もうバレた
GWも終わり再び学校生活が始まった。
優希と桜は今日も一緒に登校し、教室の扉をくぐる。
自分の席へと向かい鞄を置くと、茜が近づいてきた。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう、茜ちゃん」
しかしそこに海斗の姿は無く、不思議に思った優希が海斗の机に視線を送ると、そこには机に突っ伏している海斗の姿が見て取れた。
「海斗はどうしたんだ?体調悪いのか?」
その言葉に一度海斗へと視線を送ると、ため息をついて茜が理由を語りだした。
「あれね。単なる休みボケと寝不足よ。今朝だって全然家から出てこなくて大変だったんだから」
「まあ仕方ないよな。長期連休なんてそうそう無いし、羽目を外しちゃうんだろ」
優希は海斗の行動に理解があるのか、特に気にした様子は無かった。
茜も愚痴ってみたものの、それ以上は何も言わず桜へと視線を向けた。
「それにしても桜、今日はどうしたのイメチェン?」
茜は桜の背後に回ると、おもむろに髪を弄り始めた。
「ポニーテールなんて今までしてたことあったかしら。初めて見るのだけど?」
そんな様子を見ていたのか、面白いものを見つけたような表情で海斗が自分の机を離れやって来た。
「おはよう、二人とも。GW中はありがとな、誕生日を祝ってもらって」
「おはよう海斗。気にしなくていいぞ。俺が誕生日の時に盛大に祝ってもらうからな」
「海斗君おはよう。寝てなくていいのかな?」
「ああ、何だか面白そうな話をしてたからな」
そう言うと海斗も桜へと視線を向ける。
「ホントに髪型変わってる。長さが多少違うくらいは今までもあったけど、ここまで変わったのは初めて見たな。……これは何かあったか?」
わざとらしく桜を見た後に優希の方へと視線を送ると、優希は平然としているのに対し、桜はビクッと反応してしまう。
「まあ、これ以上は聞かないでおいてやるよ。これから夏に向かうし、首元が涼しそうで良いと思うぞ」
そう言うと、そのまま自分の机へと戻っていく。朝のHRの時間が近いこともあり、茜も自分の席へと戻っていった。
「それじゃあHRを始めるぞ。全員いるな」
担任の佐藤静香が教室を見回すと、そのまま出席簿にチェックしていく。
「GWが明けて休み気分が抜けないやつもいるだろうが体調管理は怠るなよ。これから夏休みまで祝日は無いが、中間テスト、文化祭、期末テストとやることは山ほどあるからな。しっかりとメリハリをつけて生活するように。以上だが、他に何か言っておきたいことがある者はいるか?」
優希が手を挙げ、静香の許可を得て立ち上がる。
「文化祭関連ですが、GW前にお願いしていた備品リストは完成してますか?出来ているグループは後で持ってきてくださいね。お願いします」
それだけ言って優希は席に着いた。
その言葉を受け静香が続ける。
「今日のLHRも文化祭の話し合いに充てる。各自準備して臨むように」
静香が教室を出るのと入れ違いで、一時間目の科目を受け持つ教師が入ってくる。
休み明けの気だるい授業が始まった。
「やっと昼休みかー」
優希がグッと伸びをしていると声が掛かる。
「優希、昼飯は相変わらず学食か?」
「ん?海斗か。そうだよ、一人暮らしの悲しいところだな」
「優希も彼女を作って生活改善が必要なんじゃないか?」
はいはいと聞き流そうかと思っていたが、どうにも聞き流せない部分があった。
「優希『も』ってなんだ?おやおや、もしかして?……桜!確保!」
隣で聞いていた桜に優希が指示をだす。指さした先には不思議そうな顔をしてこちらへ歩いてくる茜の姿があった。
「今日は教室で食べるぞ。ダッシュでパンを買ってくるから先に食べてて!」
海斗にそう告げると、文字通りダッシュで学食へと走っていった。
「あれ?優希君は?」
「パン買ってくるってさ。このまま待っていようぜ」
それから5分ほど経つと息を切らした優希が戻ってきた。
「いや、速すぎるだろ」
呆れた様子で海斗が言うも、優希は気にした様子は無かった。
優希達の机を囲む形で昼食が始まる。
「優希、何だか様子がおかしいけれど何かあったの?」
茜が向かいに座る桜に問いかけるも、桜は何と答えて良いのか分からず、困ったように笑っていた。
もちろんその声は優希にも届いていた。
「いやさっき、海斗から聞き逃せない言葉が聞こえてな」
「聞き逃せない言葉?」
不思議そうな顔で茜が訊き返した。
「ああ、どうやら海斗に彼女が出来たみたいなんだよ」
「かっ、かのっ……!」
茜の顔は真っ赤になってしまい、誰が見ても相手は一目瞭然であるが、優希はあえて気付かない振りをした。
「だろ?海斗」
「何だ、バレてたのか」
「それで?その彼女ってどんな子なんだ?」
「どんな子と言われてもなー。うーん、最高?」
「ほら、見た目とかあるだろ?綺麗系、可愛い系とか。海斗はその子のどんなところが好きなんだ?」
「そうだなー。それで言うと綺麗系だな。もちろん、仕草とか可愛い部分もあるんだぞ」
優希と海斗はチラッと茜に視線を送り、また向き直ると話を続ける。
「で、その子の好きなところだけど、色々あり過ぎて言葉にするのは難しいな。強いて挙げるなら一緒にいて自然なところか。この子しかいない!みたいな」
「へー、それは良かったな。おめでとう」
「おう、ありがと。結婚式には招待するからな」
茜をからかう意味もあり始めた会話だったが、優希の祝福の言葉は本物だった。
優希としてもいつか結婚する二人だろうとは思っていたが、まさか本人からこんなに早く結婚式という単語が出てくるとは思わなかった。
「……海斗!」
唐突な茜の声に驚き、優希と海斗がそちらを向くと、顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にした茜がこちらを睨みつけていた。
「海斗君の彼女さんって、茜ちゃんのことだよね?おめでとう」
それ以外はあり得ないというくらいの確信を持って桜は茜に祝福の言葉を贈る。
その言葉に先程とは違う恥ずかしさが押し寄せてきた茜は俯いてしまった。
「……ありがとう」
そんな茜の姿に、その場が暖かな空気に包まれる。
しかしそんな空気も長くは続かなかった。
「私だけ恥ずかしい思いをするのは納得いかないわ。代わりに桜がポニーテールにした経緯を教えて貰おうかしら」
その言葉に、今度は桜が慌て始めるのだった。




