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デザインはどちらがお好み?

月曜日、実行委員会での内容を伝えると、教室内からも少しずつ文化祭ムードが漂い始めた。

それまでも放課後に交渉であったりと文化祭の準備をしてきたものの、今日から実質的に準備が解禁されたとも言えた。

放課後になってもいくつかのグループが準備のために教室に残っており、優希達のグループもその一つであった。


「で?なんで俺達は残されたんだ?」


帰ろうとしたところに海斗から声を掛けられ、今は優希達の机を囲むようにして、いつもの四人が座っていた。


「それはもちろん文化祭の準備さ」

「私たちがしないといけない準備って?スーパーでの買い出し以外に何かあったっけ?」


桜が不思議そうに首を傾げ言った。


「割り当てられた仕事としてはそれくらいだな。だけど、それだってまだ実際に買ったわけじゃないだろう?そこで、今日はその件を進めようと思う」


海斗はそう言って鞄から用紙を取り出すと、それぞれに配布した。


「なになに?……ああ、見積もりか。思ったより早かったな」


それは業務スーパーからの見積依頼書であった。正式な書類など見たことは無かったが、頭にも『御見積書』と書かれており、一目瞭然であった。


「昨日、店長からメールが来たんだよ。この金額でどうか?って。これが決まれば後の搬入について考えるだけだろう?さっさと決めてしまおうと思ってな」


海斗は早く決着をつけてしまいたい様子であった。


「この金額は俺達が提示したものとは若干変わってるか?」

「最終的に交渉した価格よりは少し値上げされてたな。ただ計算してみたけど、ほとんど希望通りだぞ。杏仁豆腐とか65%で要望した3つが70%に変わってるくらいだ」

「それなら、このままで進めてしまうか。単価が高くないから5%くらいなら誤差の範囲内だろう。二人はどう思う?」


優希は黙ったまま様子を伺っていた女性二人に話を振ってみる。


「ええ、良いんじゃないかしら」

「私も良いと思うよ。それじゃあ、またスーパーに行かないといけないの?」


用紙に視線を落としていた桜が、顔を上げ海斗に訊いてみた。


「いや、基本的にはメールと電話のやり取りで大丈夫みたいだ。向こうも忙しいしな」

「そっか。それなら手間も省けるね」

「移動する手間は省けるんだけど、メールの文章を考えるのがなー」


そういって海斗は頭を抱えていた。以前一通メールを送るだけでも結構な時間を要したことを考えれば、今後のやり取りでも苦労してしまうことは目に見えていた。


「メールは海斗が代表してやり取りしているものね。やっぱり、結構大変なのかしら?」

「まだそんなにやり取りをしたわけじゃないから、そこまで大変さは感じてないぞ。まあ、困ったらみんなに連絡させてもらうさ」


茜が少々心配した様に声を掛けると、海斗は安心させるように笑って見せる。


「そうだな。電話でもSNSでも連絡してくれ。とりあえず、今日はこの内容についてみんなで考えてみようか」

「お、催促したみたいで悪いな」

「もともとそのつもりだったんだろう?それじゃあ、返信内容のメインは購入金額に問題がないことと、支払い方法、支払期限はどうするかってところかな。こっちから投げかけてれば、また返事が来るだろう」

「それくらいなら、文章を考えるのも比較的簡単そうね」


優希が文面の方向性を決めると、それぞれが意見を出し始めた。そんなに長い文面にはならないだろうと考えていたが、四人が意見を出せば、思いのほか話し合いは長くなっていく。そんな時、ふと背後から声が掛かった。


「伊藤君。文化祭のことで相談があるんだけど、ちょっと来てもらっていい?」

「ん?榎本さん、どうかした?あ、悪い。ちょっと行ってくる」


優希は海斗達に一言詫びて、女生徒の後を着いて行く。

どうやら後ろの方の席で作業をしていたグループらしく、席には榎本以外にも二人の女生徒がいた。そして、その机の上にはスケッチブックが広げられていた。


「それで、どうかしたのかな?」

「私達、お店のデザインとか考える係なんだけど、ちょっと他の人にも見てもらいたくて。私達だけで考えてたら気付かないこともあるだろうし、男子の目線だと見え方も違うかなって」


