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エルフの里を守った超ド級ゴーレム  作者: かものはし
第1章.エルフの里を守った超ド級ゴーレム 本編
4/53

4.エルフを狩る者達(グラード将軍)


「グラード将軍、ギル殿が参られます」。


 天幕(てんまく)幕越(まくご)しに伝令が幕舎(ばくしゃ)の中の私に()げる。


 「通せ」。


 張りつめた自分の声が響く。

 

 バンガルド公国の老将軍グラード・デル・バニウス。


 それが今回、このエルフ狩りに()り出された実行部隊の最高責任者たる私の名だった。


 今、エルフの隠れ里があると思われる一帯への計画的な魔弾による一斉射撃の弾幕は森をなぎ倒しながら進んでいた。


 バンガルド公国は歴史の転換点を迎えようとしていた。


 昔の事ならいざ知らず、今日、集落一つのエルフすべてを対象とした大規模なエルフ狩りを行おうというのだ。


 もちろん表立って出来ることでは無い。国際社会やエイン族やスレイ族を始めとするエルフの大部族らにばれたら、さすがに国を(かたむ)けかねない危険性と(とな)り合わせの行為だ。


 エルフの大部族は主に大森林地帯に国境の無い勢力圏を持ち、各種のエルフの古代魔法や古代魔法具で守られていた。それらを突き崩し切ることは人族も魔族もできなかった。


 さらにエルフは希少種族(きしょうしゅぞく)にもかかわらず、エルフにしか製造できない物品だったり、エルフにしか提供できない魔法を人族の世界に流通させた。


 自分達よりよくできたものや、自分達ではできないことを提供されたら、まず人はそれに乗る。便利だから。


 エルフの結界師達は主にエルフの大部族から派遣され、人族の各種の国や領地に魔獣除けの目くらましの結界や魔獣探知の結界らを張っていた。他の魔法も各種提供した。


 人間の魔導士ではできない、あるいは同じことをやっても劣ることを、易々(やすやす)と成し遂げる姿はまるで魔法の申し子のようだった。


 ついでにエルフは種族としてほとんどの者が見目麗(みめうるわ)しい。


 美しく(うるわ)しく可憐(かれん)でそれでいてどこかはかなげ、でも高貴感は(ただよ)わせている種族というのは、ある種の人達には庇護欲(ひごよく)をかき立てられるものらしい。


 同時に別のある種の人達には(ひず)んだ獲得欲も。


 あの魔法の申し子のような連中で大魔道部隊を結成し、大規模戦争で使用出来たらとか。


 あの魔法体質を解剖でも実験でも何でもして、何としても解き明かして自分達の(えき)にしたいとか。


 エルフの古代魔法を人族が再現するために様々な形で利用したいとか。


 新規大規模破壊魔法の開発のためのよき媒体として使用したいとか。


 愛玩動物のように愛でたいとか。


 意のままになる奴隷として欲しいとか。


 あの美しいものを汚し壊す喜びに浸りたいとか。 


 昔からそんな思いを抱くものはいた。


 それらを実行に移そうとした各種の話もある。


 昔は表立って行われたことは多々あったそうだ。

 

 でも、多くの場合でどうなったかというと・・・。


 エルフの大部族の結界師達をさらった国は二度とエルフからの(当たり前だが)結界師の派遣は無くなった。他のエルフの大種族にも話がいったのだろう。事実上、エルフからの提供物は何もかも一切無くなった。


 各種魔法の提供も無くなったし、エルフの作成する物品の提供も無くなった。

 

 それじゃあと別の国からエルフの制作した物品を輸入しようとしたらその国へのエルフからの物品の流通が減らされた。両国のエルフへの抗議は事実上請けいられなかった。


 そんな調子でじわじわ国が()からびていったというのがその国の(おちい)った状況だった。


 エルフの提供する各種魔獣除けの結界魔法はどの国が思っていたのより地域密着型で効果があった。でも数年、長くても十年持たずに効果が切れる(古代魔法は例外だが)。


 人の魔導士が同じようなことをしてもそんな大規模広範囲で出来なかったし、効果の持続性も無かった。またエルフレベルの「目くらまし」自体は再現できなかった。


 いざ、魔獣と戦うとなったら人族の魔導士の方に分があったが、それ以前での一般人やその地域に魔獣を()せ付けないという効果付与(ふよ)はエルフの方がはるかに勝っていた。


