完成と祝福
マルクの挑戦の大詰めです。
翌日
朝の訓練だ。今日は父上もいる。父上は休みだ。
今日も踏み込み500回、突き1000回からスタートだ。父上にここまでの訓練の成果を見せる。よし、完璧だ。
「今日もいいですね。明日も良ければ明後日から次の切り上げを訓練に加えましょう」
「よし、明日も頑張ります」
「ええ。いい返事です。マルク様。期待しております」
「うむ。マルクよ。よく頑張っている。父も誇らしいぞ」
「ありがとうございます。父上」
こうして朝の訓練が終わり、昼の訓練だ。今日は姉上は学院が休みのため、朝から家にいる。
昼御飯は皆で食事だ。
「マルク、ラルクに訓練見てもらったんでしょう?どうだったの」
「はい、母上。成果を見せられたと思います」
「そう、午後の訓練は久しぶりに母さんも付き合えるわ」
「ありがとうございます。母上。今日は姉上に魔法を見せてもらって実験をしようと思っています」
「実験をするの?」
「はい、母上。魔法が何かを理解できたので、それがあっているか?それを試します」
「ふむ、マルク。それを話せるか?それと俺も見て良いか?」
「はい父上。ゼルも見にきてくれ」
「はい、マルク様。」
「そうか、マルクよ。今、説明してくれないか?」
「はい、まず魔法とは自分のマナを介在させ、自然のマナ同士をくっつけたり、離したりする行為です。どう離し、どうくっつけるかで魔法の種類が異なると考えました。そしてそのマナの結合で出来た魔法を操作するのことで相手にぶつけるものです」
「ふむ、自分のマナを呼び水に外部のマナを操作するということか?トルネストの理論か?」
「そうね。トルネストの理論のうち、マナの変容ではなくマナ同士の結合という風に考えたのね。じゃあ詠唱は?」
「はい。母上。詠唱はマナの結合における法則についての式です。つまり、ウォーターボールならば『水よ』の部分で水になるような結合を、『集え』の部分でそれを複数作り、集める。そして『ウォーターボール』で集めた水を玉にするのだと思います」
「ふむ、理論としてわかりやすい。そうである気もするな」
「でも、無詠唱は?」
「無詠唱は式をなくしてイメージで作るのだと思います。暗算のようなものでしょうか?」
「!?それは。そうね。そうなら全て説明ができるわね」
「ええ。後、魔法スキルですが、これはトルネストの理論と反対で、詠唱を使え、詠唱の言葉の意味を感じ、魔法で起きることのイメージを体得できるようになる。そしてその詠唱という式と魔法発動という答えの組み合わせを感覚で覚えられるという物なのだと思います。何が起きているか、どうして起きるかは無視して、詠唱で何が起きるかを理解するスキル、又は、詠唱を発音できるスキルだということです。姉上や母上が無詠唱スキルで魔法を撃っているというのは暗記したものを反射的に使って魔法を撃っているんだと考えました」
「ちょっと待て、スキルがそうだとしたら、詠唱を無視し、マナの結合方式を把握した上でマナの結合を引き起こせば、スキルなしでも魔法が使えることになる。そうだな。マルク」
「はい、父上。そうです。ただし理論上となります。マナを感じ、マナの結合を作り出し、それを覚え、反復することができて初めて魔法が使えるのです。そもそもマナを見える力、自然のマナを感じられる力と操作できる力がないと魔法は使えません」
「そうか。確かにマナを感じることも、マナを操作できることもスキルなしでは普通使えないな」
「ラルク様、でも、もしマルク様がその方法を確立すれば、誰でも使えるようになります」
「うん、ずっと先の話だけど、魔法の理論を作ろうと思う。マナの感じ方と操作方法、そしてマナを結合させる呪文を作る気だよ。それが出来れば誰でも使えると思う」
「呪文?」
「そう、エルカ姉様。呪文は今の詠唱とは異なるものと考えている」
「詠唱に変わるもの?」
「そう」
「マルク様、それは」
「ラルク、古代文字じゃないかしら?」
「あぁ。そうだろう」
「古代文字とはなんですか?」
「ふむ。王国と獣人族国家には古代遺跡があるのだ。王国と獣人国の国境付近にな。王国の設立時に、そこに今の時代とは異なる文字が見つかった。それの研究を王国がずっとしている。かなり解析が進んでな。魔法が古代にもあったことがわかった。だが、最近、聖国が何故かそのことを問題視してきてな」
「最近の会議はそれだったのですか?」
「あぁ」
「もしかしたら、古代文字が魔法の呪文になる?」
「ああ、私もリネアもゼルも、今、そう思ったんだ。それに古代文字の一部に種類の異なる文字がある。研究者はそれを魔法文字といい、魔法の詠唱の言葉と似ていると言っているのだ」
あれっ?呪文の問題も解決する?
