3日目② 出会いに感謝
こうして決勝は俺とアレスだ。
「アレス、勝負だ」
「ああ、負けないよ」
「く、マルクに勝てないか」
「しょうがない。硬化だろ?あいつはどんどん前に進む」
「だが俺は諦めない」
「わかってる。俺もだ」
ジュライ先輩とリオル先輩が話している。
さらに
「マーク大丈夫か?」
「ああ。ヨークスも」
「ああ」
「2人ともいい試合だったな」
「ああ、ルーイ」
「アレスとマルクか結局。俺らの、いや今年の最強か」
「ああ、来年はあそこに俺が入る」
「マーク、俺だ」
「いやいや、マーク、ヨークス、俺だろう。ルーイ様だろう」
3人は諦めないようだ。
そして始まる。俺対アレスの戦い。観客席は凄いものが見えると生徒も集まって来た。生徒の家族も先生方も固唾を飲む。そこら中から弾けんばかりの熱気が充満している。そんな中、俺とアレスが校庭の中央に来る。生徒会はこの一戦を実況するようだ。
「さあ、来ました。決勝戦です。この一戦は実況を行います。果たして実況できるか不安ですが、解説にシグルソン教官と観客席にいた伝説の槍術家ゼル様に来ていただきました。よろしくお願いします」
「ああ」
「ええ、よろしくお願いします」
「さあ、始まるようです。シグルソン教官は実践戦闘研究会で顧問をなされていますが、どちらが勝つと思いますか?」
「うむ。それは言わん。見ているものがつまらんだろう」
「そうですか。ではそれぞれの強さを」
「マルクは実に対応力が高い。多くの技術に支えられた多彩な技はどんな相手も厳しくさせる。対してアレスはまさにスピードと戦いの勘に天分の才がある。良さの異なる2人だ。試合の展開次第で勝負が決まる」
「そうですか。凄い試合になりそうです」
「ゼル様、どうでしょう。どこに期待すれば?」
「はい。アレス様がどう隙を作り出せるかが勝負です。マルク様の対応力は騎士の隊長でも崩すのは難しい。対応されれば餌食になります。ですから対応できないように隙を作り出せるかです」
「おおっと。これはまた的確な話が出ました。皆様、お二人の話を参考にこの試合をご覧ください。始まるようです」
俺とアレスの試合が始まる。というか実況を待っていた。2人で少し苦笑いだ。
構えると「始め」というトーラス先生の声が聞こえると、いきなり、アレスが物凄い加速とスピードで攻めて来た。そう来るのはわかっている。俺は最小限の動きで対応し、スピードについていった。思うのだが、アレスは最近、更に早くなった。完全に疾走は疾駆に変わったようだ。
これは一筋縄ではいかない。何度も左右前後に最速域で動いてくる。そう簡単に全てを対応はできない。しょうがなく、俺はその動きになれるまで、スキルを使って何度も受ける。
「おおっと、マルク選手、一方的に攻撃を受けている」
「いや、あれは対応するために、好機を待つために耐えているのだ」
「ええ、最近は硬化を使えるようになりましたから、さっきも使っていました」
「おっと、私の早とちりだったようです。常人にはわからないレベルの戦いだ。だが解説では、対応するために耐えるマルク選手と、対応される前に決めたいが為、隙を狙うアレス選手の物凄い戦いだ」
多分、アレスはまだ一段階あるな。もう少し速くなる。
「これはまだ、アレスも力を隠しているな」
「ああ」
「リオル先輩、そうですよね」
「ルーイ、これが最強決定戦だ。悔しいがここから学ぼう」
「はい」
俺は速くなるアレスに対応するため慣れたいが、それを許さないアレス。これは長期戦も考えよう。そう思っているところで剣で、く、足を狙って来た。うまい戦いだ。くそ、そこは考えてなかった。
だがそれなら、槍で地面を叩く。砕けた闘技場の地面の石が散らばる。それがアレスに当たる。石とアレスの剣が当たる音がする。そうか。勝ち方が見えてきた。砂を巻き散らかそう。リオル先輩みたいに。俺は足から風魔法をかける。弱く。
これでアレスが動くと砂埃や石の残骸が動く。まだ気づいてないみたいだ。自分の動きでできたと思ったんだろう。後は凝を使い、アレスを見る。
アレスの動きが見えてきた。そう確信したところで、また速くしたか。俺が追えるようになったのに気づいたか。この辺の勘が鋭いな。アレスはいいライバルだ。
「速い。とにかく速い。そうとしか言いようがありません」
実況がうるさい。まあそろそろだ。よしここだ、攻撃が来る。右からの剣の振り下ろしが来た。柄を合わせて、柄返しをしかけてやる。
よし軌道がずれた。懐が空いた、後はここに突きを入れる。
??
避けられた。あ、今度もまた右から来る。疾駆で床を踏みこみ、何とかアレスの左に潜り込んで剣を避けれた。俺とアレスは位置を交換したように、向き合う。
「おおっと、何が起きたのでしょう?」
「アレスが来たところを待ち構えていたマルクが槍を合わせ剣の軌道を変え、空いた懐に突きを放ったが、アレスが左に避けて、その勢いのまま斬りつけようとしたというところだ」
「アレス選手はどのように避けたのでしょう?」
「それはマルクに利するから言えん」
「ええ、それを明かせば、アレス様が不利でしょう」
「く、何が」
「マルク、今日こそ勝つ」
何があった。柄返しはできた。だけど見えた懐がなかった。
そうか教官の影残しか?しかしあれはシグルソン教官のスキル。しかも貴重なものだ。こんな短期間ではできないはず。もしやあの瞬間にスピードを上げて残像を見せた?そんなことができるのか?
