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授業風景

翌日もいつものように優希と桜は一緒に登校していた。

教室に入り自分の席へ着くと、先に来ていた海斗と茜が二人の席へと近づいてくる。


「よう」

「おはよう、二人とも」


海斗は軽く手を挙げ、挨拶と言って良いのか微妙な言葉を掛ける。対して茜はきちんと挨拶をするのだった。優希と桜も挨拶を返し、いつものように会話が始まる。


「そうそう、昨日出した店長へのメールだけど、早くも返事が来たぞ」


そう言って海斗はスマホを取り出し優希の机に置いた。桜も椅子を優希に近づけ画面をのぞき込んだ。

そこには早々に連絡を貰ったことに対するお礼と、まだ文化祭まで時間があるため気にしなくていいという内容が記載されていた。


「ほえー、こんなちゃんとした文章を貰うのなんて初めてだよ」


桜は店長からのしっかりとしたビジネスメールに感心しつつ、社会人が使うメールと自分が友人たちと交わすメッセージでは全く違うものなのだと実感したのだった。


「このメールに返信は要らないだろうから、とりあえずは保留ってところかな?」


優希は文章を読み進め、海斗に確認のために問いかける。


「そうだな。それで良いと思うぞ。時間はたくさんあるし、後はこっちがちゃんと内容を詰めていかないとな。頼むぜ、実行委員」

「いや、実行委員にそんな権限は無いんだが」


海斗の冗談にやれやれといった様子で優希は言葉を返すのだった。



4時間目の数学の時間。流石は進学校といった様子でカリカリとペンを走らせる音が教室には響いていた。生徒自身も居眠りをしようものなら授業に着いて行くことが出来なくなることが分かっているのだろう。居眠りをする生徒もいなかった。

先生が説明する声だけが教室に響き渡る。しかし教科書に載っている問題を解くように指示が入ると、その声さえも消え、チョークで黒板に文字を書く音とペンを走らせる音だけが教室に響いた。


「それじゃあ、この問題の解答を橋本さん、その次の問題を伊藤君。前に出て解答してみてくれる?」


黒板には教科書と同じ問題が書かれており、二人は黒板の前に並んで立ち解答することになった。

桜の表情は明らかに困ったときのものであり、机から黒板への少しの距離も非常に重たい足取りで進んでいくのだった。

解答自体はノートに書いているものを書き写すだけのためそれほど時間は掛からないはずなのだが、優希が板書を終えても桜は黒板の前で悩んでいるのだった。


「桜、どこが分からないんだ?」


見かねた優希は声を掛ける。

先生もその様子に気付いているものの、自分たちで解決することが大切だと考え何も言わなかった。


「どこがというか、全部……」


桜は何度やっても思うような答えにならず、書いては消してということを繰り返してた。

その表情はどことなく疲れて見えた。

優希が自分のノートと桜の答えを見比べているとその原因が分かった。式の最初のほうで躓いているために、どうやっても答えにたどり着かないのだ。


「桜、ここが間違ってる」


あくまでも桜が解答しなければいけないと考え、優希は指摘するに留めた。


「え、ここ?」


桜は指摘された部分を改めて考え始める。優希はその様子を見て助け舟を出す。


「ほら、ここを展開していくと……」

「なるほど!」


桜もこの進学校に入学出来るだけの実力はあるため、間違いに気づけばその後は自力で問題を解くことが出来た。その表情は最初とは打って変わって明るいものであった。


「先生、出来ました!」


桜は声を上げると、先生も笑顔でお礼を伝え、席に戻るように促した。

そして先生は二人の解答をもとに説明を始めるのだった。


「優希君、ありがとね」

「どういたしまして」


桜は小声でお礼を伝えると再び黒板へ向かい、自分が苦戦した問題の解説に耳を傾けるのだった。



放課後になり、いつものように四人は一緒に校門まで歩いていく。


「それじゃあまた明日」

「またな」


朝と同じように茜はきちんと、海斗は軽い挨拶をして自宅のある方角へ歩いて行った。


「それじゃあ俺達も帰るか。昨日の今日で遅くなるわけにはいかないし、今日は寄り道は無しだな」

「だねー。あ、でもスーパーには寄りたいな。お母さんから買い物頼まれちゃった」


桜がスマホを確認すると15分ほど前に菫から連絡が入っていた。


「帰り道だし全然構わないぞ。俺も晩御飯買わないといけないし」



スーパーへ到着すると桜は早々に用件を済ませる。

調味料のストックが無かったため買っておいて欲しいということだったようだ。

桜の買い物が終わると、次は優希の晩御飯探しだった。

とはいえ、優希としては一人での食事にあまり意味を感じず、とりあえずお腹が空かなければいいかなと考えていた。

弁当コーナーを目の前にして、特に考えることも無く弁当を手に取る。


「優希君、何を食べるの?」


優希の姿で良く見えなかったのか桜が声を掛ける。


「ん?これ」


その手には『男ののり弁』と書かれた、通常よりも量の多いのり弁が握られていた。

魚のフライ、唐揚げ、ハンバーグと男性には好評のオカズが入っているが、桜の目にはそうは映らなかったようで、おもむろにスマホを取り出しどこかに電話を始めた。


「あ、お母さん?うん、頼まれてたものは買えたよ。それで電話したのは……、うん、うん。分かったありがとう」



電話が終わったのを確認すると優希が声を掛けた。


「今のは菫さん?」


桜はその言葉には答えず、優希の手から弁当を取り上げる。


「おいおい、俺の晩飯……」

「今日の優希君の晩御飯はこれです」


のり弁を元の場所に戻すと、代わりと言わんばかりに白米だけが入ったパックを渡してきた。


「桜さん……、これはいったい……」


優希は理解が追い付かず、思わず口調が変わってしまう。

桜は気にした様子もなく当たり前のように告げるのだった。


「今日の優希君の晩御飯、オカズは橋本家から支給します」

「いやいや、そんなにいつも分けてもらう訳にもいかないだろう」

「いいの!今日の数学のお礼だとでも思っておいてよ。それに、あんなに栄養の偏った食事は看過できません」


桜は人差し指をピンと立て、優希の食生活を注意し始めた。

これは言っても聞かないだろうと思い、優希はその提案を受け入れるのだった。


「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「任せて!」


桜はそう言って笑顔を見せるのだった。

久しぶりの投稿です。

感想を貰えて、モチベーションが上がったので書いてみました。

以前はちょっと行き詰ってましたけど、間隔を開けると違うアイデアも出てくるものですね。

またボチボチ投稿していく予定です。

やっぱり、反応があるとモチベーションって上がるんですね。

他の作家さんが評価や感想を求める理由がちょっと分かりました。

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