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GWのある一日(晃成・葵編)その4

晃成に連れられ10分程度は歩いただろうか、目的の建物に到着した。


「到着しました。ここの1階です」


そこは比較的新しい2階建てのアパートであった。

晃成に勧められるままに葵は入室した。


「お邪魔します」

「狭いですけど、適当に寛いでいて下さいね」


そう言われて家の中を見回すも、そこは葵がイメージしている学生一人暮らしの広さではなかった。


「……狭い?これが?ここって結構高いんじゃない?」

「あはは、やっぱりそう思いますよね。父さんが不動産屋さんと交渉して値下げしてもらったんです。駐車場を使わないから別の部屋の人に貸す代わりに安くしてもらったり色々。そもそも1階なので2階と比べれば少し安いですしね。あ、安心してください。事故物件ではありませんから」


実際その物件は1LDKの築7年で、駅へのアクセスも遠すぎるという訳では無い。そのことを考えれば破格の条件であった。

リビングに荷物は多くなく、ソファとその前には木製の四角いテーブルが置かれていた。

それは部屋のサイズに合わせているのか、参考書やノートを広げても問題無いくらいの大きさだった。

晃成がソファに置いてあったクッションを手に取ると床に置き、そこに座るように促した。


「すみません。勉強するとなると床に座る感じになっちゃいますけど大丈夫でしたか?」

「……大丈夫。ありがとう」


葵は勧められた場所に腰を下ろすと、改めて部屋を見回した。


「……男の子の部屋って初めて入ったけど、なんかイメージと違うね。もっと散らかってると思ってた」

「俺も女性を入れたのは初めてですよ。というか、この家に限っては誰かを入れたのは葵先輩が初めてです」

「……そうなんだ」


晃成としてはちょっとしたアピールのつもりだったが、葵は気付いていないのかスルーしてしまった。


「部屋が散らかっていないという点に関しては、引っ越してきてまだ1か月ですから。でも、一応散らからないようには気を付けてますよ」


晃成はお盆に2リットル入りのペットボトルのお茶とコップを用意して戻ってくる。

そして葵の向かいではなく右側に座る。


「お腹いっぱいかもしれませんから、好きなタイミングでお茶は飲んでくださいね」

「……うん、ありがとう。それじゃあさっそく始めようか」


葵は参考書とノートを取り出す。対して晃成はプリントを取り出した。


「……それは課題?」

「はい、GW中に片づけないといけなくて……。葵先輩は課題は終わったんですか?」

「……今回は課題は出なかった。進路に合わせて個人で学習した方が効率的ということみたい」

「はー、なるほど」


二人は時折雑談を交えながらも勉強を進めていく。


「葵先輩、教えてもらって良いですか?数学なんですけど」

「……これは途中の計算が間違ってる。式自体は合ってるから、ゆっくり計算してみて」

「式は合ってたのか。ありがとうございます。もう一回やってみます。そういえば、葵先輩は進路って決めてるんですか?」


葵は一度手を止めて、その問いに答える。


「……私は家から通える範囲の大学に進学希望。学費が多く掛からないように公立に行けたらいいなとは思ってる」

「そうなんですね。それじゃあ、葵先輩が卒業しちゃっても会えますね」

「……そうなるのかな。合格しないことには何とも言えないけど」


晃成が安心した様に言うが、葵は安定のスルーであった。


「……ちょっと休憩しようか」


2時間ほど経ったところで、葵がそう言った。

んーっと頭上で手を組み伸びをする。その際に大きな胸が強調され、晃成は一瞬視線を奪われてしまったものの、慌てて目を逸らす。

そんな様子を葵は不思議そうに見ていた。


「……どうかした?」

「な、何でも無いです!」


『無防備過ぎるよー』なんてことを思いながら、晃成は顔を赤くしていた。


「晃成、ウチでのバイトはどう?勉強との両立は大変だと思うけど」


唐突な質問に少々面食らいながらも、晃成は正直に答える。


「もちろん楽しいですよ。でもどうしたんですか?急に」

「……お店じゃこんなこと訊けないから。私は勉強の時間も増えたし楽にはなったけど、無理させてたら嫌だなと思って」


葵はそう言って、少し困ったように笑う。


「確かにこの話はしにくいですね。だけど、俺は楽しいですよ。常連のお客さんの中には声を掛けてくれる人も出てきましたし。それに葵先輩にも会えますしね」


晃成はそう言って微笑む。


「……晃成はそう言ってくれるけど、私と居て楽しい?特に面白い話も出来ないし」

「もちろん!俺は葵先輩と居るときはいつも楽しいですよ」


葵は不思議そうにしながらも、裏表のない晃成の言葉に何だか心が暖かくなる。


「……そう、なんだ。男の子からそんな風に言われたの初めてだから、何だか嬉しいかも」


自然と葵の表情は笑顔になっていた。


「葵先輩は俺と居て楽しいって感じてくれてますか?」

「……うん、楽しい。今日だって、今まで男の子と二人で出掛けたりしたことが無いから色々新鮮」

「俺も女性と二人で出掛けるなんて初めてですよ。葵先輩さえ良ければ、これからも色々お誘いしていいですか?」

「……応えられるかは分からないけど、誘ってもらえること自体は嬉しい」

「それじゃあお言葉に甘えて、また誘っちゃいますね」


その後も勉強を続けているとあっという間に夕方になっていた。


「……そろそろ帰らないと。晩御飯の準備もあるし」

「あれ?もうそんな時間ですか」


スマホで時間を確認した葵は、広げていた勉強道具を片付け始める。


「送っていきますよ」

「……そんな、悪いよ」

「気にしないでください。俺が送りたいんです。それに晩御飯が何も無いので、そのまま何か買って帰りますから」


そう言って半ば強引ではあるものの、二人並んで葵の自宅であるカフェ葵へと歩き出す。


「葵先輩、今日はありがとうございました。貴重なお休みなのに時間を貰っちゃって」

「……ううん、気にしないで。嫌なら断ってるだけだから」

「そう言って貰えると助かります」


話しながら歩いていると帰り道はあっという間で、カフェ葵に到着する。


「……それじゃあまたね」

「はい、また!」


葵は小さく手を振ると、晃成は笑顔でそれに応えるのだった。

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