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GWのある一日(海斗・茜編)その4

翌日は悠のリクエストである職業体験が出来るというテーマパークにやって来た。

悠は茜のスマホを使い、車での移動中にもどんな職業があるのかということを何度もチェックする熱の入れようだった。


「それじゃあ行きましょうか。悠、まずはどこに行きたい?」


「んー。病院かな。お医者さんとかやってみたい」

「お、また就くのが難しそうな職業を選んだな」

「こういうところじゃないと体験出来ないからね。アルバイトで体験っていう訳にもいかないし」

「だそうだけど、碧はどうする?何かやりたいことがあったら私が一緒に行くわよ?」


茜が碧にそう問いかけるも、碧も病院に興味があったのだろう。首を横に振った。


「ううん。私も病院行ってみたい。看護師さんも体験できるんでしょ?」

「そうだよ」


しっかりとアトラクションをチェックしていた悠が即答する。


「だったら、私も病院が良い!」

「そう?それじゃあ行きましょうか」


碧の賛同も得られたところで病院施設があるブースへと移動する。

病院のブースでは医師、看護師、薬剤師のいずれかから職業を選択する形になる。

それぞれ移動先が違うようで、建物の外では職業別に列が出来ていた。


「お兄ちゃん、薬剤師って何?」


医師や看護師分かるものの、碧は薬剤師という職業にピンと来ていないようだった。


「薬剤師っていうのは、医者がどの薬を使うのか決めたら、それをその人に合わせて調整してくれる人、って言えばいいのかな。処方って言っても分からないよな。碧が風邪を引いて病院に行ったときに薬を出してくれる人も薬剤師だぞ」

「碧、お医者さんが人の身体についてのプロなら、薬剤師は薬のプロよ」

「んー?お医者さんよりも凄い?」

「どっちも患者さんの病気を治す大切な仕事よ」


海斗の説明を引き継ぐように茜が補足を入れる。


「へー、薬剤師にしようかな。何だか面白そう」

「あら、看護師さんは良かったの?」

「うん!あ、だけど、これじゃ、悠とはバラバラだね」


一人は心細いのか、碧は思案顔になる。

そんな様子を見ていたスタッフが近づいてきて声を掛けてきた。


「皆さんお連れ様ですか?もし良ければ、ご家族プランもございますよ」

「ご家族プラン?」

「はい。お子様によっては家族と一緒じゃないと嫌という方もいますので、そういう場合でも楽しめるプランとなっております。デメリットとしては、ひとつのシチュエーションを全員で共有しますので、手の空いてる時間が出来てしまうことです。お客様の場合ですと、ドクターが診察して、その後に薬剤師が処方しますので、仕事が始まる前、終わったあとに時間が出来ることが考えられます」


茜が聞き返すと、スタッフは丁寧に教えてくれる。

同様のケースは多々あるのか、スタッフの説明は手慣れたものであった。


「二人はどう?」


茜が問いかける。


「俺は構わないよ」

「私は一緒に出来るなら、それがいいな」


茜は頷くと、スタッフにその旨を伝える。

列に並び少し待っていると順番が回ってきた。


「それではこちらへどうぞ」


スタッフに案内され部屋に入ると、そこにはひとつの部屋に診察室、ベッド、調剤室が構えてあった。


「それでは着替えとお仕事の説明をしますので、お医者さんになりたい方はこちら、薬剤師になりたい方はあちらへどうぞ。保護者の皆様は、良ければあちらの椅子で見学下さい」


