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三年生の教室へ

月曜日、朝のHR前に担任の佐藤静香から二枚の用紙を受け取る。


「伊藤、これを渡しておく。文化祭での貸し出し品目だ」


みのり先輩が言っていたやつか、と優希は思い出しながら用紙を受け取る。


「ありがとうございます」

「時間は必要か?」


優希は少し考える素振りをみせると、


「今日という訳ではありませんが、GW明けの木曜か金曜に時間を貰えませんか。あ、でも今日の帰りのHRで一言だけ。それに合わせてもう何部か用紙貰えます?プリンタを貸して頂ければ自分でコピーしに行きますが」

「コピーはしておいてやる。HRに間に合えばいいのだろう?」

「ええ、ありがとうございます」


優希はそう言って受け取ったばかりの用紙を静香へ返すのだった。


4時間目が始まる前の休み時間に廊下から声が掛かる。

優希が視線を扉へ向けると、そこに立っていたのは静香だった。


「伊藤、ご要望の品だ」


そう言ってクリアファイルにまとめられた用紙を優希へ渡す。


「ありがとうございます。わざわざ短い休み時間の時に持ってきて頂けるなんて驚きました」

「ついでだ。次の時間は隣のクラスで授業だからな。それじゃあ私は行くぞ」


そう言って静香は足早に隣のクラスへと入っていくのだった。


次の授業が始まるということもあり、詳しく貸し出しリストを確認することが出来なかった。

そのため優希は、昼休みに食事をしながら確認することにした。



そして昼休み、今日もいつものように4人は学食に集まっていた。


「優希、その紙は何だ?」

「これか?文化祭の貸し出し備品リストだよ。帰りのHRでみんなにも伝えるつもりだから、一度はちゃんと目を通しておかないとな。ちなみにみんなは何が必要だと思う?」


優希は用紙をテーブルの中央に置いて皆で共有できるようにする。

残った3人は用紙に書かれた内容を確認していく。


「基本的に自分たちで賄うものだと思ってたからな。今更これと言っては浮かばないが。暗幕は欲しいところだな」


海斗がそう言って用紙から目を離すと食事を続ける。


「だな。作業してる姿は見せたくないから、暗幕で仕切る感じが良いとは考えてる」

「このベニヤ板なんかはあっても良いのではないかしら。模造紙でも貼れば看板にでも何でも使えるでしょうし」


茜もそう言って意見を出してくる。


「桜は何か無いか?」

「うーんとね、ペンキとかマジックとかそういう備品はどうなってるのかな?流石にそれを全部買うのは予算的に難しいと思うんだけど」


優希が改めて用紙を確認すると、消耗品に関する記載が記載されていなかった。


「む、確かに。仕方が無い、ちょっと確認してくるか」

「先生に訊きに行くの?」


桜がそう問えば


「いや、実行委員長に訊きに行くさ。これを書いた本人だろうからな」


優希はスマホを取り出しメッセージアプリを立ち上げると、先日連絡先を交換したみのりへメッセージを送る。


『今どこにいます?』


すぐに既読が付き、メッセージが返ってくる。


『教室で食事中』


あまり長文を書くタイプではないのか、その一言だけだった。


『クラスは?』

『三組』


「ちょっと教室行ってくるわ」


ほとんど食べ終わっていたため、残った料理を掻き込むと食器を持って返却口に向かう。

急な展開に桜は驚きつつも弁当箱を持って慌てて立ち上がる。


「桜、お弁当箱は持って帰ってあげるから。一緒に行くんでしょう?」


茜がそう言って弁当箱を受け取るために手を差し出す。


「ありがとう!」


そう言って桜は優希の後を追う。


「優希君待って、私も行くよー」

「ん?桜も行くのか?」

「だって、同じ実行委員なのに私だけ知らないなんて嫌だからね」



二人は雑談しながら歩いて、数分で三年生のフロアに到着した。


「優希君、実行委員長のクラスってどこなの?」

「三組だな。いつも実行委員会が開かれてる教室だ」


三組の教室の前まで来ると、優希はドアの近くにいた女生徒に声を掛ける。


「すみません。笹原先輩いますか?」

「ちょっと待ってね。みのりー!後輩君が会いに来てるよ!」


昼休みということもあり騒がしかった教室に女生徒の声が響く。その声に反応した生徒たちがドアの方に視線を向ける。男子生徒が待っていることに気付くと、特に女生徒が興味深そうに様子を伺っているのが感じられた。


