士団長と王太子が決まる。
そして、一回戦が始まる。俺は一回戦の前にガイアスの元をシエル会長殿と一緒に訪れた。
「ガイアス、一回戦から優勝候補らしいね」
「はい。相手はよく知っています。同じガウラン族ですから」
「そうか、じゃあ、手の内も知っている相手と戦うのか。じゃあ有利だね」
「え?」
「だって、相手のことは知っているのに、相手はガイアスの今を知らないよね?」
「確かに」
「だから、ガイアスを舐めてかかるけど、ガイアスは相手の強さも弱さも知っているんでしょう?」
「はい」
「頑張ってね」
「マルク殿が言いたいことは言ってくれた。ガイアス、頑張るんだぞ」
「はい。マルク師匠、シエル師匠」
そうしていると
「おいおい、雑魚は人族と女に武術を習っているのか?」
「ははは、レント、しょうがないさ、無能は」
「おいおい、無能なんて言ってやるな。無能様のマルク様に失礼だ」
はぁぁ、獣人族で無能と言われるか。ていうか最近言われてないぞ。でも、そうか。無能と周りに言われ続けたから、ガイアスはそれを覆した俺に憧れていたのか?
「はぁあ。弱い奴ほど吠えるのだな」
「な、俺が誰か知っているのか?」
「お前こそ、私が誰か知っているのか?」
「女だろ。ただの」
「はぁあ。こんなのが騎士団長になったら、この国は終わるな。ガイザ共々、負けることを願うばかりだ」
「な、俺だけでなく、ガイザ様まで。お前、不敬罪で捕らえるぞ」
「大丈夫だ。たかが王の子ぐらいでは捕まえられん」
「お前、誰だ?」
「シエルと言う。冒険者協会の会長をさせてもらっているよ。最弱の騎士団長と言われたレッカの子よ」
「な、な、シエル?あの」
「そうだ。いいのか?父親をバカにされたぞ?」
「ふざけるな。お前ごときが父上を」
「本当のことを言われ、何を怒っている」
「お前〜」
レントとか言う奴がシエル会長殿を殴ろうとするが、会長殿は簡単に避けた。
「それぐらいで、強いと思っているのだから、この国はダメなのだ。冒険者も同じだな。あの程度で強者なら、マルク殿は神だ」
「ああ?こんな人族が強えはずねえだろ」
俺はレントの手を取り、足をかけて取り押さえる。少しだけ痛めつけておく。
「もう、そのくらいにしなよ。これから試合でしょ?」
「くそ、おい、誰か」
警備の者らが来た。
「何をしている?」
「こやつが儂ら来賓に暴力を振るおうとしたから、取り押さえたところだ」
「ええっと」
「儂はシエル、冒険者協会会長をしている。そちらはマルク・フィン・ドンナルナ様だ。王国の英雄だ。わかるな?」
「はっ」
「じゃあ、このバカを連れて行ってくれるか?」
「はっ」
「おい、何をしている。俺は前騎士団長の子で、次期騎士団長だぞ」
「いいから来い」
そして、俺と会長殿は席に戻る。
「何か下が騒がしかったが?」
「ええ、お騒がせして申し訳ありません。レントという出場者に絡まれまして」
「そうか、奴が負けたら罰を与えよう」
「そうですか」
「キツイのにしろ、ガウル」
「シエル、俺とお前は従兄弟だが、時と場合を考えて呼べ」
「え?」
「うん?知らなかったのか?てっきり仲良くしているからシエルから話しているかと思ったぞ」
「申し訳ありません。冒険者協会会長として名乗られただけでしたので」
「そうか。まあ良い」
さっきの騎士はそれで申し訳ない感じか。王族か。レントとか言う奴は本当にバカだろ?
そして、一回戦が始まる。多くの戦いがいい試合だった。まあ、やはり獣人族はそこそこ強い。父上や兄上、師匠らがいれば圧勝するかもだが、比べる相手が悪いか。それに騎士団長は出てないしな。ただ副騎士団長は強い。かなりやる。
最後にガイアスとレントだ。この一戦は多少は皆興味を持つ程度であるのか、レントの圧勝を予想しているようで、飯を食っておる者も多い。
試合が始まる。ガイアスはレントと対峙する。少しだけ気負っている。レントは隙だらけなのに攻めていかないんだ。
「何をやっている。あんな隙だらけを」
「ええ、少し気負っているのかもしれません。自信が足りてないかな。この試合に勝てば変わると思いますが」
「そうか。ガイアスめ。父親は速いし、勇敢だったぞ」
「おい、シエル、ガイアスという者を知っているのか?」
「ああ、ガウル、カンザスの子だ。あのカンザスのな。あいつによく似たいい使い手になったぞ」
「な、カンザスの子か。そういえば、カンザスが亡くなってからイマイチ行方を知らなかったが、生きていたか」
「強いですよ。陛下」
「もしかして、マルク殿が教えたのですか?」
「私は少しだけ、シエル会長殿が師匠ですよ」
「そうか。それは」
そう話しているうちに、レントが攻めた。ガイアスに隙はない。それでも攻めるとはよほどかと思ったが、難なく避けられた。相当舐めきっていたのだろう。
力量も測れないとは、こいつが本当に優勝候補か?あのバカ王子が噂を流したんだろうな。そしてガイアスがレントの頬にカウンターの一撃となるストレートパンチを決める。レントはよろめき、負け寸前だ。ガイアス、行け。
観客たちは唖然とする。優勝候補のレントが、知らぬ者に負けそうだからだ。そこにガイアスが一気に攻める。レントは防御できずに腹に思いっきり一撃を受けた。レントはそのまま蹲り、倒れた。
「勝者、ガイアス」
そう、審判の声が響くと、会場は驚きの声が上がる。そして、一人の者が声を上げる。
「おい、そのガキは卑怯な手を使った」
「・・・・」
審判は何も言わない。相手が元騎士団長だからだ。
「ふむ、儂の出番か」
「そうだな。ガウル、ちゃんと言ってやれ」
陛下が立ち上がる。
「前騎士団長ともあろう者が今の試合を見て、何を言っている?」
「陛下」
「どうした?不正というなら証拠を出せ」
「いえ」
「それとも何か?儂が開いたこの武闘会が不正の温床だと?」
「いえ、そんなことは」
「じゃあ、なぜ、証拠もなく、不正だと言ったのだ?」
「はあ、あのそれは」
「ふむ、不敬罪を適用する。其奴をひっ捕らえよ」
こうして、一波乱はあったが一回戦は終わった。ガイアスはいい試合をできたと思う。最初こそ硬かったが、最後の一撃は良かった。地の力を込めた一撃だ。
その後、ガイアスは一戦一戦をしっかりと戦いベスト16に入った。
そして、翌日、試合は進んでいき、ガイアスは準決勝を勝ち、決勝に行った。決勝の相手は副騎士団長だ。彼がもう一人の優勝候補らしい。ガイアスは徐々に自信をつけ、試合を勝ち進めるほどにその強さは発揮できるようになり、一回戦とは別人だった。自信とは人を変える。
準決勝の勝ち名乗り、ガイアスがリングで勝ちを喜ぶと、その頃にはもう観客もガイアスの強さを認め、優勝するという期待から歓声が上がる。ガイアスのことを皆が認めた瞬間だった。
ガイアスは少しはにかんだ笑顔で、3日後の決勝に進んだ。明日から王太子を決める武闘会だ。




