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ふざけて手錠を付けて取れなくなった妹の世話をさせられた

作者: 水守中也



「ただいまー」

「あ、お兄ちゃん。おかえりー」

「ああ。――って、ど、どうしたんだ、それっ?」


 帰ってきた俺を出迎えるように、玄関に姿を見せた妹の梢を見て、俺は思わず声を上げてしまった。

 梢はなぜか横向きの体勢で、後ろ手に組んだ両手を見せるような格好をしており、そしてその手は、手錠によって拘束されていたのだ。


「えへへ。懐かしいでしょー。これ。おかーさんと押入の整理しているときに見つけたんだぁ。小さい頃、お兄ちゃんと、これで警察官ごっこしたことあったよねっ」

「ああ。そういうことか……」

 一瞬、梢が何らかの事件に巻き込まれたのかと思ったけれど、そうではなかった。いつものことだった。


「でね、せっかくだからって、おかーさんにつけてもらったんだ。すごいよねー。これって本当に取れないんだよ」

 梢が手錠にはめられた後ろ手を感心した様子で見せてくる。

 ちなみにその母は、主婦の集まりとやらに出かけており、しばらくは帰ってこないとのこと。


「それで、鍵は?」

「んーとね。おかーさんが、ここに置いておくね、って言ってたのは聞こえたんだけど、よく聞いてなかったから場所はわかんないんだー」

「ぅおいっ!」


 どうするんだよ、これ?

 ていうか、鍵があったとしても、手錠が挟まった状態じゃ梢だけじゃ鍵は開けられないだろうし。


「あはは。まぁおかーさんが返ってくるまでの間だし、何とかなるよ」

 梢はいつものようにお気楽に笑うと、後ろ手を組んだままリビングへと戻っていった。

 あらかじめ付けてあったのか、梢はちょこんとリビングのソファに座って、のんきにテレビを見始める。とはいえ、両手の自由が利かないからか、どことなく窮屈そうに見える。確かにこの状態だと、いろいろ不便はあるだろう。

 手が後ろに組まれているため、身体が反り返るようになっているから、いつもより胸のふくらみが目立つような気がする。



 俺はそんな梢を見て……邪な心が芽生え始めてきているのを感じた。

 両手を後ろに縛られるこの状態だと、俺が何をしても、梢は何の抵抗もできないはず――


「お兄ちゃん?」

 そんな俺の邪な気持ちに気づいたのか、きょとんと俺を見上げる梢。

 俺はあえてその邪な気持ちを隠さず、にやりと笑みを浮かべて梢の身体をなめるように見下ろした。





「いやぁぁっ。やめっ、だめぇっ。お兄ちゃん!」

「はっはっは。どうだ。お前の目の前で、美味しそうに食ってやるぜぃ」

「やぁぁ。プリン食べないでぇぇっ。そんなの見せつけないでぇぇぇっ」

「ほらほら。もう、あと少ししか残ってないぞぉぉ」

「だめぇぇ。カップの隅々まで美味しそうに舐めないでぇぇっ」


 ……まぁ、我ながら馬鹿なことをしているなーとは思うけど。

 梢には効果てきめんのようで、すっかり涙目状態だ。


 ちなみに名誉のために言っておくが、これは俺のプリンであって、梢のプリンはちゃんと別に、冷蔵庫の中にある。

 けれどこうやって、自分が食べられない状況で、目の前で美味しそうに食べている姿を見せられるだけで、我慢できないのだろう。目をつぶればいいというツッコミは、梢が気づいていないので、なしで。

