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GWのある一日(優希・桜編)その2

軽めの食事を終え、二人は目的のレジャー施設へと入っていく。

扉が開くと様々な音が大音量で流れており、外とはまるで別世界のようだった。

入口に案内板が設置してあり、目的地の受付は二階であることが分かった。


「桜、受付は二階だってさ。エスカレーターは……。あれか」

「優希君、見つけるの早いよー。私、まだ見てたのにー」


桜は優希の後を追いかけるようにして歩き出した。

二階に着くと受付の場所はすぐに分かった。受付自体は二つあるものの、どちらにも列が出来ていた。


「結構並んでるね。こんなに人気なんだ」


初体験の桜は少々驚いたようにしながらそう言った。


「GWっていうこともあって、特別人が多い気もするけどな。まあ、施設自体は広いし、色々遊べるものがあるから、そんなにずっと待ってなきゃいけないってことも無いだろ」


優希は自身の経験から、特に心配するようなことではないことを桜に伝える。桜としても、つい口に出してしまっただけで、実際にはそんな心配は特にしていなかった。今の待ち時間でさえも話していればあっという間だろうというくらいの感覚であった。

そんな桜の予想は当たり、適当に雑談をしていればあっという間に順番は巡ってきた。


「いらっしゃいませ。ご利用は初めてですか?」


20代半ばくらいであろうか、女性店員が明るくハキハキと応対をする。


「いえ、初めてです」


桜はその言葉に不思議そうな顔をしたものの、店員の説明が始まればうんうんと頷きながら真剣に聞いていた。

ひとつのグループが占有しないために、基本的にはそれぞれの競技には10分の制限時間が設けてあること、周りの様子を見ながら譲り合って使うなど、基本的ではあるものの大事な説明であった。


「ご利用時間はどうされますか?3時間以上の利用ですとフリータイムがオススメですよ」


利用料金表にはフリータイム以外にもいくつかのパック記載されていた。


「優希君どうする?3時間パックもフリータイムもほとんど料金変わらないし、フリータイムの方が良いんじゃないかな?」

「そうやね。それでよかっちゃないかな」


桜はキョトンとした顔で優希を見る。どうしたんだろうかと一瞬考えたものの、理由はすぐに分かった。


「悪い悪い。フリータイムにしようか。それじゃあ、学生のフリータイム2名でお願いします」


後ろにはまだまだ客が並んでいるため、素早く会計を済ませると受付を離れた。


「いやー、悪い。どうにも母さんが来てから方言が抜けなくてな」

「やっぱり?よく考えたら分かったんだけど、一瞬どう答えて良いか分からなかったよ。ごめんね?」

「全然気にしてないよ。しかし、晃成もたまに分かりづらいって言ってたし、やっぱり福岡の言葉って分かりにくいのかな?ついつい知らずに出てたら悪いな。分からなかったら言ってくれて良いから」


自分が育った地域の言葉が通じないというのは少々ショックではあるものの、優希は気にした様子は見せずにそう言った。


「気にしなくていいよ。私は方言って好きだよ?なんか、こう……、飾ってない感じっていうのかな?口で上手く説明は出来ないんだけど」

「ありがと。そう言って貰えると嬉しいよ」


優希はそう言って優しく微笑んだ。



貴重品とタオル類以外をロッカーに預け、優希達はスポーツエリアにやって来た。

ちなみにこの施設はいくつかに大きく分けられる。

バスケ、テニス、野球等のスポーツを体感できるスポーツエリアと格闘ゲーム、リズムゲーム等のゲームセンターにあるものが遊べるゲームエリア、漫画やマッサージ機、カラオケブースが設置されているリラクゼーションエリアである。


