平穏と小さな気がかり
翌日
今日も朝から訓練をして、これから会館に向かう。
「あら、マルク、今日は訓練を終えたのね」
「はい。母上、お体は大丈夫ですか?」
「ええ、昨日ゆっくり休んだから大丈夫よ。それにエルカとメルにあれの解除方法は教えたから、次は大丈夫ね」
「そうですか。それは安心しました。アランやユリア義姉上らも不安そうでしたので、是非元気な顔をお見せください」
「そうね。これから食事してくるから、その時に顔を見せてくるわ」
「はい。では、行って来ます」
「ええ、いってらっしゃい」
そして、会館に向けて、家を出る。
会館に着くと、
「よお、マルク」
「リッキー、おはよう」
「ああ、おはよう。ところで、奴の件だが、あの後、副支部長と昨日話した。すると、支部もいつから来ているかはイマイチ把握できていないみたいだ。数年前に王都に来たという異動届が出ているらしい。これはちと臭うな」
「そうか、お互い気をつけておこう。何かしてくるか、カットに何かさせる魂胆かもしれない」
「そうかもな。よし、気をつける」
「ああ、そうしてくれ」
そして、依頼表を見に行く。カットらは見ないな。まあ、俺は今日も依頼に励もう。俺は依頼表を見るが、あまり重要性がないものが多い。
なので、常時依頼を受けるか、受付で聞いてみよう。そろそろ、遠征を考える時が来たかもしれない。アランも2歳になりそうだし。カットの件が片付いたら、父上らと相談しよう。
「おはようございます。レネさん」
「おはようございます。マルクさん」
「今日は重要性がある依頼はないかな?」
「ええ、今日は何もないですね。先日の森の捜索もあって、騎士団が周辺を退治しましたからね」
「そうか、それはいいことだね」
「ふ。そういうのはマルクさんだけですね。他の方は仕事が減ったと嘆きます」
「気持ちはわかるよ。でも周辺の村からしたら、平和なのが一番だよ」
「そうです。私も村出身なので、それを目指したいです」
「そうだね。元気に頑張ろう」
「ええ」
そして、大した依頼もないので、常時依頼のゴブリンと大ネズミの討伐に行き、特に問題もなく普通に依頼を終え、会館に戻って来た。
「やあ、マルク。今日は常時依頼かな」
「ああ、そうだよ。ヤイも?」
「ああ、そうだよ。こう依頼がないと遠征を考えちゃうよ。まあ、行けないけど」
「妹がいるもんね」
「そうなんだよ。妹を養いたいのに、妹を置いて出かけるんじゃね?」
「そうだね。俺も考えてるけどね。甥っ子を置いて行くのがねえ」
「お互い、大変だね」
「ヤイよりは楽だよ」
「そうかもね」
そんな話をしていると、カットが帰ってきた。カットは今日もエルゼが一緒にいる。しかしあいつ、奥さんいるんだよな。なんかそれはもう。いや、変な勘ぐりはやめよう。
「よお、マルク、どうだ?」
「今日は常時依頼だね。カットも?」
「まあ、そうだが、今日は猪の魔獣を4匹見つけたんだ。ラッキーだろう?」
「二人で倒したの?」
「ああ、変か?」
「いやあ、どうだろうな。最近、カットたちは調子良さそうだから。でもよく見つけたね?」
「ああ、エルゼがな。すごいんだよ。魔獣を見つけるのが上手いんだ」
「そうか。すごいな。エルゼは頑張ってるね。カットも」
「ああ、すごいだろ。俺らはいいコンビなんだ」
「そうだね」
そして、俺らは分かれると、リッキーが来た。
「何を話してたんだ?」
「ああ、リッキー。どうやら、常時依頼の最中に猪の魔獣を4匹見つけたみたいだよ」
「あ、4匹?」
「エルゼが見つけたみたいだよ。不思議だね」
「ああ、それはな」
「これ以上はやめよう。聞こえてもダメだ」
「ああ、またな、マルク」
「うん。またね。リッキー」
そして、俺はリッキーと別れ、家に帰る。
家に着くと、母上とアランとユリア義姉上がいる。
