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上手くいきそう

翌朝、優希は学校へ向かうために家を出る。

出会った当初は、『偶然桜と同じ時間に家を出ていたため一緒に登校する』という流れが多かったが、いつからかお互いに出てくるのを待つようになっていた。

そして、どうやら今日は優希の方が先に家を出たようだった。

程なくすると橋本家のドアが開く。


「それじゃあ、行ってきまーす」

「いってらっしゃい。あら、優希君おはよう。桜をよろしくね」


菫が優希の姿に気付き声を掛けた。


「おはようございます、菫さん。桜もおはよう」

「優希君、おはよう。待たせちゃったね」


桜が少々申し訳なさそうにするも、優希は全く気にした様子は無かった。


「お互い様だろ?気にしなくて良いよ」


優希がそう言うと、二人はそのまま歩き出した。


「あれ?優希君、その荷物は?何か持ってくるものなんてあったっけ?」


優希の手には通常の鞄とは別に荷物が下げられていた。


「これか?」


優希はテーラードバッグを掲げてみせる。


「桜が着る予定の制服だよ。忘れないうちに持って行っておこうと思ってな」

「ああ、昨日言ってた」

「そうそう。海斗からも連絡があってな。誰が着るのか早い者勝ちで決めてしまおうって。茜に他の男子の制服が割り当てられるのが、よっぽど嫌みたいだな」


昨日のやり取りを思い出し、優希は小さく笑う。


「ふふっ、茜ちゃんは愛されてますなー」

「本人に言うと否定するだろうけど。……いや、関係が進展したことだし、否定はしないかもな。赤くなって黙ってそうだ」

「茜ちゃんも前と比べると素直になった気がするよー」


本人たちがいないのを良いことに、そんな話を続けながら学校へ向かうのだった。



「おはよう二人とも」

「おはよう」

「おはよう、茜ちゃん。あれ?海斗君は?」


茜が視線を教室の後ろに向けると、個人ロッカーでゴソゴソと何かをしている海斗の姿が見て取れた。


「あれは何をしてるんだ?」

「文化祭用の制服を持ってきたは良いんだけれど、適当に押し込むと皴になるじゃない?綺麗に収められないかって、さっきからあんな感じよ」


茜はやれやれといった様子でため息をついた。


「海斗ー。集合!」


優希の声に海斗が振り返ると、そのまま近づいてきた。


「おう、おはよう」

「おはよう」

「おはよう、海斗君」

「それで?わざわざ呼んでどうしたんだ?」

「ほらこれ。俺も持ってきたぞ」


優希がテーラードバッグを掲げて見せた。


「良くやった、と言いたいところだが、早く持って来すぎると保管に困るな。これは補正をしたらまた持って帰るパターンか?」

「それは仕方ないかもな。とはいえ、文化祭が近づいてもその都度持ってくる訳にもいかないよな。クラスの誰か、ハンガーラックが余ってないか訊いてみるか」

「まあ、そうなるよな。予算で買ってもそれ以外に使いどころに無いものは買いづらいし」


優希と海斗はそんな相談をしながら、どう対応するべきか考えていた。まずは相談してみるということに落ち着いたところで、担任の佐藤静香が教室に入ってきたため話はそこまでとなった。


その後、海斗は授業合間の休み時間に衣装担当の女生徒へ声を掛けた。昨日優希は『調整してみる』と言っていたものの、自分でも何とかしようとした結果であった。


「ちょっといいか?文化祭の制服の件で相談があるんだが」


2年生になって初めて同じクラスになりそれほど接点が無かった海斗に声を掛けられた女生徒は、少々驚いた様子だったが笑顔で対応する。


「羽田君が声を掛けてくるなんて珍しいね。どうしたの?」

「早めに制服を持ってきてみたんだけどさ、良かったら先に裾上げとかの調整して貰えないかなと思って。お願い!」


海斗はそう言って手を合わせ、お願いのポーズをして見せる。

女生徒は少々考える仕草を見せると口を開いた。


「えっと、まだ誰に合わせるかも決まってないから勝手には決められないんだけど……」


少々困った様子を見せるも、海斗はその返事は予測済みだった。


「それは俺も考えたんだけど、俺ってそこそこ身長高いじゃん?今回制服を持ってくる男子の中でも一番かな。だったら、女子の中でも身長が高めの茜に貸すのが良いんじゃないかと思うんだけど、どう?」

「茜って、氷室さん?確かに身長は高いし、本人が良いって言うのなら、大丈夫……かな。別の担当の子にも訊いてみるよ」


一存では決められないため確定では無いものの、色好い返事を貰えたことに海斗は自然と笑顔になる。


「良いのか?悪いな」

「ふふっ、この貸しはどこかで返してもらおうかな?」


そんなに話したことが無い相手からそんな冗談めいたことを言われるとは思っていなかった海斗は、少々驚きつつも同じく冗談めかして答える。


「これは結構高くついたかな?」

「あーっ、羽田君ひどい!私ってそんな風に見える?」


わざとらしく怒って見せるものの、その表情は笑顔であった。


「冗談だよ。それじゃあ、放課後にまた声を掛けたら良いか?」

「そうだね、それまでには訊いておくよ」

「ああ、ありがと」


そう言うと海斗は女生徒に見送られながら自分の席に戻る。

するとその席には、机に頬杖をつきながら座る茜の姿があった。


「どうした?何だか不機嫌みたいだが?」

「……別に」


海斗の姿を横目で確認すると、わざとらしく視線を外した。


「そうか?ま、何かあればすぐに言えよ?」


そう言って海斗は茜の頭をポンポンと撫でると、そのまま優希の席へと向かった。


「楽しそうに話してるとこ悪いな。優希、文化祭の制服の件どうにかなりそうだぞ」

「は?」

「いや、さっきお願いしてきたわ。確定じゃないけど、多分大丈夫だろうってさ」


海斗の仕事の速さに驚くも、自分の手間が省けたため優希としては歓迎するべきことであった。


「と言っても俺と茜の分だけなんだけどな。身長が高いもの同士っていう理由でゴリ押ししてきたから、優希と桜の件は切り出せなかったわ」

「む、そうなのか」


それは困ったと腕を組みながらどうするべきか思案する。


「上手くいけば今日の放課後には調整してくれるみたいだから、その場に同席してれば流れで調整して貰えるんじゃないか?」

「何とも行き当たりばったりだな」

「それはお互い様だろ?」

「違いない」


優希は自覚があるのか、そう言って海斗と笑い合うのだった。

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