10歳 社交界
マルク、家の外に出るの章が始まります。
今まで、家の中の訓練、鍛錬話ばかりでしたが、ここから社会に出て揉まれていく話です。
さらなる人々と出会う話です。
あれから2年が経った。
俺は10歳になった。
あれから、槍の訓練は毎日、雨が降ろうと雪が降ろうと、振り続けた。どんな状況でも、同じ踏み込み、同じ突き、同じ切り上げ、同じ切りおろし、同じ守りができることが大事と言うことで、何度も何度も槍を突き、ふるった。その結果、全ての基本を身につけている。
訓練は、基本の攻撃の、突き、切り上げ、切りおろし、守りの、巻き槍、叩き落とし、柄返しの基本6技は完璧にできるようになったので、毎日500回をみっちりやっている。この2年で王国一、槍を握っていると思う。
今日の午前も、槍術の訓練から始める。まず踏み込み500、突き500、切り上げ500を行う。そこから叩きおろしと切り下げだ。これはほぼ同じ動きのため一連の動きで練習する。半身で重心は中心に置く。相手の武器が動いた瞬間に、右足を強く、踏み込む。そこから前足に重心を移す。この時に槍を持ち上げて回し、相手の左肩上に槍を動かし、振り下げると切りおろしになる。
対して、重心を前足に移すと同時に槍を回して上に持ち上げて、相手の武器の持ち手に振り下ろすと叩きおろしになる。
相手の肩口から胸にかけてを切るから切りおろし、持ち手を叩き、相手の武器を叩き、落とすから叩き落としだ。この切りおろしと叩き落としを一連の流れで500回ずつ行う。
次は柄返しだ。半身になり、重心は中心に置いたまま、相手の槍に合わせる。そこから、半円を描くように槍先を回す。槍を下げさせる場合には下から合わせ、時計周りに回す。上に弾く場合には上から合わせて、反時計周りに回す。これが柄返しだ。よく似ているのが巻き槍だ。巻き槍は相手の武器を弾くのではなく、相手の武器の動きに合わせて槍を合わせて円を描くように回し、絡め取る技だ。
武器を構えている時に刃先に合わせて半円で武器を上げさせたり下げさせたりして機先を制すのが柄返しだ。これを巻き槍と連続で500回ずつ訓練する。
先の訓練後に武闘オーラの『覆』と『集』と『凝』を訓練する。これが午前の訓練だ。
いつもなら、午後は魔法とスキルの訓練を行う。
魔法は中級まで撃てるようになった。スキルは中級の魔法を飲むところまで来た。今は状況を見ながら、中級の魔法を飲み込むのと、上級の魔法を見せてもらい、その魔法を撃てるように訓練している。魔法は中級まではすぐに行けたが上級は一向に進まない。
多分、上級魔法はかなり難しいんだろう。だから進まないのではと言うのが母上の意見だ。俺もそう思う。しょうがないから、母上に上級魔法を飲ませてもらえるようになるまで地道に進むんだ。ここも地道に進むしかない。
そして今日は、午後の訓練はなし。
なぜなら、王国では、貴族の子は10歳の年に社交界デビューする。これは婚姻のためと王立学院に通う前に貴族としての立ち回りを覚えるためらしい。
俺は正直乗り気じゃない。どうせこれから起こることを思うに、いいことなんか起きるはずがない。
なぜなら、あのスキルを調べた日から、俺の噂が貴族界隈で有名になっているから。「無能」「無意味なスキル」「最弱」、こんな事を言われているのに、なぜ行かなくてはいけないのか。数日前からテンションが下がっている。訓練していたい。
でも行かないわけにはいかない。それをすると父上や兄上、姉上の立場を悪くする。
母上と父上と姉上は
「行かなくてもいい」
と言ってくれているが、これでも俺だって貴族の端くれだ。行かないという判断はできない。あぁ、嫌だ。自分を上に置きたいから他人を下げるなんて無意味だ。そんな暇があれば自分を磨く方が何倍もいい。でも王立学院に行くためにしょうがないんだ。それに覚えた礼儀作法を試すのにいい機会だった。
10歳になってからは週に2回、礼儀と勉強を家庭教師の先生に習っている。俺はスキルが『飲み込む』しかないから王立学院には試験で受けて合格しなくちゃいけない。スキルが良ければ、試験は受ければいいだけ。この辺は、この世界がスキルを絶対視しているからだ。
まぁでも、試験は簡単だからいい。歴史と地理さえどうにかすれば大丈夫だ。実際に先生には計算と言語は必要ないと言われた。ちなみに俺は小さい頃に母上から王国語の読み書きは教えてもらっていたし、計算は前世の記憶がある。
そして最近は面白いので、帝国語を話せるゼルと獣人語を話せるメイドのリリアにそれぞれの言葉を9歳から教えてもらっている。だから言語と計算は、家庭教師の先生が必要ない。
ただ、地理と歴史は必要だ。大戦などの基本の歴史は知っているが、他はあまり知らなかった。これらは習うと結構面白い。特に旧大国については、本当に面白い。先生は父上らの知り合いだから、『無能』とかで差別せずにしっかりと教えてくれる。それどころか話が面白い。せめて、今日は勉強をしたい。
と現実逃避をして来たけど、もう時間だ。リリアの階段を登る音がする。リリアはさっき言った獣人語を話せるメイドだ。
獣人族と人族のハーフで、父と母の知り合いの獣人族の戦士の子供だったが、その父が大戦で大怪我し、その後にその怪我が原因で亡くなり、母親も一昨年に亡くなったため、身寄りもないので、父と母がうちのメイドとして雇った。俺よりも5つ上の15歳で俺付きのメイドだ。見た目は人族よりだから獣人国家には住めなかったんだと。難しい話だ。
「マルク様、お時間です。ラルク様とリネア様が下でお待ちしております」
「ああ、リリア、ありがとう。今行く」
階段を降り、父上らの元に行く。
「父上、母上、お待たせしました」
「大丈夫よ。待ってないわ」
「ああ。今、私たちも来たところだ。準備はいいか?」
「ええ、大丈夫です。父上。母上、そんなに心配しないでください」
母上は心配そうな顔だ。ここで嫌そうな顔をすれば母上が止めようと言い出す。にこやかにだ。
「マルク様。私、ゼルも従者の席におります。何かありましたら申し付けください」
「ああ、大丈夫。再来年には学院に行くんだ。これくらいへっちゃらだよ」
「そうでございますか。では言葉遣いもお気をつけください」
「ああ。ゼル」
父上、母上と馬車に乗り込む。普段は父上や母上が王城に登城する際に使っている馬車だ。
馬車に揺られ、王城に向かう。もう夕方になりそうな頃だ。
次は社交界です。貴族の嗜みです。




