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GWのある一日(優希・桜編)

麻衣が福岡に戻ってからは、今までの遅れをを取り戻すかのように優希は勉強に打ち込んだ。

外出も食事を買いに出る程度と徹底していた。それもこれも、明日の桜との外出に余計な不安を持ち込まないためだった。

そして桜との約束の日、動きやすさも考え比較的軽めの服装選んだ。ボーダーのシャツに白のリネンシャツ、某ファストファッション店で購入したストレッチタイプの黒スキニージーンズといった服装だった。


「ふむ、まあ変では無いだろう」


鏡で自分の姿を確認すると、いつも使っているボディバックよりも少し大きめのスリングショルダーバッグを取り出し、予備のシャツ、タオルを入れていく。デートと言うよりはスポーツが目的だと言われても違和感が無いくらいだ。

そして約束していた時間には少し早いが戸締りを確認し玄関を出る。当然だがまだ桜の姿は見当たらなかった。

スマホを弄りながら待っていると、ガチャという音とともに橋本家の扉が開く。


「それじゃあ行ってくるね」

「気を付けるのよ?それから、晩御飯をどうするか連絡してね」

「はーい!」


そう言って桜は扉を閉じると優希に気付いた。



「あ、優希君。おはよう。もしかして待たせちゃったかな?」

「大丈夫だよ。俺もさっき出てきたところだから。それよりも、今日はいつもと雰囲気が違うな」

「えっと……、変かな……?」


少し不安そうにしながら桜は尋ねる。

今日の桜は大きめの白シャツにデニムのショートパンツ、赤のスニーカーという服装だった。制服以外で脚を出しているというのも初めてみるが、それよりも髪型がいつもと違う。

今日の桜は高い位置で緩く結ばれ、ふわっとした感じのポニーテールであった。


「全然。ポニーテールも似合ってるし、服装もいつもと違う感じで可愛いよ」


特に照れた様子もなく、当たり前のように優希はそう言って微笑む。

しかし面と向かって可愛いと言われた桜は、たまらず顔を赤くして俯いてしまう。しかし褒められたこと自体はとても嬉しく、その表情は笑顔だった。


「……ありがと」



二人はバスに乗りレジャー施設へ向かう。

バスの中はGW真っ只中ということもあり、席はほとんど空いていなかった。かろうじて一番前の一人掛けのシートが空いており、優希はそこに桜を座らせ自身は傍に立っていることを選んだ。


「ごめんね。私だけ座っちゃって」

「気にしなくていいよ。むしろ、俺が座って桜を立たせてるほうが気にするわ」


そう言って優希は笑う。

結局席は空くことは無く、そのまま目的地へと到着した。


「さて、どうしようか。お昼には少し早いけど」

「んー、運動するんだし、軽めに食べたほうが良いんじゃないかな。それで少し休憩したら良い時間だと思うよ」


桜は事前に確認していたのか、同じ敷地内にいくつかある飲食店にはファストフード店があった。

桜に先導されるようにしながら店内に入ると、まだまだ席に余裕があり慌てて席を取る必要が無いくらいだった。


「桜はどれにする?」

「私はねー、チーズバーガーのセットにするよ!」

「じゃあ、チーズバーガーのセットと、フィッシュバーガーのセットをお願いします」

「かしこまりました。それではお席でお待ちください」


店員は注文を受けると笑顔でそう答える。

優希達はその言葉通りに席へと移動し商品を待つのだった。


「会った時も言ったけど、今日は雰囲気違うな。イメチェンか?」

「違うよー。運動するっていう話だったから動きやすい服装が良いかなって思っただけ。髪型もこの方が良いかなって思って」

「なるほど。うん、良く似合ってる。可愛い」


そう言って微笑む。

一度言われたこといえ、何度聞いても桜は慣れない。再び顔を赤くしてしまった。


「優希君はポニーテールが好きなの……?」


自分でも何で確認するように訊いてしまったのかと思ったが、後には引けず桜は優希の答えを待った。


「うーん、どうだろう。単純に桜に似合ってるから褒めただけだしなー」


顎に手を当て、優希は悩むそぶりを見せる。

まったく意識せずに出た言葉だったが、桜にはヒットしたようで俯いて何かを呟いていた。

自分から訊いておきながらこれ以上は耐えられないと思った桜は、少し話の路線を変えることにした。


「だけど優希君って、ホントに、その……、可愛いとか簡単に言うよね。男の子ってもっと恥ずかしがるものだと思ってたけど」

「そうか?こんなこと桜にしか言わないし、そんなポンポン言ってるつもりは無かったけど」


その言葉に桜は胸を押さえ、大袈裟にテーブルに突っ伏した。


「どうした?」

「何でもない……」

「だけど、可愛いに限らず何で褒めるのかということに関しては、やっぱり周りの教育なんじゃないかな。母さんとか」

「麻衣さん?」


そう言って顔を上げたところにちょうど店員が商品を持ってやって来た。


「とりあえず食べようか。いただきます」


優希はいつもと同じように、そう言って手を合わせる。

桜も真似するようにして手を合わせるのだった。


「で、さっきの話だけど。『人の頑張りは認めてあげなさい』とウチでは教育されています。結果としてダメなこともあるけど、そこに至るまでの努力まで否定したらダメだってね。オシャレだって努力なんだっていうのは、昔怒られて教えられたなー。」

「ふふっ、麻衣さん良いこと言うね」

「言ってることは正しいけど、その分厳しいぞー。二日くらいじゃ桜は分からなかったかもしれないけど」


昔を思い出したのか、優希は苦笑しつつそんなことを言う。


「優しそうなお母さんだと思うけどなー」

「母さんと言えば、この間は母さんと何を話したんだ?訊いても教えてくれなくて」

「うーん、どうしようかなー?」


勿体ぶるように言いながら桜は微笑む。


「でもそんなに特別な話はしてないよ。優希君の昔の話とかそのくらいだよ?」

「本人がいないところで……。まったく……」

「あとは麻衣さんと連絡先を交換したくらいかな」

「……えっ」


まさか息子の友人とやり取りをしようと考えていたとは思っておらず、思わず声が漏れてしまった。


「あんまり何でもかんでも俺のことを報告するのは止めてくれよ?それをネタに弄られるのが目に見えてるから」

「そんなことしないよー」


桜は優希がそんな心配をしていたのかとおかしくなってしまい、つい笑ってしまった。

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