ドンナルナ子爵家の真実
翌日
メル姉もエルカ姉様も泊まって行ったので、遠征に出ることは伝えた。父上も兄上今日はお休みで、メル姉とエルカ姉様もお休みだ。
今日は兄上や父上、ゼルと訓練する。お互いに力を確かめるように兄上と戦う。突きや切り上げなどの応酬で互いに攻撃を槍で捌いたり、直前で半身から避けたりと決まらない。かなりの激戦になる。
兄上は戦場でも訓練を怠らなかったようだ。強くなっている。一つ一つがしっかりと訓練された一撃で、しかもそれが正道も、奇を狙った攻撃もはさむ。そして、戦術の幅が広がっている。これが戦場を経験した人か。
兄上の強さが増している。兄上自身の良さが前にも増して、強く、巧く、そして鋭い。スピードは俺の方がいいが、それだけだ。
その良さを出させない巧さがある。俺の力を出させないやり方が巧い。俺にはない強さだ。俺は相手の良さに対応する形が多い。これが兄上との差か。経験が違うか。
「終わりです。勝負はつきそうにないですね。お互いに良い成長をしています。そろそろ、私やラルク様も真剣にやらないと負けますね。お二人ともアラン様が目をキラキラして見てます。それほどの戦いです。ただ、アルフ様は自分の決め手を磨くこと、マルク様は対応するばかりではなく、自分の良さを出す工夫を磨くことです」
「「はい」」
と、そのあとは父上と模擬戦をした。俺も兄上もあと一歩が巧く出せずに躱されていく。
そして訓練は終わった。俺と兄上と父上は少し汗を流すために風呂に入っていく。アランは兄上といたいのか、風呂について来たので、一緒に入った。
「アラン、よし、髪を洗うぞ」
「うん」
「よし、かゆいところはないか?」
「ううん」
「偉いぞ。アラン」
「うん、おとさん、ぼく、えらい」
「そうだぞ。アラン」
アランは兄上に洗ってもらい嬉しいようだ。楽しそうに洗ってもらっている。親子っていいな。俺と兄上とでは違うか。結婚か。そういうのを考えなきゃいけない歳なのかな。
そして、昼食を食べて、アランはお昼寝だ。俺と兄上らは母上に秘密を聞く。
「あら、みんな。真剣な顔して」
「母上、それは気になります。兄上らもみんな気になっております」
「ああ、マルクの言う通りです。母上」
俺や兄上が話をせがむと、母上は苦笑いをする。話しづらいのだろうか。
「そうだな、リネア、ためずに話した方がいいだろう」
「そうね。わかったわ。まず話すのはエルフについてなのよ」
「エルフ」
「そう、エルフにはダークエルフとエルフがいるの。エルフは昔からいる種族よ。それに対して、天神が作ったとされているのがダークエルフよ。他にもドワーフや獣人は皆、もともとからいるわ。だから、エルフや獣人、ドワーフは魔法を使えないの。人族は魔法もスキルも持つのは天神が作ったわけではないけど、天神が人族をいじり、スキルをいじったんだけどね」
すごい話が始まった。歴史では学ばない話だ。
「それで、獣人族は魔法が使えないのですね?」
兄上が問う。
「ええ、それで私の母はエルフとダークエルフのハーフなの。エルフとダークエルフは長い間、喧嘩してたの。でも二つの種族が争っている間に魔族が力をつけて来たのよ。それでお互いに魔族の恐さを知って、協力をすることになったの。そこで、お互いの族長の子が婚姻して子をなしたの。その子が私の母ね」
「「「「え?」」」」
驚愕だった。兄上らも目を丸くして、たじろいだ。
「驚くわよね。私はエルフの血を引くの。それが千年前くらいよ。それから魔族とは停戦したの。で、その間に人間が勢力を伸ばしたわ。天神はダークエルフに聖国を作れと神託を出して、それでダークエルフは人間のフリして、枢機卿として聖国を作って、今も枢機卿をしているわね」
「でも、皇帝の奥様は枢機卿の娘を」
そうだ。兄上の言う通り、確かに・・・。
「そうよ。アルフ。でも、あれは多分、本当の子ではないわ。ダークエルフが人間と婚姻することはないの。あの者らが人間を大事にすることはないわ。多分、天神の神託で、人間の子を育てて、皇帝と婚姻させたのよ」
「そうですか」
「ええ。続けるわね。そのエルフとダークエルフのハーフとして育った母はダークエルフとエルフの風習や能力の両方を習って、勉強をしたの。でも聖国のことがあって、エルフとダークエルフが仲悪くなって、母上はどっちつかずになり、どちらにも疎まれたわ。
