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GWのある一日(海斗・茜編)その2

動物園を回った日の夜、羽田家、氷室家は旅館に宿を取っていた。

ビジネスホテル、ビジネス旅館ではプライベート感が薄れるということで、多少値が張ったものの、観光用の温泉旅館を選んだのだ。

とはいえ、さすがに両家が同じ部屋ということは無く、隣同士の部屋ではあるが家族ごとで別れていた。


「やっと着いたー」


海斗は荷物を置くと、そのまま畳に大の字に寝転がる。


「お兄ちゃん、もう寝ちゃうの?」


せっかくの旅行に来て、早々に寝てしまうことに不満なのだろう。碧が四つん這いで近づきてきて、そのまま海斗のお腹に跨った。


「大丈夫、ちょっと休んでるだけだよ。それより、重たいからどいてくれないか?」


海斗が冗談めかしてそう言うと、わざとらしく碧が驚いた表情に変わった。


「まあ!女性に重たいなんて失礼ね!私は羽のように軽いんだから!」


まさか碧がそんなことを言うとは思っておらず呆気に取られたものの途端に笑い出す。


「どうした碧、誰かの真似か?」

「んー?ママ」


あっさりと元ネタが分かると、それと同時に違う方から声が響いた。


「碧!……もうっ!」

「母さん、人間はそんなに軽くないに決まってるだろ」

「分かってるわよ、言葉のアヤでしょ!パパも何笑ってるの?」

「いや、子供はよく見てるんだなと思ってね。海斗、疲れてるんだったら温泉に入ってきたらどうだ?ママと碧も入っておいでよ」

「パパは?」


疑問に思った碧が問いかけると、その質問は想定内だったのだろう。


「パパは荷物番してるよ。あとで茜ちゃんのパパと一緒に入るさ」


タイミングを計ったかのように扉がノックされると、返事も待たずにそのまま扉が開いた。


「兄ちゃん、一緒にお風呂入ろう!お父さんは後で入るって言うし、俺一人じゃつまらない!」

「悠、勝手に入って行ったらダメでしょ」


海斗が声のした方へ視線を向けると悠が室内用のスリッパを脱ぎ捨て駆け寄ってくるのが見えた。その向こう、入口の所には茜とその母である凜の姿があった。


「あっ!茜ちゃん!入ってきていいよー」


碧は茜の言葉を真面目に受け止めたのか、そう言って入室の許可を与える。

「碧、ありがとね」


茜と凜も入室し碧に近づくと、ポンポンと優しく頭を撫でた。

茜は嬉しそうにえへへと頬を緩めた。


「それで、二人も温泉に入るのか?」


碧はお腹に乗せたままのため、二人を下から見上げながら海斗は言う。


「ええ、お父さんから追い出されてしまったわ」


視線を父に向けると、わざとらしくスマホを見せ笑う。今まさにやり取りをしているのだろう。


「海斗は行かないの?」

「そういう訳にもいかないだろ」


海斗が上半身を起こすと、バランスを崩した碧が後ろに転がる。悪い悪いと海斗は碧の脇腹に手を添え持ち上げようとすると、くすぐったかったのか碧がモゾモゾを動き、茜の後ろへと隠れてしまった。


