深まる疑惑と狙い
翌日
俺は訓練して、会館に行く。今日も依頼書の前には人だかりだ。今度は森ではなく、森の東の草原のようだ。その近くの村から今度は小型狼の群れが出たようだ。
おかしい。こんなに色んなところに魔獣が大量にいる。これは何かおかしい。王都周りでは珍しい。これは動き出したということだろう。
俺は依頼を見るがいい依頼がないのと、今日は少し様子を見るべきかと思うので、簡単な依頼を受けることにした。
「レネさん、今日は草原だって?」
「ええ、皆さんがこぞって行きましたね。まあ数がいるので、多くの方に行っていただけるのは助かります。マルクさんは行かないのですか?」
「ああ、みんなが行くから、それで解決できるなら、それでいいかなと。雑用が溜まるでしょ。そっちをやりますよ」
「ありがとうございます。助かります。ただAランクの方にさせるのは申し訳ないです」
「いいんですよ。やりたいからしてんるんだし」
「そうですか。これは迷子ですね。この依頼がここ数日多いんです」
「うん?迷子が増えてる?」
「はい。人探しとペット探しが両方でここ数日増えてます。たださえ、不人気な依頼が増えてるので、こちらも困ってるところです」
「そうですか?」
「リッキーさんやサンゼルさんがしてくれているんですが、数が多いので困り果てています」
「それはなんだか変だな。迷子が増え、魔獣が一時的に増える」
「ええ。困っています」
「わかった。今日は頑張るよ」
「はい、お願いします」
俺はこの後、迷子探しの依頼を1件だけこなした。一件探すのには大丈夫だったが、2件目は無理だった。どうにも気配を探れない。
おかしい。迷子は確かに探すのが難しいと思うが、俺ならマナを識別できるからもう2人か3人は探せるはず。なのに1件だ。
少しサンゼルにも昨日の捜索案件の様子を聞こう。魔獣に迷子共にと、おかしい事が続くのは寒気がする。何かの予兆としか思えない。
いたサンゼル
「お疲れ、サンゼル」
「ああ、お疲れだ」
「今日は草原かな?」
「ああ、昨日は迷子を探したが、今日は遠征の費用もあるから、小型狼を倒した」
「何匹?」
「2匹だ。まあ、他の冒険者もうじゃうじゃいたしな。それにカットのところがすごいな」
「カットのところのエルザ?」
「ああ、そうだ。二日ともアイツがトップだ。かなりの数を見つけて狩った。すごい気配察知だ。俺は気づかないくらい」
「そうか、迷子についても聞いていい?」
「昨日のか?」
「ああ、ちょっと今日やってみたら、やけに気配を探れないんだ。いつもなら半分くらいの時間で探せる子供がなぜかわからないんだ?」
「ああ、俺も同じだった。話を聞いたり、情報を集めても1人が限度だ」
「そうか。なんだか変だな?」
「ああ。みんな見てない時に迷子になり、マルクの言う通りなら気配を消させる何かをされているような気がする」
「あっ」
「これは大変だぞ。面倒ごとじゃなきゃいいが」
「ちょっと待って、今なんて言った?」
「これは」
「その前」
「気配を消させる何か」
「そうか。それか、それを使ったのか?」
「何がだ」
「ああ、ごめん、迷子が見つからないのは魔道具のせいだよ。気配を消せる魔道具があるんだ。見えないわけじゃないんだけど、斥候系が使う気配の察知をさせないんだ」
「それを子供が持っている?」
「持たされているんだよ」
「な?」
「ああ、大規模な組織の仕業だね」
「ここ最近の何かと関係あるのか?」
「わからないな。これは王宮も動くことになるかもしれないね」
「ああ、そうなると、こっちでは探すのは難しい。犯人を捜す必要がある」
「ああ、サンゼルありがとう」
「ああ」
そして、サンゼルと別れ、カリム魔道具屋に行く。俺の責任だ。まさか自分の発明を犯罪に使われる何て。
