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休日の部活 その道は険しい

3日後


今日は授業はない。俺は訓練をして、学院に向かう。朝から部活動をする。今日はゼルも一緒に行く。ゼルは講師として来てくれる。


「はい。皆さん、今日は講師に俺の師匠でもある方が来てくれます。王国の伝説にもなっているようです。ゼル・ドンナルナさんです」


「はい。マルク様にご紹介を受けました。ゼルでございます。老体ですが、皆様に武術を教えます。武器は槍術を基本にしますが、武術の基礎は一通り納めました。私は基礎と戦い方の基本、洞察を教えます。なお、マルク様はゼル・ドンナルナとご紹介なされましたが、ドンナルナの家名は捨てた身でございます。どうぞゼルもしくはゼルさんとお呼びください」


「「「「「はい。ゼルさん」」」」」

「では、今日はよろしくお願いします」


そうして、ゼルの指導が始まった。ゼルは素振りを見て、シグルソン教官と同じ事を言う。それでいて、実際にやってみせる。より丁寧だが、見てもできるもんじゃない。ゼルはそれに合わせて、真似をして、自分の型を作っていくことを説いた。シグルソン教官のやり方が合うか、ゼルのやり方が合うかの話だ。


そうして、休憩に入る。ケビンが来た。

「すみません。ゼルさん、槍の基礎を教えてください」

「ああ、貴方がケビン様ですか」


「はい。様は要りません。平民です」

「そうですか。ケビンさん。この老骨でよければいいですよ」

「ありがとうございます」


「ただ、正しい型はできています。それを上手く繋げないことに問題がある。そうマルク様やシグルソンに言われませんでしたか?」

「はい。特に右腕の使い方を」


「ええ、つなぎが悪いので、最後の右腕がまるで使えてません。それと右腕の握りがダメです。無理矢理綺麗にしているのに、握りのタイミングも最悪と来て、力を逃しています。ただ、それは誰しもが通る道です。マルク様もそうですし、英雄ラルク様もです」


「そうなんですか」

「ええ、ですから、マルク様は足の踏み込みを毎日千回を最初はやりました。槍を持たずに。それこそ、私やラルク様と違いスキルのないマルク様はそこから、誰よりも訓練なされたのです。やりますか?やれますか?」


「はい。槍術家になりたいのです」

「わかりました。ただ、何故そこまで?」


「はい。父上が槍術家でした。ですが、唯一の子供の私には武術のスキルはなく。父上の道場は潰れました。ですから、いつか父上の道場の名前で、道場を建て直したいのです」


「そうですか、ちなみにお父様の名前は?」

「ゲイル・レベンスです」

「ゲイル・レベンスですか」


「知ってらっしゃるのですか?」

「ええ、弟弟子になります。同じ師匠に師事しました」

「そうですか」

「ええ」

ゼルの顔が懐かしいような、なんだか悔しいような顔だ。


「わかりました。では、今日の講義のあとに、足さばきから、槍の突き方を教えましょう。型は同じです。個人の感覚のみの違いですから教えられます」

「はい」

そして午後の講義が始まる。


「では、午後の活動です。戦術でも同じですが、戦いにおいて洞察は大事です。相手を知らないで勝てる戦いなどありえません。相手を知り、自分を知ることが戦いの基本、それなくては勝てません」


孫子と同じ言葉がこっちにもあるのだろう。


「戦場における自分とは何か、相手とは何かを教えます。まずは自分とは、それは自分のスキルや技量はもちろん、体調、いる場所も、仲間も自分に当たります」


ゼルの言葉に皆が『そうかぁ』と頷く。ゼルはさらに続ける。

「自分の技量やスキルをしっかり把握できて半人前、仲間を理解できて一人前。場所や今の自分の状態まで把握できて一流です。多くの者が自分を理解できずに戦い、死にます。自分とは戦場にいる今の自分です。平時に模擬戦をしている自分ではありません。ここをちゃんと理解しましょう」

「はい」


ああ、いい事を聞いた。そうか、その時、その時の自分(仲間も含む)がわかっていないといけない。そのためにいつも自分のスキルや技量と向き合う。


今の自分に何ができるか、そしてそれが戦場でどこまでできるかをその場で把握する。それで一流か。俺はまだダメだな。


「ついで、相手です。相手とは戦場にいる相手です。それは目の前の相手だけではない。軍師や将軍、自然、環境、戦況まで含みます。この部活では戦術を学んでいるそうですね。それは正解です。戦況に合わせて動けないものは戦いで死ぬ。


これは明確です。実際に大戦で多くの相手を理解できない者が死にました。そして、戦術を知らない、戦況の見えない指揮官のもとで多くの者が死なされました。この中には騎士・兵士になるもの、指揮官として領民の命を預かる者の両方がいるでしょう?」