そして、エルフの地をでて、私の父である人族の男性と出会って結婚したわ。私はエルフとダークエルフのクオーターで、人間とエルフのハーフね。だから長寿種族なの。母は父と死別したあと、エルフの地に戻ってきてダークエルフのところで私を育てたわ」
「あ」
もう、言葉を紡げないほどの驚きが続く。
「驚いたわね。マルク。でも話は続けるわよ。ついて来てね。私が生まれたのが300年前ね。私の父も魔法が得意な人で、母もダークエルフとしての才能はすごい族長の親類の家系だわ。その私は魔法に関してはダークエルフでもずば抜けてたの。
50歳の時にダークエルフの地に来てからも圧倒的に才能があったわ。それでも人間とエルフの血を引く私はダークエルフの者からは疎まれたわ。ちなみにダークエルフもエルフも寿命が1000年近いの。だから、私も500歳くらいは生きるわ。今300歳くらいね」
「そんな」
「ふふ。まだ続けるわ。そして100歳になるくらいね。エルフではまだ子供、人間なら12歳くらい。まあ、私はハーフエルフだから人間なら20歳くらいになる頃ね。
そして、その時に聖国に呼ばれたわ。時はちょうど、レオナルク王国の誕生した年よ。大帝国が壊れて、帝国とレオナルク王国に別れたわ。レオナルクは獣人族国家を応援してたから、聖国には嫌われていたの。それで、聖国は戦争の戦力を増やすために、私は聖国に呼ばれて、勇者を召喚する儀式を行うことになったわ」
「え?」
「そして、異世界というところから勇者を5人呼んだの。召喚したあとは勇者のお世話がかりにさせられたわ。最初は勇者にすごく嫌われたわよ。彼女らはまだ17歳で子供だったわ。
あの時の私と同じくらい世間知らずの子だったわ。それが親元を無理矢理に離されて戦争に駆り出されるんだから当たり前よ。しかも知らない世界で。でもその内の3人と仲良くなったの。年も近く、お互いに苦しんで、それでね。それから色々と話したわ」
「すごいことがありすぎて」
「ええ、そうね。もう少し話すわよ。そんな風に勇者3人と仲良くなったの。その時に勇者たちの言葉や文化を知ったのわ。
この前、私はマルクが知らない言葉を使ったでしょ?あれは勇者に習ったのよ。それでね、勇者と仲良くなればなるほど、天神がおかしいって思うようになったの。呼ばれた時は嬉しかったのだけどね。小さい頃に母を亡くして、私は自分を必要ない子と思ったから」
「そうですか」
「そして、勇者3人と共に聖国を出て、レオナルク王国に行くことに決めて、聖国を逃げ出したわ。レオナルク王国になんとかたどり着いた時にはレオナルク王国の方が厳しい状況だったわ。
私と仲良くない勇者2人は早くに戦場に投入されたのもあって、帝国が優勢だったの。私と勇者たちはレオナルク王と会ったわ。のちのアルサレス王ね。
彼は最初疑ったけど、受け入れてくれたわ。そして、勇者と私は王国の兵として獣人族とともに帝国と戦ったわ。結果として、勇者3人の力はすごく、帝国を追い返して、停戦に持ち込み、王国は独立したの。獣人族と共にね。それが独立戦争よ」
「はあ、歴史の裏側ですね。すごい」
歴史とは如何に都合の良い事だけが書かれているのか?そう思う。不都合は歴史から消える。どの世界も変わらないのかもしれない。
「ええ、そして、勇者3人は王国の三つの盾と呼ばれるようになったの。その3人の子孫が御三家よ。ルクレシアスの先祖が女性の勇者で、それ以外は男性よ。そしてルクレシアスの先祖とドンナルナの先祖は夫婦だったわ」
「え?」
「そう、ユリアとアルフは9代くらい遡ると先祖が兄弟ね。でも問題ないから大丈夫よ。まあ、話を戻すわ。そして、ドンナルナの勇者は武術全般と雷の魔法と火魔法が得意ね。特に剣を好んでいたけど、槍も得意だわ」
ドンナルナ家は勇者の家系。
「そしてガリシアンの勇者は集団戦が得意で人を動かすのが天才だったわ」
ガリシアンも。
「ルクレシアスの勇者はとにかく知性と魔法がすごく、多くの魔道具を生み出したの。天才だったわ。魔法も得意で、魔法もすごかったわ。勇者は皆、才能の塊よ。私は特にルクレシアスの勇者と仲が良かったわ。それで彼女らが亡くなったあとは王宮の奥にある禁書を守る司書をしてたの。だけど、レオアル戦争が始まったのよ。あの戦争の半分は私のせいよ」
レオアル戦争が母上のせい?
