武闘会2日目②
「勝者、マルク」
はあ、勝った。結構びびった。あの子はかなり強いぞ。みんな勝ち負けだったよ。少なくとも怪我をして勝てる感じだったと思う。
こうして、2回戦の俺の出番は終わった。アレスはラックス先輩と戦い。スピード戦を制し勝った。マークはヨンダルと戦い、重戦士同士の戦いは、マークが勝った。
ヨークスはマイル先輩と戦ってかなりもつれたがなんとか勝った。ルーイもルックス先輩とのスピード戦を制し勝った。
そして、残りの戦い、カリウス先輩はクリス先輩と、リオル先輩はジュライ先輩と、リック先輩はジンダ先輩とだ。これはどれもいい戦いだ。
カリウス先輩対クリス先輩が最初だ。ワイルドvs細マッチョのイケメン対決だ。これは凄い戦いになる。戦い上手のカリウス先輩とオールマイティのクリス先輩だ。
クリス先輩の万能さはかなりのもので、ダンジョン合宿では斥候として、普段は中衛も前衛もできる。前で盾役から、斥候になり、中衛のアタッカーまでこなす。剣術と盾術のスキルを持ち、魔法も使え、鷹の目という固有のスキルも持つ。やりづらい相手だ。
それに対して、カリウス先輩は剛力と疾走と隠密という変わった組み合わせのスキル持ち、疾走と隠密は斥候らしいスキルだがそれに剛力がいやらしい。いきなり出てきて、凄いスピードですごい力で叩く。これがカリウス先輩の主戦術だ。だが状況に合わせて、使いこなすいやらしさがカリウス先輩の強さだ。しかし、鷹の目はカリウス先輩にとっては不退転の天敵だ。
「ああ、クリスか。やりづらいな」
「こっちはカリウスと戦いたかったよ。一年の時はリオルと並んで双璧だった。だから自分の成長を感じたいね」
「ふ、負けねえぞ。俺も修羅場潜った強さがある」
「ああ、俺も負けない。実践戦闘研究会で、何度泥水をすすってきたか」
苦労人同士の戦いだ。正直どっちが勝つかわからない。
試合はいきなりの打ち合いになった。カリウス先輩の隠密での気配を消したところを、鷹の目のスキルだろう、クリス先輩が叩く。これでカリウス先輩は隠られない。
隠密は他人の死角と気配を感じにくいところを見つけるスキルだ。対して鷹の目は死角をなくす。つまり『居んのはそこだろ?隠れてるのはわかってる』ってやつだ。
そして打ち合いになる。誰も予想しなかった戦いは長い時間を打ち合う。どちらも上手い戦い方を主戦術にする2人が観客にわかりやすい打ち合いとは、なんとも。
だが、隠密での攻撃を防ぐにはクリス先輩の戦術は正しい。対して、カリウス先輩は見つかった以上はスピードと力でクリス先輩に勝つしかない。お互いの力がぶつかり合ういい試合だ。勝ち負けは技量とスタミナで決まる。
結果はクリス先輩が勝った。カリウス先輩のスタミナ負けだ。クリス先輩の積み重ねが勝った。こういうのがあるから実践戦闘研究会はすごい。
ついで、リオル先輩とジュライ先輩だ。リオル先輩もオールマイティに強い。それに、気功スキルを得て、かなり強くなった。対するジュライ先輩は硬化を得たことで一撃必殺がカウンターとして優位になった。両者が向き合う。どちらも一撃で決めることができる。ただし、リオル先輩は戦い方が上手い。そこにジュライ先輩がどう動くかだ。
ジュライ先輩が動かない。去年、アレスに動かないことの我慢で負けた。焦れたんだ。しかし、ジュライ先輩も成長している。動かない事を自分からでもできる。硬化を得たことで無駄に動かなくてもいい。自制ができればジュライ先輩は手強い。リオル先輩も中々攻め手がない。
リオル先輩がフェイントを入れながら、右に左にと相手を動かそうとする。ジュライ先輩は動かない。上手い。こんなに動かないと硬化が上手く使える。これは素晴らしい。正に前世の風林火山の「動かざること山の如し」だ。ジュライ先輩には最高の作戦だ。
