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三人で外食?

土曜日、優希は朝から勉強に勤しんでいた。何故こんなに朝早くから勉強をしているのかというと、それは先日桜が自宅に来た時の会話に遡る。

優希としては何気なく焼き鳥の話題を出したものの、一度思い出してしまえば、そこはやはり福岡の人間。焼き鳥が恋しくなってきてしまったのだ。

実はあの時の会話以降、暇を見つけてはちょこちょことネットを調べ、この街で福岡の焼き鳥が食べられるお店がないのかということをずっと探していたのだ。

そして先日ようやく発見した。評判を見る限り店舗はそれほど大きくないものの、 九州が地元の人間がよく集まっているという情報も書かれていた。九州の人間がその店から離れないということは、ある程度優希の口にも合うということが想像される。

近々行こうと考えてはいたものの、来週はクラスメイトが自宅に宿泊、その次の週はテスト準備期間ということで、悠々と外食をしてる心持ちではない。結果としてなんとか今週中に行かなければという気持ちになっているのだった。


「午前中はこんなものか」


優希は一度テキストを閉じるとグッと伸びをした。


「昼飯は軽くでいいか。ちょっと早めの店に行きたいし」


そう言ってキッチンのストックを覗くとそこにはほとんど物がなかった。


「げっ、もうストック無いんだっけ」


優希はそのままで早く準備をするとコンビニへと歩き出す。

おにぎり二つとお茶という育ち盛りの高校生にはだいぶ少ない食料を買いマンションに戻ってくると、何やら玄関で作業をしていた橋本親子と遭遇した。

「あら、優希君。こんにちは」

「こんにちは、菫さん。桜も」

「優希君、それってお昼ご飯?何だか少なくない?」


一度視線を袋に向け、視線を戻すと納得したように頷き、優希は話し出す。


「これか? ちょっと早めに外で夕飯を食べようと思ってな。昼飯はあえて軽くしてるんだ」

「そうなんだね」

「優希君は気になるお店でも見つけたのかしら? わざわざお昼を軽くしてまで。何だか随分と期待してるように見えるわ」

「分かります?焼き鳥食べに行こうかと思って。この間桜と焼き鳥の話をしてたらなんだか無性に食べたくなっちゃいました」


優希は見透かされたことが少し恥ずかしいのか照れながらそう言った。


「焼き鳥に高校生が一人で入れるの?」

「えっ?入れないんですか?」

「福岡がどうだったかは分からないけど、こっちだと難しいかもしれないわね」

「そんな……」


まだ決まったわけではないというのに優希は大きなショックを受けていた。それだけ焼き鳥に気持ちが傾いていたのだろう。


「んー、優希君さえ良ければ、私達が一緒に行きましょうか?」

「ちょっと、お母さん!?」


あまりに唐突な話に優希よりも先に桜が口を開いた。


「たまには外食もいいじゃない。今日はお父さんも お友達と飲みに行くって言ってたし。桜との外食もここ最近減って寂しいのよねー」


優希と出会って以降、休日を優希と過ごす機会も増えており、必然的に家族で外食をする回数は減っていた。桜も自覚があるのか、『それは申し訳ないと思ってるけど……』と小さく呟いていた。


「俺は助かりますけど本当に良いんですか?」

「こちらから言い出してるのだから気にしなくていいのよ」


そう言って菫は笑った。


「ところで、もう店は予約してあるのかしら?」

「いえ、早めに行くつもりだったから、まあ空いてるだろうなと思って予約はしてませんでした。この時間だとまだお店も開いてないだろうし、もう少ししてから改めて連絡してみます」

「あら、催促したみたいで悪いわね」


言葉ではそう言いながらも、特に気にした様子も無く菫は笑う。


「いえいえ、お気にならず。予約するのであれば時間をそんなに早めに必要もないんですけど、何時ぐらいにしますか?」


菫は『うーん』と少々考えたのちに口を開く。


「19時スタートで良いんじゃないかしら」

「分かりました。確認取れ次第、桜の方に連絡しますね」


優希としても問題は無く、席が空いていれば19時スタートが確定する。


「ええ、それじゃあまた後で」

「なんだか私を置いてどんどん話が進んでるんだけど!?」


二人は桜のその声をスルーしそれぞれ家の中へと戻っていくのだった。


そして時間をおいて電話することでしっかりと席を確保することができた。

そのことを桜を通じて菫へと伝えてもらう。

当初、菫が車で店まで連れて行くという案も出たが、せっかくのお酒の席に車で行ってしまうと飲めなくなるためバスで行くことを優希は提案した。

そんなやり取りをしながら残った時間も勉強に充てていると約束の時間がやってきた。


「お待たせー」


いつものように扉の前で待っていると二人が家から出てきた。

優希の中では焼き鳥を食べるだけという認識だが、桜と菫はしっかりとよそ行きの服装で出てきた。 特に菫に至ってはメイクまでばっちりなのであった。


「菫さんいつもに増して綺麗ですね」


褒められて満更でもないのか照れたようにして菫は笑った。


「あら、お世辞が上手ね。こんなおばさん口説いても何も出ないわよ?」

「お世辞なんて。事実を言ってるだけですよ」


実際菫の見た目は非常に若く、とても高校生の娘がいるようには見えなかった。


「痛っ」


そんな軽いやりとりを目の前で繰り広げられ面白くないのは桜であった。

衝動的に軽く優希の腕を叩くと上目遣いでむーっといった様子で睨んでくる。


「お母さんを口説いてどうするつもりなのかな?」

「あら、桜。嫉妬してるのかしら?」


無意識だったのか、桜はハッとして慌てて否定した。


「ちっ、違うし……」

「大丈夫よ私にお父さんがいるもの」


惚気るようにそう言って菫は微笑んだ。


「それよりも早く行きましょう。桜が物心ついてからはお酒がメインのお店って避けてたから、そういうお店って久しぶりなのよねー」


ウキウキした様子で二人を置いてエレベーターへと向かっていく。

もしかして菫が行くと言い出したのは、自身の楽しみのためという部分も大きいのでは?と優希は思い始めていた。

誘われるままにエレベーターに乗り込みマンションを出ると、バス停へと歩いて行った。



「この辺りのはずなんだけど」


バスを降りると、優希を先頭にスマホで地図を確認しながら歩いていく。

そこはカフェ葵のあるような場所とは違い、飲み屋街の一角にあった。

知らなければ高校生だけでは訪れにくい場所と言えた。


「あった。『螢川』ここだな」


店舗の外にいるにも関わらず、煙などの漂い、何とも言えない匂いが漂っていた。


「すでに良い匂いが……」

「桜、外に立っててもご飯は出てこないわよ?」


店の前でクンクンと匂いを嗅いでいる桜に菫が声を掛ける。

そんな二人の姿を横目に優希は店の扉を開けるのだった。

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