「リネア、それは違うと言っただろ」
「ありがとう。ラルク。でもそうなの。聖国は私の返還を願って来たわ。また勇者を召喚したかったのね。私はもうこれ以上、あの子たちのような人を増やしたくないから拒んだわ」
「でも、勇者は」
「ええ、最近召喚されたわね。多分、私が使った召喚式を使ったのよ。多分、それほどうまくはいってないと思うわ。全員が強い勇者じゃないと思うの。話を戻すと、私が理由で戦争が始まったわ。まぁ、結局は魔族が介入していたんだけど。そうでなくても戦争は起きていたわ。
帝国は帝国で王国の土地が欲しいのよ。王国の土地の方が豊かな土地だから。それで戦争が始まって、私は戦争に出ることを決めたの。それから第一次レオアル戦争で回復士として始めて、徐々に活躍した。
そして第二次レオアル戦争でルクレシアスの勇者の面影のある、ドンナルナの勇者の面影のある、自分を傷つけながら、皆を守るラルクに会ったわ。その時に一目惚れして結婚したの。そして天月戦争で、この前のあれをダークエルフから盗んだ魔族が王国の王都に使ったのよ。
私は本当かどうか疑っているけど。それを止めるために王都に巨大な結界を張って、ルクレシアスの勇者と作った結界箱を使って封印したの。そして、半年かけて解除したわ。その時に力を使いすぎて今じゃ、マナは最高時の半分にもならないわ」
「そうですか」
「これが真実よ。幻滅したかしら?」
「いいえ」
「ん、しない」
「しないです。お母様」
「ええ、母上。私や兄上らを見縊らないでください。家族を大事にできないものは誰も守れません」
「そう、よかったわ。話せなくてごめんなさい。聖国との問題に貴方達を巻き込みたくなかったの」
「でも、今は私が」
「いいえ、マルク。貴方は何もしなくても、私を狙って来たわ」。
「そうですか?」
「ええ、そういう連中なの、ダークエルフは、天神は」
「わかりました」
「話せて楽になったわ。ラルク、エルゼと話させて。あの子との因縁も終わりにしたいの」
「エルゼとはどう言った関係ですか?」
「そうね。従兄弟よ。私の母の兄の子がエルゼとエリナよ」
「そうですか」
「ええ、エルゼは悪い子ではないわ。でもねエリナはダメよ。あの子が一番、天神の熱狂的な信者なの。あの子らの育ての父親が今の枢機卿よ。しょっちゅう、姿を変えて、枢機卿になってるわね」
「うむ。リネア、わかった。ガルドに伝える」
「ええ、頼むわ」
「ああ」
と、母上の衝撃的な話は終わった。俺と兄上らはその衝撃に放心状態でなかなか戻ってこれない。話の内容が飲み込めない。ちょっと待って。俺もエルフの血を引いている?
「母上、俺らもエルフの血を引いているってことですよね?」
「ええ、それに勇者2人のね」
「ああ、すごいな」
「ふふ。やっと理解できた?」
「はい」
俺はクォーターになるらしい。しかもダークエルフ、エルフ、人属の混血。そして、勇者の子孫。さらに前世の記憶、多世界の知識を持つ者。なんだか、自分で言うのをアレだが、全てが絡み合うようにこの世界の何かに運命付けられているみたいだ。
俺は、考えがまとまらず、今日のところはゆっくりして、寝た。




