GWのある一日(優希・桜編)その4
二人はゲームエリアにやってきた。せっかく着替えたのにまた汗をかくのも馬鹿らしいし、改めてスポーツという雰囲気では無くなっていた。
「さて、全部フリープレイみたいだし、何でもいいぞ。何しようか?」
「フリープレイってことはタダなの?」
「タダというか、ゲームの料金も入場料に含まれてるってことかな」
「へー。じゃあねー、あの太鼓叩くやつ!」
桜の視線の先にはメジャーなリズムゲームの筐体があった。
周囲にはギターやドラム、ピアノなどの音楽ゲームがあるが、確かにこれが初心者には一番分かりやすいだろう。
現在小学生の男女がプレイしており、それを大人二人が見守っていた。おそらく家族連れなのだろう。
程なくするとゲームが終了し順番が回ってきた。
「桜、やり方分かるか?」
「え、何が?」
不思議そうにしている桜は手慣れた様子で画面を進めていく。
その様子に優希は少々驚いた。
「あれ?もしかしてプレイしたことある?」
「うん、あるよー?」
「『太鼓叩くやつ』なんてざっくり言うから、てっきりやったことないと思ったよ」
「あはは、ごめんね」
そんな軽口を叩いていると選曲画面へと変わる。
「どの曲にしようか?」
「何でも大丈夫だよ。まずは優希君から選んで良いよ」
桜は自信ありげにそう言った。
「ほー。それじゃあこれで」
優希は譜面の中でも難しい曲を選ぶ。フリープレイのため、二人ともクリア出来ずとも惜しくないということもあったからだ。
「大丈夫だよー」
桜は気軽に言いながらも、難易度選択で太鼓のフチを連打してさらに難しい譜面を呼び出した。
「マジかよ……」
「リズムゲームは好きなんだよー」
負けじと優希も同じ難易度を選択しゲームが始まった。
ノーツが比較的少ない序盤は何とか叩けた優希だったが、一度リズムを外すとそこからは調子を取り戻すことなく、結果は散々たるものであった。
対して桜はというと、フルコンボとはいかないものの、安定して点数を稼ぎクリアするには十分なプレイであった。
「結構上手いでしょー」
桜は得意げに言いながら笑う。
「結構なんてもんじゃないと思うけど……」
「そう?私くらいは普通にいるよ」
ゲーマーの世界は深すぎる……、優希は改めてそう感じていた。
「さて、それじゃあ私が曲を選ぶ番だね!」
桜が選んだ曲はさらに難しい曲だった。
それを見て優希は大人しくレベルを下げる。おそらくこれで普通にプレイが出来ることだろう。
そして曲が始まると、桜の方から激しく連打する音が聞こえてくる。遠巻きに桜の姿を見る人もいるようだった。
「あー、ダメかー!」
流石に桜でもクリアが出来ずゲージの半分程度で曲が終了した。
「桜にこんな特技があったなんてな」
太鼓の筐体を離れ、次に何をするか歩きながら別の筐体を見て回る。
「意外だった?」
「そもそもゲームをしてる印象が無くてな」
「んー、そういえばプレイするの久しぶりだったかも」
優希と出会ってからというもの一緒にいる時間も多く、一人でゲームセンターに行く機会も減っていたのだ。
このような理由が浮かんだものの、桜がそこについて触れることは無かった。
「次はあれでもやろうか」
優希の視線の先にはクイズゲームの筐体があった。
昨今当たり前になっているオンライン対戦型の筐体ではなく、クイズに正解するごとに子供が成長していく、懐かしいタイプのクイズゲームだった。
「97年だって。生まれる前のゲームだよ」
「だな。まあまあ、やってみようぜ」
二人は椅子に横並びに座りスタートボタンを押す。
対戦が出来るタイプではあったが、あえて対戦はせず二人で答えを考えることにして、優希が代表して操作することとなった。
「あ、子供の性別と名前を決めてだって」
「げっ、選択式じゃなくて直接入力か。しかも無駄に時間が長いし」
画面には五十音表と性別を選択するように表示がされていた。
「優希君は男の子と女の子どっちが良い?」
「んー、女の子かな。桜は?」
「私も女の子が良いなー。良かった、一緒だね」
そう言って桜は微笑んだ。
「じゃあ、女の子の名前を考えなくちゃね。『めぐみ』とかどう?」
「ふむ、その心は?」
「意味?幸せや友達に恵まれる子に育って欲しいって感じかな」
「なるほど」
「優希君はなんていう名前が良いの?」
「『かすみ』とか良いな。かすみ草の花言葉が清らかな心、幸福なんだ。あと個人的に花の名前が好き。さっきもパッと浮かんだのが桜と葵だったからな。どっちもいるじゃんって思って候補から外したけど」
「かすみちゃんかー。可愛くて良いんじゃないかな。ちゃんと意味もあって」
まるで自分たちの本当の子供の名前を考えるかのように真剣に話し合う二人。会話だけ聞いていると夫婦のそれであるが、あいにくツッコミを入れる人間はここにはいなかった。
そうこうしていると時間も迫ってきたため、名前はかすみで決定した。
「正解した問題の種類によって成長の仕方が違うんだね」
プレイ開始前の説明を見ながら桜はそう言った。
「俺たちの子供がどんな風に育つのか楽しみだな」
優希は何気ないように言って笑う。
しかし、桜は思うところがあったようで、顔を赤くして肩をぶつけてきた。
「……言い方!」
クイズは極端に難しい問題は多くなく、二人で協力すればそれなりの正解率を叩き出せていた。
Q.音楽の歴史において、ドイツの3Bと呼ばれる音楽家と言えば、バッハ、ベートーヴェンともう一人は誰?
