貴族という闇と業
数ヶ月後
三年生の卒業式だ。サリー先輩は卒業式まで見なかった。サリー先輩は魔法学院に受かったらしい。今日はいらっしゃるのだろうか。今日も訓練して、卒業式のスタッフとしていく。一年生は卒業式に参加しないでスタッフとなる。これが学院のルールだ。
俺は式場付近の誘導だ。卒業生のご家族を式場に誘導する係だ。
学院に入り、スタッフの腕章をつけ、式場に行く。
「レオナ」
「マルク、おはよう」
「おはよう」
「サリー先輩は見た?」
「ええ。さっき見たわ。でもなんだか」
「えっ?」
「ううん何でもない。式場の係よね?」
「ああ」
「じゃあ、後で見るわ」
「そうか。じゃあ、帰りにミリア先輩らと共に花束を渡そう」
「ええ」
俺は式場に行く。
「どうぞ、ご家族も皆さまはこちらです」
「やあ、マルク殿」
「コーネリアス様、どうぞこちらに。この度はカークス様のご卒業おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。あのバカでも卒業できてよかったよ」
「どうぞ。お入りください」
「ああ」
反応しにくい話題だ。
どんどんとご家族が入ってくる。そしてご家族が入り終わると、今度は二年生だ。リオル先輩に、クリス先輩ら。どんどんと入ってくる。カリウス先輩はまたいない。
そして二年生が入り終わると今度は卒業生が入ってくる。ミリア先輩とリック先輩、マイル先輩だ。ちなみにリック先輩とミリア先輩は付き合いだした。婚約したようだ。
リニエ家は商家から成り上がり、対するリック先輩のメンリル家は騎士の一族で、準貴族(爵位のない騎士)だからすんなり行ったらしい。
あっサリー先輩。目があったが逸らされた。
そこから、卒業式はすんなり終わり、ミリア先輩が答辞、ライル様が送辞だった。どっちもいいスピーチで。二人とも仲はいい。心のこもった祝辞に、心のこもった答辞だった。役得で聞けた。っていっても一年生も多くは係の仕事が終わり、聞きに来ていた。
式も終わり、俺はご家族が皆出ていかれるのを見送り、係の仕事は終わった。その後にサリー先輩を探す。他の先輩は部室に来てくれる予定だからだ。
探していると声が聞こえる。ミリア先輩だ。
「サリー、せっかくマルクが卒業のお祝いを用意してくれているのに、来ないの?」
「うるさい。それどころじゃないの」
「何があったの?」
「カリウスがいなくなったの」
「カリウスが」
「ええ、成り上がりのあなたにはわからないと思うけど、貴族は大変なの。それで・・」
「サリー先輩」
「マルク、来ないで」
「サリー」
「もう貴方達に関わったせいで。こうなったの。私たちはね。聖国から貴方を監視するように言われていたの?」
「えっ?」
「カリウスは講義で、私は部活で。そうよ。私は貴族派よ。だってしょうがないじゃない。うちの領は貧しいの。支援してくれるのは貴族派よ。それを潰したせいでうちの領地はうまくいかないし、カリウスはいなくなるし、どうなるのよ。私は?」
「そんな、ガルド様に」
「やめて。貴方に同情なんてされたくない。貴方を監視していたのに、その対象から同情なんて」
「貴方が来なければ」
「そんな」
「もういいでしょ?」
「はい」
「行くわ。じゃあね。ミリア。貴方が羨ましかった、でも友達だったわ。唯一の」
「サリー」
サリー先輩はそう一言を残し、去っていった。
俺は、どうすればよかったんだ?ミリア先輩が手を握ってくれる。
「ミリア先輩」
「マルクのせいじゃない。悪いのは聖国よ。あいつらは」
「はい」
俺はいつも誰かを不幸にしているのかな。知らずに。
そのあとは皆に悟られぬように明るく振る舞い、リック先輩とマイル先輩とミリア先輩の卒業を祝った。
みんなが出て行ったあと、
「マルク、何があったんだ?」
「アレス」
「何かあったんだろう。サリー先輩か?」
「リオル先輩」
「姉貴のあの雰囲気は何かある。あっちはリックさんがどうにかするだろう。お前は」
「実は、カリウス先輩とサリー先輩が俺を見張るように言われていて。俺が父上と共に貴族派を潰したから、二人は・・・・・。カリウス先輩は行方不明らしいです。俺は知らずになんて事を」
「違う。マルク」
「ヨークス。俺は君のお父さんも」
「違う。それは違う。あれは父上が悪い。自分のプライドに縋ったからだ。今ならわかる。貴族だから偉いんじゃない。貴族として何をしたかだ」
「ヨークス」
「マルク、ドンナルナ家に生まれることは凄いプレッシャーなんだ。実はルドルフもいなくなった」
「えっ?」
「あいつも貴族派に唆されたようだ。貴族はね、時に凄いプレッシャーに晒される。それはもう大変だ。特に領地持ちや名門はね。それに耐え、領地を自分でよくできないとダメなんだ。自分を強く持たないといけないんだ。そうじゃないと、やっていけない。それを間違えた者が悪い。そういう世界なんだ」
