GWのある一日(晃成・葵編)
5月4日、いよいよ葵との初デートだと晃成は意気込んでいた。実際には二人で勉強をするという名目であるため、葵がどう思っているのかは定かではなかった。
いつも葵の前では身だしなみには気を付けているものの、今日はいつも以上に気合を入れていた。
あえて駅前で待ち合わせをすることにしてデート感を演出し、晃成は葵に少しでも意識をしてもらおうと画策していた。
「ちょっと早く着きすぎたな」
スマホで時間を確認すると、約束の時間まであと30分もあった。
ネットで情報収集でもしながら待つかと思いスマホをしばらく弄っていると、ふと声が掛かった。
「あのー、すみません」
「はい?」
ふとスマホから顔を上げると、そこにはおそらく友人であろう大学生くらいの女性二人組が立っていた。二人とも髪を明るく染めており、服装は肩を出しスカートも短い。ギャル系といっても差し支えの無いいで立ちだった。
「道を教えて欲しいんですけど、良いですか?」
「僕で分かれば良いですけど?引っ越してきてそんな経ってないのでお役に立てるか」
スマホで地図を確認し、どのように行くのかということを伝えるだけだと思った晃成は軽く承諾する。
そんな返事を他所眼に、片方の女性が『ぼ、僕っ子……』と俯き悶えていた。もちろん晃成は気付かないし、『僕』という一人称も初対面の相手なので丁寧に話しただけなのだが。
悶えている女性を相方が肘で小突くと、ハッとした様に顔をあげスマホを見せてくる。
「ここなんですけど、分かりますか?」
晃成がスマホを確認すると、そこは確かに少し入り組んだところにあるお店だった。
「うーん、この辺りは僕も行ったことないですね。すみませんがお力にはなれないみたいです。ごめんなさい」
申し訳なさそうに晃成が断るも、そんなことは想定内だと言わんばかりに相手は食い下がってくる。
「だったら、一緒に探してもらえませんか?二人とも方向音痴で、ちゃんとたどり着けるか不安なんです。ほら、男性の方が地図が読めるって言うし。ね?行きましょう?」
悶えていた女性が唐突に晃成の手を取ると、少し顔を赤らめ微笑む。
「いえ、人との約束があって待ち合わせしてますので、ここを動くわけにはいかないんですよ」
手を振り払う訳にもいかず、晃成は少し困ったようにそう告げた。
「でも、さっきからずっと待ってますよね?そんなに待たせちゃう相手なんか、こっちだって少しくらい待たせても問題無いでしょ?」
どうしてこんなにも自分に固執するのか、晃成はそこでようやく気付いた。
(あれっ?これって逆ナンってやつなんじゃ?)
実はその通りで、いま手を繋いでいる女性の好みが晃成のような小柄で可愛らしい男の子であった。
二人で出掛けているところに晃成を見つけ、しばらく眺めていても相手が来ないことから痺れを切らして声を掛けたのだった。
「いやいや!僕が早く来すぎただけなので、待ってるのは当然なんですよ」
「じゃあ、連絡先だけでも交換しない?」
何が『じゃあ』なのかさっぱり分からないが、女性の態度もだんだん気安いものに変わっていく。
「いえ、初対面ですし、交換する理由が分からないですよ」
さすがに晃成も明らかに困った表情を見せていると、今度はまた違う女性から声が掛かる。
「……晃成?」
声がした方へ顔を向けると、そこには葵が不思議そうな顔をして立っていた。
「葵先輩!」
「……お友達?」
葵の視線が繋がれた手へと向けられる。
晃成はマズイと思ったものの、やはり女性の手を振り払うことが出来ず困った表情で女性を見つめると、渋々といった様子だが女性が手を離した。
「いやー、道が分からなくて案内してもらおうと思ったんですよ」
女性も背が低いわけではなかったが、自分よりも明らかに背の高い葵の姿に少々気後れしてしまう。
「そうなんです。俺じゃ土地勘も無いし分からなくて」
「……私で分かれば案内しましょうか?」
「いや!二人の邪魔しちゃ悪いし、ナビ使いながら探すから大丈夫!」
葵が親切心からそう言うも、相手は『彼女持ちだし、これ以上食い下がることにメリットは無い』と考え、早々に手を引いた。
二人はナビアプリを起動させると慌てたように歩き出した。
「……大丈夫かな?」
「大丈夫だと思いますよ。もし分からなければ、いまみたいに他の人に聞くでしょうし」
「……そう?それより、これでも早く来たつもりだったけど待たせちゃったね」
「いえいえ、俺が楽しみで早く来すぎただけなので気にしないでください」
葵が申し訳なさそうにいうと、そんなことはないとばかりに晃成は笑顔で否定する。
「……まずはお昼ご飯だね。お店はどうしようか?どこか行きたいところある?」
「お店は見つけてます!葵先輩がよければ、そこに行こうかと思うんですけど良いですか?」
「……うん、構わない」
「それじゃあ行きましょう。割と近くなんですよ」
晃成が笑顔でそう言って歩き出すと、葵も並んで歩き出すのだった。
メインの通りからは一つ外れているものの何気に人通りは多い。駅から5分ほど歩いた、そんな場所のそのお店はあった。
「ここです!」
お昼時には少し早いにも関わらず、すでに扉の外にも数組の客が列を作っていた。
「……ここって、この間オープンしたお店だよね?」
「そうです。あれ?もしかして来たことありました?」
ネットや地域の情報誌をみながら情報を集め、5月1日にオープンするというこのカフェを見つけたのだ。
「ううん。行ってみたいと思ってから良かった……」
その言葉に明らかに晃成がホッとした様子を見せる。
「……別に来たことがあるお店だって構わないんだよ?だけど、色々探してくれたんだね、ありがとう」
そう言って葵は微笑んだ。
そうやって話していると待ち時間もあっという間で、気づけば店内へ案内されていた。
窓際の席に案内されると、二人は向かい合って椅子に腰を下ろした。
晃成が周囲を見回すと、店内にいるのは女性だけのグループか、もしくは明らかにカップルであろう男女の姿しかなかった。
もちろん事前情報でそういう客層だということは理解していたものの、実際に自分がその中にいると思うと、晃成は何だか緊張してしまう。
まだ入店しただけなのに、これでは何とも先の思いやられる晃成であった。
 




