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やきとり(実食)

「はい!串焼きお待ちしました」


店員が声を掛け、串焼きをテーブルへと運んでくる。


「結構久しぶりだなー」


優希はさっそく豚バラに手を伸ばす。合わせたように桜、菫も串を手に取り、そのまま口に運んだ。


「美味しい!」

「これは良いわね。なんでこっちには無いのかしら?」


モグモグと食べながら二人はそんなことを言う。自分のものではないものの、地元のものが褒められることで優希は何となく嬉しくなってしまうのだった。


「なんか全国のご当地モノを紹介する番組あるじゃない?」

「ありますね。俺も番組表を見て『福岡』って書いてあるとチェックしてますよ」


菫は過去に見たテレビ番組を思い出していた。各都道府県出身のタレントが地元を紹介する形で進めるバラエティ番組だ。


「あの番組で福岡の焼き鳥が取り上げられてたことがあったの。みんな最初から『豚バラ30本』とか『皮30本』みたいに頼んでたから、そんなに美味しいの?って思ってたのよ。食べてみたら気持ちは分かるわー」


菫はうんうんと頷く。


「あはは。あれは流石に編集されてますよ。数が多い人だけピックアップしてるんだと思います。串だけでお腹いっぱいになっちゃいますからね。個人的にはいろんなものを食べたいかな」