「やあ、カリムさん」
「マルク様、どうも。今日はどうなさいましたか?」
「ああ、実は聞きたいことはことがあるんだ」
「はい」
「俺が作ったマナや気を遮断できる魔道具をどこに売ったかだよ?」
「それは守秘義務があります」
まぁ、そうだろうな。いくら自分の店に貢献しているとは言え、自分の店の顧客を勝手に教えて良いわけがない。
「わかってる。でも犯罪に使われている可能性がある」
「な?」
カリムさんの顔に焦りが見える。流石に犯罪に使われたのを解ってて見逃せば、俺でも、カリムさんでもそれは傲慢であり、処罰対象になる。
「迷子が増えててね。それにどうやらアレが使われている可能性がある。こうなると、申し訳ないけど、販売先を教えてくれないなら、全ての魔道具も販売を中止する。犯罪に関わるのはダメだ」
「わかりました。そちらの魔道具の販売先のみをお伝えします」
カリムさんが部屋を出て、帳簿を調べに行ったようだ。
戻ってきた。
「ああ、で、どこだろう?」
「こちらです」
「ああ、王宮と騎士学院生?」
「ええ、騎士学院の部にて使うと、数十個買われました。名前はこちらです」
「エルゼ・デュグラス?エルゼ。この人は女性だった?」
「ええと、担当したものを連れてきます」
「はい。こちらは女性で髪が短く、背が小さい方で、騎士らしいとも言えますが、騎士らしくないとも思えますので、騎士学院の学生の証書を見せてもらいました。さらに学院にも問い合わせをしましたら、在籍されていましたので販売しました」
「よし、ありがとう」
「はい。マルク様に貢献できるならば幸せです」
そして、俺は騎士学院の新たな生徒会長になったクリス先輩に会いに行った。
「お疲れ様です、クリス先輩」
「どうしたの、マルク?」
「ああ、少し聞きたいことがありまして」
「そうか、いいよ」
「はい、エルゼ・デュグラスという生徒が騎士学院にいらっしゃいますか?」
「うーん、学院生の個人情報は出せないよ。生徒会でも」
まぁ、そう言うだろうな。
「わかっています。ただ、犯罪に関わっている可能性が高いのです」
「え?」
クリス先輩も驚くと共に、表情に怒りや焦りが見える。
「最近、王都に迷子が増えています。これは誘拐の可能性が高く、それにある魔道具が悪用されています。私が作ったもので悪用されたのならば販売停止をしなくてはいけないので、悪用した可能性のあるものを調べております」
「それがうちの生徒だと」
「はい、その可能性のある者がいます。その商品を買ったのが騎士団と騎士学院の生徒だけです」
クリス先輩の表情が明らかに歪む。
「その魔道具を買ったのが騎士学院の生徒でエルゼ・デュグラスと名乗っているので、それだと、学院も名誉が傷つく可能性があります。本当に生徒かを確認したいのです。もしかしたら、その者の名を語った偽物の可能性もあります」
「ああ、その可能性もありうるね。わかった。名は聞いたことがある。でもどんな人かは明日学院で調べてみる」
「はい。なので、なるべく隠密に」
「ああ」
「それと買う際に部活で使うと言っていたので、騎士学院の部活動についても調べてください。本人が買ったなら、その部も怪しいです」
「わかった」
そして、クリス先輩とわかれて、家に帰る。
「ただいま、戻りました。母上、少し考えたいことと父上に報告がありますので、父上が戻ってきたら、お呼びいただけますか?」
「おかえりなさい。マルク、何かあったのね。わかったわ」
そして部屋に行き、さっきの話をまとめる。
今回の話はこうか。森や草原で魔獣を出現させる。それで、騎士団や冒険者の目をそっちにむける。その際に迷子を装い誘拐する。問題はその者らをどうするかだ?