もう一度試せそう。それも頭に入れて凝で見るしかない。また来た、右に避けて、今度は腕に叩き落としだ。まただ、また避けられた。だが、今度は見えた。やっぱり残像だ。忍者か!アレスはninjaになったようだ。これは辛いぞ。どこを軸にしているかを見分けないと対応できない。やばいな。
今度は真正面からだ。避けて反撃はしない。凝で見切る。
右足を踏み込んで、雷剣で胸を突きに来た。うわっ、危ない。だがなんとなくわかった。もう一回でわかる。
「おっと防戦一方のように見えます。マルク選手。これはどういうことでしょう?」
「ふん、もう少し実況するなら学べ。これはアレスが何をしているか見ている」
「ええ。そうですね。武闘オーラの凝でアレス様が何をしているか見ているようです」
「おい、そこまで言ったらマルクに不利だ」
「いいのです。少しくらいの不利を跳ね除ける強さを持っているのですから、それを磨かなくては」
「師匠は弟子を谷に落とすか」
「おっと、マルク選手の師匠であるゼル様がマルク選手に不利な解説でマルク選手に厳しい課題を与えたようです」
まあ、アレスならゼルの解説の内容くらい、言われる前からわかっているだろう。次で決めに来る。それを避けて、俺は避けて、対応してカウンターを決める。次が勝負だ。集中しろ。もっと、もっと。
「おっと、なんだかマルク選手が光っているように見えます」
「すごいな」
「ええ。凄い。ここまでの領域に」
「ええっと」
「ドンナルナ家の初代様がしたという、武闘オーラの先のスキルに近いだろう。俺も見たことはないからはっきりとは知らん」
「ええ、それを見たことあるのは数百年前の人だけです。ただ言い伝えにある姿に似ています」
俺は、体に硬化と疾駆と武闘オーラを纏わせる。全て載せる。更にアクセラレーションも。全部だ。今できる全部で避ける。
来た。槍を剣に這わせ、更に右腕の籠手で剣先を受ける。軽く右腕が腫れる。でも問題ない。軽い。わかった。ここだ、体の軸だけは動かない。残像は全て嘘ではない。右足の疾駆を使い、物凄い速さで半身から、そして体の向きを変えるように回転しているようだ。でもヘソ下の軸は動かせない。なら。ここだけを突く。
俺の突きは完璧にアレスにヒットした。アレスはそのまま吹っ飛び、場外で壁にあたり止まった。試合は俺の勝ちだった。アレスの強さ、体の使い方は学べるものが多い。でも、頭は使えるが、体はもう動かせない。
「勝者、マルク。誰か担架を」
「速く、二つの担架の用意をお願いします」
「おっと。勝者はマルク選手だ。しかし両者の戦いの爪痕はすごい。両者に担架が呼ばれる」
「ゼルが行ったから、アレスもマルクも大丈夫だろう。それにリネアとエルカも行った」
「そうです。聖女リネア様と聖天の天使エルカ様がいます」
「エルカ様、リネア様」
「大丈夫。アレス君、回復魔法をかけるわ。マルクはエルカがお願い」
「ん」
俺とアレスは2人して回復魔法をかけられて、何とか回復した。力を使いすぎた。
決勝後、1時間してからの表彰式だったが、俺もアレスもフラフラしながら表彰された。
「アレス、凄かったな」
「ああ、でも負けたよ。ヨークス」
「マルク、すごすぎる。最後のはアクセラレーションも使ったな」
「ああ、でもまだ使いきれない。よくあれを使いこなせるね。ルーイは」
「当たり前だ。俺のとっておきだ。俺が使いこなさなきゃダメだろ。それはマルクが言ったんだぞ。スキルの使い方がなってない。宝の持ち腐れってな」
「俺にはまだ宝の持ち腐れだよ」
「ああ、まだまだだな。俺もお前に負けないぞ」
「ああ」
「すごいな。一瞬、マルクが神に見えた」
「リオル先輩、言い過ぎです。少し光ったのはスキル満載にしたら、マナが漏れ出したんだです。それでマナを使いすぎました。まだスキルを完全に使いこなせない甘さです」
「そうか」
「アレス、あの技はすごいな。スピードで残像か」
「はい。バレましたか。ジュライ先輩」
「ああ、何とか最後にな。外からだからだ。ただ、どこが動いてないかは知らん」
「そこは教えられないです」
「「「「凄かったよ。マルク、アレス」」」」
「「ああ」」
部の皆で集まり健闘を称えあっていた。
アレスと目があった。
「マルク」
「アレス」
2人で握手した。そこに言葉は必要なかった。俺らにしかわからない。全力を出せた喜びと、最高のライバルと出会えた幸せがあった。
「男にしかわからない世界かな」
「そうですね。こういう時はたまに嫉妬します」
「ルーナも嫉妬するのね」
「はい。します」
レオナとルーナも何故か笑っていた。
こうして武闘会は終わった。
その後はみんなで色々と見て回った。俺とアレスはまあまあフラフラだ。なお、ラックス先輩だけはシグルソン教官の説教を長々と受けていた。
今日はこれで終わり。明日は後夜祭と片付けだ。その後は1週間の休み。




