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接客は誰がやるの?

午後の授業が始まり、担任である静香が教室に入ってくる。

そして教壇の前に立つことなく、脇に置いてあるパイプ椅子を広げ腰を下ろした。


「伊藤、時間をやる。早いところ決めてしまえ」


突然話を振られたものの、準備をしていたため慌てることなく優希は教壇へと上がる。当然その後を桜は追いかける。


「えー、という訳で急遽お時間を頂きました。僕らが立っていることで何の話かは想像が付くかと思いますが文化祭についてです。まだまだ決めることがあるので、サクサク決めていきましょう。実は昨日、スーパーに行って何が買えるのか下見してきました。ケーキ以外のお菓子、飲み物は揃いますが、それを入れる容器等は揃わないと判断したので、そちらの交渉役が必要になりました。これは100円ショップで良いと思います」


桜が『交渉係(容器等)』と板書する。


「また、運よく店長とコンタクトが取れました。交渉には応じてもらえるとのことなので、後日改めて時間を貰ってきます。ケーキが仕入れ可能か、また仕入れ数次第で、こちらの交渉も変わってきます。後で連絡先を教えるので、連携していきましょう」


ケーキ担当へ視線を向け話しかける。視線を向けられた生徒も頷き応じて見せた。


「そのほかには……」


昼休みに四人で話し合った内容を改めて伝える。

黒板にはデザイン係、接客係、調理係、交渉係、宣伝係という単語が並んでいた。

『男装』というコンセプトもあり、女子生徒の採用が確実な接客から決めていく。活発に意見も飛び交い、会計担当は男子でも良いのではないか、男子の制服であれば身長が高くなければダメなのかなど、優希達の中からは出てこない意見もあった。


「それでは接客したい人は手を挙げて欲しいんですが……、相談する時間が欲しいって顔してますね。五分後にもう一度聞きますので、それまでに決めて下さいね」


その言葉と同時に一気に教室が騒がしくなる。

優希と桜も一度席に戻る。すると、いつものように海斗達が近づいてきた。


「意外とやりたい人が多いのかな?」


桜が周囲を見回し疑問を口にする。


「さてな。友達がやるなら私も、っていうところだろ。これは配置に苦労するな」


海斗は桜の疑問に答えつつも、そう言って優希の肩に手を置いた。


「確かにな。こればっかりは立候補を見てからじゃないと決められないけどな。ところで、茜は立候補しないのか?」

「嫌よ。私に接客が出来ると思うの?」

「まあ、笑顔で接客は難しそうだな。桜はどうだ?」

「えっ、私?私も向いてないんじゃないかなー」


あまり乗り気ではない様子で、桜は断りを入れてきた。


「だけど、責任者は表に出ておいたほうがいいだろう。トラブルが無いとも限らないからな」


海斗がそう言って言葉を挟んでくる。

確かに、女子がメインで表に出るため、実行委員である桜を接客として配置することは理想であるように感じた。


「理屈は分かるけれど、それでは桜は一日中クラスに閉じ籠ることになるわ。それぞれの時間帯で責任者は決めるべきよ」

「そっちのほうが妥当かな?実行委員はある程度表にいたほうが良い気もするけど」


しかし茜が言葉を重ねてきたことで、少し悩み自分の意見を口にする。


「そんなこと言って、桜の男装姿を見てみたいだけじゃないのか?」


海斗がからかうように言ってくる。


「さあ、どうだろうな」


当の桜としては乗り気ではないため、すんなりとやるとは言わなかった。

ただ、やらないといけないとは考えており、じっと茜を見つめるのだった。


「……桜、その視線は何かしら?」


先程から視線には気付いていたが、あまりにも見つめてくるため茜も無視出来なくなってきた。


「茜ちゃんも一緒に出てくれるよね……?」


優希と海斗はその様子を面白そうに黙って見ているだけだった。


「海斗君はいつもの茜ちゃんとは違う姿を見たくない?」


するとそこに桜から声が掛けられる。


「俺は茜の色々な姿を見てみたいけどな」


先程までの面白がっている表情からは打って変わって、優しげに茜へ微笑みかける。

海斗からじっと見つめられると、茜は顔を赤くする。

しばらく視線を泳がせ考えている様子だったが、一つ息を吐くと言葉を発した。


「……分かったわよ。だけど、希望者が多かったらやらないわよ。やりたい人間を押しのけてまでやるものではないわ」

「ありがとー!」


桜はパッと表情を明るくして嬉しそうに言うのだった。


「さて、そろそろ良い時間かな」


時計を見るとちょうど五分が経っており、二人は教壇へと戻っていった。


「それでは、接客係の立候補を募ります。やりたい人は挙手をお願いします」


すると、桜、茜を合わせて計八人の手が挙がった。


「八人か。ちょうど良いかな。それでは、この八人を例えば前半、後半と分ける形で四人ずつで配置したいと考えてますけど、大丈夫ですか?」


優希が確認すると、同意の声や頷く動作が多くみられた。


「ちなみに制服は学校に二着しか無いそうなので、何人か予備の制服があれば貸して頂きたいと思います。僕が一着用意できますが、少なくとももう一着、可能であれば宣伝用にもう何着か欲しいのですが、一度確認をお願いします。同様に、商品を入れておくクーラーボックス等も貸して頂きたいので、こちらもご協力頂ける方はよろしくお願いします」



その後は順調に話し合いは進み、結果としてクラスを二つに分け一交代制にすることで話がまとまった。他の担当も決まり、デザイン関係は美術部やデザインに興味のある生徒が協力してくれることに決まった。


「それでは、一通り決まったと思うのでここまでにしたいと思います。ありがとうございました」


優希と桜が自分の席に戻ると静香が代わりに教壇へと立つ。


「ふむ、なかなか積極的に話し合いが進んでいて良かったぞ。自分で決めたことだからな、責任をもって果たす様に。それでは少し早いがここまでだな。以上だ」


静香はそのまま教室を出ていくのだった。


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