みのりがドアの方に視線を向け優希だと気付くと、手招きして教室へ入ってくるように促した。


許可を得たため、優希は気にした様子もなく教室へと入って行く。

しかし、実行委員会の時とは違い視線が自分たちに集まっていることに緊張してしまった桜は、優希の袖を掴み、後ろに隠れるようにして教室へと入って行くのだった。


「こんにちは。みのり先輩、葵先輩」


みのりの席を挟み向かい合って葵も座っていた。二人で昼食を採っていたのだろう、閉じられた弁当箱が机には置かれていた。


「やあ優希。急に連絡してくるから何事かと思ったよ。もう一人の君は見覚えがあるな。優希と同じ実行委員だろう?」


桜は自分が声を掛けられるとは思っておらず、少々緊張しながらも自己紹介をこなす。


「橋本桜です……」

「笹原みのりだ。改めてよろしくな」


「……桜はどうして隠れてるの?」


葵は優希の背に隠れるようにしていた桜を、首を傾げながら不思議そうに見ていた。


「何だかみんなに見られて緊張しちゃって」


はにかむようにしながら桜はそう告げる。


「何だ、葵は二人と知り合いだったのか」

「……うん、元々はウチによく来てくれるお客さんだった」

「なるほど。それで、優希は私に何か用があるのだろう?」

「ええ、文化祭の貸し出しリストの件で確認したいことがありまして」


優希が手に用紙を持っていくことに気付くと、みのりは机の上の弁当箱を片付ける。

机の上に用紙を広げ、先ほどの消耗品の件を確認する。


「おや、ホントだ。これは申し訳ない。急ぎかい?」

「出来れば。帰りのHRでみんなに声を掛けようとは思っていたので」

「そういうことであれば、それまでに何とかしよう。他のクラスにも新しいものを配布しないといけないな。念のために伝えておくと、ペンキは学校から支給だ。都度担任の先生に申請してくれ。マジックやガムテープは一定数を配布だ。それ以上はクラスの予算から購入だな」

「なるほど。ありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ抜けてて悪かったな」


みのりは申し訳なさそうにそう言った。


「いえ、勉強でお忙しいのに、早々にリストを作って頂けただけで十分ですよ」


そんな風に言ってもらえるとは思っていなかったのか、みのりは意外そうにしながらも、次の瞬間には笑顔を見せた。

ちなみに桜は話を遮らないように、黙ってうんうんと頷いていた。


「それじゃあ、昼休みも終わってしまうので、俺達は教室に戻りますね」

「ああ、それじゃあ。リストのことは任せておきたまえ」

「葵先輩も。お邪魔しました」

「……構わない。いつでも来て良いよ」


その言葉に優希と桜は笑顔で見せる。手を振って教室をあとにするのだった。


教室を出てしばらくすると桜が少し不満げに話し始める。


「……笹原先輩と仲良いんだね」

「みのり先輩?」

「何かお互い名前で呼び合ってるし……」


桜は上目遣いで少し睨むようにしてそう呟いた。

桜のその様子に優希は少し意地悪そうな笑顔を浮かべる。


「何?もしかしてやきもちを妬いてくれてるの?」

「ち、違うし……」


優希のその言葉にハッとした様子で立ち止まり、桜はプイっと顔を背けてしまう。

そんな様子が可愛らしく、優希はついつい桜の頭を撫でてしまう。

撫でられることにも多少慣れたのか、普通に受け入れていた桜だったが、ここが学校内であることを思い出すと、顔を真っ赤にしながら頭を振って優希の手を払いのけるのだった。


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