社交界 ラルクの怒り
王と王太子への謁見です。
そんな時に、宮廷の従者が話し始めた。どうやら陛下がいらっしゃるようだ。今日は、父上は俺の付き添いのために陛下の近衛としての仕事をしていない。隊長もだ。誰が付いているのだろう?兄上?はないか。兄上は今年になり、近衛隊に入った。まだ近衛隊の中ではペーぺーだ。
「陛下、御成〜」
皆、膝をつき、頭を下げる。俺も。
「頭を上げよ」
ここであげちゃいけない。
「頭を上げよ。今日はお主ら、子が主役じゃ」
皆、顔を上げる。陛下は父上と同じくらいか少し若く見える。
「うむ。皆良い顔をしている。王国も将来安泰じゃ」
まぁ定型文だな。はぁ兄上は流石に陛下のお付きじゃない。ただ、王太子様のお付きのようだ。すごい。なお王太子は俺よりずっと年上かな。兄上と同じくらいか。
兄上がこっちを見た。あっ、すぐに目を離した。まぁそうか仕事中だ。
しかし、大出世すぎないかな。騎士学院時代から、成績も何もかも歴代最高だったらしいし、騎士になっても優秀だという噂はいたるところから聞いた。特に家庭教師の先生から。
まぁ近衛まではびっくりしたが納得したよ。でも王太子付きの近衛兵ってすごいぞ。まだ22だよ。多分、年齢が近いからとかが理由だろうけど。
「マルク、上級貴族の方々が挨拶なされたら、陛下の元に伺うぞ」
「はい」
上級貴族の方々が子を連れて、挨拶に向かう。
上級貴族の方々の挨拶も進んでいく。
あっ、ルイン様とさっきのルドルフだ。彼はもう泣きそうな顔だ。怒られたんだろう。父上が本家に挨拶しに行って何かあったんだろう。
あぁ、上級貴族の挨拶も終わる。
「マルク、行くぞ」
「はい、父上」
陛下の元に
「陛下、本日はお招きくださり、ありがとうございます。また本日はお側に居れず申し訳ありません」
「うむ。ラルクよ。構わぬ」
「はっ。陛下、こちらが次男のマルクでございます」
「ラルク・フィン・ドンナルナの次男、マルク・ドンナルナと申します。 本日はお招きくださり、ありがとうございます」
「ふむ、ラルクよ。よく教育しているな。噂は意味がなさそうだ」
「ええ、くだらぬ噂が広まっておるようで、陛下のお耳を煩わせ、申し訳ありません」
「陛下、私のつまらぬ話でお耳を煩わせて、申し訳ありません」
「ふむ。理由があるのだろう。よい」
「では、陛下、これで失礼します」
「うむ、明日より、また頼むぞ。ラルク」
殿下の元へ
「殿下、今宵は招待くださりありがとうございます」
「うむ、ラルクには世話になっておる。気にするな」
「殿下、愚息は問題ありませんでしょうか?」
「ああ、アルフはよくやってくれている」
「そうですか。そのようなお言葉、恐縮至極」
「うむ」
「殿下、こちらは次男のマルクでございます」
「殿下、お初にお目にかかります。ラルク・フィン・ドンナルナの次男、マルク・ドンナルナでございます」
「うむ。お主の噂は聞いておる。まぁ励め。兄には敵わぬだろうし、騎士も無理であろう。でも文官ならばなれるであろう。学問ぐらいは励み、兄に迷惑をかけるな」
「はっ、殿下。素晴らしきお言葉、恐悦至極でございます」
「うむ、礼儀は良くできておる。励め」
「はっ」
「殿下、後ろもつかえております故、ここで失礼します」
陛下と殿下への挨拶も終わった。
もう帰りたい。
しかし、殿下の物言いは失礼じゃないか?陛下はしっかりと俺を見て、噂は嘘と見抜かれていた。そもそも、嘘かどうかに関わらず、公の場で謁見に来た父上の前では噂を否定し、褒める。当たり前と言えばそうだけど、そうするのが正しい。
だが、殿下あんな事をおっしゃるという、それでいいのか。この国は陛下なき後はやばいな。
まぁ家臣だからある程度は許される。だけど噂があり、家臣の子供と言え、謁見に来た初対面の子を公の場で第一声の声掛けで貶すなど、貴族である父上のメンツを潰すようなものだ。王太子がアレで大丈夫だろうか?
