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髪フェチ?

そんなこんなで、ネクタイを締め上着を着た桜と茜の姿がそこにあった。

二人ともいまだに顔が赤いままだが、一部始終を目撃されているため、誰からも突っ込まれることは無かった。


「袖はアームバンドで留めると仮定して、ざっくりこんな感じかな。男子二人から見て、橋本さんと氷室さんの格好はどう?」

「「可愛い」」


全く意図していなかったが優希と海斗の声がハモった。

二人はお互いの顔を見合わせ小さく笑った。


「個人的な感想じゃないわな。袖は仕方ないとしても、髪型は違和感があるかな」


海斗がそう言うと、うんうんと優希が頷いていた。


「俺達は基本的に髪が長いってことが無いからな。パッと見て不思議な感じだ」

「確かにねー。とはいえ切ってもらう訳にもいかないし、可能であれば髪型をアップに変えて貰えないかお願いしてみようかな」


衣装担当の女生徒はスマホを取り出すとメモを取り始めた。

スマホを取り出したことでふと思いついたのか、こんなことを言い始めた。


「そうだ。写真撮っても良いかな?眺めてたらまだ改善点が浮かぶかもしれないし」


その言葉に桜と茜は顔を見合わせた。


「ええ、そういう理由なら構わないわ。桜も良いでしょ?」

「うん、大丈夫だよ」

「ありがとう。それじゃあまずは上着を着た状態から――」


そして撮影が始まった。上着を着た状態、脱いだ状態、前後左右と様々な状態で撮影を続けていった。

そんな様子を見ていた優希が桜に声を掛けた。


「桜、俺も撮って良いか?」

「え?うん、大丈夫だよ」


桜の了承を得て、優希は自分のスマホを桜に向けた。


「それじゃあ、ちゃんとカメラ見ててね」


そう言って数枚写真を撮ったところで、桜がふと疑問に思い訊いてみた。


「今やってる、優希君が撮影する意味って何なのかな?」

「え?俺の個人的趣味だけど?観賞用」


何を今更?と当然のように優希は言った。

だが、桜はあくまでも文化祭に役立てるための撮影だろうと考えていたため、優希の発言には少々驚いてしまった。


「えっ!ダメだよ、そんな理由は認められません!」


『鑑賞』なんて言われると途端に恥ずかしくなったのか、桜はスマホを取り上げようと、手を伸ばしながら優希に近づいていく。

GWのようなきちんとした格好ならまだしも、上はダボダボ、裾はクリップなどというだらしない姿を画像に残されてしまうことはとても不本意だった。


「ダメなのか?」


撮影の目的を明かさなかった時点でこうなることも想定していたのか、優希は意地悪く笑っているのだった。


「ダメです!大体、私の写真なんて、優希君はもう持ってるでしょ!」


ハッとした様に桜が周囲を見回せば『持ってるんだ……』という興味深そうな視線が優希に送られていた。


「ちょっと意外かも。橋本さんってあんな感じの人だったの?もっと大人しいタイプかと思ってた」


周囲にいた生徒の一人が海斗に訊いてみる。

海斗は微笑ましいものを見る様子で桜たちの姿を眺めながら言った。


「大人しい部分もあるけど、仲良くなってくればああいう部分も出てくるぞ?まあ、優希には特別あんな感じだけどな。初めて会った日から随分と仲が良さそうだったし、よっぽど波長が合うんじゃないか?」

「へー。私も今度話しかけてみようかしら」

「良いんじゃないか?多分桜から話しかける勇気は無いだろうし」


優希達の気付かないところでそんな会話が交わされているのだった。



一通り確認を終えると、元の制服に着替え帰り支度を始める。


「それじゃあ、制服は預かっていくね。補正が終わったらどうしたらいい?教室に置いておくところは無いし」

「一応クラスの皆にハンガーラックが余ってないか訊いてみるつもり。教室に置いてると、何かと都合が良いだろうからね」

「えー、あったとしても、学校まで持ってくるの大変じゃない?」


その言葉に優希はギクリとした様子で言葉に詰まってしまう。


「痛いところを……。ま、まあ、訊いてみるだけはしてみよう」


優希もその問題点には気付いており、頭を抱えていた。


「良い返事が来ると良いね。……さて、そろそろ帰るね」


女生徒が手を振り、教室をあとにする。


「ああ、無理言って悪かったな」

「貸し一つね」

「あれ、マジだったのか……」

「ふふ、どうかな?」


そう言って意地悪く笑ってみせた。


「それじゃあ、また明日。橋本さんも」

「え?うん、また明日ね」


女生徒を見送りその姿が見えなくなると、桜は不思議そうに首を傾げる。


「なんで私だけ名指しだったんだろう?」

「さあな」


そんな様子を見て、海斗は小さく笑っているのだった。



「さて、俺達も帰るか」


優希がそう言うと四人揃って教室を出る。


「いやー、結構時間掛かったな」

「まあ、一番最初だしな。回数こなせば慣れてくるだろ。それにしても茜たちの制服姿は新鮮だったな」

「普通は着ること無いしな。しかし髪型は考えてなかったわ。男子の制服と合わせると違和感があるものなんだな」


優希はそんなことを良いながら茜の髪へ視線を向ける。


「なに?」


優希の視線に居心地悪そうにすると、髪を撫でつけた。


「いや、茜くらい髪が長いと工夫するのも大変そうだと思ってね」

「あら、ロングヘアはそれなりにアレンジが効くのよ?葵先輩みたいに纏めることもできるし」


茜は『何も分かってないのね』といった表情で、少々得意げに言った。


「そうなのか?」


そう言って優希は海斗に視線を向けた。


「なんで俺に確認するんだよ。まあ、学校では基本この髪型だしな。休みの日にはちょこちょこ髪型変えてるぞ」

「へー、意外だな。桜も大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。私もそれなりに長いからね」


桜は自身の髪を弄りながら答えた。


「そうか。また桜の新しい髪型を見られる訳だな。これは楽しみだ」


優希が一人うんうんと頷いていた。

そんな優希を見て、桜は少々慌てたようにしながら口を開く。


「楽しみにされる要素なんて特に無いんだけど?」

「個人的な楽しみだからな。気にしないでくれ」

「そんな風に言われたら気になるじゃん……。もしかして優希君って髪フェチなの?」


桜は少々頬を染め、上目遣いで訊いてみた。


「いや、違うけど?痛っ!」

「もうっ!訊いて損した!髪フェチなんて単語、初めて使ったよ!」


桜は優希の腕を叩き、頬を膨らませるのだった。

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