辺境伯の氾濫
翌日
氾濫が起きるということで宿を出て、冒険者が待機する、セレステの街の先で、森の出口前にある、森の監視場になっている平地の所に来た。すると
「よお、ガッソ」
「ああ、アホのガイスか」
「おいおい、バカのガッソに言われたくねえな」
「お前にバカと言われるのは癪だ」
「ああ?」
「ああ?」
と、師匠同士が喧嘩しているのを横目に俺とサンゼルは久しぶりに話す。
「久しぶり、サンゼル」
「ああ、久しぶりだ。マルク」
「どう、ガッソさんの訓練は?」
「死ぬかと思ったぞ」
「そうか、ガイス師匠と変わらないか?」
「いや、ガイス師匠の方が優しいとすら思う。何度も死ぬ一歩手前まで追い込まれ、ガッソ師匠の奥さんが回復して殺されに向かわされるというむちゃくちゃだ」
「うわ。俺も毎日、気を失わされて、起こされてを続けたけど。さすがに死ぬまでは追い込まれてない」
「だろ?ガイス師匠の扱きも死ぬかと思ったが、ガッソ師匠はマジで死んだと覚悟した」
「ははは。笑えるね」
「受けた方は笑えん」
「そうか」
「マルクは火龍を倒したらしいな。その槍は火龍で作ったのか?」
「ああ、火龍の牙と骨と皮で出来ているよ」
「ガレス師の作だろう?」
「ああ、そうだよ」
「それはいいな」
「まあ、ガッソ師匠とガイス師匠が居れば、氾濫は大丈夫だろう」
「ああ、だけど、強くなったことを見せないと」
「ああ、マルク、俺の方が多くを倒す」
「はは。こんな時に勝負はないよ」
「そうか。ははは」
こうして俺らは久しぶりの出会いを楽しんでいた。そこにルイン様が
「冒険者の皆さん、今回は魔獣の氾濫の制圧にご協力いただくこと感謝します。つきまして、私の方で、冒険者の皆様に作戦をお伝えします。今回は伝説のガイスさん、ガッソさんの両氏がいらっしゃる。しかも両者の弟子であるマルクさん、サンゼルさんもいらっしゃる。
そのため、この4者を中心に要塞側を辺境伯軍が、反対側を冒険者の方々に守っていただきます。倒した魔獣は全て冒険者で山分けとなります。ですので、じゃんじゃん倒しましょう」
「「「「おう」」」」
支部長の言葉の後、俺らは明日に向け、待機場で準備をする。
翌日朝
俺は自分の担当である。真ん中でガイス師匠、ガッソさん、サンゼルと待つ。
「来たぞ、マルク」
「来るぞ、サンゼル」
「「ああ」」
そして魔獣の群れが一本筋でくる。
「マルク、魔法だ」
「はい、・・・『トルネード』」
一気に数本の竜巻が魔獣を襲う。すると、竜巻に巻き込まれ、数百の魔獣が空飛び、バラバラになっていく。まるで掃除機のように魔獣を吸い込んでいく竜巻を冒険者たちや辺境伯軍ら、そして師匠らが呆然と見ていた。そして、第一陣は消えた。
「おい、マルク。こんな魔法を隠してたのか?」
「ガイス、お前、魔法使いを弟子にしたのか?」
「リネアの子だ。しかもドンナルナ家だ」
「はああ?リネアとドンナルナ家の子孫が結婚したのか?」
「ああ」
「ていうことは、この魔法に、槍術か?」
「ああ、俺も魔法については知っていたが、ここまでとは?」
「ああ、リネア以上じゃねえか?」
「ああ」
ひとまず、魔獣の勢いが止まった。そのあと、少しずつ集まりだしてまた列をなす。最初の魔獣の群れは跡形もない。
「よし、マルク、今度は普通に倒す。そうじゃないと魔獣の素材がなくて、冒険者が泣く。ルイン様も困る。わかったか?」
「ああ」
そして、どんどんと魔獣が来るのを倒していく。俺とサンゼルは最前線に出て、どんどんと倒していく。それでも撃ち漏らしが出てくる。俺はそれでもどんどんと倒していく。
俺も。これ、2000か?そう思う。
「おい、どこが2000だ。最初の魔法で1000はいったはずだ。そこに1000は倒してるぞ。武器がもつか分からん」
「ふん、だからいい武器を持てと言っただろう」
「うるせえ、ガッソ、俺は武器にこだわらねえ派なんだよ」
「ふん、言ってろ」
師匠らも1000近くを倒している。師匠の武器はガレスさんの物だが、特にはこだわらない物だ。俺には本気の黄金闘気には武器がもたないため、師匠が槍に最高傑作と言える物を選んでくれたが、本人の武器は選ばない。
なかなか数が減らない魔獣、辺境伯軍にもかなり流れ、冒険者側にも流れた。なかなかキツイ。辺境伯軍も冒険者も何とか我慢する。冒険者側も何とか我慢している。だが、疲れが出て来たら、かなり厳しい。
