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優希のターン

「付き合っていない男女のハグが有罪ということで間違いないか?」

「ええ、そうね」

「それが合意の上であってもか?」

「そうよ」


茜は意見を変えるつもりはないようで、優希は『ふむ』と頷くと視線を桜に向けた。


「一応確認なんだけど、桜は嫌だったか?もしそうなら、ホントに申し訳ないんだが」


急に話題を振られて桜は慌てる。


「えっ!えっと、あの……、嫌じゃないかな……」


そう言った桜の顔は徐々に赤くなっていき、言葉もどんどんと小さくなっていた。

終いには俯いてしまったが、上目遣いに優希を見ると視線が合い慌てて再び視線を落とした。


「本人もこう言ってる訳だが?それに、こんなに可愛かったらハグしたくなるだろう?」


優希は当然といった様子で茜に問いかけた。


「ええ、それは認めるわ」


茜はそう言うと桜に身体を寄せ、背中に手を回して軽く抱きしめた。


「認めちゃうの⁉って、わわっ、茜ちゃんどうしたの?」


そんな二人の姿を優希達は楽しげに眺めていた。


「ところで、そういう茜はどうなんだ?」

「どうって?」


怪訝そうな表情で優希を見れば、優希は意地悪く笑っているのだった。


「いや、茜はこれまで海斗とスキンシップはしたことなかったのかと思ってね。もちろん幼馴染なんだからそれなりのスキンシップはあっただろうことは想像できる。だけどそれ以上の過度なスキンシップというものを茜と海斗はしたことは無かったのか?」


「……ええ、無かったわ」

「と言ってますが、いかがでしょう裁判長」

「過度というのがどの程度かによるんじゃないか?ハグくらいはしたことあるし、ちょっと前には膝枕もあったな。ちなみに俺の膝に茜が寝た訳だが。……おっと、これ以上は言えないかな」


茜は顔を真っ赤にしながらも射殺すような視線を海斗に送っていた。海斗も当然茜の視線に気付いてはいたものの、言葉を進めるにつれ徐々に視線がきつくなっていることを感じ口を噤んだ。


「そういうことみたいだけど?付き合う前の男女としては少々過度じゃないか?いやもちろん、茜にとって海斗のハグや膝枕が当たり前のことであったなら、俺達は言われても仕方が無いけどな」


そう言って微笑みながら茜に視線を送る。

茜はまさしく『ぐぬぬ……』といった表情で優希を睨んでいた。

あまりに当然といった発言に『明らかに海斗とのやりとりを知ったうえで言っている』『何で知っているのか、海斗がどこかで話したのか』そんなことが頭の中をグルグルと巡っていた。

もちろん優希がそんなことを知るわけもない。

しかし幼稚園からの幼馴染であればスキンシップのひとつやふたつあるだろうと踏んでいた。

茜が勝手に想像してボロを出してくれればいいし、可能性は低いものの、本当に無ければそれはそれで構わないと優希は考えていた。

結果としては海斗が暴露したことにより優希の勝利に終わったわけだ。


「優希、このくらいでいいだろう。これ以上掘り下げてやるなよ」


海斗が苦笑しつつ優希の背中をポンッと叩く。


「そんな風に追われると俺が悪いみたいなんだが?」

「まあまあそう言うなよ。裁判長としては優希は無罪ということで結審な。茜も良いだろ?」

「……構わないわ。でも!桜が嫌がるようなことをしたら許さないわよ」

「当り前だろう」


優希はそう言って茜を見つめた。茜もそれを受けると一つ頷いた。


「……そういうの私がいないところでして欲しいかな。聞いてて凄く恥ずかしいんだけど」


それまで黙って聞いていた桜がポツリと口を開くと、残りの三人が顔を見合わせ小さく笑うのだった。


「それで、晃成どうしたんだ?こっちをチラチラ見て」


仕事の最中なのだろうが、通り過ぎるたびにチラチラとこちらを窺っていた晃成に優希が声を掛けた。


「気付いてたんだ。いや、桜先輩のことを許す許さないって言ってるから、兄ちゃんと喧嘩でもしたのかなって気になって」

「あー、違う違う。大丈夫だよ」

「そう?なら良かった」


それを聞いて晃成は安心した様な表情に変わる。


「ところで、来週からテストの準備期間だけど、ちゃんと勉強してるのか?」

「うーん、思ったより勉強出来てないかも。兄ちゃん勉強教えてよー」

「別に構わないけど、どこでやるんだ?」

「兄ちゃんの家とか?ほら、兄ちゃんの家広いし、泊りとかダメ?」


晃成の自宅では狭いため、どうにか出来ないかと期待に満ちた表情で晃成が優希を見つめていた。


「ウチか?ふむ、特に問題は無いが、晃成がしっかり勉強できるかが問題だな」


優希が意地悪くそう言ってみせると、晃成は得意げに言ってのける。


「俺だって星ヶ丘に入学出来るくらいには勉強してきたんだから、ちゃんと集中出来るに決まってるよ」

「おや、何だか穏やかじゃない話が聞こえてきたな」


その声はマスターの大悟であった。


「戻ってこないと思えば、何だか楽しそうな話をしてるじゃないか。晃成君、バイトをしてるからって成績を下げられたら困るな」


大悟は笑顔で言いつつもその声色は笑っていなかった。


「ごめんなさい!しっかり勉強します!」

「優希君、シフトの都合もあるからすぐ明日という訳にもいかないが、テスト期間は時間を空けられるように調整するよ。悪いけど、晃成君のこと頼むね」

「配慮いただきありがとうございます。ご期待に応えられるように頑張ります」


一見すると社会人のような対応に大悟は驚きつつも笑顔で返した。


「ああ、よろしくね。それじゃあ晃成君、仕事に戻るよ」

「はい!それじゃあ、また連絡するね」


大悟に連れられ、晃成は仕事へ戻っていく。

その姿を目で追っていると海斗が声を掛けてきた。


「何か面白そうな話になってたな」

「そんな面白い話だったか?」


不思議そうな顔で優希は首を傾げる。


「優希の家に泊まれるんだろ?」

「待て海斗、その言い方は語弊がある。あくまでも勉強のためだからな」

「もちろん勉強もするさ。勉強合宿っていうのはどうだ?」


名案とばかりに海斗は言っているが、優希には懸念があった。


「ちなみに参加メンバーは?」

「このメンバーとタイミングが合えば晃成か」

「女の子を泊めるのはなー。そもそも、そんなにベッドも無いし。海斗と茜が一緒のベッドで寝るか?」

「俺は構わないが」

「構うわよ!」


男二人で話を進めていたところに、流石に茜から声が飛んできた。


「冗談だよ」


そう言って優希が小さく笑っていると桜が提案してきた。


「だったら茜ちゃんはウチに泊まる?隣だし移動も楽でしょ?」

「私は構わないけど……」


それならといった感じで茜も渋々といった様子だが了解した。


「それじゃあ、日にちはどうしようか。来週の土曜とかどうだ?学校が終わってからだと勉強する時間も短いし」


それぞれ予定を確認し問題無いことが分かると、泊りがけの勉強会が確定したのであった。

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