「この問題、優希君が前に出してきた問題だね。答えはブラームス!」
Q.鎌倉幕府が成立したのは西暦何年?
1.710年 2.794年 3.1192年 4.1336年
「えっ、これ、答え無いんじゃないかな?一番近いのは3だけど」
「このゲームが作られた年代を考えると3が正解だろう。教科書の内容が変わって俺達が知ってる年号になったみたいだし」
「そういえばそうだったね。ゲームが作られた時期までは考えてなかったよー」
Q.世界三大瀑布に数えられないものは次のうちどれ?
1.ナイアガラの滝 2.エンジェルフォール 3.イグアスの滝 4.ヴィクトリアの滝
「これ何だっけ?イグアスの滝だけ知らないんだけど、3番かな?」
「残念、正解は2番だ。エンジェルフォールは落差が世界最大で有名だけどな」
二人は着々と正解を重ねているように思えるが、芸能時事問題の正解率はイマイチであった。流石に『97年時点の横綱の嫁は誰?』という問題を出されても正解を導き出すことは出来なかった。
そんなこんなでコンティニューを続け、とうとうエンディングを迎える。
最後は娘の結婚式で幕を閉じるようだ。
「かすみちゃん、真面目な子に育ったねー」
「だな。しかし、自分の結婚式よりも先に娘の結婚式を見ることになるとはな」
二人は娘の結婚式を見ながらしみじみとそう言った。
「優希君は結婚に興味あるの?」
「興味というか、いつかはするだろうなーとは思ってるよ。でも、俺よりも桜はどうなんだ?女の子の方が憧れは強いと思うけど」
「そうだねー。こんな風なウエディングドレスは憧れるかな」
「たしかに。桜が着たら似合いそうだな」
自分で話し始めたにも関わらず、自分の結婚式を想像してしまった桜は何だか恥ずかしくなってきた。その時隣に立っていたのが誰なのか、それは桜にしか分からない。
「まあまあ、結婚なんて私にはまだ早いよ!」
二人はその後もいくつかゲームをプレイしていく。思いのほか熱中してしまい、気がつけばそろそろ夕食をどうするか決めなくてはならない時間となっていた。
途中で菫には外で食べることは連絡していたため、自宅に帰っても夕食は準備されていないのだ。
二人が外に出ると、すでに薄暗くなっていた。
「いやー、たくさん遊んだねー」
うーん!と両手を上げ伸びをしながら桜は楽しげに笑顔で言った。
「まるで今日が終わったみたいな言い方だな。まだまだ終わりじゃないぞ。でもその前に記念に一枚。せっかくなんだし残しておかなきゃな」
優希はそう言うとおもむろにスマホを取り出す。桜に身体を寄せ、肩を触れさせ合いながら建物をバックに自撮りをする。桜は突然のことに驚いているとシャッター音が聞こえてきた。
「よし、撮れた」
「良くない!私、絶対変な顔してた!撮り直しを要求します」
「それじゃあもう一枚な」
今度はきちんとレンズへ視線を向ける。表情を作らずとも二人は自然と笑顔になり、素敵な一枚が出来上がるのだった。
「これなら大丈夫だろう?」
撮影した画像を開き、桜に見せる。
「まあ、及第点かな」
「十分可愛いと思うけどなー」
桜の軽口に優希が何気なく返すと、桜が抗議するように無言で肩を押し付けてくるのだった。
「晩御飯だけど、この前行ったショッピングモールに行かないか?フォトフレームも買いたいし」
「うん、良いよー」
距離自体はそこまで遠くないものの、ちょうどバスが来たこともあり、二人はバスで移動するのだった。
到着するとまだまだ客は多かった。しかし、これから遅い時間になっていくことから、客層は家族連れからカップルへと変わっていた。優希達の姿はそんな中にあっても浮くことは無く、むしろ馴染んていると言っても良いくらいであった。
二人は食事を終えると、雑貨店へとやって来る。
「改めて見ると、色々種類があるんだねー。いつもスマホに保存して満足してたから気付かなかったよ」
桜はたくさんに並べられたフォトフレームを前にそう言った。
「どれにしようかな。あんまり安っぽいのは止めておくか」
優希はいくつか手に取りながら見定めていく。
「優希君がフォトフレームを買うのは、やっぱりみんなでの写真を入れておくため?」
「きっかけはそうだな。茜が海斗にフォトフレームをプレゼントしたし、茜の性格からして自分の分を買ってないとは思えないしな。だったら俺もって感じ。だけど、もう一つ買う理由が増えたけどな」
優希が自身と一緒に撮った写真のことを指していることに桜はすぐ気付く。
写真ひとつだが、何だか自分が大切にされているようで桜は嬉しくなってくる。
「それじゃあ、私も自分の分を買わなきゃね」
桜は微笑みながらフォトフレームを選び始めるのだった。
買い物を終えることには外は完全に暗くなっており、再びバスに乗って帰宅する。
「それじゃあ、今日はありがとうね!」
「こちらこそ、また遊ぼうな。あ、そう言えば写真送ってなかったな。後で送るよ」
「うん、楽しみにしてる。それじゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
二人は笑顔で別れ、お互いの家へと帰っていくのだった。
ゲームはご想像通り、元ネタありです




