ダンジョン①
五日後
今日は学院が休みの天の日だ。父上とゼルと訓練した後、父上と話し合いだ。
「父上、騎士学院の件はどうでしょうか?」
「ああ、すまんな。無理そうだ。ガルドも動いたし、コーネリアスも動いたが、騎士の連中の態度は硬い。特に元騎士たちから圧力があるようだ。あいつらは自分のプライドがあるんだろう。そんなのはクソ喰らえだがな。実際に大戦では騎士だけでなく、多くの傭兵が頑張ってくれた。奴ら無くして勝てなかった。なのに、騎士がなんだと縋るのはくだらん。俺もやめようかとガルドに言ったら怒られたわ」
「それはおやめください。ガルド様じゃなくても止めます。父上」
「そうか。ただなラインバッハがお前が国の為に働けないのは損失だと。宮廷魔術師や回復士はと聞いてきた」
「はあ。やっぱりそうですか。お断りします。であれば冒険者になって色々なところへ行ってみたいと思います」
「そうか」
「その場合はたまには家に帰ってくるのよ」
「ええ、わかっております。母上」
「そう。ならいいの」
「ただ、父上。騎士の改革はしていただきたいです。後輩に槍術スキルのないものですが、槍術を極めようとするものがいます。その者が騎士になりたいとなった時に困らないようにお願いします」
「ああ。ガルドと対応しよう。ゼルの弟弟子の子だろう。ゲイル殿の子、ケビンか」
「はい」
「ああ、ゼルから聞いた。まあ、これから王国は変わる。そうなるように頑張ろう」
「はい。ありがとうございます」
こうして、話をしてから、休日を過ごした。
それから1週間後
今日は課外授業があるため、2年生の課外授業を受けているもの以外はお休みだ。俺たち実践戦闘研究会と集団戦闘研究会は合同でダンジョン訓練を行う。今日から二日はお互いの戦い方を学びあい。それから少しダンジョンに入り、なれて行く。そして、お互いの部員を混ぜて、色々なパーティーを組み、ダンジョンに臨む。
今日はそのメンバー選考を兼ねて、色々とお互いに学び合う。集団戦闘研究会からまずはどのようにダンジョンを攻略するかだ。
ヨンダルと俺とレオナが中心に話す。
「基本的に、前衛2名、斥候が1名、後衛2名の計5名で攻略する。ダンジョンのマップは6階までを共有して、下の階は自分たちでマッピングする。斥候が罠や敵を確認する。それからパーティが進む。これを基本にしている。斥候の存在が重要だ」
「そうね。斥候はダンジョンでも、戦場でも重要になるわね。集団戦闘研究会では何人いるの?」
「ああ、9人いる。斥候はあまり評価されにくいが集団戦闘研究会では非常に重視している。彼ら無くして、集団戦闘などあり得ないと。だから斥候は斥候に必要なスキルや技術を学ぶことを推奨している」
素晴らしい考えだ。戦闘できないという理由から斥候を軽んじる傾向はどこでもある。うちも斥候は重要としている。しかし、他が違うので、斥候も戦闘できるようにしようと考えて鍛えている。集団戦闘研究会は重要だから、斥候は斥候の力を増やす努力をしてもらう。アプローチは違うが、同じく斥候を重視している。
「そう。素晴らしい考えね。それはいいことだわ。国全体でそうなるといいわね」
「ああ、そっちは違うのか?」
「ああ、こっちは現状を変えれないなら、自分たちを変える。斥候は戦闘もできる力を磨くことにしている」
「そうだな。それも正しいな。変えることを願うか、変えれないなら自分を変えるか。どっちを選ぶかは難しい問題だな」
「ああ、集団戦闘研究会は素晴らしいと思う。そういう考えが広まればいいと思うし、それに協力しよう」
「それは助かる。実践戦闘研究会は今や有名だし、影響力もある。そこが押してくれると国の考え方にも違いが出てくるかもしれない」
「ああ」
ここからはリオル先輩とキュリオスが話す。
「次に集団戦闘では、バランスと役割が重要です。前衛が倒すより後衛が倒す方が効率がいいし、怪我も少ない。前衛は大変だが、守りをきちんと学ばせるのが方針です」
「そうか、それは素晴らしいな。ただ、後衛の攻撃力や、マナの枯渇が問題にならないか?」
「ええ、ですから、マナポーションは1人1つ必ず、後衛に渡しています」
「そうか、金がかかるな」
