写真を撮ろう
桜が顔を赤くして悶えたのち、ひとしきりケーキを食べ終わると、海斗が受け取ったプレゼントを取り出した。
「プレゼントを開けてもいいか?」
みんなが頷いたことを確認すると、海斗は一つずつプレゼントを開封していく。
「こっちは優希のだったな。シャープペンシルか」
「使ってても芯が折れないという優れものだ。学年上位者には必須だろう?」
「勉強道具はあって困ることは無いからな。助かるわ」
袋に戻すと、次は桜のプレゼントを開封する。
「これは桜だったな。これはまた可愛らしいものが」
「だよね!可愛いよね!」
自分のチョイスが褒められたと思った桜は、笑顔でそう返した。
「これ、付箋になってるんだ。私も勉強で結構使うんだけど、色々使い道があるから試してみてね」
「おう、ありがとな」
最後は茜のプレゼントだった。
「これはフォトフレームか。ありがとうな。とはいえ、入れる写真が無いんだが」
「馬鹿ね。写真は今から撮るのよ。すみません!」
茜が晃成に声を掛け事情を説明する。
「分かりました。並びはこのままで良かったですか?」
茜からスマホを受け取った晃成はカメラを向ける。
「撮りますよー。はい、チーズ」
写された画像をみんなで確認しながら、問題無いことを確認する。
「そうだ!晃成君と葵先輩も入れてもう一回撮ろうよ。ダメかな?」
「私は構わないけど。一度、葵先輩に声を掛けてみてくれる?」
「大丈夫かな?一応聞いてきますね。あ、でも、そうすると誰が撮影しましょうか?」
晃成がそう言うと、隣の席から声が上がった。
「良かったら私が撮りましょうか?」
20代半ばと思われる女性だった。友人と食事に来ていたようで、テーブルには食べ終えた食器が残されていた。
「ありがとうございます。それではお願いします」
茜は晃成からスマホを女性に渡し説明する。その間に晃成が店長である大悟に事情を説明し許可を得る。そして葵を伴い戻ってきた。
「お待たせしました」
「……お待たせ」
「それじゃあ晃成はこっちに。葵先輩は茜の横にお願いします」
優希が場所を指示しながら撮影の準備を進めていく。
準備が出来たことを確認して女性が声を掛ける。
「大丈夫かしら?」
「ええ、お願いします」
「それじゃあ取るわね。はい、チーズ」
それぞれが自由にポーズを取る。女性は気を使ってくれたのか数枚撮影してくれた。
画像を確認し満足した女性は、茜にスマホを返す。
受け取りつつ女性にお礼を言うも、気にしないでと言って、再び友人との雑談へと戻っていった。
「良い写真が撮れたわね」
その写真をみんなで共有しつつ、茜は満足そうにそう言った。
「写真は……。そうね、グループをこのメンバーで作りましょう。夜にでも載せるわ。葵先輩と晃成も良かったですか?」
「……私は構わない」
「俺も大丈夫ですよ」
「それじゃあ、また連絡しますね。お仕事中にありがとうございます」
「……それじゃあ行くね」
「みなさん、それでは。兄ちゃん、また夜にね」
そう言って二人は仕事へと戻っていった。
「優希、今日は晃成と約束があったのか?」
「あったというか、昨日約束したんだけどな。晃成がウチに泊まりに来るんだよ」
「なるほど。親戚付き合いも大事だな」
海斗がそう言いながらコーヒーに口を付ける。
「まあ、晃成は親戚というよりは弟っぽいけど。多分弟が居たらあんな感じなんだろうな。そういえば、みんなは兄妹っているのか?」
何となく思いついた疑問をみんなに問いかける。そういえば、家族構成さえも知らなかったと改めて優希は思うのだった。
「妹が一人」
「弟が一人」
「私は一人っ子だね」
上から海斗、茜、桜である。
「で、俺も一人っ子か。みんな長子なんだな」
「いやいや、一人っ子を長子とは言わないでしょ」
優希は茜からまさかの突っ込みを入れられてしまう。
「む、それもそうか」
「二人とも凄く可愛いんだよ!」
桜がそう補足する。よっぽど可愛いと感じているのだろう、その表情は笑顔であった。
そんな話をしつつ過ごしていると時間はあっという間に過ぎ、時間はすでに15時前になっていた。