「ただいま戻りました。母上、ユリア義姉上、アラン」
「おかえり、マルク」
「お帰りなさい。マルク」
「おかえい。まうく」
アランの機嫌がいい。
「ああ、どうしたの?」
「ええ、アルフが一度帰ってくることが決まったの」
「そうですか。母上」
「ええ、そうよ」
「良かったですね。ユリア義姉上。これで少し安心できますし、アランも嬉しいでしょう」
「そうね。ありがとう、マルク」
「まうく、あいがとう」
「アランよかったな。お父さんが帰ってくるぞ」
「うん」
「どうした?」
「ちょっと恥ずかしいのよ。アルフ様に会ってないから、どうしたらいいのか」
「ああ、一年近くぶりですからね。兄上はどのくらいいるのですか?」
「ええ、半年ほどよ。アルフがいる間は他の将軍が行くみたい」
「そうですか」
「それはいいですね。アランも嬉しいんだろう。でも恥ずかしいってところかな。アラン、お父さんが帰ってきたら、驚くように何かしよう?」
「??」
「お父さんが驚くように、何か作ろう?」
「おどおく?」
「ああ、久しぶりに会うから、ハッとさせよう」
「うん」
「じゃあ、よし、兄上に絵を描こう」
「え、かく?」
「そう。お父さんの絵」
「かく。おとうさん、かく」
「よし、絵を描こうな」
そして、風呂に入ってから、アランと絵を描く。色々な絵の具を使って、描く。アランは気に入らないのか、また描きたいと言うので、明日また描くことにした。
俺は夕食を食べるために、絵の具で汚れたアランを洗うために先に風呂を入る。アランの顔を洗い、髪を洗い、体を洗って行く、アランは何も嫌がらずに洗われる。
そして、風呂でゆっくりして、風呂を出て夕食を食べに食堂へ行くと、父上が帰ってきていた。
「父上、お帰りなさいませ」
「ああ、マルク、ただいま」
「じいじ、おかえいなさいませ」
「ああ、ただいま、アラン」
「父上、例の件で報告があります。ゼルからの報告も聞きたいので、後程」
「ああ、わかった」
「じいじ、えいのけん」
「ああ、アラン」
「ふふふ。アランは今はマルクのマネをしたいのね。そういう年頃ね」
「??」
「ふふ。可愛いわ」
「アラン、ふふ。マネするといい」
「まうく、マネ、する」
「はははは」
そして、夕食を食べた。俺らは楽しんでいた。その際に兄上の話になり、1ヶ月後に戻ってくる、そして、半年後にもう一度行くようだ。
長い期間になるから、警備の者を変更するということ。長い期間、家に帰れないとどうしてもイライラして、有角族国家内で揉める可能性があるからだと。
兄上の代わりはガリシアン家の長男殿コールシュ殿だ。そして、補助として、父上の部下でレイル・フィン・ケネディ殿だ。
近衛兵として若いが実力を買われている。そのレイル殿にも戦場の空気を経験させようということらしい。
そして夕食を食べ終わり、少し部屋でのんびりしてから、父上の執務室に行く。
「失礼します」
「入れ」
「はい、父上、例の件の報告ですが」
「ああ、どうした?」
「はい。今日、会館に行くと依頼は騎士団の方々の努力で森付近の魔獣が倒されていたようで、ほとんどありませんでした。ですので、多くの者が常時依頼をするという状況でした。カットも同じく常時依頼に励んだようです。しかし、その間にエルゼが猪の魔獣を4匹見つけたそうです。そう都合よく見つけるには数が多く、全てエルゼというのはおかしいのではと思いまして」
父上の顔が歪み、怪訝な顔になる。
「そうか。それは変だな」
「ええ、でゼルはどうかと思ったのです。もし」
「ゼルの報告でエルゼに不審なところがあれば、例の物を置いた可能性がある。つまり聖国の手の者ではと?」
「はい」
「ゼルの報告は受け取っている。ゼルはまだついておるが、まだ不審な者と会った」
父上が文を読む。
