休日の過ごし方 桜編
土曜日、桜は悩んでいた。
忘れていたわけではなかったが、昨日急にGWの具体的な予定が決まってしまった。
日程こそ決まっていないものの、裏を返せばGW早々に遊びに行く可能性もあるのだ。
そこで問題になるのが、どんな服装で遊びに行くのかということである。
前回の買い物も服装にはとても悩んだものの、今回もまた頭を抱えていた。
「うーん、どんな格好していけばいいんだろう?運動がメインとはいっても、ジャージって訳にはいかないし」
スマホを操作しながら参考になりそうな画像が無いか検索していた。
「なかなかピンとくるものが無いなー」
桜はベッドに横になり、ゴロゴロしなかがらスマホを眺める。
モデルが着ているため、どうしても自分が着た時にイメージがズレてしまうと考えているのだ。
そんな時部屋の扉がノックされる。
「桜。お母さん、ショッピングモールに買い物に行ってくるけど、桜も行く?」
服装で悩んでいた桜は渡りに船とばかりに同行の意を示した。
「行くよー!準備するからちょっと待ってて!」
慌てて準備をしながら、実際に歩いている人や、店頭のマネキンを参考にしようと考えるのだった。
「それじゃあお父さん、行ってくるね!」
「ああ、行ってらっしゃい」
父は家でのんびり過ごすとのことで買い物には参加しないとのことだった。単純に女性の買い物には付き合いづらいと考えたのかもしれないが。
車に乗り込み助手席に桜を乗せると、菫はショッピングモールまで車を走らせる。
15分程度走るとショッピングモールが見えてくる。休みということもあり駐車場はそれなりに埋まっていたが、どうにか駐車スペースを確保することが出来た。
「お母さん、今日は何を買いに来たの?」
そういえばと思い桜は菫へ質問を投げかける。
「今日は調理器具を見に来たのよ。フライパンがそろそろ焦げ付きやすくなってきちゃったし」
「あの大きめのやつだよね。私も一緒に選んで良い?」
料理が得意な桜としては新しい調理器具を買うというイベントはワクワクするものであった。
表情もどことなく活き活きしているように感じられた。
「それは嬉しいけど、桜は自分の買い物しなくていいの?何か見たくて来たんでしょう?」
菫は少し不思議に思い桜に訊いてみた。
「んー、買うかどうかも分からないし、ちょっと見るだけで良いから、フライパンを買った後で良いよ」
「そう?それじゃあ、行きましょうか」
テナントとして入っているキッチン用品のセレクトショップへと入っていくと、当然のことながらフライパン以外にも包丁や製菓道具も並んでいた。
「どこかなー。あっ、お母さんあったよ!」
目的のものを見つけると桜は菫に声を掛ける。その声に菫は反応し近づいていくのだった。
「この辺だね。どんなのにしようか?」
「そうねー。焦げ付きにくいのは当然だけど、軽いのが良いわよね。重いと桜もフライパンを振るのが大変でしょう?」
「そうだよねー」
言いながら桜はフライパンと手に取りつつ重さを確かめていく。時折フライパンを振るようにしながら使い勝手を試していくのだった。
「これなんか良いんじゃない?」
桜が手にしているのは、すでに橋本家でも使われている取っ手が取れることで有名な某メーカーのフライパンだった。
「あら、やっぱりここのメーカーに落ち着くのね。良いわよ、桜が好きなのを選びなさい。最近は料理の頻度も、作る量も増えているようだし」
含みのある言い方でニヤニヤとしながら菫は桜に言葉を向ける。
「別に増えてないし、今まで通りだし……」
すぐさま言葉の意味を理解し、桜は少し顔を赤らめながら否定の言葉を口にするのであった。
「そういうことにしておきましょう。それじゃあお会計してくるわね」
ニヤニヤした表情を残したまま菫はフライパンを受け取りレジへと向かうのだった。
「お待たせ。それじゃあ、次は桜のお買い物ね」
「うん!」
ファッション関係のお店をいくつか見て回り、マネキンを眺めながら自身の姿を想像する。
「うーん、いまいちピンとこないなー」
そうこう悩んでいると店員が声を掛けてきた。
身長は同じくらいだろうか。明るい笑顔で近寄ってくる。
「何かお探しですか?」
「いえ……、見てるだけなので……」
人見知りなところがある桜。いきなり声を掛けてきたため驚いてしまい少々うつむき気味に答えてしまう。しかし、チラッと見た店員の服装に何かを感じて視線をあげた。
ジッと店員の服装を眺め、その様子に店員も少々困惑気味であるものの笑顔は崩さずにいた。
「あのっ、お姉さんの服、もう少し見せてもらって良いですか?」
「私ですか?えっと、こんな感じ?」
店員は棒立ちもカッコ悪いと思い、簡単にポーズを取る。
桜は自分が今持っている服で代用が出来ないか考えながら、絶対的に足りないものだけを買うことにした。
「そのショートパンツはどこにありますか?」
店員に案内されて陳列されている商品を手に取る。値段も手頃で高校生の桜でも十分買えるものであった。
サイズを確認したところで、横で控えていた店員に試着出来るようお願いする。
試着室へ案内されショートパンツを履いてみれば、思いのほか悪くはないと思えるのだった。
若干サイズが合わなかったため会計後に仕立て直しをする。少々時間を置いて先ほどの店員へ声を掛けると作業は完了しており桜は商品を受け取る。その際に店員が世間話と言わんばかりに話しかけてきた。
「彼氏さんとのデート用ですか?」
店員としては何気ない会話のつもりだったが、桜は盛大に反応してしまう。
「いやいや!か、彼氏とかそんなのじゃないです!ただのクラスメイトなので……!」
その様子に店員は何かを察したようで
「頑張ってね!」
店員としてしてではなく、人生の先輩としてエールを贈るのだった。
「桜、良い服は買えた?」
桜に付き合って店内を見ていたものの、会計の際に外に出ていた菫が合流する。
「うん!」
「他になければ、夕飯の材料を買って帰りましょうか。桜、今日は何が食べたい?」
「んー、お母さんの料理、好きだから何でもいいんだけど」
「あら、何でも良いが一番困るのよ?」
「だよねー。特売の商品を見てからメニューは決めようよ」
「うふふ、桜は良いお嫁さんになるわね」
「もう!そういうの良いから」
プイっとしつつも、二人は並んで食料品コーナーへ歩いていくのだった。