俺はもう一度、魔法を撃つ。ただし、トルネードは皆を巻き込むため、連続して撃てる。サンダーアローだ。冒険者側に流れた奴らを狙い撃つ。そして辺境伯軍側に流れた魔獣を狙い撃つ。両方とも100は減り、少し持ち直した。俺は今度は自分に向かってくる連中を切っていく。突くと刺って抜けない可能性がある。
サンゼルも俺も少し疲れて来た。もう全体で倒した数が5000は超えた。まだ半分くらいは残っている。冒険者200、辺境伯軍3000では厳しいかも。あまり流さないようにしよう。
そして、ここで虎が30匹も来た。嘘だろう。ここに来てか?師匠らが前に出て来た。
「おい、ガッソ、弟子共では、ここに来ての虎の群れは厳しい。俺とお前でいくぞ」
「ああ、わかってる。サンゼル下がれ、ここは任せろ。少しでも回復しとけ」
「マルク、下がれ」
「「ああ」」
そして師匠らが前で虎を鎧袖一触、どんどんと倒していく。俺はその間に下がり、大きく息を吸い。回復していく。サンゼルも回復薬とマナ回復薬で、休憩する。虎が倒されると蛇の群れが来た。そして俺とサンゼルはもう一度前に出る。
「回復したか?」
「大丈夫か?」
「「ああ」」
「んじゃ、来い、マルク」
「来い、サンゼル」
俺とサンゼルも入り、今度は蛇の群れを倒していく。これで終わりとは思えないが、4人で時間をかけずにどんどんと倒していく。蛇は100匹以上いたが、もう数匹になろうとした。やばいのが来た。大鳥だ。
こいつかよ。それとワイバーンの群れだ。これは厳しい。空からの急降下をされたら、とにかくやりづらい。奴らは急降下をしてくる。師匠らがそれを向かい打つが大変だ。そしてそのせいで魔獣がまた、辺境伯軍と冒険者側に流れて行く。皆疲れ、キツイ。これはヤバイか。
「おい、マルク、魔法はまだいけるか?」
「ああ」
「じゃあ、頼む。できれば広範囲に上だけを狙う魔法を」
「ああ、師匠」
『サンダーストーム』
俺が唱えると、空にいる魔獣の群れの上に雲が広がり、そこから一気に何十もの雷が落ちて魔獣たちに当たる。そして当たった魔獣は落ちて来る。落ちてきた魔獣を師匠らが倒して行く。そして流れた魔獣たちを冒険者たちや辺境伯軍が倒していく。俺も流れた魔獣を魔法で狙う。
そろそろ、俺のマナもキツイ。頼む、もう来るな。これ以上の魔獣は厳しいぞ。と願いが通じたのか、魔獣の群れの終わりが見えた。そして師匠らがそれらを倒して、何とか魔獣の氾濫を倒した。
はあ、もう疲れた。
「マルク、よくやった。魔法で1000、武術で1000くらいか。十分な結果だ。今回は数が多かった。その5分の1くらいはお前だ。しかも、みんなが助かった」
「ああ、リネアの子は英雄だな。ガイス、すごいのを弟子にしたな?」
「ああ、俺の弟子はすごいだろ」
「ああ、だがサンゼル、お前もよくやった。武術ではガイスの弟子以上に倒しただろ?」
「はい」
「そうか。よくやった。それでこそ俺の弟子だ」
俺も、サンゼルも師匠に褒められ、嬉しかった。
「いやあ、マルク、助かったよ。どこかの有名人は活躍した?あと、サンゼル君もよくやってくれたよ。そうそう、サンゼル君はBランクだってね。今回のことを紹介状を書くよ。王都の支部に出せばすぐにAランクにしてくれるよ」
「ありがとうございます」
「ああ、サンゼル君はガッソと違って、よくやってくれたからね」
「おいおい。ガッソはダメだが、俺はいい活躍したぞ。ルイン様」
「あ?ガイスは弟子任せにしたが、俺はいいだろう」
「あっあん?」
「ああ?」
また睨み合う師匠達。
「はい、くだらない喧嘩はしない。ガッソとガイスはその辺の魔獣を片付けを手伝うこと。私にどれだけ恩があるかな」
「くそ。ドンナルナ家はそういう所が本当に苦手だ」
「ああ、そこだけはガイスに同意する」
「あれー。今回のこともリネア姉様に話そう。ガッソとガイスが魔獣の氾濫時にマルク任せにしたって」
「ちょっと待て、ルイン様よ。俺は頑張ったぞ」
「ルイン様、マルク任せにしたのはガイスだ」
「なに?」
「あ?」
こうして、魔獣の氾濫は終わった。本当に師匠たちは元気だ。これくらいじゃあ、疲れないらしい。俺はもうヘトヘトだ。
「マルクとサンゼル君はもう休んでいいよ。冒険者たちも辺境伯軍も君たちの活躍は知っているから、休んでも誰も怒らないよ」
「はい」
「ありがとうございます」
俺とサンゼルは宿に戻る。俺も流石に疲れた。
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