最高の出会い 師匠の師匠は師匠
翌日
今日も訓練して、会館に行く。サンゼルと一緒になった。
「よぉ、今日は依頼に行くか?」
「いや、訓練をしよう。二人で戦わないといけないタイミングもあるだろう?その時に息が合わないとダメだろう?」
「ああ、そうだな。少し訓練するか。昨日はかなり報酬が入ったしな」
「ああ、俺もだ。かなりの報酬で儲かった」
「まあ。マルクは研究での金があるから、平気だろうけどな」
「ああ、それなりにな。ただ、それには手をつけずに、報酬だけで暮らそうと思うよ」
「そうか。お前はもう少し武器にも気を使え。お前ぐらいだ。そんな武器で虎に向かうのは」
「そうか。考えよう」
「そうしろ」
サンゼルと話しているとゴンダルが近づいてきた。
「何だ。坊主共、今日は依頼はいかないのか?」
「ああ、訓練しようと思ってね。これからサンゼルと組むから息を合わせられるようにと思ってね。ゴンダルは行かないの?」
「ああ、そうだな。今日は、昨日十分に稼いだからな。それとマルク、お前はもう少し武器と防具に気を使え」
「ほら、ゴンダルにも言われてるぞ」
「そうだね。気をつけよう」
「なんだ、サンゼルに言われたのか?まあ、そうだろうな。普通はおかしいと思うな。そんな武器で虎を倒せるなんてな。冗談みたいだ。ゼルさんかお前ぐらいだ」
「そうかな。父上か兄上もいけるよ」
「いや、英雄ラルクと疾風の槍、将軍アルフを対象にするな。当たり前だ。王国のトップ3には入るぞ二人共」
「そうか」
「まあ、あそこにいる化け物もすげえがな。ゼルさんとあいつは冒険者としてランクが違う。強すぎだな」
「ガイスか。強いらしいね。戦ってる所を見たことないけど」
「あいつはおかしい。虎の魔獣を無傷で数匹取って来た時はこの辺の冒険者がちびりそうになったぞ。あいつも槍使いだ。確かゼルさんの師匠でドワーフだ、スキルなしに槍だけで無双する化け物だぞ」
「え?ゼルの師匠って、そうか。ドワーフは長寿種族だっけ?」
「そうだ。あいつは300歳くらいか」
「そうなんだ。話してみたいな」
「お前死ぬ気か?」
「何で?」
「あいつは若手を見ると指導するが、殺す気かっていう鍛え方だからな。何人が話しかけて、ここから逃げ出したか。しかも教わり出して初日だぞ」
「そうか。じゃあ、もう少し強くなったら話しかけよう」
そんな折にガイスさんが近づいてきた。ゴンダルはやべえという表情をする。
「おい、俺の話をしているのか?ゴンダル、お前はいつも声がでかい。こっちにまる聞こえだ」
「すまねえ」
「ふん、まあ、いい。小僧、ゼルを知っているのか?」
「はい。ゼルの弟子です。あとゲイル・レベンスさんの子もゼルの弟子になっています」
「ほう、ゼルの。それにガキんちょレベンスの子も。それは面白い。どうだ。俺の弟子になるか?」
「なりたいですが、まだ力不足です。ここである程度やれるようになったらお願いしてもいいですか?」
「ゼルの弟子は意気地なしか?」
「いえ、サンゼルと組んでやっていくと決めたばかりですから」
「いや、俺はいいぜ。もう少しじっくりやっていく。マルク、お前がしたいなら行け」
あ、狡い。逃げた。ただ、やってみたい気もする。受けるか。
「いいのか、サンゼル?」
「ああ」
「わかった。じゃあ、ガイスさん、お願いします」
「ほう、怖気付いたかと思ったが、じゃあ鍛えてやる。まずは訓練場に来い。今日は力量を見てやる」
そして訓練場にいく。そしてサンゼルとゴンダルも見に来た。
俺とガイスさんは対峙する。
「ガイスさん、よろしくお願いします」
「ああ、なんかゼルみてえだな。その敬語やめろ。あと師匠と呼べ」
「わかった、師匠」
「それでいい。やるぞ」
「ああ」
そして俺とガイスは戦う。ガイスの迫力や殺気は半端じゃない。これがゼルの師匠か。前にゼルから聞いたことがある。師匠は化け物だと。ゼルでさえ、全く歯が立たないと。
俺はまず、スキルなしに戦う。ガイスの動きを見て、一つ一つ上手く合わせて、ガイスの手を出させない。そして、俺の間合いに持っていく。
しかし、いきなり突きが来る。凄い速さだ。俺はなんとか対応する。これは間合いの取り合いなんて無意味だ。本当に化け物だ。昨日戦った虎の魔獣なんて生温い。
今度は一気に間合いを詰められる。だが俺もガイスが出した突きに合わせ、柄返しで槍の軌道を変え、懐で短く突く。これにガイスは軽々避けるが、俺は連撃にいく。それを捌かれ、避けられ、攻撃を当てることができない。
時に柄返しを、時に巻き槍を使い、俺の攻撃を軌道を変え、封じていく。俺は連撃をしてるのに、だんだんと追い詰められてついに一撃を食らった。
「はあ、ゼルのアホは生温いな。確かに才能は俺が見てきた中でもピカイチだ。だが自分の間合いで勝負しに行かない。相手の間合いでは絶対に攻撃しない。
お前の技術は全てカウンター狙いだ。確かに技術や技量はずば抜けている。だが、それを使って生き抜いた経験を全く持っていない。格上と模擬戦ばかり戦ってきたんだろう?