父上は・・機嫌が悪そう。
ここは触れない方が良さそうだ。やっぱりあの態度はダメなのか。
「ふむ、もうよかろう。帰るか?マルク」
「いいのですか?」
「ああ、俺はこれでも英雄だ。少しの失礼など、どうってことない。そもそも騎士として残る必要もなかったが王が王太子の時にどうしてもいうから残っただけだ」
「姉上たちに迷惑が」
「大丈夫だ。いくらなんでもあいつらを追い出すほど、この国はバカじゃない」
「そうですか。では、特に得るものもないので大丈夫です」
下級貴族の子、数人とは仲良くなったし、いいか。
母上の元にきた。母上は人気者だった。多くのご婦人に囲まれている。やっぱり英雄なんだな。すごい人だ。こんな母上は家では見ない。我が家では優しい、驕らぬ人だから。メイドたちにも、母上は優しい言葉をかけるし、くだけた感じで話しかけられる。そんなで、メイドは母上を慕っているし、アイナなどは敬語だが友人みたいだ。
「リネア、そろそろ帰るか?」
「もう謁見は終わられたのですか?」
「ああ」
「陛下はお元気になされていらっしゃったかしら?」
「ああ」
「そう。皆様、私はこの辺で失礼いたします」
ゼルの元へ行く。父上も母上も疲れた様子だ。こういうのは苦手なんだな。
ゼルはすぐに馬車の準備をほかの従者に頼み、俺たちは待機所で待つ。
その間、ゼルは飲み物を用意してくれた。それを飲みながら馬車の用意について伝える使者を待つ。
すると、兄上からという使者の方が来て伝言を
「ドンナルナ子爵様、アルフ様より、『もう少しいらっしゃらないと失礼にあたります。陛下がお出になられるまで、お待ちください』とのご伝言になります」
「ふむ。伝言を頼めるか?『問題ない』と」
「はっ。ですが」
「大丈夫だ」
「はあ」
「もう行け」
使者を返して、ゼルと使者を待つ。
すぐに使者が来た。もう馬車の準備ができたようだ。さぁ帰ろう。
「マルク様、嫌なこともあったであろうと思いますが、まぁお気になさらず。貴族など大した者はおりません」
「ああ、ありがとう。ゼル」
と小声でゼルと会話した。
そして馬車で帰ってきた。もう疲れた。寝る。
「父上、母上、疲れましたので、部屋で休ませてもらいます」
「ああ、ゆっくりと休め」
俺は父上らに挨拶も終え、すぐに部屋に入る前に、着替えをリリアに手伝ってもらい。すぐに部屋に行き、ベットに入った。
マルクがいなくなった居間では
「はぁ、アルフはなんだ?あのバカは近衛であり、殿下が学生時代は側付きもしていたのであろう。なぜ王太子はあんなに失礼なのに、あの伝言は?弟がバカにされたのだぞ?」
ラルクは案の定、怒っている。
「まぁまぁ、ラルク。陛下たちのところで何かあったのね?」
リネアの問いにラルクは間髪入れずに怒気を含んだ言葉で説明する。
「陛下はいつも通りだったが、殿下がな。マルクに、騎士になれぬのだから、せめて学問くらい励めと言いやがった。初めて会う俺の子に学問くらいは励めだ?アルフに迷惑をかけるなだ?俺の前で言うことか?」
「ラルク様、昔のような口調になっておられます」
他の者の手前、苦言を呈す。
「ふん、あんな礼儀知らずのガキの話で、まともな口調で喋れるか」
「まぁまぁ、ラルク。アルフはどんな顔をしていたの?」
「当たり前という顔だけ。弟がバカにされてだぞ?」
「まぁ、アルフは教育が必要ね。家族も守れぬ者に国を守れるとでも思っているのかしら?」
リネアもアルフの様子を聞いて怒りが言葉のあちらこちらに現れる。それをアイナが少し嗜める。
「リネア様も昔のようになっております。メイドたちが恐怖に震えます」
「あら、ごめんなさい。アイナ以外はもう大丈夫よ。皆もうゆっくりして。ゼルとアイナが全てやってくれるわ」
リネアは笑顔でメイド達に言う。それでも少し顔が引きつるメイド達はアイナを見る。
「ええ。皆もう大丈夫です。ここの片付け以外を済ませ、ゆっくりしなさい。」
「ええ、アイナの言う通りで大丈夫です。さあ後は私に任せて」
「すまぬな、アイナ、ゼル」
「「いいえ、お気になさらず」」
メイド達が出ていったのを見てラルクは話を再開した。
「しかし、アルフ様は少し王宮に、貴族に染まっておるかもしれませんね」
ゼルの問いにラルクは答える。
「ああ、最近近衛になったしな、王太子つきになったから、立派にやっていると思って、話す機会がなさすぎたか?」
「そうね。家にも帰ってこないのを気にしなかったのは、私も母親失格ね」
悲しそうな顔をするリネアにゼルは慰めるように『違います』と否定して、アイナは既に冷めてしまっていたお茶を入れ直す。ラルクもリネアの言葉を否定する。
「いや、会えぬのだからしょうがない。家を出た子をいつまでも母親が心配していたら子がダメになる」
「ええ。リネア様のせいではありません。今度の休日に帰ってこられるだろうメル様に、『アルフ様に一度家に帰って来て欲しい』と伝えてもらいましょう」
「そうね。ゼル。いい意見だわ」
「陛下には明日に文句を言っておく」
「まぁ、あまり大事になされぬようにしてくださいませ」
「アイナ、わかっている」
アイナもゼルも、ラルクやリネア同様にマルクが自身の子供のように可愛いので、少なからず怒っていた。
「今日はここまでにいたしましょう。リネア様もラルク様もお疲れでしょう」
「ああ」
こうしてラルクらのの話は終わった。
兄、アルフの初登場です。
夕方も投稿予定です。