「何かをしている様子はないそうだ。ただ、マルクが言ったことは見ていたようだ。唐突に魔獣を見つけた。だが、それに不審な様子・行動はない。それが怪しいと。ゼルでさえ、魔獣の気配は感じれなかったという中でエルゼが見つけたというのだ」
「ゼルすら見つけられない物を」
「ああ。裏はありそうだ」
「ええ、もう少し様子を見たいですね」
「ああ、奴をもう少し泳がせよう」
「はい」
こうして、話し合いをさらにして情報を共有した。
翌日
今日は、お休みだ。父上も休みのため、父上と訓練している。ゼルはエルゼについている。アランはまた訓練の様子を見にきたようだ。
「まうく、頑張れ」
父上との模擬戦中にアランが応援してくれる。俺は父上といい感じに打ち合いをしているが、どうにもいい一発が入らない。それに対して父上は、そこそこのを上手く入れてくる。この辺が父上との経験の差である。ここを埋めるのは難しい。
お互いに完全に本気でスキルありにすると訓練場である庭が壊れる。故に最近はスキルなしの戦いにしている。しかしそうなると、もう完全に経験の差が出る。
去年からここが問題になっており、その差を埋めるために、多くの魔獣と戦い経験を積んでいるが、最近は王都付近では限界になっている。
やはり、そろそろ王都から遠征をするべき時が来ているのだろう。兄上が帰ってきたら、そろそろ本気で考えよう。半年ぐらいの期間の遠征をしよう。
獣人族国家か、辺境伯あたりがいいか?父上の一撃を防ぎ、お互いに間合いを取り直す。父上は獰猛な虎のように隙を見逃さぬような目をしている。隙を作ればやられる。危機感を感じる。
一気に決めにきた。一瞬の呼吸を狙われた。俺は体をひねって避けながら、槍を回転させるように持ち替え、父上の足元を払うように狙う、父上は読んでいたかのように動きを止め、空振りさせる。
俺はそこからもう一歩踏み出し持ち手を変え、一気に切り上げに変更して、父上の槍を下から迎撃する。父上は槍を回転させて、一気に突きに変更する。俺は槍を持ち上げるのを途中でやめて、その右腕を狙い、叩き落としに変更した。
すると、父上は突きをやめて、右手を引き、槍先を持ち上げて、俺の槍に這わせ、柄返しに変えた。そして俺の槍を弾き、上に軌道返させて、一気に突いた。
俺は胸に突きを喰らい敗れた。今日も勝てない。まだ足りないんだ。
「ふむ、読みはどんどんと鋭くなっている。経験は少しずつだが積んでいるな。冒険者になったこともいいのだろう。多くの経験がマルクの糧になっているようだ」
「はい、ですが、足りなくなってきております。そろそろ、王都を出て遠征に行くことも考えております」
「うむ。そうかもしれん。エルゼの件が片付いたら相談に乗ろう」
「はい」
こうして、訓練が終わる。アランは目をキラキラさせて俺と父上を見ている。ドンナルナ家の血筋をしっかりと引いていると確信させる。
そして、その後はアランと遊び、昼食を食べた後はカリム魔道具屋に行く。
「やあ、カリムさん」
「ああ、マルク様。これはお越しいただきありがとうございます」
「魔道具協会も上手く行っているみたいだね。もう一年になるよね?」
「はい。一年と少しが経ちます。うまく行っております。それに先日森で試してもらったマナや気を寄せ付けない結界を張る魔道具も、試しデータもいただいたので、それを元に最終の検査をして、王宮に納品したところ、高い評価をいただいております。罠を仕掛けるのに、マナをつけずに設置できるため、引っ掛かりやすいと。そして、相手の探査に引っ掛からないと。それで販売したところ売れ始めています」
「そうですか、それは良かった。これで今年も魔道具賞は俺とカリムさんの受賞かな?」
「最近は魔法学院が猛追しております。ルーナ様がいい魔道具を作られて、私共も下請けをさせていただいております。それは私共にとっていいことですが」
「そうか、ルーナも頑張っているんだ」