「だが、まだ中身は秘密だ。マルクが見れるものじゃないぞ」
「そうですよね」
「がっかりするな。いずれ王立学院ぐらいまでなら閲覧できるようになる」
「本当ですか?」
「ああ」
これは学院に行かなきゃ。勉強も頑張ろう。
ただ、そのためにはスキル『飲み込む』をどうにかしなくちゃ。これはまだ研究が進んでいない。マナを飲み込むことで体やマナの強化はできているけど、そもそもこのスキルの全容はまだ把握できていない。
まぁとりあえず、今日は魔法だ。これを完璧に解き明かし、習得へ向けた第一歩を踏み出そう。
そして訓練場だ。
兄上以外、家族皆が揃っている。兄上は今日も騎士宿舎だ。休日くらい帰って来ればいいのに。俺の理論が本当ならば国民皆が使える。ここにいるみんなは、今までの全てが覆る可能性に気づいているし、この国にとってどれほどの恩恵があるかキリがないのもわかっている。
「始めてもいいですか?」
「ああ、マルク、始めなさい」
「メル姉、的に短縮詠唱で火魔法を撃ってみてください。そのあとトーチの魔法もお願いします」
「わかったよ。じゃ行くね」
『火よ。ファイアーボール』
わかりやすく短縮詠唱してくれる。無詠唱できるのだが。
ファイアーボールは的に向かって出た。俺は魔法そのものにしか興味がないので、的に当たったか見てなかった。でもエルカ姉様が水魔法をすぐに出してたから、多分的に当たって燃えているのだろう。
俺はメル姉がファイアーボールを打つ瞬間をよく見ていた。メル姉のマナは手のひらに集まると、それに付随するように違うマナが集まりそれが纏まるような感じだ。俺は一瞬、自分の理論があっていることに息を呑み、大きく呼吸をした。
そしてそのマナが集まったものが火に変わって飛んで行ったように見えた。ほぼ正解だろう。きっと上手く行く。
今度はトーチだ。
「姉上、短縮詠唱ではなく、ゆっくりと詠唱をした上でトーチの魔法を使ってみてください」
「わかったわ。マル君」
『マナよ、火となり、皆を照らせ、トーチ』
ゆっくりとマナを練り、出されたトーチ。
この瞬間、マナはメル姉の手に集まった後で、今度はそれに付随したマナが集まるとゆっくりと周囲のマナをまとめて行く。そのまとまり方、結合の仕方を注目して見た。そしてそれは詠唱に合わせてだった。『マナよ』で周囲のマナが数個ずつ集まり、『火となり』で、マナ同士が結合して火となった。そして『皆を照らせ』で結合したマナが纏まり、火が強くなる。『トーチ』でマナは強く結びつき、明かりとして存在がはっきりした。それに火がつく瞬間のマナのくっつき方が何となく感じた。イメージできればいける。
「よし、成功です」
「ええ、そうね。今まで見てもなかったけど、注意してみると、マルクの言う通りだったわ。」
「ん、マルク、よくやった」
「うむ、そう見えたな」
「ありがとう。メル姉」
「どういたしまして。実際に自分でやって、マル君の言うように感じたわ」
「そう?」
「うん」
メル姉とハイタッチ。手が痛い。
「次はマルクが出来れば完璧だな」
「はい、父上。今度はトーチを、私が試してみます」
「うむ。頑張るんだぞ」
「はい」
「マルク、頑張ってね」
「マル君ならできるよ」
「ん、マルクは私の弟、できるに決まってる」
「マルク様、自分を信じてください」
皆の励ましで力が湧いた。よし、やってやる。
手に体内のマナを集める。そしてマナを呼び水に周囲のマナを集める。よしここまではいい。そしてマナを火に。
あぁ失敗した。火にできない。火にする方法はわかるのに。なんとなくだが結合方法はわかるのに。
「一度失敗したくらいどうってことないです、マルク様なら絶対できます」
ゼルの期待が胸にくる。応えたい。皆の期待に。心配をかけた皆を安心させたい。
もう一度行う。手に体内のマナを集める。そして集めたマナを呼び水に周囲のマナを集めて、次はそれを結合させて火に。火は気体が燃える。マナは可燃性ガスだ。マナを燃やせ。
よしイメージできた。火になった。
そして火を強めながらまとめる。よし。
トーチの魔法をイメージして。
『トーチ』
できた。掌で火が永続的について、周りを照らす灯となった。やっとここまで来た。半年近くかかったが、やっと魔法を使えた。
「マルク、よくやったわ」
「マル君」
「ん。マルク偉い」
「マルクよ、よくやった」
「マルク様素晴らしい」
皆が褒めてくれる。本当に嬉しい。期待に応えられた。
トーチは火魔法の最も簡単な魔法だ。他の人にはわからない感覚だろう。
魔法スキルがあればすぐできるけど、魔法とは何かから始めて、少しづつ少しづつ前進して、時に後退もして、ここまで来た。最初の一歩に苦労した。スキルはなんで俺の元に来なかったのかと思ったこともある。でも、俺は諦めない。絶対にここから英雄伝を作る。
設定話はここまでかなと。ここからは徐々に強くなるマルク君を楽しんでください。