「そろそろ出るか。流石に長居しすぎたな」
海斗が時計を確認しつつそう言った。
「ケーキ余っちゃったね。みんなさえ良かったら、葵先輩たちにあげない?」
桜がそう言いつつ主役である海斗を見る。
「いいんじゃないか?俺は構わないぞ」
「それじゃあ、ちょっと聞いてくるわ」
優希がそう言ってレジへと移動すると、会計かと思った大悟は移動し対応する。
「お会計かな?」
「いえ、ちょっとお願いがあって。そうだ、ケーキ預かって貰ってありがとうございました」
「せっかくのお祝いにウチを使ってくれてるんだからこれくらいはね」
大悟は気にした様子もなく笑顔で答える。
「それでお願いって?」
「実は買ってきたケーキを全部食べ切れなくて。それで良かったら、葵先輩と晃成に食べてもらえないかなと。晃成から賄いが出ることもあるとは聞いていましたので、もしもこちらで食事をするタイミングがあれば、デザートにどうかなと思いまして」
流石に飲食店という関係上衛生面には厳しく、しばし大悟は考える。
「うーん、ホントはやらないんだけどね。今回だけだよ?ちょうど二人には賄いを出すつもりだったし」
渋々とは言った様子だが了解を得る。ケーキを入れていた箱が残されていたようで、一度キッチンに戻ると箱を持って戻ってくる。
二人連れだって席に戻るとケーキを箱にしまい冷蔵庫へと戻した
そのまま会計の流れとなり、支払いをし、お礼を言って店を出る。
「さて、どうしようか?中途半端な時間ではあるんだが」
海斗がスマホを確認しながらそう言うと、優希も自分のスマホを確認する。すでに15時を回っており、また、母からのメッセージがつい先程届いていた。
それによると、母は19時には家に着くとのことで、もう少し時間に余裕があることが分かった。
晃成にその旨をメッセージで送る。仕事中のためすぐには気付かないだろうが、仕事が終われば気付くだろう。
そのままみんなで街中を散策しながら過ごし17時を回ったところでお開きとなった。
「みんな、今日はありがとな」
「それじゃあね」
海斗と茜は並んで帰っていく。
「私たちも帰ろうか」
「そうだな」
電車で家へと向かう。優希の希望により、途中でスーパーに立ち寄ることにした。
「そういえば、優希君は一人暮らしだけど、GW中のご飯は大丈夫なの?」
「大丈夫とは?」
「学校がある日は学食でお昼ご飯食べてたけど、GW中はそれも無いじゃない?3食ずっとコンビニのお弁当とかだったりするのかなって。栄養も偏るし」
桜は少々心配した様に言うも優希は気にした様子は無かった。
「大丈夫だろう。何とかなるさ」
優希の答えが不満なのか、桜は少々膨れて見せた。
「あれ?どうかしたか?」
「別にー」
優希はいつものように弁当を手に取らず、オカズを多めにかごに入れていく。そして総菜売り場を離れると野菜売り場、精肉売り場を回り、キャベツ、ジャガイモ、豚肉といったメジャーな食材をかごに入れていく。
「優希君、どうしたの食材なんて買って⁉まさか自炊を⁉」
先程の答えと合わせて、桜はそう結論付けた。
「俺が自炊をすることがそんなに意外か?と言いたいところだけど、母さんが来るからな。一応使えそうなものは準備しておこうと思ってな」
「なるほどね。てっきり優希君が使うのかと思って驚いちゃったよ」
「その反応は、それはそれで傷つくけどな」
「えー、だって優希君お料理出来るの?」
「自慢じゃないが、小学生の頃から調理実習は皆勤賞だぜ」
優希はドヤ顔で言ってみれば、桜は一瞬呆気にとられた表情をしてすぐに笑い出した。
「ふふっ、それは凄いね」
「だろ?」
優希も釣られるように笑いながら買い物を終えるのだった。
マンションに到着しエレベーターに二人して乗り込む。扉を閉じようとしたその時、扉の向こうから声が掛かった。
「すみません、乗ります!」
その声に優希が開ボタンを押して操作すると、ガラガラと音を立てながらキャリーバッグを引きずった女性がエレベーターに乗り込んできた。
「ありがとうございます。って優希じゃない」
その女性は優希の母、『伊藤麻衣』その人だった。




