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意外な人物

翌日の土曜日、まだ昼前ではあるものの優希は駅前に出てきていた。

目的は昨日言っていたように参考書を買うためだ。書店に入るとついついコミックの新刊コーナーを覗いてしまう。優希自身は見たことが無いが、アニメ化して人気が爆発している作品の新刊がコーナーの多くを占めていた。


「はー、こんなに置いてて捌けるんだから凄いもんだな」


そんな感想を残しつつ、当初の目的であった参考書コーナーにやってきた。

するとそこには見知った女性の姿があった。


「あれ?笹原先輩?」


その声に女性が振り向く。


「確かに私は笹原みのりだが?あれ?君はどこかで……」


女性は目を瞑って、うーんといった様子で目を閉じ考え始める。


「同じ学校の伊藤優希です。二年二組の実行委員の」


それを聞いて合点がいったようで、女性はうんうんと頷いていた。


「思い出したよ。いつも女の子と一緒にいた彼だね!」

「いやいや!その認識はおかしい。というか、笹原先輩、実行委員会の時とキャラが違いません?」


優希の印象としては、会議を冷静に進行していく落ち着いたタイプの人間だと感じていた。しかし、今話しているこの女性はどうだろう。それとは印象があまりにも異なっていた。


「……双子の妹?」

「君が今とても失礼なことを考えていることは分かった。しかし何故、『妹』なのか。小一時間問い詰めたいところだな」


腕を組んでジトっとした目でみのりは睨んでくる。


「いやー、何でかなー。あはは」


適当な笑いでごまかし目を逸らしていると、みのりもあまり気にしていないのか厳しい視線は向けられなくなった。

ふう、と一つため息をつくとみのりが続ける。


「それで?君も参考書を買いに来たのかい?」

「ええ、具体的に決めてるわけじゃないんですけど、良い参考書が無いかなと思って探しに来ました」

「感心、感心。ウチの学校は自分で言うのもアレだがレベルが高いからね。普段からの勉強は大事だよ。ちなみに君の学力はどれくらいなんだい?昨年末の学年順位とか」

「いや、実は俺、4月から今の学校に編入してきたので、今の学校での実力って分からないんですよ」


少々意外そうな顔をしたみのりが言葉を返す。


「まだひと月も経っていないというのかい?その割には随分とあの女生徒と仲が良さそうだったが」

「その話、まだ引っ張るんですね……」

「いやいや、褒めているんだよ?ひと月も経たずにあれだけ誰かと仲良くなれるのは凄いことだ。それに今だってほとんど話したことが無いような相手、しかも先輩に声を掛けるなんてなかなか出来ることじゃない。君のそのコミュニケーション能力には目を見張るものがあるね」


うんうんと一人納得いったようにみのりは頷く。


「笹原先輩、俺さっき自己紹介しましたよね?君って呼ばれるよりは名前で呼んで頂きたいのですが?」


このまま黙っているとみのりが話し続けるのではと思い、優希は話題を変えるために何でも良いからと思い、適当に話題を切り出した。


「それはすまない。では優希と呼ばせてもらおう。私のこともみのりと気軽に読んでくれ。しかし、お互いを認識してこんなにすぐ名前で呼び合うように仕向けるとは、優希のコミュニケーション能力の高さの一端を垣間見た気がするな」