リオル先輩が打ちに行った。焦れた。ダメだ。それじゃあやられる。そう思ったが、一瞬のタイミングで一撃必殺を避け、そのできた隙を突く。これでは硬化が間に合わない。上手い。そうか、一撃必殺に頼るところまでを読んで、色々とやったが焦れて、攻撃しに行ったと見せて避ける。するとジュライ先輩は勝機を失い、一転、危険になる。そこまで読むのか。凄い一戦だ。
そこからは気功を使った攻撃でリオル先輩が勝利した。
次は、リック先輩対ジンダ先輩だ。これもいい組み合わせだ。無拍子と力技の対決。剛vs柔だ。ジンダ先輩は剛力と硬化だ。もうバリバリの重戦士だ。正直、騎士でもこれほどの重戦士はいない。強い力で攻め、硬い守りで守る。オーソドックスだが、これに基礎の剣術と盾術があると崩すのも守るのも辛い。正道をとことん突き詰めた戦い方だ。騎士の基本にして、戦士の基本だ。基本は一番戦う相手がいやな戦い方だ。
「ジンダか。お前が一番嫌だな」
「へへ。去年より強くなってますよ。リック先輩」
「だろうな。だが俺も強くなった。勝つ」
「ええ、存分に戦いましょう」
「ああ」
2人がリングに上がる。対峙を始める。「始め」の合図でリック先輩とジンダ先輩はお互い同じ間合いに入る。剣技と盾を使う者同士の戦い。正道同士、かたや柔を極め、盾でいなして守り、無拍子で勝つタイプ。もう一方は完全に打たれても耐え、一気に力で押し切る重戦車。どぢらも正道だがタイプは正反対の2人だ。どちらがより自分を鍛えてきたか。それに尽きる。
激しい打ち合いだ。リック先輩が無拍子と普通の剣技を織り交ぜ、攻める。ジンダ先輩が耐える。どこまで耐えれるか、相手が根を上がるまで打てるかというわかりやすい戦いも、その中にある技術は凄まじい。ジンダ先輩は打たれても苦しくないところに攻撃がいくように動きながら、向きや位置を変えて耐える。一方でリック先輩は、相手の意表を突きやすい位置に少しずつ動きながらジンダ先輩の急所を狙う。観客は熱帯びていく。騎士の戦い。正にそうだ。
試合は結局、リック先輩が力尽き、ジンダ先輩が剛力で勝った。攻め続けるのは辛い。そういう結果だった。これでベスト8になった。
休憩の後に準々決勝だ。
「リック先輩、カリウス先輩、残念でしたね」
「ああ、マルクとやりたかった。今度試合してくれないか?」
「いいですよ。リック先輩」
「俺はリオルともやりたかったがな」
「じゃあ、やるか。学院祭が終わったら暇だ」
「ああ、本気でやろうぜ」
「ああ」
「クリス先輩、いい試合でした」
「ああ、俺の出せるもの全てを出したよ。あとはリオルとマルクとやりたい。俺の目標の2人だ。カリウスと3人が俺にとっての壁だ。1つは抜けた。マルク準決で待ってろ」
「ええ、期待しています。クリス先輩とはタイプが同じですから、負けたくないです」
「ああ」
「ラックス先輩、ルックス先輩」
「マルク、今年はシグルソン教官に怒られないよね?」
「ええ、いい試合でした」
「よかった」
「兄貴は去年の事をまだ恐がっているから」
去年、ダメな試合をして、シグルソン教官に怒られたのがトラウマのようだ。
こうして、終わった。本戦以降は怪我人は出ていない。よかった。ミリア先輩がリック先輩のところに来て、慰めるとも褒めるともわからないことを言っていた。仲はいいらしい。サリー先輩もカリウス先輩のところで、ダメ出しをしていた。姉は厳しい。
そして準々決勝だ。準々決勝は俺とルーイ、リオル先輩とクリス先輩、アレスとジュライ先輩、マークとヨークスだ。去年の準々決勝とほぼ同じ組み合わせだ。そんな中で王太子殿下が控え室までいらっしゃった。