「そんな」
「カリウスの事は心配さ。ルドルフもね。でもドライかもしれないがそうなんだよ。そうでもしないと国は、領地は守れないんだ。マルクはまだ知らないかもしれないけどそうなんだ」
「そうですか」
「ああ、信じよう。カリウスを。あいつは戻ってくる。いいやつで、強いやつでだ。きっと何か重要な事をしているんだ」
「そうだ。マルク」
「マーク」
「ああ、お前は間違えるな。折れるな。マルクは俺らの希望だ」
「ルーイ」
「そうだな。きっとカリウスは大丈夫だ」
「リオル先輩」
「姉貴は俺もどうにかする。リックさんとな。義兄上になるしな」
いい人に支えられている。負けるな。マルク・ドンナルナ。俺は困難を乗り越えて来た。マイル先輩の言葉を思い出そう。ダメになりそうな時は俺を信じてくれる仲間を信じるんだ。みんなとならどうにかできる。
俺は家路に着いた。
「ただいま、戻りました」
「どうしたの、元気ないわね?何かあったのかしら?」
「どうした?」
「母上、父上」
「なんだ?」
「実は・・・・・・・」
さっきも事を話した。カリウス先輩の事、サリー先輩の事について、俺が知らずにしている事。それらを父上と母上に。
「そうか。それはライルが正しい。マルク、よく知っておけ。貴族というのは闇が深い。だがそれは一部だ。多くの権利を有する代わりに多くの義務を背負うのが貴族だ。
だからこそ我らは多くの金をもらっている。子供が準貴族としているのもその義務を背負うのが大変だからだ。そしてお前は勲章をもらい、貴族に等しい立場になった。
それは光栄だが、同時に大変だ。そういう目で見られる。それは凄いプレッシャーにもなる。それに耐えれない者は貴族をやめる。又は今回のようになる。
だがな、それは一部だ。多くの貴族はそのプレッシャーを誇りに思い、暮らす。それは俺も、ガルドも、ルインも、そしてラインバッハ、つまり陛下もな。
それほど国を背負う事は楽じゃないが、素晴らしい事だ。だから、さっきのはライルは正しいが、今日感じたことも忘れるな。知らぬうちに人を、国民を不幸せにしないためにずっと前を向いて努力しろ。貴族たり得るのは本当に大変だ」
「はい」
「それとな、カリウスだったか?エルナンデスのは」
「はい」
「それなら大丈夫だ。少し前だが、彼がここに来た時があっただろう」
「はい」
「その時にな、彼から提案があってな。ガルドに会わせた。言えなくて、すまんな。国家上の秘密でな。もう大丈夫なところまで来たらしいから、今なら言える話だ」
「そうなんですか?でもサリー先輩は?」
「ああ、エルナンデスの娘か?そのものはこれから救う予定だ。実はな。内緒にしろ。エルナンデス家が貴族派に唆されたというのは聞いていた。だが、奴が来た時にな、さらに聞いてな。
どうやら父親がおかしくなったようだ。エルナンデス家はな、王国の影でもある。一般には王都に近い領地を持つ古くからある貴族というぐらいしか知らんだろうが、実は王国の情報諜報を担っている家だ。そのトップがおかしいというのは困る。
彼から聞いた話は数年前から急にエルナンデスの当主が金遣いが荒くなり、貧するようになった。そしてそれに合わせて貴族派の人間が会いにくるようになった。それからおかしいということだ。そしてマルクが入ってきたのを境にエルナンデス家は王国派側の貴族に色々としていたんだな。
であるが、問題はカルバインが消え、貴族派が弱くなったのにそれが終わらなかったことだ。だとすると、カルバイン以上の者が裏で操っている可能性がある。
しかも王国派側でな。それであいつは自分が調べるから大物、ガルドと繋ぎをというのだ。姉を救うにはそれしかないと。どうやら姉は父親にかなり洗脳されているようだ」
「そうですか?サリー先輩はミリア先輩を成り上がりと蔑むところがあり、気をつけていました」
「そうか。なら良い。今なら貴族派はどうにかできる。聖国と帝国の連中もな。もう怖くない。お前の理論のおかげだ」
「そうですか。また国内に血が流れるのですか?」
「ああ、だがお前のせいではない。だが、それに責任を感じるなら、強くなり、そういったことが起きないようにしろ。それが正解だ。お前がここで折れてもいい事はない」
「はい」
もう一度、覚悟を決めよう。もう王国内で血が流れる事はしない。そうならないようにする。
それが人生の目標だ。それがマルク・ドンナルナの生きる道だ。まずは強くなる。皆が納得する英雄になれるくらいに。俺のせいで悲しむ者が出ないくらいに
ここまでで3章は終了です。4章からは王立学院二、三年生編です。