結局その話に戻るかと優希は少々がっかりした様子だがみのりは続ける。


「だが、言われてみれば君と呼ぶのは失礼だったな。名前は親から貰う初めての贈り物とも言うしな。申し訳ない」


そう言ってみのりは頭を下げる。しかし、それを見て優希は慌ててしまう。


「いやいや!そこまでする必要無いですって!気にしてませんから頭をあげて下さい!」


周囲からは好奇の眼差しヒソヒソとした話し声が聞こえてくる。

それに耐えきれず優希はみのりの肩を掴み、身体を揺さぶってしまう。


「そうか?」


みのりは何事も無かったかのように優希を見つめた。

今まで周囲にはいなかったタイプなのか、優希も少々疲れた様子だった。


「ところで話を戻すが、参考書を買いに来たんだろう?普段はどこの会社のを使っているんだ?」

「そうですね。この会社が多いですかね」


出版社別に並んでおり、優希はその棚の一つを指さした。


「ふむ、なるほど」


みのりはその棚から参考書を一冊抜きパラパラと捲っていく。


「悪くはないが……。ちなみに私が使っているのはこの辺りだな。図解もあって分かりやすいぞ」


そう言ってみのりは自分が使っている参考書を手渡してくる。

それはこの国で1位2位を争うような難関校対策の参考書であった。偏差値が高い学校だということは分かっているが、当たり前のようにこのレベルの参考書を渡してくるあたり改めて学校のレベルの高さを感じるのだった。


「みのり先輩、もしかして結構頭良い?」

「さあ?自分では分からないな。ただ参考書なんてやればやった分だけ覚えるのだから、そこに頭の良し悪しは出ないと思うが?それに私は医学部志望だからな。これくらいの問題、解けなくては話にならない」


当然といった様子でみのりは言い放つ。


「そもそも優希は志望校はどうするんだ?それによって対策が変わってくるだろう?」

「うーん、正直具体的な学校は決めかねてて」

「優希、それではダメだぞ。ある程度方向性を決めないとどっちつかずになりかねん。ただそういうことであれば、とりあえずこの参考書を買っておくんだ。この参考書がきちんと理解出来れば、ある程度の大学でも応用出来るだろうからな」


そう言って自分の使っている参考書を薦めてくる。優希としても、たまには違うアプローチの参考書も良いかと思い乗り気であった。


「ありがとうございます。それじゃあ、これを買わせてもらいますね」


その言葉にみのりは、おやっ?という表情を見せる。


「良いのか?そんな簡単に決めて」

「ええ、みのり先輩のオススメなんでしょう?」


優希はそう言って意地悪く笑って見せる。

みのりはその言葉に笑顔を見せるのだった。


会計を済ませ店を出ると、そこにみのりが立っていた。


「おや、みのり先輩。まだ帰って無かったんですね」


優希の言葉にみのりは不服そうにジトっとした目を優希に向ける。


「それが可愛い後輩を待っていた先輩に言う言葉かね?」

「え、わざわざ待っててくれたんですか?それはまた何で」

「優希は勉強や進路で行き詰まる気がしてね。ここであったのも何かの縁だ。困ったことがあったらいつでも私に聞くといい。ほら、スマホを出して。連絡先の交換だ」


みのりはスマホを取り出しメッセージアプリを起動させる。

優希も特に問題は無いため、連絡先を交換するのだった。


「しかし、みのり先輩がこんなキャラだったとは思いませんでしたよ」

「なんだい?一番最初の質問に戻るんだね」


覚えていたのかと思っていると、みのりは話を続ける。


「会議を滞りなく進めるにはあの方が良いだろう?あくまでも主役は皆だからな。私がガンガン進めていくようなものではないし、必然的にあのスタイルになるさ。それに私が私情を挟むわけにもいくまい?言い方は悪いが、淡々と進めていくに越したことはないと思っているよ」

「そんなもんですかね?」

「そういうものさ」


話が一段落するとみのりはスマホで時間を確認する。


「それじゃあ、私はこの辺で失礼するよ。今日はありがとう、有意義な時間だった」


そのような言葉を言われたのは初めてだったため優希は少々驚いてしまうが、そこは笑顔で切り返す。


「ええ、俺も有意義な時間でしたよ。ありがとうございます。みのり先輩」

「うむ、それではまたな」


そう言ってみのりは街中へ歩き出すのだった。


「ちょっと変わってるけど、悪い人ではなさそうだな」


そんなことを呟いていると優希の身体が空腹を訴えた。


「さてと、お昼を食べてから帰るか」


みのりに少し遅れる形で優希も街中へ歩いていくのだった。

うーむ、書いてたらいつの間にかこんなキャラになってしまった

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