それが癖になって、俺相手に様子を見ることを考えすぎだ。自分の攻撃をしろ。そして、相手を殺せ。てめえのは模擬戦止まりだあ。命の取り合いができていねえ。強いが脆い」
「はい」
「鍛えてやるよ。一番鍛えがいがありそうだ。めちゃくちゃな凄え才能を無駄遣いしすぎだ。もったいねえな」
「はい」
「根性はありそうだ。そこまでにするまでによっぽど訓練したな。気が狂いそうなほどな。あと、おめえ、槍のスキルは持ってねえだろう?あと、はいも止めろ。舐められるぞ」
「ああ、持ってない」
「そうか、だろうな。スキルなんかにこだわらねえっていう気概はいい。武器にこだわらねえのもいい。そんなもん、あるもんでできねえ奴は死ぬ。
だがなあ、てめえはまず命のやり取りからだ。それを叩き込む。命を取られねえためにどうやって生き残るかを肌で感じろ。てめえはなまじ強えし、才能もある。
しかし環境が生温い。そのせいで、命を取られることを感じたことがねえ筈だ。王都あたりにいたか?戦場も未経験だろう?死ぬ可能性のある敵に会ったことがねえ。こっち来ても虎あたりなら、ギリ怪我するかだろう。
昨日あたりやったか?それで仲間と訓練か?間違っちゃいねえが生温い。てめえは仲間を持つな。強くなりたきゃな。そんなもんいらねえ」
「わかった」
「そうだ。てめえはまず死ぬ可能性を感じろ。そして生き残る強さを持て。それからだ。多分屈辱は散々味わって来ただろう?
てめえの目は誰にも負けたくねえ。強くなりてえって餓えた目をしている。それはいい。それと才能だけだ。それ以外全てなっちゃいねえ。強いが脆い。それがおめえだ。
それを理解させる。自信なんかへし折ってやる。それでスタートだ。ゼルのアホはできねえだろ。そこからは殺す気で鍛えてやる。そうすりゃ。てめえは最強になるな」
「そうか。頼む」
「はは、いい目しやがる。ゼルの野郎も腑抜けたかと思ったが、この目を見たら、鍛えてやりたくなる」
「一つ言う。ゼルの悪口はやめろ。殺したくなる」
「はっははは。やってみろ。さっきのは本気じゃねえだろ?」
「ああ、場所を変えよう。ここじゃあ、周りを巻き込む」
「ほう。いいぜ。うるせえ外野が増えて面倒だったしな」
それから、俺とガイスは街を出て、場所を森付近に変えた。そして、今度は本気でスキルありで戦う。
俺は最初からフルスロットルで行く。武闘オーラに疾駆、硬化、そして最近足せるようになった魔法付与、そして集中力を高め、あの技を使う。そして俺の体が金色に輝く。
「おいおい、ここまでかよ。こりゃすげえわ。才能はピカイチどころじゃねえな。俺より上だ。いやあいつら本物の勇者より上のレベルか?おいおいドンナルナの勇者様より才能があるんじゃねえか?」
「おい、殺す気で行くぞ。ちゃんと構えろ」
俺が忠告すると、ガイスの目が変わる。
「おい、目もいいねえ。お前、名前は?」
「俺はマルク・フィン・ドンナルナだ。ラルク・フォン・ドンナルナとリネア・ドンナルナの子だ。てめえを殺す」
「おい、カズキの子孫に、リネアの子だ。そしてゼルの弟子。あいつもドンナルナ家だから甥っ子あたりか?最高じゃねえか。てめえは強くしてやるよ。その前にてめえの実力を教えてやる来い」
その言葉を聞いてすぐに、俺は一気に間合いを詰めて突きに行く。最速の突き。アレスとやった時よりさらにスピードを上げた。マッハなら7ぐらい。
全てのものから俺の動きは見えない。俺からは全てが止まっているように見える。俺は思考加速をして、ガイスの動きを捉えている。そしてガイスも空いた腹に突きを入れた。そのはずだった。なのに俺は・・・
マルクは気を失っている。
「おいおい。なんちゅう才能だよ。黄金闘気かよ。それ、カズキ以外じゃ見たことねえぞ。こんなガキがいたとはなあ」
「ガイスさんよ。死んだか?」
「あ?ゴンダル、弟子を殺すはずねえだろ。てめえ見てたのか?見えてもねえのに」
「そうか。それにしてもすげえな。あんた、マルクが光り出した瞬間から本気だったろ?」
「ああ、こいつの突きは速え。そりゃ、今の時代じゃ、最速だ。これだけでこの森で無双するだろうよ。だけど、完全にコントロールできねえんじゃねえか?
これを使えた奴は俺の知り合いの勇者しか、こいつ以外じゃ知らねえが、そいつでもコントロールできるまで苦労したしろものだ。それをまだ成人したてくらいのガキがやるんだ。
しかもそれなりにはコントロールしてやがる。はっきり言うぞ。ゴンダル、てめえじゃ歯が立たねえ。相手にすらならねえ。
本気のこいつ、マルクか。マルクはてめえのその抜けた槌じゃあ、一瞬で殺されるぞ。他の奴らにも言え、ちょっかい出すな。死にたくなければな。しかもこいつ、この辺境伯領の当主、ルイン様の親戚だ。死ぬぞ」
「う。わかった」
「てめえらはガキを使うのがうめえからな。どうせ調子に乗ったガキは死ぬからな、今までは見過ごしてきたが、ここまでだ。こいつに手を出そうとしたのがバカだったな。ここからいなくなるか、死ぬか選べ」
「わかった。いなくなる」
「そうか」
そしてガイスはマルクを肩に担いで運び、街に帰った。その光景はこの街では数十年前は見慣れた光景だったが、今では見ない。久しぶりの光景に街の人間はびっくりした。




