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初訪問

ただいま

翌日の日曜日、優希は午前中からダイニングテーブルにテキストを広げ勉強に勤しんでいた。

課題も終わり、受験を見据えた勉強へとすでにシフトしていたが、時計を見ると12時を回っていた。


「もうこんな時間か。昼飯どうするかな」


そう一人呟いて、思考を巡らせていると不意にチャイムが鳴らされる。

モニターを見ると、そこには見知った顔が映っていた。

不思議に思いながらも玄関に向かい扉を開ける。


「桜、どうしたんだ?」

「こんにちは、優希君。どこかに出掛けるところだったかな?」

「いや?今日は勉強して終わりかな。コンビニにくらいは行くかもしれないけど。ほら、昨日桜に見せただろ?主食しか買ってないからおかず買わないとな。それよりも何か用事があったんだろ?どうしたんだ?」

「これあげる!」


桜は手に持っていた容器を渡す。


「えっと、開けていい?」


桜が頷いたことを確認し、優希は容器の蓋を開ける。

そこには卵焼きと豚の生姜焼きが入っていた。


「昨日の様子で、おかずに困っているのではないかと思い持ってきました」

「それは凄くありがたいんだけど、この前も貰ったじゃん。そんなに貰えないよ」

「いいの!私が上げたいだけだから気にしないで!その……、多く作り過ぎちゃったし、ほら、隣人が栄養失調で倒れるっていうのも目覚めが悪いでしょ!」

「そんなことにはならないと思うけどな。でも、ありがとう。美味しくいただきます」

「うむ!味わいたまえよ」

「これがあれば買い物に行かなくて済むな。さて、食べたらまた勉強しなきゃ」


優希はそう言いながらストレッチをするかのように首を左右に傾ける。


「優希君、この前出された学校の課題ってもう終わった?」


桜が確認するかのように上目遣いで訊いてくる。

優希としては既に終わらせた課題であり、何で今更?といった様子だった。


「この前出されたやつっていうと、明日提出する英語の課題のことか?」

「そう、それ!」

「もちろん終わってるけど」


その言葉を聞いた桜は、パッと表情を明るくさせ優希のことを見つめる。


「え、もしかしてまだ終わってないのか?」


優希はまさかといった目で桜を見る。

桜も当然その視線に気づき


「頑張ってはみたんだよ?でも英作文は難しいよー」

「教えるのは構わないけど、文章は自分で考えるんだぞ?勉強の意味が無くなるからな」

「良いの!?ありがとー!」

「じゃあ俺は準備してるから、勉強道具を持ってウチに来て。勝手に入ってきていいから」


そう言って優希は部屋に戻る。

一人取り残された桜は一人呟いた。


「優希君の家でやるの……?」




優希は貰ったおかずをキッチンに置くとリビングを簡単に片づける。

元々散らかってはいないものの、ダイニングテーブルの上を整理して勉強出来る環境を整える。

テーブルは四人掛けのもので、勉強するには十分な広さがあった。


「あとは辞書と参考書でもあれば十分かな」


そうこうしているうちにガチャッと扉が開く音がする。


「……お邪魔しまーす」


初めて入る家に家主の案内も無いというのは流石に気が引けるのか、桜の声も恐る恐るといった様子であった。


「?普通に入ってくればいいのに」


リビングまでやってきた桜に、優希が不思議そうに声を掛ける。


「いやいや!流石に初訪問のお宅は緊張するよ」

「それもそうか。まあいいや、早速勉強するぞ」


そう言って優希は桜に椅子に座るように促した。

桜は席に着き、課題をテーブルに広げる。


「それで?どこで躓いてるんだ?」


桜の隣に座り、課題を覗きこむ。

そこには英作文が書き込まれていた。


「ふーむ、作文の日本語版はどうなってる?」

「英作文なのに日本語?」


はて?といった感じで桜は首を傾げる。


「一から英語で考えてたら難しいだろ。ちょっと待ってて」


優希は自室からノートPCを持ってきて、そのまま文書作成ソフトを立ち上げる。

「タイピングは得意?」

「うっ……、スマホばっかりで、あんまり得意じゃないです……」


桜はPCから目を逸らしながら小声で伝える。


「そう。それじゃあ俺が打ち込むから、書きたい内容を教えてくれ」


桜は文章が並べられていくPCを覗きこみながら、自分の考えを伝えていく。

時折文章を修正しながらも、さほど時間も掛からず完成した。


「これを印刷してっと……」


印刷ボタンをクリックすれば、自室でネット接続されているプリンタから用紙が吐き出される。それを取りに行き、優希は再び桜の隣に戻ってきた。


「桜は英語では文章が止まってたけど、これが書きたいんだろ?だったら、これを英訳すればいい」

「なるほど!」

「英語と日本語じゃ文章の構成が違うことは理解してるみたいだな」


書かれている内容は主張から始まり根拠が列挙されている。英作文の基本は押さえられているようだった。


「それは授業でも教わってたからね。英語のテキスト自体もそういう書き方が多いし」


出来ていることが嬉しいのか、桜は少し自慢げに語ってくる。


「それじゃあとりあえず、これを英訳していこうか」


印刷された用紙を桜に渡し、そう促す。桜も頷き課題と向き合った。

桜が課題に向き合うと、手持ち無沙汰になった優希は食事をしようとしていたことを思い出す。

そっと席を立ち、パックのご飯と貰ったおかずをお皿に移してレンジで温める。

それを持って桜の斜向かいの席に座った。


「あ、ごめんね。そういえばお昼食べてなかったんだよね」


桜が申し訳なさそうな顔をするも、優希は全く気にしていなかった。


「ん?気にしなくていいよ。それよりほら、課題続けて」


再び桜が課題と向き合うと、優希はいただきますと手を合わせ食事を始めた。


「うむ、美味い美味い」


卵焼きに手を付け、特に誰に言うでもなくそう呟く。

次に生姜焼きへ手を付ける。しっかりと味が付けられており、ご飯との相性は抜群であった。

食べ進めていると、何だか視線を感じた。

桜が時折課題から視線を外し、チラチラとこちらの様子を伺っていたのだ。


「どうした、桜」


視線の合った桜は慌てて視線を逸らす。


「いや、味はどうかなーって……」

「凄く美味しいよ。卵焼きの味付けも好みの味付けだったし」

「良かった……」


あからさまにホッとした様子で桜は表情を緩める。


「もしかしてこれ、桜が作ってくれたのか?」

「……そうです」

「ありがとう。すごく美味しい。また食べたいくらいだよ」


そう言って優希は桜へ微笑む。


「そこまで言ってもらえると作った甲斐があったよ!やっぱり、作った側としては美味しく食べてもらえるのが一番だからね!」


桜は微笑む。

料理が好きだということが伝わってくるような、そんな笑顔だった。


そのまま優希が食べ進めようとすると、桜は隠すことなくこちらをニコニコと見てくる。


「そんなに見られると食べ辛いんだけど……」

「美味しそうに食べてくれるから嬉しくて。食べ終わるまで見てたらダメかな?」


断られるとは思っていないのか、えへーっといった表情で優希を見ていた。

作ってもらった立場としては何も言えず、優希はそのまま受けれるのだった。


「……見てて楽しいものでもないけどな」


少し顔を赤くした優希が食事を終えるまで、桜の視線が外れることは無かった。


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