 そんな調子だったので、エルフの結界師の不在という一点だけですら、その国の魔獣除けの結界が機能しなくなった地域は魔獣が入り放題。


 で、人という名のエサもたっぷり得て繁殖(はんしょく)し放題。


 そして魔獣としての勢力圏を拡大。当然、それに対応し続けねばなければならないその国の国力は何だかんだで低下し続けた。


 エルフの各魔道具の流通が絶えたことも痛かった。すべての分野で(かげ)りが見え始めた。何もかもにじわじわ支障が広がり、まるでゆるやかな病のようにその国を犯し続けた。


  そんな国の周りを(かこ)んだ国々から見れば、落ち目の国なんてものはよいカモだ。


 様々な難癖(なんくせ)をつけられ続け、数十年後には切り取りされてその国は消えた。

 

 ならばと国が関与していない形でうまくやればと様々な小細工を駆使(くし)してエルフをさらったり、手に入れようとしたら、エルフ側から様々な証拠を突き付けてきてその国はやっぱり同じような日干(ひぼ)しの結果に・・・。


 どうもエルフの大種族は古代魔法や古代魔法具を複数駆使して探知とか証拠集めとかその他のこともかなりの精度で出来るらしい。


 また、原理はよくわからないが何らかの形で一定以上の効果がある同族への守りの加護の魔法(おそらく古代魔法か古代魔法具)を使用しているらしいという結論に(いた)った。


 ただこれも奇妙な特徴があって、エルフはその氏族ごと、また集落ごとで、加護が違うようだった。


 単にその集落にかけられている古代魔法、その氏族の持っている古代魔法具の違いだったかも知れないが、それだけでは説明がつかない何かがあるようだった。


 人族のエルフ狩り等の行為は、ほとんどの場合でメリットを得ようとしたら長い目でみたらデメリットの方があまりに高くつく結果に陥るので、エルフの大部族への干渉は減り続けた。


 今や大規模なエルフ狩りは行い難くなっていた。


 となると狙い目は古代魔法や古代魔法具で幾重にも守られてはいない小規模集落のエルフや単独行動中の背景の無いエルフ、あるいははぐれエルフ。


 こっちはこっちで難しかった。ただでさえ少数希少民族なのに、その上でこの条件を満たすエルフなどまず絶対数が少ないので見当たらない。


 輪をかけて厄介なのがエルフ特有の「目くらまし」の魔術。


 ほとんどの小規模集落でも最低限一つは「エルフの古代魔法の目くらまし」がかかっているのだ。


 例外は新規集落だけである。古代魔法はもう再現できないから。


 エルフの新しい集落は、今生きているエルフがかける目くらましやその他の魔術で守られてはいたが、魔法的な物量を投入すれば一応突破はできた。

 

 だがしかし、そんな集落はほとんど見つからなかった。


 この「目くらまし」特に「エルフの古代魔法の目くらまし」は本当にやっかいで「あるものを無い」と認識させられてしまう。


 意識あるものすべてがだ。


 それは徹底していて、時間や空間の認識まで狂わされてしまう。


 その上で「無い」というのが当たり前という結果に(おちい)れさせられてしまうのだ。


 未だにどういう原理なのか、どういう効能を実際には果たしているのかはわかり切ってはいない。


 魔獣用のエルフの目くらましでさえ、人も住んでいなければ、そもそもそこが無いと魔獣に認識させているらしく、しかも五感や空間感覚や時間間隔(かんかく)までいじられているようで、その認識阻害(にんしきそがい)の結果は芸術的ですらあった。


