GWのある一日(晃成・葵編)その2
「……何にしようか?」
葵は二人で見られるように、メニューを横向きにしてテーブルに置く。
メニューを眺めていると、どうやらデザートに重点を置いているようだった。
「そうですね。クラブハウスサンドにしようかな。デザートも気になるし、食事は軽めで。葵先輩はどうします?」
「私は……」
ジッとメニューを見つめながら、葵は悩んでいた。
「うーん……」
「そんなに気になるメニューがあるんですか?」
「……うん。クラブハウスサンドとオムライスで悩んでる。ウチのお店でも出してるメニューだから気になって……」
その言葉に晃成は納得すると、ひとつ提案する。
「でしたら、僕のを半分どうぞ。そしたらどっちも食べられるでしょう?」
晃成はそう言って微笑む。
「……気持ちは嬉しいけど、半分も貰ったら晃成は足りないでしょ。私のを半分あげるね……。デザートも食べるんだっけ。どれにするの?」
晃成が再びメニューに視線を落とす。
「カフェアフォガードにします。葵先輩も何か食べますか?」
「……そうだね。せっかくだし」
そう言って『当店イチオシ』と書かれているパンケーキを指刺した。
「……オススメにしようかな」
写真にはワンプレートにパンケーキとフルーツが多く盛り付けられていた。
「大丈夫ですか?結構量がありそうですけど」
「……多分大丈夫」
自信があるのか、葵は胸の前でキュッと拳を握り頷いた。
「……それからホットコーヒーを貰おうかな」
「そうですね。せっかくだし、俺も何か飲もうかな」
再びメニューを確認し、他に注文が無いか葵に確認する。問題が無いことが確認出来たところで店員へ声を掛ける。
「すみません、注文良いですか?」
「はーい」
晃成は近づいてきた店員が準備を整えたところで注文を始める。
「クラブハウスサンドとオムライスを。それからホットコーヒー、カフェラテ、食後に――」
店員が復唱するとひとつ確認が入った。
「お飲み物はお食事と一緒でよろしかったですか?」
「あー、どうしよう」
チラッと葵に視線を送ると答えを求められたと思い、葵が代わりに答える。
「デザートと一緒にお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って軽く頭を下げると店員は下がっていった。
「……晃成。さっき、店員さんが分かりやすいように、ひとつひとつ入力するのを待ってたね」
「分かっちゃいました?もっと自然にしたかったなー」
晃成は気付かれたことが何となく恥ずかしくなり、照れたように笑った。
「自分が働くようになって、もっと色々気を使ったほうが良い場面が多かったんだなって、改めて思ったんです。自分がオーダーを受けた時に、もうちょっとゆっくり言って欲しいなとか」
「……そっか。晃成は偉いね。……そういう気持ちは大事」
そう言って葵は優しく微笑んだ。
それからしばし雑談していると料理が届く。
「……美味しそう」
「そうですね」
「……冷めないうちに食べちゃおう。いただきます」
「いただき……って、葵先輩、写真とか撮らないんですか?」
晃成の言葉に葵は不思議そうに首を傾げる。
「……なんで?」
「ほら、テレビとかでもよくやってますけど、SNSに上げるためとか、思い出にみたいな」
「……ああ。私はアレ、あんまり好きじゃないから」
そう言って葵の表情が若干曇る。晃成もそれには気付いたものの、理由が分からなければ似たようなケースで地雷を踏みかねないと考え、あえて言葉を重ねた。
「そうなんですか?」
「だって、私たちは料理を一番美味しいタイミングで出してる訳でしょ?それなのに、写真なんか撮ってたら料理が冷めちゃう。やっぱり作る側としては、それは悲しい……」
普段の葵よりも強めに言葉を発したことから、葵の本気度が窺えた。
晃成はしまったと思いながらも、これ以上料理が冷めないように食事を促した。
「ごめんなさい!俺が手を止めさせちゃいましたね」
「……ううん。気にしないで」
そう言いながらオムライスをスプーンで半分に切り分ける。
「……晃成は料理を写真に残すの?」
「たまに……」
申し訳なさそうに晃成は言った。
「……そう」
「ごめんなさい……」
「……謝らなくていい。あくまでも私の考え方というだけだから。もちろん、残したいっていう気持ちも分からなくは無いし、そういうシーンがあることも理解はしてるから」
自分の中で気持ちに折り合いはつけているのか、葵はひとり納得した様に頷くと、オムライスを食べ進めた。
「……うん、美味しい」
少し場の雰囲気が下がってしまったため、それを何とか元に戻そうと晃成は明るく振る舞い、自身も料理を口にした。
「こっちも美味しいですよ!」
「……ウチのとどっちが美味しい?」
「えっ⁉」
予想外の質問に晃成は固まってしまう。そんな様子に葵は言葉を重ねる。
「……こっちの方が美味しいんだ?」
「いやいや!それはもちろんカフェ葵のほうが――」
そこまで言いかけて晃成は気付いた。葵がクスクスと笑っていたのだ。
「葵先輩、俺のことからかいました?」
晃成はジトっとした視線を葵へ向ける。
「……何だか、晃成が暗い顔してたから。ちょっとした冗談……かな」
「もー!葵先輩に嫌われたかと思って心配したんですからね」
ちょっと怒ったように言いながらも、その表情は明らかにホッとしているのが傍目にも分かった。
「……こんなことで晃成のことを嫌いになったりしない」
特に表情を変えることもなく、当たり前のようにそう言った。晃成はそんな葵の言葉がとても嬉しかった。
「それは安心しました」
わざとらしくホッとした様子を見せる。
その後は会話を挟みながら和やかに食事が進んでいく。お互い自分の皿を半分食べ終われば交換し、また食べ進めていった。
「ふう、美味しかった。ウチからそんなに離れてる訳じゃないし、お客さんを取られないようにしなきゃ……」
食事をしながらもそんなことを考えるあたり、飲食店の娘だなと晃成は改めて思っていた。おそらく味や見た目についても自分なりに考察しているであろうことは想像に難くなかった。
「食後のデザート声を掛けますけど、まだ入りそうですか?」
「……大丈夫」
「それじゃあ。すみません、食後のコーヒーとデザートをお願いします」
オーダーを取ってくれた店員に再び声を掛けるのだった。




