決勝
準決勝から1時間後
俺とアレスの名がアナウンスされる。2人でリングに上がる。陛下が見守る中、俺らは対峙する。
「では、始める。お互いに礼。始め」
その合図と共にアレスが動く。いきなりのトップスピードだ。俺も負けじと全てを出し、スピードを上げる。アレスの動きは影のようにゆらゆら動く。それは物凄いスピードだ。
でも俺も何とかついていく。どんどん速くなる俺とアレス、そのスピード域はもう音を超える。止まっているようにさえ見えるほど。
剣と槍が交錯する音だけが遅れて鳴り響く。動いてさえいないように見えるのに、撃ち合いの音がする。2人が凄いとわかるのか、観客は静かに見守る。
俺とアレスの2人にしかわからない領域で戦う。王国内でもトップクラスのスピード域だ。このスピード域に入れるのは、俺と父上、兄上、アレス、ゼル、教官、それに数人ぐらいだけ。
もう最速の戦い。誰も入れない2人の戦い。そして、観客の誰も声を出せないでいる。もう何をしているかさえ、わからない。ゼルが解説している、これがなければ誰もわからない一戦だ。
俺は途中で石を蹴り、アレスの注意を動かす。アレスはそれに動じずに攻撃を繰り返す。このスピード域では石さえも凶器になる。さらにスピードが上がる。
そんな中、この戦いも終わりを告げる。俺の集中力が高まり、マナが光り輝く。これは最近わかったが、スキルのせいらしい。
俺のスキル『飲み込む』が周囲のマナを吸収し、俺のマナを増幅する。すると体がそれに耐えるためにマナを外に出す。そしてそれを体に纏わせる。そのマナが光り輝く。
対象法として結界で漏れ出る量を調整する。どんどんと俺のスピードが上がる。アレスのスピード域を凌駕していく。
ここまでいくと細かい戦術は関係ない。単純な力だ。だが俺もこれはまだコントロールできない。もうここまで来るとただ暴れる力を何とか使う程度だ。
そして勝負は決まった。スピード派のアレスが俺についてこれなくなった。こうなると勝負が簡単に決まる。俺の突きが決まり、アレスが倒れ、俺が勝った。
俺はまたも膝をつく。アレスは動けない。またエルカ姉様がアレスに回復魔法をかける。俺は自分で少しずつ回復する。去年みたいに使い切り、動けなくなることはないが、まだコントロールができない力だ。
「勝者、マルク・ドンナルナ」
歓声が一段と高く会場を通り抜ける。今まで何もできないことを悔やむかのように、会場はアレスへと称える声と俺への声援が上がり、それで全ての音が全てがかき消される。何人いるんだと思うほどの歓声だ。
「アレス」
「ああ、何とか大丈夫だよ。俺も去年より強くなっている。これで大怪我はしないよ」
「そうか。ごめん。力をコントロールできなかった」
「謝るのはよそう。俺も、マルクも本気だった。しょうがないんだ」
そしてアナウンスがなる。
「表彰式は20分後に行います。2位が治療中のため、少しお待ちください」
俺とアレスは控え室に戻る。
俺はゆっくりと息を整える。陛下がいらっしゃった。
「ふむ。2人とも姿勢はそのままでよい。疲れておろう。この者を紹介したくてな。この者はのぉ。獣人族国家の王ガウル・ガウランだ」
「ああ、紹介してもらった獣人族国家の王ガウル・ガウランだ。そして、マルク君が戦ったこの小娘が我が娘、マリア・ガウランだ。よろしくな」
「はっ」
マリア・ガウラン様は 獣人族国家の王の娘か、やっぱり。名前でそうだろうとは思った。ただガウランというのは種族名になる。虎族の者がその氏を名乗るため、必ずしもそうとは限らない。
ただし、マリア様の赤い髪は、第17王妃と同じはず。虎族には珍しい赤い色だ。第17王妃は虎族と赤猫族のハーフだから赤毛らしい。その娘のマリア様も赤毛らしい。昨日は睨んでいたが何だったのだろう。今すぐに再戦とか言われたら面倒だな。もう体力がない。
「初めまして、マルク・ドンナルナ様、来年から王国の学院に留学します。その時はよろしくお願いします」
「はい」
とりあえず声は出せた。驚いた。あまりのことに声を失いそうになった。
「ふむ。驚いてあろう。まあよい。しかし素晴らしい戦いだった」
「ああ、王国はすごいな。こんな戦いは獣人族の戦士同士でも見れん。これが学院生とは驚きだ。それとなマルク・ドンナルナ君、魔法理論に関しては感謝している、もし獣人族国家に来た際は来賓として迎い入れる。いつでも来てくれ。それを伝えたくて来た」
「ふむ。では戻るか」
「ああ、すまないな。休んでいるところ」
「いえ、ありがとうございました」
「ああ」
「ふむ。少しでも休め」
そして、時間が経ち、表彰に入る。俺は一位のカップをもらい、そしてそれぞれ、アレスが2位、ヨークスが3位、リオル先輩が4位だった。リオル先輩は俺との一戦で力を使い果たし、ヨークスに負けた。それでもいい試合をするあたり、強い。
「うむ、どれも見事な試合であった。どれもまさしく王国の明るい未来を示す一戦だ。見ていた者たちを勇気付け、そして楽しませた。見事だ。儂はお主らが誇らしい。これほどの人材が我が王国にいる。それがどれほどか。各国に見せれば王国はすごいと感嘆するだろう。これからも励め」
「「「「はっ」」」」
こうして、武闘会は終わった。疲れた。今日は終わり、明日は片付けと後夜祭だ。その後は先輩らの引退式だ。まだ先輩らと別れたくないがいずれは来る道だ。せめて最高の式にしたい。
そして翌日は片付けをして、後夜祭を楽しんだ。