 エルフが少数希少種族であるにも関わらず、神秘の民とひそかに恐れられている面があるのも、このような人族では理解も再現もできない領域を担っているからであったろう。


 魔法的方法を筆頭におよそ考え着く限りのすべての手段が駆使(くし)されたが、エルフの古代魔法の目くらましに関しては一切破ることはできなかった。


 今回、一集落まるごとのエルフ狩りの可能性を打診してきたのは、何と魔族だった。


 魔族も様々な勢力がある。基本的には魔王と呼ばれる種族の頂点達がそれぞれ勢力圏を持っている。


 人族の様々な国の王族とは違うのは、弱肉強食の完全実力主義の殺し合いの果てに君臨した者達であり、代替わりとはまた新たな覇者が生まれることを意味した。


 世襲(せしゅう)による譲渡(じょうと)などは一切無い。


 ある意味では獣の()れのボス決めに近い世界であった。


 魔族もエルフと並んで不思議な種族だった。


 人型種族の中では単体では間違いなく一番強い。


 魔力も身体能力も文字通りの悪魔的知性も、そして我欲も。


 なのに出生率が異常に低く、まず人口という面で人族のネズミ算式の人口の増加によるマンパワーに押され続けた。


 大昔は魔道大戦とでもいうべき各勢力が血で血を洗う戦乱の時代があったが、それぞれの勢力の際限の無い不毛な(いくさ)()て、いつしか自然と住み分けができた。


 すなわち大陸ごとの住み分けである。


 何せ魔族、人口が何をどうやっても少ない。出生率も低い。


 名目上ならともかく、生存のための領域など本当は(せま)くて済む。


 今、魔族大陸であるゴドルガ大陸でも魔族の人口だけで考えればスカスカである。


 でも人族は決してゴドルガ大陸に足を踏み入れない。魔族が自分達の絶対領域と認識した大陸に足を踏み入れる者など、自殺願望の実行者でしかなかった。


 行こうとするだけで呪われる。()み込めば二度と戻って来ることは出来無い(ある意味事実)それが魔族大陸ゴドルガの姿だった。


 が、それだけではすまなかった。一番、話がややこしかったのがセルナ大陸である。


 この地はすべての大陸の中で一番大きかった。


 主にエルフの住まう大森林地帯もここにある。


 そしてセルナ大陸の西端の先には海を越えてゴドルガ大陸が位置していた。


 魔領の飛び地、セルナ大陸西端部、ガルナ平原。


 魔道大戦の果てに住み分けがなった地は、このセルナ大陸西端部ガルナ平原の東部に広がるジャスタ山脈地帯が境界線。西が魔領、東が人族その他種族の領域。


 ジャスタ山脈は魔領寄りの中立地帯。


 そもそもジャスタ山脈地帯もおよそ人族にふさわしい地では無かった。

 

 最強魔獣決定戦会場みたいな各種強力な魔獣達のテリトリーだったのである。


 こんな不毛の地になぜ?というくらいの強力な魔獣の覇権争いのトーナメント会場になっており、世の本では世界の不思議の一つに必ず書かれていた。


 魔領に近いから・・・と人族の社会では俗説で信じられているが、実際は魔力のレイラインが大きく関係しているらしく、しかも不思議なことにそのレイラインは魔族には、あまりよろしくない作用があるらしく、魔族自体もジャスタ山脈地帯をかなり忌避(きひ)していた。


 人族らは強力すぎる魔獣の被害から。魔族は体質に合わない魔力のあふれる地として。ジャスタ山脈地帯は自然のもたらした住み分けの境界となっていた。


 そしてそのガルナ平原には今、3人の魔王が君臨していた。


 これが時代によって4人になったり、2人になったりするのだが、今回、その内の一人の魔王の統べる魔領ゲルフギアから、バンガルド公国に裏から打診があった。


 集落一つ分のエルフ狩りの実施。


 魔族側からはその里の「エルフの目くらまし」の破り方と集落の推定位置の情報の提供を示唆(しさ)され。


 バンガルド公国からは人員、装備、実行、輸送、その他のすべてを提供することが求められた。もちろん隠密(おんみつ)の内に。


 将軍である自分の所まで話が来るまでに、公国の上の方ですでにこの話は受けることが決定していたので、持ち込まれた経緯を知ったのは事後のことだ。


 自分が最初から担当させてもらっていたら受けなかったかもしれないと思う。


 そもそもこの実働部隊の最高責任者に私が収められたのも、消去法だったのだろう。


 実戦経験もある重鎮。故国への忠誠度もある程度以上保障された身。老齢ゆえに宮殿から消えてもしばらくは怪しまれない立場。この国の暗部にも触れられる身分。


 そしていざという場合、トカゲのしっぽ切りにあっても国家が()らぐことは無い程度(ていど)の人材。


 まったくよくしたものだ。


 大体、こんな博打(ばくち)に手を出す要因はバンガルド公国自身の中途半端(ちゅうとはんぱ)さにあったのだろう。

 