 そして俺がすべてプリンを平らげたころには、梢はすっかり憔悴しきって、目がうつろになっていた。


「うう。おかーさんが帰ってきたら、あたしが動け無くて抵抗できないのをいいことに、お兄ちゃんにひどいことされたって、絶対に言いつけてやるんだから」

「ただ俺のプリンを俺が食っただけだろ。梢のはちゃんと別にあるし」

「じゃあ、あたしもそれを今、食べたい」

「その手でどうやって食べるんだよ」

 俺の至極まともなツッコミにも負けず、梢はぷんと頬を膨らませたまま答えた。


「お兄ちゃんが食べさせて!」

「……はいはい」

 さすがにこのまま放っておくと、後で手が自由になったときの仕返しが面倒なので、機嫌を取るために、プリンを食わせることにした。

 もちろん梢は手を使えないので、梢のリクエスト通り俺が食わせることになった。



「ほれ」

「あーん」

 口を開ける梢の中にスプーンを押し込む。

 梢はもぐっとそれをくわえて、喉の奥へと流し込んでいく。

 はっきりと分かるほどの、満足げな笑顔が浮かぶ。


「んーっ。おいしい。お兄ちゃん、もっと」

「へいへい」

 首を、んーっと伸ばしてプリンをねだる梢の唇に、俺は作業的にスプーンを押し当て続ける。

 その光景は、親鳥の餌をねだって首とくちばしを伸ばすひな鳥のようにも見える。だが、俺の頭の中によぎった思いは、「ああ。介護ってこんな感じなのかなぁ」ってことだった。


 ともあれこうやって梢の機嫌も直ったようだ。

 くちびる周りについたプリンを拭いてやってから、俺は自室に戻ろうとした。

 ところがそんな俺を呼び止めるように、梢が上目遣いに見つめてきたのだ。


「お兄ちゃん。ちょっと待って。その……」

「ん、なんだ?」

 そう問いかける俺に、羞恥心皆無な梢にしては珍しく恥ずかしそうな表情を浮かべて、小さな声で言った。


「おしっこ」

「は?」

「と、トイレに行きたい……」

「ふーん。そうか。いっといれ」

「…………」

「ごめん。今のは無しで」

 

 さすがに今のはちょっとはずかった。


「ていうか、手がそれでも、歩いてトイレまで行けるだろ。後ろを向けば、ドアノブだって開けられそうだし」

「えーと。その、歩けるけど、そのあとの……」

 梢がスカートから伸びる足をもぞもぞと動かす。


「あ」

 俺はぽかんとバカみたいに口を開けて、梢の言いたいことに気づいた。

 トイレに行って用を足すためには、下着をおろさないといけない。

 けれど今の梢は手が拘束されていて、それができないんだ。


「よし。我慢しろ」

「むり」

 即答された。

 まぁ実際、この年になって「トイレ」って言うのはかなり恥ずかしいと思う。それでもそれを口にしたということは、それなりに切羽詰まっている状況なのだろう。

「はぁ……仕方ないな」

 俺はため息をつくと、サービスで梢の肩をつかんでソファから立たせてやってから、トイレへと歩き出した。



   ☆☆☆



 狭いトイレの個室。

 まずは梢を先に入れさせ、背中を向けさせる。そのお尻のあたりには手錠でしっかりと固定された両手が見える。

 まぁせめてもの救いは、梢がスカート姿なところだ。これならパンツを下したところで、ズボンと違って桃尻は見なくて済む。

 

「よし。そのまま立ってろよ」

「うん」

 俺は梢の後ろで、膝立ちになると、目の前のスカートの中に両手を突っ込んだ。

 なんていうか、今の俺、スカート捲りよりもすげぇことをしようとしているんだけど。これって小学校なんかで悪ふざけで男子がやっちゃった結果、見られたほうもしちゃったほうも学校にいられなくなって転校してしまうレベルだよなぁ。

 