「いやあ、今年の学院生はレベルが高いようだね。いい。いいよ。獣人族国家の者や冒険者の者もいながら、騎士学院、王立学院の者らがベスト16、ベスト8を独占する。
これは期待できるね。しかし、強いね、実践戦闘研究会は。マルク君は王国に貢献度が高いよ。いい騎士が増えそうだ。これで、戦術なんかも勉強しているんだろう。魔法も改良が重ねられている。魔術詠唱研究会のブースも見て来たけど、学生の研究が研究所を超える。
メルさん、エルカさん、研究所も負けてられないね。学院が凄いことは国を豊かにする。マルク君の研究もいい。波を作る魔法や土を掘り起こす魔法もいい。乾燥も、洗濯も実にいい。国が発展する。なんていい貴族を持ったか。やっぱり君は素晴らしい」
「殿下、ありがとうございます。もったいなきお言葉」
「ああ、いいよ。私は感動しているんだ。マルク君、君が王国民でよかった。兄上は本当に見る目がない。君が変な方向に進まなかったことがどれだけ僥倖か」
「はあ」
「ごめんね。盛り上がっちゃったね」
「殿下、いつも申していますが、1人で突っ走るのが殿下の悪いところです」
「ああ、すまない。エルカ。いつも悪いね」
「いえ」
「そうそう、みんな頑張ってね。君たちは国の希望になる。今、王国が、世界が難しい状況だからこそ、君たちみたいな若者の力を国は欲している。頑張りたまえ」
「「「「はっ」」」」
殿下はいい人なんだけど、どこかこう変わっているというか、マイペースなんだよな。
そして、準々決勝が始まる。俺とルーイの戦いが始まる。ルーイのスキルは、アクセラレーションが進化して、超加速と完全停止だ。アクセラレーションが分離して進化したようだ。
重力や慣性の法則を無視した動きをする。急に動いて、急に止まる。ここに慣性の法則や重力などの物理法則は介在しない。だから動きが読めない。スキルを徹底して磨いて来た。さらに剣術も物凄く基礎を磨いている。もうあの頃の弱いルーイはいない。凄く強い。
「では、始める。いいか。始め」
ルーイは動かずに警戒している。こっちの動きを見てそこから動くようだ。確かに理にかなっている。ルーイの動きは一瞬なら誰より速い。加速勝負になったら誰でも負けない。だから俺が動く瞬間に動いて加速勝負に持ち込みたいんだろう。うーんかなり辛いな。この勝負は厳しいなあ。
こういう戦い方にも気を使い始めると得意なものを極めた特殊型は強い。万能型は厳しくなる。俺も決して、例に違わない。厳しい戦いになる。しかも持久戦もできない。ルーイはスキルを使わないから。
しょうがない。自分の戦いに持ち込むように色々とやろう。どうにかルーイのペースを崩して、ルーイの戦いにさせずに俺の戦いに持ち込む。これしかないか。
魔法で牽制する。もちろんルーイは動じない。それでいい。まずは策のために準備だ。今度は動く。疾走を使う。ルーイの周りを動き、少しでも位置を動かせる。よし、対応はされるが動いてくれた。今度は槍で足元を狙う。一気に超加速で来た。ここは読んでたから何とか避ける。
ルーイも根気強く待つようだ。少しずつ、様子を見て状況を変えていく。今度はまた魔法を撃つ。今度は避けた。ああそれでいい。少しは状況を変わって来た。ここから攻めるまでもう少し、ルーイは動かない。動いてきたら楽なんだけどね。
まだ続けていく。少しずつ、少しずつ、色々と巻いていく。俺の戦いに、俺のペースの持ち込むために準備していく。また魔法を撃つ。よし、だいたい準備が整った。
よし、行こう。俺のターンだ。始めるよ、さっき作った瓦礫をを蹴り上げ、右に動かす。槍で足元と叩き、リングの破片をルーイにぶつける。もちろん避けられる。