 バンガルド公国は小国では無い。だが大国でも無かった。もとはさる王族の親戚が収めた公爵領だったが、使えるべき王族も国も亡びた。


 その動乱の時代にうまく立ち回って独立国家となり、その後、(まわ)りの国々がつぶし合う隙間(すきま)をぬって生き残り、つぶし合いで国力が低下した国々をここぞというタイミングで打って出て併合(へいごう)し続けた。


 それを行った当時の公爵は才能あふれた人であったと思う。天運にも恵まれていた。


 しかし、その拡大は大国と呼べる規模までは届かなかった。


 その後は堅実(けんじつ)と言えば堅実(けんじつ)に歴代の公国の公爵と幕僚(ばくりょう)の政治は推移(すいい)した。


 今の今まで生き残り続けたのだから。


 しかし、また時代はきな臭くなってきた。バンガルド公国周辺の大国らの動向は公国にとって危うさを秘めていた。


 バンガルド公国は立地が5国と接している。珍しい方だろう。ゆえに小競り合い程度の戦は日常茶飯事(にちじょうさはんじ)だったが、全体としてはうまく立ち回り続け、どこかに飲まれる前に他の国に助けを求め、その国が飲もうとしてきたら別の国に助けを求めを何だかんだで繰り返して、公軍自体は難しいとされる機動防御戦を見事に展開し続け、ここまで無事に生き残ってきた。


 また、周りを(かこ)む国々もバンガルド公国が自分の国のものになるならともかく、他国のものになるくらいなら独立国家バンガルド公国として存在してくれていた方が都合がよく、なおかつこの国が消えたら他の大国と直接国境を接することになり、その潜在的緊張は馬鹿(ばか)にならず、国境の小競り合いからすぐ大国同士の大戦に発展するよりは、いわばワンクッション置いた緩衝地帯(だんしょうちたい)として5国で共同保有しているようなものという認識を持たれて今に(いた)ってきた。


 しかし、昨今(さっこん)事情が変わってきた。


 5国以外の国々の影響で、パワーバランスが狂ってきたのである。


 時代は連合であった。


 前々からもっと(ゆる)やかな国々の連合はあった。しかし、ここ10年もしない間により強固な連合国家群が形成され始めた。


 バンガルド公国を囲んだ5国も3国と2国に分かれて、それぞれ他国との連合国家群の勢力権に入っていった。


 バンガルド公国は大きく言えば5国の真ん中から、2大勢力の仁義なき戦いの陣地の奪い合いの最前線に立たされることになったのである。


 ここ数年以内に国家の存亡を掲げた戦になる可能性はとても高かった。


 そして、バンガルド公国公爵にも歴代の家臣、幕僚(ばくりょう)たちにも隠れた一つの野望があった。


 5国に接しているということは、5国に打って出れるということでもある。

 

 その5国の中心にいるということでもある。


 まさに夢。野望の()ての誇大妄想(こだいもうそう)(まわ)りを取り(かこ)む5国をすべて併合(へいごう)し、中心地たるバンガルド公国を巨大国家の中心とした新生国家を樹立する。


 何かのコンプレックスの裏返しみたいな隠れた夢。見果(みは)てぬ夢。むしろその正体は見ない方がよい悪夢であろう夢にバンガルド公国の国家中枢は代々隠れて取りつかれていた。


