再確認
GW初日、いつもよりのんびりとベッドの中で過ごし、それから外出するための準備を済ませていく。
そんなところに桜からメッセージが届いた。
『何時くらいに家を出ようか?』
特に約束はしていなかったものの、桜の中で一緒に行くことは確定事項だったのだろう。確認の連絡だった。優希としても特に断る理由は無いため、移動手段を考えたうえで返事をする。
『それじゃあ、9時10分に。バスで行こうか』
そのメッセージを送り、思い出したようにもう一通送る。
『海斗の誕生日プレゼントを忘れないように』
約束の時間になり家を出ると、桜も家を出ようとしているところだった。
優希は桜と買い物に行った時と大きく服装は変わっていないが、桜は白ニット、ベージュのフレアスカートにスニーカーという服装だった。
「おはよう、優希君」
桜はニッコリと朝から気持ちの良い挨拶を見せてくる。
「おはよう、桜。今日も可愛いな」
私服を見る機会は多くなく、初めて見た服装だったので自然と優希の口からは褒め言葉が出てきた。
優希としてはあくまでも服が似合っているということを褒めたつもりだったのだが、言葉が足りなかったようで、桜は少々違う受け取り方をしたようだった。
優希も桜の反応を見て気付いたが、訂正する必要も無いかと思い、言葉を飲み込むのだった。
「朝から見せつけてくれるわねー。桜。良かったわね!」
ドアを閉めようとしていたところに優希の声が聞こえたため、扉を締め切らずに様子を伺っていた菫だった。
「もう!お母さん!」
顔を赤くした桜が抗議するも、そんな抗議はどこ吹く風とニヤニヤとしながらドアを閉めるのだった。
バスに乗り込むとGWということもあり多くの席が埋まっていたが、二人掛けの席が空いていたため、その席へと腰を下ろした。
「席が空いてて良かったね」
「そうだな。こんな時間から席が埋まっているとは思わなかったよ」
そのまま雑談に花を咲かせていれば、移動時間程度はあっという間だった。
「少し早く着いたみたいだな。とりあえず店の前で待っていようか」
「そうだね」
二人は並んで歩いていく。すでに店はオープンしているらしく、次々に車が駐車場へと流れていく。
「結構お客さん多そう。店長さん、忙しいかもしれないね」
桜は少し心配そうな表情をみせる。
「だな。とはいえ、交渉は妥協出来ないからな。それはそれということで。まあ、なるべく早く終われるように工夫するしかないね」
入口に近づいていくと、そこには見慣れた姿があった。
「おう、優希。遅かったな。それに桜も」
「おはよう、二人とも」
優希はスマホを確認し、改めて時間を確かめた。
「いやいや、まだ早いくらいだけど?」
「おはよう、茜ちゃん、海斗君」
そんな言葉はお構いなしに海斗は話を続ける。
「約束が10時30分だから、あと40分くらいある。そこで指令だ。この紙に書いてある商品の値段と内容量を再度確認だ。大体がこの前チェックした商品だな。特売品は無かったと思うから、大きく金額は変わってないと思うけど一応な」
ボディバッグから用紙とボールペンを取り出すと、それぞれに1つずつ渡す。
そこには仕入れ予定の商品が表にまとめられていた。ご丁寧に金額欄は空白だった。
それを見て、優希が自分のバッグを漁る。その中からは海斗が用意したものと似たようなものが出てきた。
その様子に海斗は驚いた表情になる。
「優希も考えてきたのかよ。ホント、ウチの学校の生徒は真面目だわー」
そんなことは言いながらも、意識を持って取り組んでいることが分かり、海斗は嬉しくなる。
お互いの用紙を確認すると若干の差はあるものの、認識がズレていないことが分かる。リストアップしている商品に多少差があるため、お互いに気付きが生まれるもだった。
「優希の表は良いな。概算までしてあるのか。単価次第だけど、この数でそのまま交渉出来るかもしれないな」
「そう言ってもらえると作った甲斐があるな。と言っても、この前メモしておいた価格を入れただけなんだけど。確認にはこの前と同じペアで行けば良いだろう?同じ場所をチェックすれば、行動も被らないだろうし」
優希がそう言って周囲を見回すと、みんなが頷いていた。
「それじゃあ、10時20分にまたここに集合だ。時間厳守で」
海斗が言葉を引き継ぎ号令を掛ける。
優希と桜、海斗と茜のペアで調査は始まった。
店内に入ると、お客さんもそれなりの多く、邪魔にならないように確認をしなければならないことが分かった。
「とりあえずは杏仁豆腐とかプリン辺りかな」
「そうだね。そういえば、この前買ったプリンはもう食べた?」
思い出したように桜が問いかける。
「いや、まったく手を付けてないね。この前杏仁豆腐を食べ終わったくらいだよ。買ってはみたものの、一人暮らしには結構な量だよね。またウチに食べに来る?」
「えっ!良いの⁉……いやいや、そんな腹ペコキャラみたいな扱いは不服だよ!」
一瞬喜んだものの、食べてばかりだと思われるのは心外とばかりに、桜が不満を露わにする。
「それじゃあ、要らない?」
「……食べる」
少々顔を赤らめながらも、桜は正直に告白した。
そんな桜の様子を微笑ましく優希は見守っていた。優希の表情が気にいらないのか、上目遣いで睨むのだった。
「ほらほら、時間が無いからチェックしようぜ」
「もー!」
そんなやり取りを繰り広げながら商品をチェックしていく。メインの商品だけではなく、そこにアクセントとして添えられる、ホイップクリームやミントも外さない。
そこが終わるとタピオカの価格を確認する。改めて袋を確認していると桜があることに気付いた。
「このタピオカって冷凍だけど、どこで戻すの?調理室って使えるんだっけ?」
「あー、どうしよう。茹でるだけみたいだから、俺がやってタッパーに詰めて持って来ても良いかな。まあ、何とかなるでしょ」
店内を歩いていると海斗達と遭遇した。
「優希、そっちのチェックはどうだ?」
「こんな感じだな」
お互いの用紙を交換し確認していく。
食べ物をメインに調べていた優希達とは違い、飲み物を中心に調べていたようだ。
「助かる。これから飲み物を確認しようとしてたところだ」
「ということは、後はお菓子か」
四人はお菓子コーナーへ移動し、大きな袋に入ったものを中心に確認していく。
「海斗君、この前見てたのもこの辺の商品だったよね。目ぼしい商品はあった?」
桜がそう問えば、海斗は手近にあったポテトチップスを手に取って答える。
「目ぼしいというほどではないけど、こういう甘くないお菓子が欲しいとは思ってる」
「あとはこういう個包装されたお菓子ね。こういうものを組み合わせて盛り合わせという形で出したいと考えてるわ」
海斗の言葉に続けるように、個別包装されたチョコレートを茜が手に取った。
「そうなると、もう二種類くらいは欲しいよな。よし、俺と桜で1種類ずつ決めてしまおう。商品のチョイスは俺達に任されてるからな」
そう言って優希はバタークッキーを手に取る。
「チョコチップだと被るからオーソドックスな方が良いだろう」
「良いのかな?」
そう言いながらも桜も同じようにお菓子を手に取る。
「甘めのお菓子が多いみたいだから、お煎餅とかどうかな?」
意外なチョイスだが、特に反対意見も上がらず採用になる。
「それじゃあ、この商品をメモしてっと」
海斗が用紙に書き加え終わると時間を確認する。
「そろそろ良い時間だな。よし、行くぞ」
商品を棚に戻すと、海斗を先頭に歩き出すのだった。




