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準備時間は思ったよりも多かった

LHRが始まり、予定通り文化祭の話し合いが開始された。


「それでは今までの内容を整理すると、お菓子類、ケーキは確保。食器類はまだですね。まあ、普通に100均で賄える量なので、ギリギリでも大丈夫でしょう」


優希は板書された内容を確認していく。


「貸し出しリストは確認しましたので、こちらで集計して学校には申請しておきます。外が絡むのはこれくらいかな。それじゃあ後はクラス内での貸し出しについてですが、制服、クーラーボックスなど以前お願いした内容についてはいかがですか?」


律儀に桜が『制服』『クーラーボックス』と板書していく。


「ちなみに俺は一着用意出来ます」


誰も挙げなかったことから、きっかけになればと優希自身がそう切り出した。


「俺も一着なら用意できるぞ」


海斗が手を挙げそう言うと、それに続いて何人か手を挙げる。

十分な数だと判断した優希は制服の数を確定させると、次のクーラーボックスへと話を移す。先ほどの雰囲気が後押ししたのか、こちらはスムーズに手が挙がる。キャンプが趣味の家庭もあり、大きめのハードクーラーを含め、こちらも想定以上の数が集まった。最悪、発泡スチロールで凌ぐかと思っていた優希にとっては嬉しい誤算だった。


「ご協力ありがとうございます。これだけあれば十分対応可能かと思います。まだ時間もあることだし、他のことも確認しましょうか。デザイン関係はどうなってますか?」


そう言ってデザイン担当のリーダーへと視線を向ける。

女生徒は立ち上がり説明を始める。あまり人前で話すことに慣れていないのか、時折言葉に詰まりながら一生懸命言葉を紡ぐ。近くの席の生徒から声を掛けられると、思い出したように机から一枚の紙を取り出した。その女生徒から紙を受け取ると、そのまま前に出て黒板にデザインを簡単に描き始めた。

女生徒は描き終えると『今のところこんな感じで考えてるから。あとはよろしく』と告げて席へと戻っていった。

それを見て最初に説明していた女生徒が補足をすると、大体の内容は理解出来た。


「うーん、教室の3分の1くらいが調理場か。デザインは一任してるし、俺から言うことは何も無いんだけど。何か意見や質問がある人いませんか?」


そう訊いたものの、デザイン自体に意見は無いようだった。机の配置などに関しては実際に動かしてみないと分からないということで落ち着いた。


「あとは人員配置についてですが、お店のコンセプトが男装喫茶なので男子は裏方です。あー、でもどうしよう。教室外でのPRは男女のペアで行ってもらおうかな。変なやつがいるとも限らないし――」


そんなこんなで意見を出し合いながら話し合いは問題なく終了した。



そしてその意見を持って、翌日の文化祭実行委員会に優希と桜は臨んだ。


実行委員長である笹原みのりが、それぞれのクラスの備品申請や出し物の状況について確認していく。

ほかのクラスでもGWを利用して準備を進めていたようで、ほとんどのクラスが下準備を終えることが出来ていた。


「どのクラスも順調なようで何よりです。クラスの話し合いの中で疑問や確認しておきたいことはありましたか?」


みのりがそう告げるとパラパラと手が挙がる。

疑問に対してみのりが丁寧に対応していく。

そんな中、優希も確認しておきたいことがあったため手を挙げた。


「はい、どうぞ」

「文化祭の準備に関してですが、LHRや放課後以外の時間っていつから貰えるんですか?」


みのりが手元の資料を確認しながら、その問いに答える。


「なるほど。それは確かに気になるところですね。準備期間については中間テストが終わった後に時間を取ります。具体的には6月1日から10日までは午前中授業で午後を準備時間に充てます。また、文化祭前日の11日は終日準備になります。通常授業もありますので、大掛かりな移動や設置については前日での準備が基本になります。なので、それ以外の準備ですね。あとは設置するだけという状態をいかに作っておくかが大事だと思います」


優希はメモを取りながら内容を確認していく。


「ありがとうございます。ちなみに放課後の準備時間は何時まででしょうか?」

「もちろん完全下校時刻には全員下校してもらいます。特別な時間延長なんかはありませんのでご注意を」


そこまで言ってみのりは思い出したように言葉を続ける。


「こう言うと極稀に『完全下校時刻ギリギリまで準備をして下校時刻を守らない』という生徒が出ることがあります。賢い皆さんならお分かりですよね?『完全下校時刻』ですので。あまりに酷いとこちらもペナルティを考えないといけません。そういうことをしなくて良い様に学校側もしっかりと時間を取っています。お互いルールを守って円滑に進めていきましょう」