 そんなこと考えつつも手探りで手を伸ばし、両手の指でパンツのゴムをつかむ。中にスパッツ等をはいていないのは、しょっちゅう見せられれているのでわかっている。

 俺はため息をつく。

 一般的には萌えるシチュエーションなのかもしれないけれど、相手が妹の梢ではそれも皆無。言っちゃ悪いが、汚物処理に近い感覚だ。

 なのでなるべくその布地に触れないよう指先に力を入れて、一気に尻から引き下ろした。

 普段洗濯籠に丸まって放り込まれている見慣れた水色が、スカートのすそから姿を現した。


「ほれ。下ろしたぞ」

「ありがと。あとは任せて!」


 何を任せされるのか。

 俺の素朴な疑問をよそに、梢は手錠が挟まった後ろ手で起用にスカートのお尻部分の生地を摘み、軽く持ち上げた。便座に座るとき、スカートの裾が邪魔しないためだろう。

 けれどできれば便座に座る直前の、こっちを向いたときにしてほしかった。おかげでどうでもいいものが見えてしまったし。


「あ、お兄ちゃん。えっち!」

「……いや。むしろ見せられたというか。この状況だと、ただの露出狂だぞ」

「ううっ……」

「いいから、早くしろ」

「う、うん」

 梢はくるりと体の向きを変えると、尻から落ちるように便座へと座った。


「ふぁぁぁ~」

 ほとんど間を置かず、気の抜けた声とともに水音が響き渡った。

 どうやら、本当に限界まで我慢していたみたいだ。さっきの間の抜けたやり取りは何だったんだ。


 それにしても……この水音は何とかならないものだろうか。一緒に個室にいて聞いていると何とも気まずい。女子が音消しを使う理由が分かった気がする。

 けど梢が一向に気にした様子もないので、俺が代わりにぽちっと押してやった。


「あ、どうも」

「……どうもいたしまして」


 やがて元の音も無事収まった。

 用を足し終わったら、またパンツをもとの位置に戻してやらないといけない。さすがに足に挟まったままだと歩きにくいだろう。

 だからわざわざ個室に俺も残っていたわけだ。


「ほら、さっさと立て。パンツ戻すんだろ」

「うん。あ、ちょっと待って。その前にちゃんと拭かないと」

「あ、そっか」


 と俺は言って気づいた。

 え、その「拭く」って、俺がするの?

 当然、今の手錠状態では梢自身が拭くことは出来ない。


 だからといって、俺が代わりに拭くのも色々マズい気がする。

 プリンの残りかすがついたくちびる周りとは違う。女性が女性たるゆえんの場所。実の妹とはいえ、その部分に触れてしまってもいいのか。

 そりゃ、そこの感触がどんなものなのか、まったく興味がないわけでもないが……


「お兄ちゃん……」

 梢が上目遣いに見てくる。

 俺はごくりと息を飲む。


「ウォシュレットのスイッチ押して」

「あー。そーだよね」

 俺はポチっとビデのボタンを押した。


「止めて」

「あいよ」

 

 梢に言われるがままに俺は操作し、ウォシュレットを止めた。

 まるでどっかの国の女王とその家来みたいだが、いくら女王様でもトイレのスイッチくらいは自分で押すと思う。ていうか、後ろ手が手錠ではめられていても、ちょっと身体をひねれば届くような気もするし。


 さて今度こそ、パンツを戻してとっとと終わらせようと思ったのだけれど、梢はウォシュレットを止めても、まだ立ち上がろうとしなかった。


「お兄ちゃん……」

 代わりに、何かを訴えるように上目遣いに見てくる。


 そして気づく。

 ウォシュレットで汚れを落としたとしても、水滴はまだ付いている。つまりパンツを穿く前に、やはりトイレットペーパーで拭くという行程は残っているのだ。

 だがそれは……

 思わず固まってしまう。

 そんな俺に向け、梢はどこか達観した口調で告げた。


「鍵――そこの棚にあった」

「あ」

 梢の視線の先、トイレの棚に、手錠の鍵が置かれていた。



  ☆☆☆



「んーっ。自由って素晴らしい! お兄ちゃん、ほら。ハイタッチしようっ」

「……その前に手を洗ってこい」

「はーい」


 無事手錠を外して、トイレも済ませることが出来てハイテンションな梢を洗面所へ放り投げつつ、考える。


 お袋がなぜあんなところに鍵を置いてったのか。

 その理由は分からない。トイレのときに必要になると思ったからだろうか。いずれにしろ、ちゃんと梢に告げて家を出たというのだから、しっかりその話を聞いていなかった梢の方が悪い。

 とはいえ、仮に鍵を梢が手にしたとしても、あの状態で自力であけられるものなのかは分からないけど。

 そもそも何でこんな本格的な手錠が家にあったんだ?

 俺は洗面所で手を洗っている梢に向かって聞いてみた。


「ところでこの手錠、どこにあったんだ?」

「ん? おとーさんとおかーさんの寝室の押入、だけど」

「あー、そう……」


 この意外としっかりとした手錠。

 子供のおもちゃというよりは、むしろ大人のおもちゃというか……

 なぜこんなものが両親の寝室にあったのか。


 持ち主とその使用方法については、深く考えないことにした。






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― 新着の感想 ―
[一言]  夫婦間で手錠とは。  マニアックな…。  でもどちらがするのかちょっと気になります。
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