GWのある一日(優希・桜編)その3
その後もバドミントン、卓球とプレイするが優希が思っていた以上に桜は運動が出来た。
しかし、野球に関してはあまり経験が無いのか、バッティング、ピッチングともに、いかにも女の子といったフォームであった。
「流石の桜も野球は苦手みたいだな」
「前にも言ったでしょ?運動は人並みなんだよー。それに野球は全然経験が無いから、投げる感覚みたいなのがさっぱりだよ」
テレビ番組でも行われている『何番のボードを抜くか』それと同じようなアトラクションに挑戦したが、いずれのボールも明後日の方に飛んでいき、一枚も抜くことは出来なかった。
とはいえ、一枚も抜けないのは悔しいのか、桜はもう一度チャレンジを始めた。
しかしこのままでは先程と同じことになると感じた優希はサポートを買って出る。
「うーん、そもそも身体が正面を向いてたら投げにくくないか?」
優希は軽くその場で投げる真似をして、自身のフォームを確認する。そしてネットの中に入って行くと桜の後ろの周り両肩に手を添える。
「身体は投げる方向に対して横向きだな」
優希は気にしていないが、急に触れられた桜は気が気ではなかった。肩に手を置かれた瞬間ビクッとしてしまっても仕方が無いことであった。
しかしただの学生である優希に詳しいことが分かるわけは無く、とりあえず桜がその体勢で何球か投げている間に手早く投げ方を調べた。
「桜、こんな感じだ」
投げ方が載ったサイトを見つけた優希はスマホを見せるべく再び桜に近づいた。
肩が触れ合うような距離で、むしろ時折肩が触れ合いながら並んでスマホを眺める。
優希は全く気にしていないが、桜は触れ合うたびにドキドキしており、優希の話もあまり頭に入ってこなかった。
とはいえ、それを確認し続けて投げていくと、徐々にフォームも変わってくる。
そしてその時は訪れた。
「当たったー!見てた?見てた?」
ボールがボードに当たったことを確認すると、桜が嬉しそうにそう言いながら駆け寄ってきた。
「凄いじゃん!こんな短時間で凄い成長だよ」
優希は両手をパーの形に開き桜を迎える。桜はその姿を見てハイタッチかと思い、自分の手を合わせにいく。
「いえーい……あれ?」
手を合わせるとパンッと弾かれるものだと思っていたら、キュッと両手を握られてしまう。
一瞬何が起きたのか分からなかった桜だが、ハッとすると慌ててしまった。
「何で手を握ってるの⁉ここはハイタッチの流れでしょ!」
「あー、悪い、間違えた」
そう言って手を放す。
「どうやったら間違えるんだよー、もう……。何だか暑くなっちゃった。ちょっと休憩しようよ」
桜の顔が赤いのは運動によるものなのか、それとも違うものが原因なのか、それは桜本人にしか分らなかった。
二人はコートを離れると一度ロッカーに戻る。周囲に人が居ないことを確認すると、優希はおもむろにシャツをを脱ぎ始めた。
「ふう、あっつ……」
「え、えっ!な、何で服を脱いでるのかな⁉」
いきなり目の前で優希が服を脱ぎだしたことに驚き、桜が顔を赤くして慌てる。
しかし、その視線は優希の身体に向けられていた。勉強ばかりしているとは思えないくらいには引き締まった身体をしており、桜はその身体から視線を外せずにいた。
「何でって、動いて汗をかいたからな。ちょっと着替えようかと思って」
何でもないように言いながら、優希が視線を向けると桜と目が合った。
ハッとした様子を一瞬見せると、桜は背を向け『見てません!』といった雰囲気を出すのだった。
優希は気にした様子もなく新しいシャツに着替えると、こちらを見ていないのを良いことに、桜のポニーテールに手を伸ばす。
「お待たせー」
そう言いながら、ポニーテールに触れ、髪を弄るのだった。
「ちょっとー!髪型が崩れちゃうよー!」
桜はそう言いながら軽く頭を振り優希の手を振り払う。優希もすぐに手を離し笑って見せた。
「悪い悪い。嫌だったか?」
「嫌じゃないけど……」
桜は振り返り、後ろ手にポニーテルを撫でつけた。
「桜は着替えなくて大丈夫か?汗かいたままだと風邪引くぞ?」
「こんなに真面目に運動するなんて思ってなかったから着替えなんて持ってきてないよー」
「む、そうなのか。良かったら貸そうか?もう一着持ってきてるから」
「え、悪いよ。大丈夫だから」
流石に男子の服を着ることは恥ずかしいのか、桜はパタパタと胸の前で手を振りつつ優希の提案を断る。
「いいから」
しかしその意見を無視するように、そう言って桜にTシャツを押し付ける。優希にしては珍しく強引だなと桜が不思議に思っていると、さらに優希が小声で続けた。
「汗かいて下着が少し透けてるんだよ」
その言葉に慌ててTシャツを受け取るとそのTシャツで胸元を隠した。そしてゆっくりを自身の胸元に視線を落として確認する。
しかし、多少汗をかいているとはいえ、下着は透けていなかった。
ホッとすると同時に、顔を赤くして桜は上目遣いで優希を睨みつけた。
「背中」
優希の言葉に慌てて周囲を確認すると、桜はTシャツを持って更衣室へと走っていくのだった。
そしてしばらくすると桜はTシャツに着替え、顔を赤くして戻ってきた。
「ありがと……。……見た?」
「まあ。じゃないと指摘出来ないし……」
「もう!忘れて!」
そんな無茶な、と優希は思ったが曖昧に笑ってその場を流すことに決めるのだった。
桜も恥ずかしくはあったものの、少しすればそれも落ち着いていた。
リラクゼーションエリアに移動すると、奥まったその一角に畳が敷かれたスペースがあった。
そこは数人が寝転んでも問題無いくらいの十分な広さだった。
「おー!畳だー!」
他に利用客がいないため、桜は靴を脱ぐとおもむろに畳に寝転んだ。
「なんだ、桜は畳が好きなのか?」
「好きというか家には和室が無いからねー。でも畳の匂いは好きかも」
まるで漫画のように桜はゴロゴロと畳の上を転がった。
そんな姿を微笑ましく見ながら、優希も畳の上に寝転がる。
「実家には和室があったから、なんだか当たり前に思ってたな。確かに無いと寂しいものだな」
「だよねー」
そう言いながら桜はゴロゴロと転がりながらこちらへ戻ってくる。
しかし、優希が寝転がった場所が悪かったのか、桜が勢いをつけ過ぎたのか、思わず桜は優希にぶつかってしまった。
「きゃっ」
「おっと、大丈夫?」
優希は身体を桜の方へ向け、少し心配した様に顔を覗き込む。
「大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけだから……」
そう言って優希の方を見ると思った以上に距離が近く、また身体も半ば密着しているような状態だった。それに気付いたものの、桜はドキドキして何故か身体を離すことが出来なかった。
「どうした?」
そう言って優希が優しく微笑むと、桜はハッとして身体を離す。
「な、何でもない……」
その後は優希のことを意識してしまい、身体は休まっても、心が休まらない桜なのだった。
 