「そうなの?それにしても、これはお酒が進むわね」


そう言って串をつまみにレモンサワーを飲んでいく。


「ちょっとお母さん、そんなにお酒強くないんだからペース考えてよね」

「分かってるわよ」

「菫さんってお酒強くは無いのか?」


今までの様子からてっきり強いものだと思っていた優希だったが、事実は違うようだった。


「そうなんだよ。家でもたまに飲んでるみたいだけど、量は多くないんだよ」

「飲むのは好きなんだけどねー」


菫はそんなことを言いながらとり皮へと手を伸ばしていた。


「あら、とり皮もカリカリして美味しいわね。すみません、とり皮5本追加でお願います」


一口で気に入ったのか、近くの店員にさっそく追加のオーダーを出していた。


「そういえば、二人とも学校はどうかしら。優希君はこっちに来てまだ1か月くらいなのよね?」

「そうですね。楽しくやれてると思いますよ。勉強も問題無く付いていけてるし」


そんな何気ない会話に桜は思いがけず衝撃を受けていた。


「そういえば優希君って、引っ越してきてまだ1か月なんだっけ。もっと前から一緒に居た気がするよ」

「二人はずっと一緒に居るものね」


菫がニヤニヤとわざとらしく言うと、桜は慌てたように言葉を口にする。


「そ、そういうことじゃなくて!落ち着くというか……。ほら!優希君も何か言ってよ!」


桜が優希の方を向き言葉を促そうとすると、優しく微笑みながら桜のことを眺めていた。


「え、俺も何か言ったほうが良い?」

「もうっ!」


むーっ!っといった表情でパシッと優希の腕を叩く。


「痛い痛い。菫さん、お宅の娘さんが俺にだけこんな感じなんですが」

「あら、珍しいわね。桜が自分からスキンシップを図る男の子なんて今までいなかったのよ?」

「ちょっと、お母さん!」

「あら、違ったかしら?」


そう訊かれてしまうと桜も嘘を言う訳にもいかず


「それは……、違わないけど……」


桜は何となく恥ずかしくなってしまい、優希の腕の置いたままだった手を離した。


「もう終わり?」

「そんな風に言ったら、私がいつも叩いてるみたいじゃん!」


優希が意地悪く訊けば、桜は再びむーっと頬を膨らませた。


「悪い悪い」


優希はそう言って笑い、桜の頭を撫でるのだった。


「あの、私が居るの忘れないでね?」


そんな光景に、流石の菫も突っ込まずにはいられなかった。




そんなこんなで1時間半も雑談をしていれば、菫のお酒も進み、そろそろ最後の一品という状況だった。


「最後に何か食べて終わりましょうか。そういえば、お米食べてないし、二人とも食事物はまだ入るかしら?」

「ええ、多すぎなければ」

「私も少しなら大丈夫」

「そう?それなら、鳥雑炊にしようかしら。すみませーん」


そうしてしばらくすると小さめの鉄鍋に入れられた雑炊が姿を現した。


「んー、良い匂い」


菫は酔いが回っているのか多少赤みがかった表情でそう言った。

優希が取り皿を手に取り分けていく。


「桜、これくらい食べられそう?」

「うん、ありがとう!」


菫はさっそくレンゲで掬い、雑炊を口にする。


「美味しいわね。お父さんにも教えてあげないと」

「嬉しいこと言ってくれますね。お口に合ったみたいで何よりです」


たまたま側を通った店長が菫の声に反応して声を掛けてきた。


「あら、店長さん。美味しく頂いてますわ」


菫は笑顔でそう返した。


「兄ちゃんはどげんね?」

「ええ、美味しかったです。また利用させてもらいますよ」

「それは良かった。やけど兄ちゃん、言葉遣いが硬かねー。もっと気楽に」

「無茶言わないで下さいよ。敬語だと難しいの分かるでしょ?」


店長も先程の菫との会話を思い出し、『それもそうだ』と笑いその場を離れていった。



「そう言えば優希君。桜にはこんなに親しいのに、私には何だか言葉遣いというか態度が硬いのよね」

「え、そうですか?」


そんなことは無いと続けるつもりだった優希の言葉を菫が遮った。


「ほら、いまも!」

「お母さん、酔ってるでしょ?いつもよりお酒の量が多いよ」


そんな桜の言葉を聞き流しながら菫は言葉を続ける。


「もっと気軽に、『お義母さん』って呼んで良いんだから。もちろん、義理のほうね」

「ちょっと、お母さん!」

「それは、もう何年かしたら呼ばせて頂きます」

「優希君⁉」


桜は優希の言葉に驚いてしまう。


「あらあら、それ楽しみね」


さすがに桜もおかしいと思いよく見ると、二人の口元が笑っていることに気付く。


「二人してからかって!もうっ!もうっ!」


そう言って叩かれるのは当然隣にいる優希だけなのであった。



「ありがとうございました!」

「ごちそうさまでしたー」


店長の声に見送られ店を出る。


「菫さん、俺が食べた分のお金です」


そう言って優希は財布を開きお札数枚を取り出したが、菫は首を横に振る。


「良いのよ、気にしなくて」

「いえ、そんな風にされちゃうと、菫さんと今後食事に行きづらいじゃないですか」


その言葉に驚いた表情を見せるも、菫はニコニコとした表情に変わる。


「優希君、女の子にモテるでしょ?」

「え?いや、そんなことは無いと思いますけど」


優希は唐突な話題の展開に戸惑うも思った通りに言葉を返した。


「桜、頑張るのよ。思った以上に敵は多いかもしれないわ」

「もうっ!お母さん」


そんな様子を優希は不思議そうに眺めていた。


「あの、お金……」

「そうだったわね。それじゃあこれだけ貰っておくわ。子供料金ってことで少な目ね」


お札の一部を優希の手から抜き取ると、それ以上は言わせないように財布にしまい、バッグへ財布を戻した。


「さてと、帰りはどうしましょうかね。バスがあると良いんだけど」


そう言って最寄りのバス停に行ってみれば、タイミング良くバスが来るところだった。



マンションに戻り自宅の前までやって来た。菫も多少酔いがさめたようで、店を出る時と比べると幾分足取りは落ち着いていた。


「菫さん、今日は一緒に来てもらってありがとうございました。桜も急だったのにありがとな」

「いいのよ。私たちだって、良いお店を教えて貰えたんだし」

「そうそう。焼き鳥美味しかったよ」


二人が笑顔でそう言えば、優希も安心した様に微笑んだ。


「あんまり話してても遅くなっちゃうし、優希君またね。おやすみなさい」

「おやすみなさい。桜もおやすみ」

「うん、おやすみー」


軽く手を振り、それぞれの家へと帰っていくのだった。

何だか作品を書き始めて1年みたいですね。

そうですか。1年書いて作中は1か月ですか……。先は長い

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