「さて、何からやろうか?まずはここに初めて来る桜に決定権を譲ろう」

「えっ、私?」


咄嗟に決定権を委ねられ、うーんと考え答えを出した。


「よし、バスケットボールをしよう!」


桜は体育の授業で経験のあるバスケットボールを選択した。この競技であれば、そうそう大きなミスもなくプレイできると考えたのだ。


「バスケか。コートはあっちだな」


優希が視線を向けると、コートごとにネットで仕切られており、いくつものコートが準備されていることが一目で分かる。


二人並んでコートに向かうと先客がおり、そばに置いてあるベンチに座って順番を待つ。

体育の授業とは違い、バスケを楽しんでいる様子が見て取れた。

話をしながら待っていると、ピピピッっとタイマーが鳴る。それを合図にバスケをしていた面々がコートの外へと出てきた。


「よし、行こうか」


優希は手慣れた様子でタイマーを操作、コートの中へと入っていく。桜はその後を着いて行くのだった。

優希はボールを手に取り軽くドリブルすると、そのままゴールに向かいレイアップを決める。


「おー!優希君凄い!」


その姿を見て、桜が小さくパチパチと拍手をしていた。


「はい、次は桜もどうぞ」


ボールを拾い上げると優しくパスをする。

桜は同じようにレイアップをするのではなく、その場でシュートを放つ。

だがそのシュートは力が足りず、リングに触れることなく手前に落ちた。


「むー、届かないか」

「なんだ、上手いじゃん」

「えー、届きもしなかったのに?」

「確かに届かなかったけど、コースは良かったと思うよ。リングに向かって真っすぐ飛んでたし」


優希は再びボールを持ち桜の隣に並んだ。

スッと構えるとそのままシュートを放つ。

すると、ボールはバックボードに当たりそのままリングを通過した。


「優希君、バスケやってたの?」


2回続けて入ると桜もそう訊かずにはいられない。しかし優希からの返事は意外なものであった。


「いや?体育の授業くらいかな。だけど、漫画を読んでイメトレは完璧だから。『左手は添えるだけ』だからな」


そう言ってボールを拾い、もう一度同じようにシュートを放つと、流石に今回は入らなかった。


「……外れたね」

「……外れたな」


あれだけドヤ顔で言っていた直後に外したことがおかしくて、桜はつい笑ってしまった。


「ふふっ、完璧って言ってたのに」

「そういうこともあるんだよ」


流石に恥ずかしかったのか、優希は桜から視線を外した。


「さて、あと数分かな。桜、俺と勝負しようぜ」


先程の失態を無かったことにするかのように優希は提案する。


「えー、優希君を止める自信なんてないよー」

「時間も無いし、攻撃は桜だけで良いよ。俺は桜にポイントを決められないようにブロックするから」

「まあ、それなら良いかな」


桜が優希にパスをして、それをまた桜に返しゲームがスタートする。

お互い体育の授業でしか経験が無いとはいえ、身体能力の差から当然優希が有利だった。

何とか抜こうと試みるもことごとくコースを塞がれ、桜はなかなかリングに近づかない。


「優希君、何だかガチ過ぎない?あ、笑ったこと根に持ってるとか?」

「……桜、あの事は忘れるんだ」

「やっぱり根に持ってるじゃん!」


時間が無いことを理解している桜はこのままでは埒が明かないと考え、前に出るのではなくあえて後ろに下がった。

そして先程のようにシュートを放つのではなく、下からふわっと山なりのシュートを放つ。そしてそのシュートはリングに触れることなくネットを揺らした。

先程シュートが届かなかったこともあり、まさかより離れた距離でシュートをするなど思いもしなかった優希は、そのボールを見送ることしかできなかった。


「いえーい!私の勝ちだね」


ニコニコと笑顔で近づいてきた桜を信じられないものを見る目で優希は見つめた。


「ふふっ、残念だったね。あの漫画を読んでるのは優希君だけじゃないんだよ」

「まじかー」


優希はそう言ってガックリとうなだれてしまう。

その漫画には主人公が下投げでフリースローを決める姿が描写されているのだった。

有名な某バスケ漫画、大好きなんです

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