閑話 リネアとエリゼ
衝撃の告白の翌日、リネアは牢獄にいた。
「エリゼ、貴方を見抜いたのは私よ」
「リネア、お前ごときに。ふん。だが、わかっていた。お前の息子が回復薬を渡してきたときにな。お前が糸を引いていると。だから姿を消した。まあ、予定より策を行えなかったがな」
「そうね。わかるようにしたんだもの。わかって当然よ」
「は、強がりを。この偽物が」
「まだ、血にこだわってるのね。どうせ2人の力を合わせても召喚もできなかったのでしょう?だから捨て駒にされたのよ。父親に。あれはそういう奴よ。育てた子供すら天神のためなら簡単に捨て駒する」
「父上の悪口を言うな」
「そう。まだ、あれを父親と慕っているの?それにエリナも貴方を捨て駒にしたのよ。多分、こう言われたんじゃない。『私がバカ王子を奪う。貴方は王を殺す。これで貴方はダークエルフ族の英雄、私はそれを助ける。そして、貴方が次の族長』って」
「な、何でお前が知っている」
「やっぱり、あの子の考えなんて読めるわ。あの子もあれと同じ穴の貉よ。家族を駒にしか思ってないわ。だから貴方を捨て駒にしたのよ。成功するはずない陛下殺しを狙わせて、自分は楽なバカ王子の奪還で手柄を立てる。簡単な考えよ。こんなのも思いつかないなんて」
「そ、そんなはずはない」
「じゃあ、何で助けに来ないの?」
「まだ、その時じゃないからだ」
「多分、もう王国にはいないわよ。国外か辺境伯領あたりでバカ王子を旗として立てて、貴族派に呼びかけるはずよ。そしてこう言うわ。聖国は俺を王国の正式な王と認めた。王国は偽物の王に支配されている。これより、王国を正しき道に戻す戦争をする。
これは亡きベルナルク王の願いだ。そして聖国よりの協力者であるエリナ殿と共に新たな王国を作る。世界の平和のために、そして天神様の示された平和のために。王宮にいる者は問答無用で殺す。歯向かう者も同じであるってね。貴方の事なんか一つも触れないわ。あいつらは王国に攻め、王宮にいるものは皆殺しにするわ。貴方もね。まあ、そんな事させないけど」
「う」
「だから話しなさい。本当の計画を」
「・・・」
「いいわ。まだ時間はあるから」
それから、エルゼは二日ほど黙り込んだまま、時間が経ったが、結局は全てを話した。
それはまさに、リネアが想像した通りだった。王国内で蠱毒を使い王国の兵力を減らし、誘拐や冒険者を洗脳し、問題を起こさせ国内を混乱させたところで、元第1王子を旗本に貴族派の生き残りを集め、教会の者らの支持の元、王国を混乱させて国力を落とす。そして勇者に救わせ、聖国の支持を集めるというものだった。
しかしエルゼが話したことで、教会は一斉に捜査が入り、さらに有角族国家に行っていた者らが帰ってきたことで、兵力の上がった王国はすぐに貴族派をシメた。そのことで貴族派からの離反者はほぼ減り、聖国の狙いは失敗した。
第1王子の旗本に集まったのは王国の兵数の10分の1程度でしかも質が悪い。その中にはレオサード家の孫やガリシアン家の四男、五男などの行方不明の者らがいた。彼らを含むアルス元第1王子派は帝国へと移り、王国への抵抗をしだした。
しかし、王国は反対に商業都市国家と共に皇帝の弟の支援を強め、帝国内に聖国と手を切り、王国と手を結ぶべきとする者らを増やして行った。その結果、帝国は完全に二分され、聖国はランブルとの戦争に帝国の力を使えない状況で孤立無縁となり、厳しい戦いを強いられた。これらは全て、リネアの告白から数ヶ月後に動きだした。




