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GWのある一日(海斗・茜編)

「わー!可愛い―!」

「碧、あんまり走るなよ。動物も驚いて逃げちゃうからな」


羽田家、橋本家は揃って動物園に来ていた。規模も比較的大きく動物の種類も多いことから、客の数多く非常に賑わいを見せていた。

キリン、ゾウと定番の動物を見て園内を歩き回っていると、遠くにふれあいコーナーが見え碧のテンションが目に見えて上がる。

大人四人は子守は任せたとばかりに後ろの方を歩いており、基本的には海斗と茜が面倒を見る形となっていた。

海斗の妹である碧はグイグイと海斗の手を引っ張りながら、早く行きたいと身体で表現していた。

コーナーに入ると一目散に目の前のウサギへと掛けていくが、それに海斗が声を掛けるのだった。

実際に駆け寄ってきた碧に驚いたのか、ウサギが数匹、碧の近くから離れていく。


「ウサギさん……」

「碧、しゃがんでゆっくり手を伸ばしてみて。それで逃げなかったら触ってみましょうか。おでことか背中が喜ぶわよ。もちろん優しくね?」


声に振り帰れば茜とその弟の悠が立っていた。


「茜、随分と詳しいんだな」

「入口に書いてあったわよ。二人ともさっさと中に入っちゃうんですもの」


悠の足元にウサギが近づいてくる。

悠はその場にしゃがみ込むと、入口のアドバイス通りにゆっくりと手を伸ばす。

一瞬ウサギの動きが固まるものの、手を伸ばしたままにしているとウサギの方から寄ってきて、指先にグリグリとおでこを擦りつけてきた。やはり随分と人馴れしている様子であった。

こちらからも手を動かしおでこを撫でてあげると、ウサギは表情を緩めされるがままになっていた。


「悠、私も触るー」


羨ましそうにしながら碧は悠の隣に腰を下ろす。


「碧、急に触るとウサギも驚くから、手を見せながら『触りますよ』ってアピールしながら触るんだぞ」

「はーい!ウサギさん、触りますよー」


海斗の言葉に従い、碧がゆっくりと手を伸ばす。ヒラヒラと顔の前で数度手を振ると、そのまま背中を撫で始めた。

ウサギは逃げることも無くその手を受け入れていた。

そんな様子が羨ましかったのか、一匹のウサギが茜の元へとやって来た。


「あら、あなたも撫でて欲しいの?」


茜はそれに気付くとしゃがみ込み、優しく言いながらおでこを撫で始める。

海斗もその隣に腰を下ろすと、そんな茜の様子を眺めていた。


「やっぱり人に慣れてるわね。向こうから寄ってくるなんて」


そんなことを言いながらも、おでこ、背中と撫でていく。


「そうだな。エサを持ってるとでも思われてるかもしれないが」


海斗もウサギに手を伸ばし、ほっぺたをムニムニと触っていく。


「まったく、海斗は夢が無いわね。そんな現実的な回答は求めてないわ」


やれやれと言った様子で茜は海斗へ視線を向ける。しかし、その手はウサギを撫で続けていた。


「碧がこんなに喜ぶなら、何か動物を飼えればとは思うんだけど、みんな仕事や学校があるからなー。きちんと面倒を見られる人間がいないのは無責任だし」

「ウチも似たようなものね。それに、動物を飼うとこんな風に旅行にも来られなくなっちゃうのよね」


隣でウサギを構い続ける小学生二人を横目に、そんなちょっとした悩みを口にしていた。


「あっ」


碧が声を上げるとウサギが二人の元から離れていった。流石に嫌がったのだろうか?


「茜ちゃん、ウサギさん行っちゃった……」


立ち上がり少々寂しそうに言うと、悠が碧に声を掛ける。


「碧、あっちに違う動物もいるみたい。行ってみようよ」


悠は碧の手を取り歩いていく。

碧は『うんっ』と頷くと、悠に着いて行くのだった。


「悠」

「すぐそこだよ」


茜が声を掛けると、首だけで振り返り悠は返事をする。実際にすぐそこだったようで、スタッフの女性に声を掛けられていた。

遠目に様子を伺っていると、碧がこちらに駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん達!こっち来て、早く!」

「どうした?」


碧に手を引かれながらスタッフの元へと連れてこられる。

どうやらモルモットのふれあいコーナーらしく、先ほどのウサギとは違い抱くことが出来るとのことだった。保護者が必要だったらしく、慌てて碧が呼びに来たのだ。


「それでは、そちらにおかけ下さい」


ベンチに四人で腰掛け、渡されたタオルを膝に掛ける。動物の毛が付かないようにという配慮だろう。


「申し訳ございません。他のお客様もおりますので、一度に三匹までという決まりになっておりまして」

「でしたら、俺は大丈夫です。他の三人にお願いします」

「ありがとうございます。それでは……。」


そう言ってモルモットを碧、悠、茜の膝に乗せていく。モルモットは乗った瞬間はモゾモゾと動いていたが、収まりの良い部分を見つけると落ち着きを見せた。


「優しく撫でてあげて下さいね。上から触るとビックリしちゃいますので、一度手を見せてからゆっくり撫でてあげて下さい」


そう言って一歩下がると笑顔で周囲の様子を観察し始めた。


「悠、ほら、モフモフだよー」

「そうだね。モフモフだ」


ウサギが離れていった時とは打って変わって、ニコニコとしながら悠へと話し掛ける。やはり自分の上に乗っているというのは触れるだけとは少々違うようだ。

悠も満更ではない様子で、笑顔でモルモットの背中を撫でるのであった。


「海斗は良かったの?」

「構わないさ。触れない訳じゃないし」


そう言って身体を少し茜の方に寄せると、海斗はモルモットへと手を伸ばす。もちろん驚かせないように手を見せてゆっくりとした動作であった。当然肩や膝が触れ合うが、その程度のことで今更反応する二人ではなかった。


「犬とかウサギみたいな大きい動物は世話も大変そうだけど、ハムスターくらいなら飼えるのかもしれないわね。さすがに君はちょっと大きすぎるけど。ね、モルモット君?」


ニコニコとしながら、茜はモルモットに話しかける。そんな様子を海斗は楽しげに眺めていた。

学校ではあまり見せることが無い表情だが、海斗の中ではそれほど珍しいというものではなかった。


「そうだなー。散歩も必要無いし、エサもたくさん準備しておけば多少家を空けても大丈夫かもしれないな」


そう言いながら撫でていると落ち着いていたはずのモルモットが動き出す。

少しずつ海斗の方へ移動を開始すると茜の左脚、海斗の右脚にまたがる形で動きを止めた。


「何という中途半端なところで」


海斗が頭を撫でながら笑っていると、同じ気持ちだったのか茜も笑っていた。

距離が空いてしまうとモルモットの居心地が悪いだろうと、茜はぴったりと足を海斗にくっつける。

当然肩も触れ合い、今まで以上に二人の距離は近くなる。

茜はモルモットのことを優先して考えているため、周囲からどう見えているかなんてことは全然考えていなかった。もちろん、隣にいるのが海斗でなければ、こんな風に気を許すことも無いのだが。


「お姉さん、写真撮ってもらっても良いですか?」


スタッフの女性は笑顔で頷き近づくと海斗からスマホを受けとる。


「先に隣の二人をお願いします」


スタッフが悠と碧にカメラを向けると二人は好きなポーズを取り、一人ずつ、時には二人並んで数枚の写真を撮ってもらった。


「それではお二人もこちらを向いてくださいね」


その声に海斗と茜は視線を向ける。何も言わずともその表情は自然な笑顔であった。

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