「ええ、素晴らしいですね。特にこれなんかは。王立学院と魔法学院の共同研究です」
「これが商品?」
「こちらは鎖で縛る魔道具です。捕縛を基本とした物だそうです」
「はあ、それはすごい。狩りに、犯罪者の逮捕に、罠にとすごいね」
「ええ、ただ、何をする魔道具かを聞いただけで使う場面を全て言い当て、それに罠という新たな考えを持つのはさすがマルク様です」
「罠は考えてなかったの?」
「はい。これは捕まえた人や生き物に鎖をつけて、運ぶ物です」
「そうか、これを踏んだら鎖が出て、捕まるようにしたら、便利だけどね」
「⁉︎」
「ああ、これも考えてなかった?」
「はい。ルーナ様に提案してみます」
「そう」
「さっきの実物とそれをくれる?」
「はい。ルーナ様のは買取となりますので、この金額です」
「え?俺の開発したのも買取でいいよ」
「いいえ、それは受け取れません。借りが大きすぎます」
「そんなの気にしなくてもいいのに」
「今回の開発でもかなり儲かりました。魔道具職人はマルク様を崇めるほどに儲かっており、魔道具協会の件も皆大喜びなのです。それをこんなくらいでは返せませんが、せめても気持ちです」
これは断ったらダメなやつだ。相手の気持ちを踏みにじるやつだ。しょうがない俺の分はタダでもらうか。
「わかった」
こうして、俺はカリム魔道具店を出る。今度はアレスらと会うために闘技場に行く。最近は闘技場は何もない日は国民に貸し出している。経費削減のためだ。
俺とアレスらはここをかりて月に一回、一緒に訓練をしている。闘技場クラスじゃないとスキルや武闘オーラを訓練で発動できない。
アレスらとの訓練は、アレスと、ヨークスと、ルーイと、マークと続き、そしてリオル先輩らと、リック先輩らと行った。特にクリス先輩が双剣スキル及び双撃を得て、二刀流になり、非常に強くなっていた。
ただでさえ鷹の目による俯瞰で見る攻撃や防御は、戦術の幅を非常に高めるところに、双撃のタイミングが読みづらくなり、手を読み辛くする。
ところどころ出るタイミングが取れない攻撃で、防御の人という印象を変えた。騎士学院のランク戦で、リオル先輩と差を縮めたのもうなづける。
アレスたちもランク戦で上位に入り、特にアレスはトップ2に肉薄しているようだ。アレスはリオル先輩らにもうすぐ追いつきそうとの事だ。ルーイとヨークスはジュライ先輩とジンダ先輩、マイル先輩と並び4位につけたようだ。
それぞれがスキルを伸ばすより、スキルの使い方やスキルを使える時間の強化、そして何より基礎の強化を励んでいるようだ。
ヨークスは特に魔法との組み合わせを学んでいるようで、これは最近の騎士学院のトレンドらしい。リオル先輩が去年、それでランク戦を席巻したためだ。
「マルク、また強くなったね。どんな訓練しているの?」
「そう?強くなってる?うーん。経験を積んでいるだけだよ。スキルや技は増えてない。戦い方と戦いの際の力配分とか上手い戦い方を学んでいるよ。父上と戦うとそこで負けるからね。魔獣と戦ったり、冒険者と訓練したりして、とにかく経験を積むことをメインにしているよ。先日はウルフジェネラルを倒したよ」
「聞いたよ。ウルフジェネラルが出たって。冒険者が倒したって聞いたら、名前がマルクだったから、またすごいことをしているんだなって思ったよ」
「俺も聞いた。マルクかと納得したな」
「リオル先輩、そこは納得するところですか?」
「ああ。何度、驚いた時はマルクがしてるということを経験したか」
「そうですねえ。それはそうですよ」
「なあ」
「違いない。後輩で一番で驚いたのはマルク、それは誰もが変わらないと思う」
「リック先輩まで」
「「「「ははは」」」」
こうしてアレスらとの訓練を終え、俺は家に帰った。
それから、アランと遊んだり、研究したり、瞑想して眠りについた。




