従兄弟
入学式当日、会場となる体育館には新入生を除く全校生徒が集まっていた。
出席番号順(五十音順)に列が形成されており、いつものメンバーとは離れてしまう。列のほぼ先頭の優希とは違い、橋本、羽田、氷室と名字が近い三人は列の中ごろで固まっており雑談に興じていた。
ほぼ先頭のため雑談でもしようものなら目立ってしまうと考え、頭の中では今日の夕食、週末の予定など様々なことを思い描きながら時間が過ぎるのを待っていた。
「新入生入場」
司会を務める教師の声が響き、新入生が入場してくる。緊張している者や、友達同士で同じクラスになったのか楽しげに会話をしながら入ってくる者、実に様々である。
そうやって新入生を眺めていると、遠目に何だか見知った顔が見えて。
「あれって、晃成か?」
緊張しながら歩いているその姿は、従兄弟の「伊藤 晃成」だった。
気付くだろうかと軽く手を振ってみると、晃成もこちらに気付いたようで驚いたようにしながらもこちらに手を振り返してくる。
「まさか同じ学校になるとはな。後で連絡しておくか」
入学式もつつがなく終わり、体育館の整理など入学式の片付けに各クラスが駆り出されているとあっという間に昼休みになる。今日は片づけとHRで一日が終わりそうだ。
優希たちは教室に戻り昼ご飯をどうするかということを相談していた。
そんな時優希のスマホにSNSで連絡が入る。差出人を確認すると晃成の名前が表示されていた。
『兄ちゃん、今日の昼ごはんはどうするの?』
『晃成と違って午後もあるから、学食で食べるか、学食で買ったものを教室で食べるかの二択だ』
『それじゃあ、学食で一緒に食べない?俺もまだ食べてないんだ』
スマホに集中していると桜から声を掛けられる。
「優希君はお昼どうする?」
昨日も入学式の準備があったとはいえ午後まで授業はあった。昨日は学食の場所を教えて貰うついでにみんなで学食で食べたのだ。
「今日も学食かな。何も買ってきてないし。桜は弁当があるんだろう?」
そういうと桜以外の海斗、茜も弁当を持ってきていることをアピールしてきた。
「げ、弁当持ちじゃないのは俺だけか」
「そういうことだな。だが、学食は設備も良くて過ごしやすいからな、寂しがりの優希君のために一緒に居てあげようじゃないか」
そう言って海斗はみんなで学食に行くことを提案する。桜も茜も問題無いといった感じで了承している様子だ。素早く晃成にSNSの返事を送ると四人で学食へ向かうのだった。
学食に到着し優希が周囲を見渡すと
「優希君、どうかした?」
桜が不思議そうに訊いてくる。何でもないと言いながら、空いている席を探そうかと再び周囲を見渡すと
「兄ちゃーん!こっちこっち!」
明らかにこちらを見ながら声を上げる晃成の姿が目に飛び込んできた。
優希は無言で晃成に近づき軽くデコピンをして黙らせる。
「晃成うるさい」
「いやー、ごめんごめん。久しぶりに会ったからつい。ほら、席確保しておいたから一緒に食べようよ」
晃成はおでこを押さえながら嬉しそうに笑う。
「そうは言っても一人で来てる訳じゃないからな」
「えー、学食に来るって言ってたのは、ホントに来ただけ?」
「まあ、そういうことだな」
そんなやりとりをしていると三人が近づいてきた。
「良いじゃねえか、みんなで食べようぜ。席も空いてるみたいだし」
海斗が優希の肩を組み、友達感を演出する。
「俺は羽田海斗。よろしくな」
「氷室茜よ」
「橋本桜です……」
それぞれが挨拶をするも、桜の様子がどうにもらしくない。
「伊藤晃成です。よろしくお願いします」
「さっき兄ちゃんって呼んでたけど、優希君の弟さんかしら?」
「いや、従兄弟だよ。父親同士が兄弟なんだ」
「なるほど、確かにあんまり似てないな。どちらかと言えば、晃成はちょっと可愛い系か?身長も……」
「羽田先輩、僕はまだまだ成長期ですから!来年には羽田先輩の身長を追い抜く予定です」
根拠もないが晃成が自慢げにそんな話をしていると、優希が一歩その場を離れ、桜の隣へ移動する。
「桜、どうした?」
「え、何が?あー、初めて会う人だからちょっと緊張しちゃって」
「そう言えばそんな設定だったな」
「設定って言うな!」
そんな姿を三人は眺めながら、晃成は海斗に聞く。
「羽田先輩。橋本先輩って、兄ちゃんの彼女ですか?」
「あ、やっぱりそう見えるよな?あれで付き合ってないし、何なら知り合って三日目だからな」
「へー、兄ちゃんやるなあ。あ、みなさん話してばかりでは時間も無いですし、とりあえず注文して来てはどうですか?」
「私たちはお弁当だから大丈夫よ。優希君、早く買ってらっしゃい」
そう促され優希は列に並びに行く。優希がテーブルに戻ると、晃成、ほか三人で向かい合い座って居た。優希は晃成の隣に座り
「悪い、お待たせ。それじゃあいただきます」
食事の挨拶を済ませるとそれぞれが食事を始める。
「そういえば兄ちゃん、そもそもの質問なんだけど、何でこっちにいるの?伯父さん達はまた転勤になったって聞いてるけど」
「ああ、それな。父さんの転勤が取りやめになったんだよ。ただ、俺は試験も受けて編入が決まってたし、卒業するまでの二年くらいならってことで一人暮らし満喫中だよ」
「え!優希君って一人暮らしなの!?」
「何で桜が驚いてるのよ。同じマンションなのでしょう?」
茜が不思議そうに桜に訊くと
「同じマンションだからだよ。一人暮らしには広いから。確かに一人分のお弁当買ってて、言われてみればって感じかも」
桜は今までの様子を思い出し一人で納得していた。
「そういう晃成はどうなんだ?通学圏内からは遠いと思うけど」
「俺も一人暮らしだよ。星ヶ丘に来たかったからいっぱい勉強したんだ。両親も勉強を頑張ることを条件に一人暮らしの許可をくれたんだ」
「そうか、叔父さんもウチの父さんと同じ考えだったな」
「「学生時代に勉強を頑張って良い大学に入れば、残りの人生はイージーモードだ」」