碧と悠以外のメンバーは勧められるままに椅子に座る。

他の客はいないため、雑談に花が咲く。

そうやって15分程すると碧と悠が戻ってきた。


「それじゃあ、まずは悠君からね。悠君はこの椅子に、碧ちゃんはこっちの椅子で見ててね」


そう言って準備を進めると、スタッフが見学席へとやって来た。


「すみません。もし良ければ男性の方でどなたかお手伝い頂けませんか?患者さんの役をお願いしたいのですが」


その言葉に海斗は相談すべく周囲を見回す。

しかし、父親たちだけでなく、女性陣も海斗を見て無言で微笑む。


「分かったよ。それじゃあ、俺がやります」

「ありがとうございます。悠君には風邪、インフルエンザ、腹痛、腰痛、高血圧症についてレクチャーしてありますので、問診の際にはいずれかの症状を伝えてあげてください」


海斗の言葉を聞き、そう伝えるとスタッフは戻っていく。


「催促したみたいで悪いな」


海斗の父である達也は全く悪びれた様子もなく、そんなことを言ってのける。


「みたいじゃなくて、あれは催促って言うんだよ」


そう言ってやれやれといった様子を見せていると離れたところから声が掛かった。


「羽田海斗さん、診察室へどうぞ」

「ほら、呼ばれてるぞ」


海斗は椅子から立ち上がり声がした方へ向かう。


「どうぞ、お掛けください。今日はどうされましたか?」


白衣に身を包んだ悠が問いかける。机の上には一応マニュアルがあるようだった。


「何だか昨日から熱があるみたいで……」

「なるほど――」


そうやっていくつか問診を進める。


「念のために胸の音を聴かせてもらいますね。そのままでいいですよ」


悠は服の上から聴診器を当てる。スタッフが男性に限定したのはこれがあるからだろう。


「検査の結果にも出てますがインフルエンザですね。お薬を出しておきますから、水分を摂ってしっかり休んでください」


通常であればカルテを書くのだろう。しかし簡易化されているため、直接処方箋を書いており、マニュアルを見ながら薬剤名を書いていた。


「それでは、こちらを薬局さんにお出しください。お大事に」


その言葉に今まで楽しげに悠が働く姿を見ていた碧がハッとする。

慌てて席を立つと、調剤スペースの椅子に座る。


「お願いしまーす」


カウンターを挟んで海斗が椅子に座り、先ほど受け取った処方箋を碧へ渡す。

碧も悠と同様に白衣に身を包んでいた。

碧は処方箋を確認すると、少々お待ち下さいと告げて、調剤室へ移動していく。

調剤室の中をところ狭しと動き回り、薬品棚から薬剤をピックアップしていく。

処方箋と相違が無いか何度も確認し、しばらくすると戻ってきた。


「お待たせしました。羽田さん、今日はどうされましたか?」

「昨日から熱があって、氷室先生からはインフルエンザだって言われました」


碧の仕事振りを眺めていた悠は『先生』と呼ばれて嬉しそうにしていた。


「インフルエンザですね。お薬はこちらになります。今回は吸入タイプが出てます。一回吸入するだけで良いので、飲み忘れも無くて楽ですよ。それから熱が上がった時用の解熱剤と、抵抗力が落ちてるのでインフルエンザ以外の病気に掛からないように抗菌薬も出してます。これは最後まで飲み切ってくださいね。もし喉が痛いということであればトローチも出しておきますがどうしますか?」


碧がつらつらと説明をしていく。マニュアルが手元にはあるものの、あまりそちらには目を向けていない。おそらく調剤室で時間が掛かっていたのはマニュアルを覚えていたのではないだろうか。碧の努力の跡が窺えた。


「いや、喉は何ともないから大丈夫です」

「分かりました。こちらの吸入はどうしますか?ここでやっていきませんか?」


碧の手元にも同様のものがあった。おそらく患者に教えるためのサンプルということなのだろう。

せっかくなので海斗はその提案に乗ることにした。


「それじゃあ、お願いしようかな」

「まずは――」


碧の指示のもと手順をこなしていく。


「はい、これで大丈夫です。それではお大事に」


薬を袋に詰め海斗に渡すと、碧が笑顔で見送る。

その笑顔はとても優しく慈愛に満ちたものであった。

長くなりそうなのでとりあえず、キリの良いところで投稿。


なお、小学生がこんなにちゃんと喋るか?とも思いましたが、文章として読みづらくなりそうなので普通に書きました。

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