「はい」


「そういった者はどちらも戦術を知り、戦況を理解した上で戦う必要があります。それなくして、勝ちはない。命を捨てるような物です。ですから、


戦術の先生はロドリス様ですかね。彼の方とは戦場で会いましたが、あの方に学びなさい。レオナ様もいい先生です。ハンニバル様の教えをよく学んでいる。そういった方から学びなさい。それが勝つ方法で、生き延びる方法です」


「では、実際に観察し、洞察する方法です。・・・・・」

そこからゼルの観察、洞察の方法が話されていく。皆は真面目に聞き漏らさないように聞いていく。俺はいつも言われている事でもある。だからもう一度、心に刻んでいく。


「はい。以上です。実際に試していきましょう。マルク様、事前に話したアレをします。マルク様とは訓練でしますが、洞察力をあげる訓練です。私は、皆さんが打ち込みの際に色々と仕掛けますので、避けてください」


いつも俺の打ち込みの際にはゼルは足をかけたり、棒を打ち込み先に出したりする。それを避けて打ち込むのは学院に入ってからやっている訓練だ。基本の素振り後に必ずする。


みんなは見事に打ち込み中の邪魔にハマる。俺も打ち込まれる指導役をやる。足をかけたり、水を撒いたり、嫌がらせだ。だが、これが観察力をあげる。


打ち込みという集中した状態でも周りを見えていることができないとかなり引っかかる。周辺視野というやつ。これをしっかりと感じることだ。これがかなり難しいんだ。最初はずっと引っかかっていた。


アレスの番、俺への打ち込み。俺は風魔法で横から棒をアレスぶつける。見事に当たり、打ち込みは外れた。アレス、もっと横にある棒も気をつけよう。


「く、横からいきなり棒が来るなんて、ずるいよマルク」

「ずるくない。最近、ゼルにやられてギリギリでしか避けれない一番難しいやつだ。ちゃんと味わえ」

「く。マルクめ」

「はい次」


今度はカリウス先輩だ。どうしよう。よし足元の石を直前で蹴り上げよう。


「痛え。くそ。その石を打ち込みの瞬間に蹴り上げるか?性格悪いぞ。マルク」

「これもよく、ゼルにされます。俺は文句も言わずに避けますよ」

「く」

「はい次」


今度はレオナ。強敵だ。レオナが一番うまい。さすが戦術家だ。よし、石飛礫をと

「痛い。右から。さっきカリウス先輩に当てたやつね」

「お、よく見えてる。でも見えていたなら避けないと」

「それを使うとは思わないもの」

「それを戦術家が言う?」

「う」

「はい次」


「マルク様、いやらしい顔になっています」

「ゼルにされる嫌な手を他の誰かにできると思うと」

「先輩、性格が悪い」


「ははは。冗談だよ」

「いいや、マルクは冗談じゃないよ。絶対」


「一年生には優しくしているよ。二、三年生はこれくらいしないと訓練にならないよ」

「そうかあ」


「ああ、最近の俺の訓練はゼルが魔法を覚えたからもっと悪辣だよ」

「ほう、師匠に言いますね」

「いや、ゼル」


「じゃあ、マルク様に見本を見せてもらいましょう」

しょうがなく構える。


「うわ」

「さあ」

「くそ。ああ」

まずは木が来て、それを避けて撃ち込みをしようとした。そこに石が来て、避けたところで、水が足元にある。上手くそれを避けて踏み込む。そして突く。よし打ち込んだ。


「はあ、難易度高すぎない?」

「いえ、これくらいは、先程の言ならば」


「すげえ。どうやって木を避けたんですか?視覚の外でしたよね?」

「ああ、それは最初に確認していて、気配を感じたから避けたんだ」


「これが、観察力を極めた人の言葉です。最初に全てを把握し、気配で確認する。そうすれば状況も環境も全て見なくてもいい」


ゼルは罠に使った物をを指差しながら言った後に、さらに続ける。

「すると、私の動きもわかりますから、石も水魔法も見抜ける。これが相手を知ること、目に見えるものはもちろん、周りにあるもの全てを把握する。強いものほどこれはできる。だから不意打ちは聞きません。理解できましたか?」

「「「「はい」」」」


「だから、ほい」

「おい」

「また避けられました」

「いや、不意打ち過ぎないかな。ゼル。まあスピードは抑えてあったから避けられたけどね」


「と、私の不意打ちがスピードを抑えていることも理解できる。ここの状況を完全に捉えること、これが相手を知るです。武術師範の中には寝てる時も不意打ちをする事を訓練と称するものがいますが、まさにこの訓練です。まあ、あそこまでしなくてもいいです。アレはパフォーマンスです」