なるほど、と優希は一人頷いた。


「ちょっと借りるね」


そしてスケッチブックを手に取るとパラパラと捲り、デザインを眺めていく。


「結構可愛い系のデザインなんだね。男装喫茶だし、男性感を出してくるとおもってたけど」

「ほら!やっぱりこういう意見もあるんだよ」


一人の女生徒が我が意を得たりといわんばかりに声を上げた。


「えー、でも『男装』だよ?お店の中心は女性なんだから可愛い方が良いじゃん」


どうやらグループ内でも意見が分かれているようだった。


「伊藤君はどっちが良いと思う?」

「ええ!俺に選ばせるの?困ったな」

「意見として聞くだけだから、気軽にね」


三人からの視線を浴びながら、優希はしばし考える。


「どちらかといえば可愛い系かな。俺の好みだけどね」


「ほら、やっぱり男子が見ても可愛い方が良いんだよ」

「むー。そうなのかな」

「気になるならクラスの皆に多数決採ってみようか?コピーを取らせてもらえれば、資料として配るよ。デザインを一任してるとはいえ、『みんなで選んだ』っていう事実があればクラスから不満も出にくいだろ?」


優希が提案すれば三人は揃って頷いた。案外意見を聞きたかったが、クラスに提案するということが出来なかったのかもしれない。


「それじゃあ、みんなに見せられるくらいに仕上げたら渡すね」

「ありがとう。よろしくね」


話はそこで終わりかと思っていると、まだ続きがあったようで再び話しかけられる。


「そういえば、衣装担当の子が言ってたけど、採寸?裾上げとかしないといけないから、制服早く欲しいねって言ってたよ」


その言葉に優希はハッとする。


「忘れてたー。教えてくれてありがとう。今度みんなに話してみるよ」

「いえいえ。私達こそ長々と話を聞いて貰ってありがとね。伊藤君達も何か話し合ってたんでしょ?」

「大丈夫だよ。また困ったらいつでも言ってね」


優希はそう言って微笑むと、桜たちの元へと戻っていった。


「あれ?桜は顔を赤くしてどうしたんだ?」

「さあ?」


海斗の言葉に優希は首を傾げるのであった。



桜side


「優希は行っちゃったけど、俺達で文章は決めてしまうか」


海斗は気にした様子も無く話を進めていこうとするが、どうやら桜は違ったようだ。


「桜、優希のことが気になるの?」


女性だけのグループへと誘われていった優希のことが気になるのか、桜はチラチラと優希の方へと視線を向けていた。


「べ、別に気になってなんかないよ。ただ、私も実行委員なのに何で優希君に声を掛けたのかなって思っただけだし」

「いや、めっちゃ気にしてるじゃん」


海斗が意地悪く言うと、桜は顔を赤くしてしまう。


「あの中の誰かが優希のことを好きだったり?『伊藤君とお話したいな』みたいな」


海斗がそんなことを適当に言うと、予想以上の反応が返ってくる。


「えっ、嘘!」


桜は驚いた表情で優希のいる方へ視線を向ける。


「いや、適当に言ってみたんだが、そんなに反応するとは思わなかった。悪い」


これだけの反応を示されると流石に申し訳ないと思ったのか、海斗は神妙な表情で謝罪の言葉を口にした。


「もうっ!」


冗談だと分かったものの、桜はちょっと怒ったような様子を見せる。


「だけど、優希ってクラスの女子の中では結構評判良いのよね」

「う、嘘……」

「残念ながら、これは事実よ。実行委員のこともあってみんなの前に出る機会が多いからかしらね。『しっかりしてそう』とか『みんなの前でも物怖じしなくてすごい』という評価を得ているみたいよ。あと一部の女子からは『転入生』というのがウケているみたいね。漫画みたいな展開を期待しているのかしら?」


茜がそんなクラス事情を説明していくと、桜は知らなかったのかどんどん元気が無くなっていった。

優希本人の前でそんな話題が出ることは無く、当然優希と一緒に居ることが多い桜の耳にも入るはずもない話であった。


「だけど、漫画のヒロインなんて言い出したら桜以上の存在はいないと思うがな」


桜は海斗のその言葉に不思議そうに首を傾げる。


「だってそうだろ?転入生が隣の部屋に引っ越してきて、しかも相手は一人暮らしなんだぞ?朝も毎日一緒に登校してきて、クラスの席も隣同士。漫画ならどれだけイベントが起こっているやら。……いや、むしろすでにイベントが起こっている……?」


海斗がそんなことを言っていると、いくつか思い当たる節があるのか桜の顔は再び赤く染まっていく。


「でも、覚えておきなさい。そういう風に考えてる女子もいるのよ。あんまりのんびりしてると誰かに盗られちゃうわよ」

「うぅ……」


茜がそこまで言ったところで、優希がこちらに向かってくるのが見え、この話はここまでとなった。

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