そう言ってニッコリと笑う。

笑顔ではあるものの、そこには有無を言わせぬオーラがあった。

優希以外のメンバーもコクコクと頷いているのが印象的であった。


「他になければ以上で終了します。次回は5月18日を予定してますので忘れないでくださいね。それではお疲れさまでした」


みのりの言葉でその場は解散となる。

しかしみのりは疲れてしまったのか、椅子に座ったまま机に突っ伏してぐでーっとしていた。


「みのり先輩、お疲れさまでした」


その言葉にみのりは顔をあげた。


「優希、それと桜だったか。お疲れ」

「随分と疲れてるみたいですね」

「ああ、流石に休み明けは身体が鈍っていてな。そうだ、優希はGWはどうだった?のんびり出来たか?」

「ええ」

「そうか。メリハリは大事だからな。二人はこのまま帰るんだろう?気を付けて帰るんだぞ」


その言葉を不思議に感じた優希が訊いてみた。


「あれ?みのり先輩は帰らないんですか?」

「私はもう少ししたら帰るよ。今日の会議の内容を纏めて、先生に報告だ」


特に気にした様子も無く言い放つと、立ち上がり自分の席へと戻っていった。


「それじゃあな」

「はい、さようなら」

「さようなら」


そうして優希と桜は三年生の教室をあとにして、帰宅の途に就いた。



「やっぱり休み明けは疲れちゃうね。明日からはまた休みだけど。優希君はどこかにお出かけするの?」

「うーん、どうだろう?食料調達くらいには出るかもしれないけど、家で映画でも見ながらのんびりしようかな」


桜の問いに優希は少々考え答えを口にする。


「優希君って映画が趣味なの?」

「趣味って言えるのかな?映画をちょこちょこ見始めたのはひとり暮らしを始めてからだし。やっぱり一人だと暇になることがあるんだよ」

「へー、やっぱりネット配信?」

「そうだな。昔みたいに借りに行くことは無くなったかも。そういう桜は休みは何をするんだ?」

「特に予定は無いかも。茜ちゃんが海斗君と付き合いだしたから、気軽には誘えないし」


桜は自分の予定を思い出しながら、交友関係の狭さにがっくりと肩を落とす。


「そんなもんかねー。俺は恋人なんていたこと無いし、良く分からないな」


何気なく言ったその言葉にがっくりと肩を落とし下を向いていた桜の顔が上を向いた。


「へ、へー、優希君って彼女いたことないんだ?」

「そうなんだよ。交友関係が狭いのがダメなのかもしれないな。福岡の時も幼馴染と一緒にいることが多かったし」

「優希君は彼女欲しいって思うのかな?」

「まあ、そうだな。自分のことを好きだって思ってくれてる子がいるのは嬉しいことだし」


そう言って優希は桜に向き直り笑う。


「もちろん、誰でも良いわけじゃないからな?」

「……参考までになんだけど、優希君が好きなタイプって?」


やけにグイグイ来るなと不思議に思いながらも優希はとりあえず答えていった。


「好きなタイプか。年は近いほうが良いかな。話題も合うだろうし。料理が得意で、家族と仲が良くて、見た目はセミロング、ポニーテールも良いな。それから――」


ふむふむと聞きながら、桜はその人物像が非常にイメージしやすいことに気が付いた。


「それって私じゃん!またからかって!もーっ!」


桜が上目遣いで睨みつけてくるものの、全く怖くは無く、むしろ可愛いとしか思えなかった。


「どうしたんだ桜?なんかグイグイ訊いてくるな?」

「周りの友達で恋人が出来たなんてあんまり無いから、優希君はどうなのかなって。ちょっと訊いてみただけだよ。深い意味は無いからね?」


桜はそう言ってプイっと目を逸らしてしまう。


「ほー。それじゃあ俺も訊いちゃおうかな。桜が好きなタイプ」


朝からこのパターンばかりだマズイと思い、桜は一歩優希から距離を取る。


「私の好きなタイプ……」


桜は恥ずかしくなってしまい俯くも、チラリと優希に視線を向ける。

今か今かと答えを笑顔で待っている優希の姿を見ると、


「秘密!」


そう言って早足で歩きだすのだった。



「からかってるわけじゃないんだけどな」


苦笑しながらそう言うも、その言葉が届くことは無かった。

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