「はい。なのでダンジョンにそれほど行けません」
「そうか。難しいところだ」
「ええ。そっちはどうしていますか?」
「こっちは前衛が多い。だから、守りと攻撃に分け、守りが後衛らを守り、魔獣を止める。そこにアタック役の前衛と後衛が攻撃だ」
「確かに、それならマナ枯渇は少ないかもしれませんが、リスクはありますね。物理攻撃に強い魔獣には弱い」
「ああ、それは問題だ。10階の小型狼の群れは厳しい。1匹ずつではなく、魔法で一気に倒す事も重要になる場面がありそうだ」
「ええ、十数匹になります。奴らはスピードもあるので、一気に行く必要もあります」
「そうか。それはきついな」
「実践戦闘研究会では魔術詠唱研究会と協力して魔法を使えるのでは?」
「ああ、そのおかげで、10階でもいける。だがマナは少ない者も多い。前衛だからな」
「はあ、そうなると魔術詠唱研究会と協力したいですね」
「ああ、そうだな」
ヨンダルは辺りを見回す。
「そうなると魔術詠唱研究会の協力も欲しいですが」
「ああ、彼らは10名くらいしか来ていないよ。ただな、彼らの中には根っからの研究者タイプもいてな。そういうのは参加しないのも多い。すまないが許してやってくれ」
「いえ。最近、マルクのおかげで魔術詠唱研究会に魔法理論や新たな魔法を教えてもらえるようになったのですが、彼らは快く教えてくれますが、データを取られるみたいで。それを見て、根っからの研究者なのは皆知っています」
「ああ。そうか。マルクの理論は誰でも使えるからな。俺でも回復魔法が使えるのは助かる」
「ええ、前衛が自分で軽いものでも回復できれば、継戦が長くなります。これほど嫌な部隊はいないでしょう」
「よくわかっているな」
「ありがとうございます。そちらも戦闘については個人戦も集団戦も学んでいるようで」
「ああ、実践と名がついているからな。それに部長の方針だ。ただ強いのではなく、戦場で活躍できる強さを求めている。戦術から、個の強さ、魔法と幅広く学べる部だ」
「それはいいですね。私たちは役割を全うする強さを求めております」
「ああ、集団戦闘研究会の出身者は騎士学院でも、騎士でも活躍すると聞く」
「ええ、先輩方は優秀です。集団の中では。英雄にはなれませんが、いい騎士にはなれます」
「ああ、それも重要だ。どっちがではない。どちらもだな」
「ええ」
こうして話し合い。お互いの戦力を知ったり、戦術を学ぶ。集団戦闘研究会の戦術や考えは学ぶ所が多い。彼らとの合同訓練は面白いな。これからも続けたい。
「ヨンダル、これからも、合同の訓練を続けたいと思うがどうだ?」
「ああ、それはいい。俺は個はそれほどは強くない。実践戦闘研究会との訓練で集団の中の個の戦いを学びたい。戦場では個が圧倒的に不利な場面を覆すことがある。それをさせない研究もしたい。願ったり叶ったりだ」
「そうか。こっちも個じゃなく、集団の強さも身につけたい。戦争は集団だ。戦術だけでなく、実践の経験も積みたい。お互いにメリットがあるな」
「ああ、これからも頼む」
「ああ」
そして、だいたいのチーム分けをした。俺はエメリーと集団戦闘研究会のメンバーから前衛を2人、そして魔術詠唱研究会から魔術師1人を入れて、チームを組んだ。俺が斥候役をする。俺は魔獣の気配察知には優れている。
罠の見つけ方は集団戦闘研究会の者から学んだ。面白い話で、罠にはダンジョンの場合には、ダンジョンのエネルギーが残る。壁とかにある物と少し違うらしい。そこはダンジョンで教えてもらう。その僅かな違いを感じるらしい。
ダンジョン以外では、明らかに自然とは違う部分になっていたり、人間のマナを感じるらしい。人は誰しもマナが僅かに漏れ出ている。それが罠には付いている。だから人のマナを探すようだ。ただ、戦場ではこれが結構難しい。人がそこらにいるから。罠をかける際もその辺をうまく感じさせないようにするといいって。学びになる。
そして、ダンジョンに入る。まずは、斥候部隊による罠の探し方を実践戦闘研究会が学ぶ。アレスは知っているようだ。アレスも教官役だ。
ああ、これが違いか。僅かにマナが違う。悪意のようなものを感じる。ダンジョンの意思か?だとすると、ダンジョンって生きているのだろうか?