「「「「そうなんですか」」」」


「だろうね。あんなん出来ない。する気が起きない。寝てもいられないんじゃ。訓練に支障が出る。まあ、殺気出されれば、いくらんでも、それを感じて起きそうだけど」

「そうでしょうね。殺気まで出せば気づきます」

「「「おう」」」


と講義はさっきのに戻る。どんどん進む。二、三年生は避け始めたな。一年生も軽いのは避ける者がいる。ケビンだ。気配の察知にセンスがある。いつかはものになるだろうな。とここで終わる。

「はい、ここまで」

「今日はここで終わるから、みんな片付けて。片付けが終わったら、残る人は残って訓練をしていいよ」

「「「「「はい」」」」

みんなで片付けをして、その後はみんな残って教えてもらったことを復習している。


ゼルはケビンについている。

「では、ケビンさん、まずは踏み込みです。しっかりと、ゆっくりとやってください」

「はい」


「ええ、いいです。基本はできています。次は右腕を踏み込んだ状態からやります」

「はい」


「ええ、形はいい。ですが、握る瞬間が悪い。ここはゲイルには教わらなかったですか?」

「自分で感覚を掴めと」

「はあぁあ、ゲイルらしい感覚的な教えです。ゲイルは本当に天才肌なんですよね。才能も技術もいいんですが」

「そうなんですか」

「ええ。握る瞬間は、槍に力が最大に伝る瞬間です。それは地を踏みしめた後で、重心が一番前に来る瞬間、地の力を前に伝える瞬間です。その時に槍が遅れて前に来ます。その瞬間に強く握ります」

「はい」


ケビンがゼルの教え通りにしてみる。

「そうです。それでいい。まずはここを訓練しましょう」

「はい」

そして教え通りに何回もしていく。俺もこんな感じだった。俺の場合はいい師匠のおかげで全てはちゃんと習えた。ケビンは父親を亡くして、そこをちゃんと学べなかったのか。俺はいい環境だったな。恵まれている環境に胡座をかいたら、俺はダメだ。頑張ろう。


「ええ、良くなりました。では、一つ、一つの動作をやっていきます。まずは踏み込みから。・・・次は踏み込んだ状態から槍を突く。ええ。それでいい。これをセットで100回してください」

「はい」

俺も横でもう一度、素振りを始める。時々、ゼルがかまして来るから避ける。


これを続ける。なんだか視線を感じるが問題はない。気配は何も感じない。うん?何か来る。石?あ、アレスらがケビンに影響ない範囲で素振り中の俺にやり返して来た。素振りの型は崩しちゃいけない。くそ、何度もやりやがって。


「はあ」

「ケビンさん、いいですね。まずはこれを毎日続けてください。少しずつできる数を増やし、500回はできるというところまで。完全に体に染み付いたら次に進みます」

「はい」


「はあ、終わった。アレス達は何をしているのかな?」

「いやあ、マルク、ゼルさんの指示だよ」

「ええ、私の攻撃には避けられるようなので、アレス様らも増やしました。良く避けて素振りを続けました。ちゃんと形が崩れないことが素晴らしい」

「ゼル、ハードすぎる」

「ふふ。最近のマルク様の場合にはこれくらいの枷じゃないと訓練にならないのです」


そして、居残りも終わり、ゼルは先に帰った。俺は少し、片付けをして部室で皆と話す。

「しかし、マルクの訓練はすごいな」

「ああ、あの数の素振りをしながら、あれだけ邪魔をされても揺るがないとか」

「あれは、訓練の鬼ね。ゼル様は怖いわ」


「怖くないよ。ただ、訓練では厳しいけど。まあ厳しくしてくれって頼んだのが俺だから、優しいかな。それにあのくらいは優しい方だよ」

「そりゃ強いわ。あれを優しいって」

「でも、俺には優しかったです」


「ああ、ケビンはまだ最初だからね。俺も最初は、あれ?最初から厳しいな。踏み込みは1000回スタートだったよ」

「はは。1000回」

「ああ、呆れるわ」


「ええ、7歳で1000回も踏み込みを飽きずにできるって」

「ああ、7歳から」

「まあ、必死だったんだ。何もなかったから」


「そうか、俺より、その時のマルク先輩は何もなかったんですね」

「ああ、その通り。よくわからないスキルしかないから、俺がどうにかするには人の数倍じゃ足りないと思ったんだ。だから、騎士より訓練しているって言われて嬉しいとさえ思ったよ。勝ちたい人より訓練すれば近づけるかもって」


「そうか、だからマルクは訓練バカに」

「おい」

「ははは」

「ルーイ、笑いすぎ。ルーイはいつの笑いすぎ」

そんな話をして、笑い。今日は終わった。家路に着く。家に帰って、ゼルと今日の訓練の反省と来週の内容を話して、夕食を食べて、寝た。


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