単に、奴隷として帝国に売るのか?それとも何か他の狙いが?ゼルの報告なんかも聞いたらわかるか?あとはなんでこのタイミングなんだ。
カットの時に、いやウルフジェネラルの時にするべきじゃないか?うーん。
あ。兄上らが帰ってくる時を狙った?再来週だ。それを狙ったとしたら、陛下が兵を出迎え、労う。そこを?もしや迷子に何かさせて、混乱中に陛下を?ありえる。十分にありえる。これはまずいか。まずは父上に相談だ。
「マルク様、ラルク様がお帰りになされました」
「ああ、ありがとう。リリア」
「はい」
そして、俺は父上の執務室に行く。
「で、報告とはなんだ?」
「はい、実は冒険者協会にて二つの問題が起きております」
「二つ?森と草原にて魔獣が増えているというのは騎士団にもきている」
「実はもう一つ、迷子捜索の依頼が増えております」
「迷子?何?騎士団にはきてないぞ」
「ええ、騎士団は森などを冒険者と共に魔獣駆除しているからでは?」
「そうか。もしや撹乱か?」
父上の表情が曇る。目つきが鋭くなる。
「ええ、魔獣の増加はそうかと」
「魔獣の方は?」
「ええ。迷子に関しては狙いが別かもしれません。その前に、実はさらに報告があります。迷子の誘拐に私が作ったマナや気を排除する魔道具が使われているようです。申し訳ありません」
「う、いや、マルクの責任は言えないだろう。それは騎士団が欲したのだ。誰がそれを使っているのか?騎士団からの横流しか?」
「その可能性もあります。騎士団内を探ってもらえるでしょうか?」
「ああ。その可能性ということは」
「はい、もう1人だけ怪しいのがいます。あの魔道具を買ったのは騎士団と騎士学院生のエルゼ・デュクラスと名乗る者です」
「何?騎士学院?」
「はい、今、騎士学院の生徒会長に本人かを探ってもらっています」
「そうか。名乗っただけだ。本物かはわからないな。それにエルゼか」
「私もそちらを気になっています。カリムさんから聞いた容姿は似ております。同一人物かどうかによってはより警戒をと」
「うむ。そうだな」
「それと、ここから推測の域を出ませんが、狙いは王都への兵の帰還時ではないかと?」
「何?」
「はい。迷子、カット、そして魔獣の増加を受けて、考えたのですが、警備の目を外に向け、迷子を使い何かをする。そうじゃないかと?」
「ふむ。そうすると狙いは陛下と殿下か?」
「はい。そう思います」
「そうか、ラインバッハとエドワードを。あいつらのしそうな手だ。聖国ならありうるな。元第1王子も気になる。よしそっちの警備を探ろう」
「はい。よろしくお願いします。ゼルの報告は?」
「今日のところはまだだ」
「一度戻らせては?」
「ああ、そうしよう。カリウスあたりを動かすようにガルドに聞こう」
そして、夕食後にゼルが帰ってきた。
「そうですか。数週間にわたって監視しておりましたが、カリム魔道具店には行っておりません」
「そうか、だとすると、別人物か?」
「ええ、そうするとエルゼという2人の人物が同時に何かをしている?」
「ええ、そうと思えますが、何か裏がありそうです」
「そうだな。マルクの言っていることが普通は正しいか。これは明らかに何か繋がりがあるとしか思えん。そして、マルクが言っていた帰還時に混乱を生み出し、陛下と殿下というのが怪しい。奴らならやりそうだ」
「ええ、聖国はそういう事をしでかすのが好きですからね。いかにもらしいです」
「ああ、そうだな。聖国流とすら言えるな」
「ねえ、ちょっと思い当たる人物がいるんだけど、そのエルゼって子の容姿とその魔道具屋にきた子の容姿をもう一度教えて」
「はい。魔道具屋にきた方は短く切った髪で、黒に近い茶色の髪、朝黒い感じで背はそれほど大きくなく、むしろ小さいそうです。いかにも騎士を目指す女性という感じもするし、そうでもないという雰囲気もするそうです。そして、冒険者のエルゼの方は髪は黒に近い茶色で髪は短め、肌は少し浅黒く、魔法を得意として、背は大きくありません」
「そう、やっぱり、あの子らみたい。エルゼとエリナの姉妹の特徴に似てるわ。彼女らは前に話したダークエルフよ」
「え?それって?」
「何?そうなのか?リネアだとすると」
「ええ、覚えているのは昔の姿だから、絶対とは言えないけど。ダークエルフもエルフで長寿種族だから、そんなに容姿も変わらないとは思うけど。それに双子ならさっきのも変じゃないと思うし、ダークエルフは蠱毒が得意だし、人を騙すのも、誰かに成りかわるのも得意だから、この件も納得だわ」
「あの、母上、ダークエルフかどうか見分ける方法は?」
「そうね。あるわ。あのダークエルフはあるものが苦手なのよ。薬草の一つで、レイア草って言うんだけど、回復薬に含まれるものだけど、そのレイア草から抽出して回復薬に入れる成分がダークエルフは苦手なの。だから彼女らの回復薬は特殊よ」
「そうですか。ちょっと回復薬を使うかを試してみます」
「ええ」
そして、俺は今日も瞑想などをして寝た。
少しだけ、編集に時間がかかり、一時間ほど遅くなりました。すみません。