「碧、お風呂に入る準備をしようか。母さんに訊いてみな」



響子が手招きすると、碧はそちらに移動する。キャリーバッグから替えの下着なんかを出すのだろう。


「海斗はこれね」


キャリーバッグの前が空くのを待っていると響子から着替えと備え付けの浴衣と脱いだ服などを入れる手提げ袋が渡された。


「おお、ありがと。というか浴衣なのか?着替えは持ってきたと思うけど」

「何言ってるのよ。旅館と言えば浴衣でしょ」


やれやれといった表情を響子は見せた。


「まあ、何でも良いんだけど」


響子達も準備が完了し、立ち上がる。


「それじゃあ、行ってくるわね」

「ああ、ごゆっくり」


六人でぞろぞろと温泉へと向けて歩き出す。


「海斗君が一緒に来てくれて助かったわ。悠が一人だと心配で」

「お母さん、俺だってもう六年生だよ?一人でも大丈夫だって」

「あら?海斗はお呼びじゃなかったようね。残念ね」

「全くだ。お呼びじゃないなら俺も父さん達と入ろうかな」

「えっ!」


凛、響子、海斗にからかわれていると、悠も冗談だろうと思いながらも少し慌て始めた。


「やっぱり、一人じゃ寂しいなー」


そんなことを棒読みで言う悠の姿に笑いを堪えるのが大変なのであった。


「それじゃあまた後で」


入口で別れ、それぞれが脱衣所へと入って行った。



茜side


「碧、お風呂に入る前に身体を洗うのよ」

「はーい」


碧は茜に言われるままに洗い場へ向かい、椅子に座る。


「茜ちゃん、洗って―!」

「碧、自分で洗えるんでしょう?」

「こんな時しか洗ってもらえないから……。ダメ?」


ちょうど後ろに立っていた茜に鏡越し視線を送る。


「仕方ないわね」


隣から椅子を持ってきて碧の後ろに腰を下ろした。


「それじゃあ、頭から洗っていくわよ」


そんな姿を母親二人は微笑ましく見ていた。


「ホントに碧は茜ちゃんに懐いてるわねー」

「ねー。傍から見てると姉妹か、下手すると親子よ」

「え、親子?私の存在意義が……。だけど、茜ちゃんがホントにお姉ちゃんになってくれると、碧も喜んでくれると思うんだけど」

「まあ、それは本人たち次第ね。私はそう遠くない未来にそうなる気はしてるのだけど」

「あー、それは私も思うわ。特に最近、前にも増して海斗がアピールしてるみたいだしね。何かあったのかしら?」

「茜の方は相変わらず、というか変わらず海斗君のことが好きなんでしょうし」


自分達の子供はいくつになっても可愛いもので、子供達の話に花が咲いていた。


「ちょっと二人とも……。全部聞こえてるんだけど」


碧の髪を洗いながらも視線を二人に向ける。その表情は湯船に浸かっていないにも関わらず、すでに赤くなっていた。

そしてシャンプーを流し終わったタイミングで碧も会話に参入してきた。


「茜ちゃんはお兄ちゃんのこと好きなんだよね?」


小学五年生ともなると恋愛にも興味があり、目を輝かせながらストレートに訊いてくる。碧の頭の中では、茜が漫画で読む学園恋愛もののような学校生活を送っていると考えているのだろうか?


「えっと……」


碧はワクワクした表情で茜を見つめ、先程まであれだけ話していた母親二人も茜の答えを聞き逃さないようにと黙って茜のことを見つめていた。

ここで適当なことを言ってお茶を濁すこともできたが、嘘を付くのも嫌だと感じた茜は碧に顔を寄せ耳打ちすることにした


「――よ。内緒だからね?」


その言葉を聞いた碧は笑顔になる。


「碧だけズルい!茜ちゃんは何て?」

「ダメ!茜ちゃんと二人だけの秘密だもん」


茜はボロを出さないようにと、口を挟まず微笑むに留めるのだった。

母親二人は碧の反応から想像は付いているものの、それ以上追及はしなかった。

その後はお返しとばかりに碧が茜の身体を洗い、のんびりとみんなで温泉に浸かる。

茜達と同じところに座ろうとすると身長が足りず顔が使ってしまうため、碧は茜の膝の上に座り、背中を預けるようにして温泉に浸かっていた。


「やっぱり私よりも茜ちゃんに懐いてない?」

「普段は一緒にお風呂に入ることも無いし、茜に甘えたいんでしょ」


のんびり浸かっていると、ふと碧が振り返り茜の顔をじっと見つめる。


「どうしたの?」

「茜ちゃんが眼鏡外したところを見るのって久しぶり。茜ちゃん、やっぱり綺麗!」

「ありがと」

「お兄ちゃんにも見せてあげたらいいのに」


まさかそこから海斗に話が繋がるとは思っていなかった茜は少々戸惑ってしまった。


「……海斗は眼鏡を掛けてる女子は嫌いかしら?」

「んー?そんな話は聞いたことないけど、お兄ちゃんが茜ちゃんのことをもっと好きになっちゃうかもね」


言った後に小学生に何を訊いているのだろう?と思ったものの、もっと好きになるという言葉を聞くと、それがとても良いプランに思えてきた。


「茜、コンタクトに替える?」


茜の考えを察したかのように絶妙なタイミングで凜が声を掛けてきた。


「えっ!」


何故考えてきたことが分かったのかと言いたげな表情で凜を見ると、凛はそんな茜を見てクスクスと笑っていた。


「あら、要らなかったかしら?」

「……いる」

「ふふっ、それじゃあGW明けにでも眼科に行ってきなさい。コンタクト代くらい出してあげるわ」

「ありがと……」


その後もしばらく温泉に浸かっていると、碧が耐えられなくなったようだった。


「もう上がる。熱い」

「あら、そうなの?お母さん達は?」

「もう少し浸かっていたいところだけど」

「それじゃあ、私が一緒にいるからゆっくりしてて」

「ありがとね」


凜はそう言って茜と碧を見送った。


「茜ちゃんには助けられるわー」

「この旅行で少しくらい二人の関係が進展してくれると良いのだけど」


二人はその後も海斗と茜の関係をネタに会話を楽しむのであった。


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