買物
優希が編入して初めての週末。優希は悩んでいた。午前中は洗濯や掃除といった家事で時間が無くなったが、その後は暇を持て余していた。
「やばい、何をしよう?」
編入してから同じメンバーで集まることが多く、交友関係が広がらなかったことが災いした。急に連絡して遊ぶような友人がいないのだ。いくら家が隣とはいえ、桜へ連絡し押し掛けるわけにはいかなかった。
そんな時優希のスマホに着信が入る。着信画面には晃成の名前が表示されていた。
「どうした、晃成?」
「兄ちゃん、今日は暇?」
「おう、ちょうど何しようか考えてたところだ。」
「それなら、一緒に買い物行かない?お互い引っ越してきたばっかりで足りないものだってあるでしょ?」
「無くはないが……。どこか行くあてはあるのか?」
「駅前に行けば何かあるかなって」
「まあいいか。それじゃあ中途半端な時間だし、各自昼飯を済ませて、14時に駅前に集合な」
「はーい!」
買ってあったパンなどで適当に食事をして外出の準備を済ませ、時間に余裕を持って家を出る。
駅前に着くと晃成の姿はまだ無く、スマホを弄りながら待っていると、程なくして晃成が現れる。
「兄ちゃんお待たせ。というか、来るの早くない?まだ14時なってないよ」
「俺は時間に余裕を持って行動してるからな」
当然といった様子で優希は答える。
「それで、今日は何を買う予定なんだ?」
「食器とか欲しいんだよね。ホントに最低限のものしかないから、誰か来たときに使えるものが無くて」
「食器か。そう言われれば俺も持ってないかも。買って食べることが多いから食器使わなかったな」
「兄ちゃんも?それならちょうど良かったね」
「とりあえず、雑貨でも見て回るか」
適当にお店を巡りながら、欲しいものを見つけていく。あまりに高いお店は予算オーバーのため百円ショップなどを交えながら数を揃えていく。
「兄ちゃん、何で俺達は先に食器を買ってしまったのだろう」
「まったくその通りだな」
二人の手は食器で埋まっていた。
「そんなに離れてないし、駅のロッカーに入れるか。」
「仕方ないね」
二人は駅に戻りロッカーに荷物を入れる。
「ふう、重かった。次は買う順番も考えないとな」
「だね。兄ちゃん、次はどうする?」
「ちょっと本屋行きたい」
「おっけー」
地域で単体としては一番大きな書店にやってきた二人。全国展開しているチェーン店で品揃えは豊富の様だ。至る所に立ち読みをしている人の姿が見受けられる。
この地域に来たばかりのため、情報誌を読んでオススメのお店でもチェックしようかと考え、該当する本棚を探す。すると、見知った顔を見つけ、優希が声を掛ける。
「よう、二人はデートか?」
そこには海斗と茜の姿があり、旅行雑誌を二人で眺めていた。
「おう、優希と晃成じゃねーか。二人こそデートか?」
意地悪く海斗が訊くと
「見たら分かるだろ?デートだよ」
「デートですよ!」
二人は肩を組み、海斗に言葉を返す。
「それで二人は?」
今度は優希が意地悪く海斗へ問う。
「俺達もデートだよ」
そう言って、海斗は茜の腰に手を回し抱き寄せる。
茜は驚きされるがままだったものの、ハッと気が付き、身をよじって海斗から離れる。
「馬鹿なこと言わないで。デートな訳無いでしょう」
「そうなのか?少なくとも端から見てると完全に恋人同士だったぞ」
何を言ってもからかわれると思ったのか、茜は頬を赤らめながらも無言を貫き、プイッとそっぽを向いてしまう。
「二人は何を読んでたんだ?ここ旅行雑誌のコーナーだろ?」
これ以上茜を弄っても何も出てこないと感じ、海斗へ話題を振ってみる。優希たちが探していたコーナーの側にあるため、わざわざここから離れる必要の感じず、その場で再び会話を始める。
「そうだよ。旅行と言っても泊まりで行くだけが旅行じゃないし結構参考になるんだぜ。今からだと、GWをどう過ごすかっていうところだな。優希たちはGWは何か予定があるのか?」
「特には考えてないな。買い物くらいは行くかもしれないが、基本は家に居るんじゃないか?」
「俺も多分そんな感じですね」
優希たちは予定が無いことを残念だと思うこともなく淡々と答える。
「なんと寂しい!それでも高校生かね、もっと青春を謳歌したまえよ」
「どんなキャラだよ」
大げさな振りを交えつつ、海斗が力説してくる。
「今回は時間もあんまり無いし無理強いはしないけど、夏休みは全員で旅行に行くぞ!もちろん泊まりだ。ちゃんと行きたいところを考えておけよ」
「全員って誰だよ?」
「決まってるだろ。俺、茜、優希、晃成、そして桜だ」
予想はしていたものの、やはりいつも通りのメンバーだった。
「おいおい、桜の許可は取ってるのか?流石に女の子の泊まりはハードル高いだろ」
「その任務は優希に任せた。失敗するなよ」
何を勝手な、とでも言いたげな表情で海斗を見ていると晃成からも声が上がる。
「あの、羽田先輩。その旅行って俺も行っていいんですか?お誘い頂けるのは光栄なのですが、この面子だと俺は明らかに邪魔じゃないですか?」
明らかにカップリングが出来ていると感じ、一人だけ浮いてしまうのではないかと晃成は大手を振って参加するとは言えない様子だった。
「なんだ、一人だけ学年が違うからって気を使ってるのか?だったら、晃成には別の任務だ。俺たちが旅行に誘っても良いと思えるような誰かを友達として紹介することだ。男女比を考えて女子だとなお良し」
「ハードル高すぎません?旅行に誘えるレベルとなると時間も掛かるし」
「何言ってんだ。晃成もそうだが、優希とだって知り合って一週間経ってないんだぞ。時間なんて関係ない。人間は相性だよ」
それを言われるとぐうの音も出ず、渋々頷いた。
「善処はしますけど、期待しないでくださいね」
「ああ、頑張れよ」
海斗との会話に頭を悩ませていると改めて雑誌を探す気にもならず、会話もそこそこにその場を離れ、店を出るのだった。
長くなったので分割です。