それでいい。今度は目線を上げさす。そして今度は魔法を撃ち、さらに右へ進ませる。そして一気に攻める。ルーイは超加速をしようと踏み込む。だが足を滑らせた。下が凍っていた。いや俺が凍らせた。ルーイは反応が一瞬遅れる。そこに俺の速い突きを出す。
そしてそれにルーイは対応しようとするが俺もアクセラレーションをする。さらに加速すると、突きがルーイに決まる。ルーイは倒れた。俺は首元に槍を構える。
「そこまで」
終わった。ほとんど動かない戦いは、観客にはつまらないだろうな。会場は静かだ。だが拍手が来た。王太子殿下だ。
「いやあ、素晴らしい。戦いが緻密だ。バレないように魔法や槍で有利な状況を作り出す。戦術が素晴らしい」
とお褒めのお言葉が来た。
「はっ、有難き幸せ」
「対して、ルーイ君は自分の戦いを目指した。決して焦れずに、焦らずに自分の戦いに徹した。いい試合だ。いい騎士になりそうだ。素晴らしい」
「はっ、ありがたき幸せ」
ルーイが起き上がり、礼を述べた。
こうして俺らの戦いは終わり、次の戦いに進む。アレス対ジュライ先輩の戦いだ。
この戦いは、アレスがずっとスピードで撹乱して戦った。ジュライ先輩は何とか対応するが、その速さに翻弄され、結局はアレスが勝った。今回は策を弄さずに自分の戦いで勝った。
そして、マーク対ヨークスはお互いの得意な戦いを必死に行い、かなりの乱戦だったが、今回はヨークスが勝った。ヨークスのグラビティソードの進化型、重力操作はかなりやばい。最終的にマークを吹っ飛ばし、体勢を崩して、一気にグラビティソードで決めた。
そしてクリス先輩とリオル先輩だ。かなり面白い戦いだ。
クリス先輩はかなりいい試合をした。基本に忠実で上手い戦いだ。これだけ、基本に忠実だと戦い辛い。リオル先輩は中々攻め手がない。
しかもご丁寧に鷹の目で上からリオル先輩の手を見ているようだ。予測がいい。こうなると玄人好みの戦いになる。両者がゆっくりと動き、牽制し合う。動かないようにすら見える。そして、撃ち合いにまた戻る。この繰り返しだ。焦れずにお互いの戦いをする必要がある。
中々進まない戦いに観客は息を飲む。だが段々と飲み込まれていく。熱がふつふつと沸いている。どんどんと進む試合が、なかなか決まらない試合だ。
しかし、この試合も結果は来る。クリス先輩の一撃にリオル先輩が反応する。お互いの一撃が交錯する。クリス先輩の剣の内側を通るリオル先輩の剣。クリス先輩の剣はリオル先輩の顔の右側をすり抜けており、リオル先輩の剣はクリス先輩の胸に直撃していた。クリス先輩が倒れる。今回も少しの差でリオル先輩が勝った。
そして今日の戦いは終わった。かなりすごい試合が続き、観客は楽しそうに闘技場を出ていく。俺も出ようと思うが、何故か睨まれる感覚に襲われる。うん?さっき戦った獣人の子だ。マリアさんだ。しかし話してこない。まあいいか。しょうがない。行こう。
俺は魔術詠唱研究会のブースに行く。
「みんな、お疲れ様」
「ええ、準決勝進出おめでとうございます」
「ありがとう、ルーナ」
「今日も終わりましたよ。もう大丈夫です。これから片付けていきます」
「じゃあ手伝うよ」
「はい。わかりました」
皆で片付けていく。そして終わる。今日でブースは終わりだ。
「お疲れ、みんな」
「明日は応援しますので、マルク先輩も、リオル先輩も、アレス先輩も、ヨークス先輩も頑張ってください」
「「「「ああ」」」」
「今年で最後だ。マルクに勝たないとな。それに後輩らには負けられない」
「今年こそ勝つよ」
「ああ、優勝するのは俺だ」
「ふふ。二年連続を狙うよ。来年は運営側だからね」
「そうか、じゃあ、マルクも今年が最後か」
「ああ」
「じゃあ、勝たないとな」
そして今日は帰った。