 それはたった一度の過去の成功体験の拡大版の願望であったろう。


 皆、その正体には気が付ているはずなのに、取りつかれたかのような熱は冷めなかった。


 国が消えるかもしれないというこの時に、魔領からもたらされたこのエルフ狩りの話に結局バンガルド公国の国家中枢の面々は飛びついた。


 バンガルド公国という国は、もし同規模の国々と比べたら軍事開発への予算配分や人材配分は多分、最上位を誇るだろう。


 その辺はシビアな立地が影響して、魔道兵器開発や新型攻勢魔法の開発等に余念(よねん)が無かった。

 

 なにせ(あり)の群れのような大軍をそろえてとか、豊富な魔法兵器を湯水のごとく投入してという物量戦からは、かなり遠い位置にいる国だ。


 一魔道兵器の威力を高め、威力の高い新型攻勢魔法を開発し、しのぎを削って質を高めるしか手は無かった。


 今回、エルフをもし100人単位で手に入れることができたなら、この分野で大きく発展を()げる可能性はとても高かった。


 そもそも昔からエルフの目くらましの軍事利用も人族の各国家は視野に入れてきたが、魔獣除けの目くらましは提供してくれても、対人用の目くらましは決して提供してくれなかった。


 そもそも魔獣用の目くらましの専門家として派遣されたエルフの結界師は皆誰一人として、対人用の目くらましの張り方を知らなかった。その辺は徹底していた。


 張れなくても原理ぐらいはわかるだろうとそんなことも期待して昔はさらわれたりもしたが、結局、対人用の目くらましの再現や開発に成功した人族の国家は無い。


 一説には人族では張れないという説もあるが、推論(すいろん)余地(よち)を出ていない。


 今回のエルフ狩りにはありとあらゆることが期待されていた。


 対人用の目くらましをかけられるエルフが(つか)まるのではないか。


 いくつものエルフ特有の魔法が使えるエルフが捕まるのではないか。


 これだけのエルフを確保できれば、そして仲間がいれば、精神崩壊や衰弱死にすぐ至るエルフがごく少数で済むのではないか。


 いざという時は(裏から)エルフの提供という他国への外交カードとして使えるのではないか。


 その他山ほどの期待。


 狩られる立場のエルフ達はどう感じているのだろう?


 対人用の目くらましをかけられるエルフが(つか)まるのではないか。いくつものエルフ特有の魔法が使えるエルフが(つか)まるのではないか等々。すべて狩る側の人から見た物品の利用価値への期待でしかない。


 有名な話がある。昔の話だ。まだエルフ狩りが悪とはされていなかった時代だ。


 ある帝国の皇帝がエルフの少女達にいたく執着(しゅうちゃく)した。


 捕まえたエルフの少女を綺麗に着飾り、衰弱死するまで眺め続けた。


 美しく()れる(さま)がたまらなかったそうだ。


 その少女らはただ「美しく()れる」ことを求められた。


 さすがに皇帝をいさめた家臣がいた。


 「さすがに帝国民の目もあります。偉大なる帝国の皇帝として、すべての臣民(しんみん)の国父として、このようなことはお(ひか)えられてもよろしいかと」。


 その家臣は手足を縛られ身動きできないようにされた後、胸を切り裂かれ心臓をえぐり出されて皇帝よりこう言われたそうだ。


 「殊勝(しゅしょう)なことを言うからさぞかし魂がその胸の中で輝いているかと思ったらただの肉塊(にくかい)では無いか。つまらん」。


 愚王。愚帝の類の話として伝わっているが、ただ「美しく()れること」を己の価値とされたエルフの少女達は、何を思い何を感じて死んでいったのか。


 その忠臣(ちゅうしん)は、何を思い何を感じて死んでいったのか。


 私は今、国の命令で、この国の軍人として、貴族として、国の命運を期待されてエルフを狩る。


 いつか私がこの世を去る時、何を思い何を感じて死んでいくのか・・・。


 


 



 ちなみに余談ですが、最後の胸糞悪い皇帝の話は、色々とデフォルメしてありますが、似たような話が実話としてあります(実在の王でした)。


 人は愚かになろうと思えばどこまでも愚かになれるようで。


 自分では愚かだと気がつかない所が、一番怖い所なんでしょうね・・・きっと。



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