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誰の制服を着るのか。それが問題だ

翌日、朝のうちに衣装担当の生徒へコンタクトを図り昨日の件を伝える。

制服を確認したいというのは事実であり、聞いていた通りだった。

優希は休み時間を利用し、制服を持ってくる予定の生徒に声を掛けていく。それぞれ制服を貸せるか確認しているだけあって、すぐにでも持ってくることが可能ということであった。2、3日の間にはすべての制服が揃うことが想定された。

そのことを衣装担当に伝えると、申し訳なさそうにしながらもホッとした表情であった。



「優希君、お疲れ様。何だかお任せしちゃってごめんね」


昼休み、学食で食事をしながら桜がそう切り出した。


「そういえば、優希は休み時間のたびにウロウロしてたな。何してたんだ?」

「ウロウロとは心外だな。交渉と言ってくれ。みんなに制服を早く持ってきてもらうようにお願いしてたんだよ。これで制服は問題無いだろうし、あとは桜たちが着てみて、調整していけば大丈夫だろう」


優希は海斗からの問いに答えると、少し安心したように言った。


「だけど、男子の制服を着るなんて、なんか変な感じだよ」

「そうか?男子がスカートを履くことに比べたら違和感ないだろ。パンツスタイルって考えたら普通だし」

「そう言われちゃうと、そうなんだけど。でも、男の子が着てた服を着るんだよ?やっぱり違うよー」


桜が熱弁するも海斗は『そんなものかね』といった感じで軽く流していた。

そこでふと思い出したように海斗が訊いた。


「そういえば、誰の制服を着るのかっていうのは決めてるのか?」

「そこまではまだ決めてないけど。身長とかの兼ね合いもあるしな。それがどうかしたか?」

「いや、茜が他の奴の制服を着てるっていうのが、何だか嫌でな」

「ああ、なるほど。さすがにそれを理由に意見は出せないけど、調整出来るように考えてみるわ」


海斗の独占欲とも取れる発言を聞き、茜は顔を赤くして俯いていた。


「誰かツッコミなさいよ!」


しかし、それを当然のように受け入れ話が進んでいくことに耐え切れず、茜自身が声を上げてしまう。


「茜、どうしたんだ?」


優希が不思議そうな顔をしていると、そんな様子が気に入らないのか更に口を開く。


「分かってて言ってるでしょう?」

「分かった。じゃあ訊こう。あえて名前は挙げないが、海斗の制服とそれ以外の男子の制服。文化祭で着るならどっちを選ぶ?」


実際、文化祭になれば誰かの制服を着なければいけないのだ。ちょっとした確認の意味も込めて、そんな二択を迫ってみる。


「そっ、それは……!」


チラッと海斗に視線を送ると、さっきまでの勢いはどこへやら、小さな声で言った。


「……海斗」

「だろ?」


その答えを当然といった様子で優希は受け入れる。また、横で聞いてた海斗も満足げに微笑むのだった。


「……何も言わないのね。もっと弄られるのかと思ったわ」

「何でだ?知らない男子より好きな人の服を選ぶのは普通だろ?」


当然といったその言葉に、茜は『はぁ……』とため息をついた。


「貴方、ホントにそういうところよ」


茜のその言葉に、桜も思うところがあるのか、うんうんと頷いていた。


「それで?桜の分の制服はどうするつもりなのかしら」


その言葉に頷いていた桜の動きが固まる。


「……私?」

「桜だって制服を着なくちゃいけないんだから。希望くらい言ってもバチは当たらないんじゃないかしら」


茜の言葉に一瞬考える素振りを見せると桜は答えた。


「……優希君の制服じゃダメかな?」

「構わないぞ。と言っても、俺達だけで決められる訳じゃないから、茜の分と同様に善処するってところだけどな。しかし、サイズは合うか?」


そう言って、優希は桜の身体に視線を向ける。

椅子に座っているとはいえ、身長差があるのは明らかであった。


「桜って身長いくつ?」

「155㎝だよ」

「ということは、俺とちょうど20㎝違うのか。まあ、その時は衣装担当に頑張ってもらうか」

「分かってはいたけど、数字にするとかなり違うんだね。20㎝かー。私って平均身長的にはちょっと低いだけのはずなんだけど、みんなに囲まれると凄く小っちゃく見えるんだよねー」


『はぁ……』と桜はため息をつく。


「私も茜ちゃんみたいに身長があって綺麗な感じになりたかったなー」


そう言って羨ましそうな視線を茜に送った。


「そうなのか?今ぐらいの感じが可愛くて良いと思うけどな」


何気ない優希の言葉に桜の顔が赤くなる。


「もうっ!恥ずかしい!」


桜はそう言って上目遣いで優希のことを睨みつけるが、優希は『悪い悪い』と全く悪びれた様子も無く笑っていた。

そんな二人の様子を眺めている海斗と茜。

そしておもむろに海斗が口を開いた。


「やっぱりアレだな。GWの前と後で二人の雰囲気が大分変わったか。雰囲気というか距離感だな。随分と距離が近くなった。まあ、元々近かったけど」

「そうね。今のやり取りだって桜は恥ずかしいなんて言ってるけど、見てるこっちが恥ずかしくなるようなやり取りよ?」


二人のその言葉に桜の動きが固まってしまう。


「そうか?俺はもっと近くなっても良いくらいなんだけど。まあそれでも、GW中の距離の詰め方でいえば二人には負けるけどな」


優希の少しからかうような言葉に、海斗はやれやれといった表情で首を横に振った。


「優希、何言ってるんだよ。GWのあんな短い時間だけで俺達のことを計って貰っちゃ困るな。こっちはこうなるまで12年掛けたんだぜ?干支が一周したっつーの」

「おー、12年前っていうと幼稚園か?見かけによらず一途なことで」

「『見かけによらず』は余計だ」

「おっと、悪いな」


そう言って優希と海斗は二人笑い合う。

しかし隣で聞いている桜と茜はたまったものではなかった。二人とも顔を赤くしたまま固まってしまっていた。


「優希君……!」

「ちょっと、海斗!」


ハッとした桜と茜は、それぞれの制服の袖を引っ張った。


「ここ学食よ。そういうのは家でやりなさい!」

「そう!……え、家なら良いの?」


茜の言葉に珍しく桜がツッコミを入れた。どうやら茜はいっぱいいっぱいの様子だった。

優希が改めて周囲を気にしてみると、近くの席に座っていた下級生たちがチラチラとこちらの様子を伺っているのが見て取れた。

優希と海斗は気にした様子も無かったが、女子二人はそうでもなかったのだろう。

食事自体は終わっていたこともあり、女子二人に急かされながら教室へと戻っていくのだった。

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