「わかるよ。これってなんだか意思みたいなものだね」
「え?」
「みんなはそう感じない?」
「ああ、なんというか、マナの種類の差にしかね」
「ああ、そうだな」
「うーん、なんていうか、悪意のあるマナってこんな感じじゃない。よく殺気を向けてくるやつがこんなマナをぶつけてくるよ」
「???」
「みんなはそんな経験はない?」
「ないな」
「そうか。小さい頃から多かったからだね。でもそうなると、ダンジョンって生き物みたいだね」
「!?」
「違うよね。ごめん。変なことを言ったよ」
「マルクが言うと、違うって言い切れないわ。実際、ありえないってことを覆してきたから」
「ああ、マルクだと、そうかもって思ってしまいます」
と、みんなを混乱させてしまった。
そんな感じで、罠を学び、各パーティで入ってみる。俺らのパーティーはかなりいい感じに進み、2階を軽々と進み、3階に入ったところで、戻った。前衛の2人はスムーズに相手を止め、後衛の2人は魔法と弓で攻撃する。魔術詠唱研究会のザックスは弓を得意にするもので、魔法を学びたいと魔術詠唱研究会に入ったものだ。
かなり弓はいい。そのおかげもあり、魔法と弓とバランスもいい。そこにエミリーがいるので、このパーティはかなりできる。前衛に2人もそこそこできる。これなら8階くらいはいけるんじゃないかと思う。俺も2階までは罠も、魔獣の発見も余裕があった。
「マルク、もう罠の発見は完璧ね」
「ここまではね。エミリーもできるんでしょう?」
「ええ、最初は父が狩人だから斥候も勉強したの。でも魔法もできるし、斥候より後衛に来たわ」
「そうなんだね。まあ、じゃあ安心だね」
「ええ、魔獣の探知は得意よ。でもマルクの方が早くて、正確ね。本当にマルクは万能ね」
「ああ、集団戦闘研究会の斥候でもここまで、魔獣の探知に優れた者はいないよ。マルクは万能すぎて、すごいな。一人でダンジョンをクリアできるよ」
「ええ、そうですね」
最後の彼女は女性だが前衛を務め、騎士学院を目指す子だ。女性の騎士なんてかっこいいな。
「マルク副部長はこれで呪文研究の第1人者でもあります。しかもあの理論を作った本人です。まさに新英雄です」
ザックスが褒める。結構、魔術詠唱研究会では俺とルーナの信者が多い。同期も1年生も。最近はあんまり部活に出れてないけど。元々、基本が自由な部活だから許される。
そしてダンジョンから部室に戻ると、皆がいた。皆、2階をほぼ制覇したらしい。
「やあ、お疲れ。みんなは二階を制覇したんだね」
「ああ、そこまではスムーズにできた」
「ええ、集団戦闘研究会は優秀だわ。戦い方がうまいのよ」
「実践戦闘研究会は強いな。去年の学院祭の武闘会でも思ったが、実際に仲間になったら、リオル先輩らはいいアタッカーにも、前衛にもなれる。強い」
「ああ、これならかなり進めるな。8階は固い。あとはチーム次第か」
「そうだろうな」
と実践戦闘研究会から、集団戦闘研究会から、それぞれを褒め合う言葉が出てくる。
「どうだろう。早めに明日から篭るのは?」
「ああ、それもいいね、でも、みんな大丈夫かな?」
「「「「「大丈夫」」」」
「そうか、ならそうしよう」
と明日の話をして、今日は終わった。




