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橋本家

「お母さん!それにお父さんも。おかえりなさい!」

「ただいま。桜は友達と出掛けてたと聞いていたが男の子だったとはな。まさか、このままウチに……?」


そう言って、桜の父からの視線が優希に向けられる。


「初めまして。桜さんとはクラスメイトで親しくさせて頂いてます。『伊藤優希』と申します」


優希は桜の父親にも臆することなく笑顔で挨拶を交わす。


「初めまして。『橋本恭介』です。娘と友人であることに関してとやかく言うことは無いが、こんな時間に女性の家に上がろうというのは、些か問題ではないかな?」


名乗った時とは違う厳しい視線が優希に向けられる。

恭介からすれば、娘が変な男に捕まらないかという、親として当然の心配であった。

菫は優希がどのように対応するのか楽しみにしているのか、頬に手を当てて、あらあらといった様子だった。


「えっと、恭介さんとお呼びしても?」


名字が被るため、菫の時と同様に名前で呼ぶ許可を求める。

それに対し恭介から許可が下りる。


「それでは恭介さんと。ひとつ情報が不足しておりました。今月から隣に引っ越してきました伊藤です。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありませんでした。改めてよろしくお願い致します」


優希は深々と頭を下げる。


「む、そうなのか。それは悪いことをしたな。気を悪くさせてしまったなら申し訳ない」

「こんなに可愛い娘さんですから、心配されるのは当然のことかと思います。こちらは気にしていませんから」


自分の勘違いだったことに恭介は少し気まずそうにするものの、優希は気にした様子も無く笑顔で対応する。


「ここで立ち話をさせてしまって申し訳ない。そろそろ帰ろうか」


恭介のその言葉で皆はエレベーターに乗り込み、自宅前へと到着する。


「それじゃあ伊藤君、お隣なんだからまた会う機会もあるだろう。これからよろしくな」

「ええ、こちらこそよろしくお願い致します」


恭介は自宅へ消えていく。


「うふふ、優希君ってしっかりしてるのね。大人みたいな対応でビックリしちゃたわ」

「いえいえ、急なことで驚いちゃいました。悪い印象になってなければ良いんですけどね」

「大丈夫よ。バッチリだわ。あんまり優希君に構ってると、あの人が寂しがっちゃうからそろそろ行くわね。それじゃあ、おやすみなさい」


菫から見ても対応は悪くなかったらしく、ニコニコとしながら家の中へと帰っていった。


「私も戻るね!優希君、また学校で!」

「ああ、また学校で。あ、ヤバ」

「どうしたの?」

「いや、家に食べるものが無いのを思い出した。ちょっとコンビニ行ってくるわ。朝飯も無い」


別れ際、優希は家の食糧事情を思い出した。

家に入らず踵を返す。


「カップ麺ばっかりはダメだよ?」


桜は少し心配したように諭す。


「気を付けるよ。適当にパンでも買ってくるか。それじゃあ、またな」

「うん、おやすみ!」


コンビニへと向かう優希を桜は小さく手を振って見送るのだった。



桜side


優希を見送ると桜も自宅へ戻ってきた。

リビングでは恭介と菫がテーブルでお茶を飲みながらまったりしていた。


「あら、もう戻ってきたの?もっとお話ししてくるかと思ったのに」

「別にいいのー!」


菫はそう言いながら、桜の分のお茶も準備し始める。


「桜もお茶飲むでしょ?」

「うん、ありがとう」


桜は一度部屋に戻り、荷物を置き戻ってきた。


「母さん、伊藤君のことは知っていたのか?」

「ええ、先週桜が学校に行くのを見送った時に知り合ったのよ。礼儀正しくて良い子でしょ?」

「そうだな。初対面にも関わらず、しっかり挨拶が出来ていた。第一印象としては評価できる。しかし、桜が男の子と帰って来た姿を見た時は驚いたな。俺も年を取る訳だ」

「ホントね」


恭介がしみじみと口にすれば菫が同意してくる。


「いやいや、母さんはいつまでも可愛いよ」

「ふふふ、ありがとう」


恭介が菫を褒めれば、菫が笑顔で返す。

また始まった……、と桜は思うものの、いつまでも仲が良く自慢の家族だった。


「ところで桜、今日は楽しかった?」


唐突に話を振られるものの笑顔で答える。


「楽しかったよ!茜ちゃん達と遊ぶのとは、また違う楽しさっていうのかな。そうだ、優希君って福岡から引っ越してきたんだけど、ショッピングモールに入ってるファミレスあるでしょ?あのお店に行ったこと無かったんだって。九州には無いらしいよー。この辺りだと結構見かけるのにね」


桜は楽しそうに今日の出来事を話していく。


「それでね、それでね!」


その話はお茶を二度お代わりする程度には続けられるのだった。



桜は風呂に入り、さっぱりしたところで自室に戻る。

スマホを見ればメッセージが届いていた。


「あれ?優希君だ。どうしたんだろう?」


スマホを手に取り確認する。


『今日は楽しかったよ。良かったら、また遊びに行こう。ところで、恭介さんは俺のこと何か言ってた?』

『私も楽しかったよ、また遊びに行こうね!お父さんは優希君のこと褒めてたよ。礼儀正しくて好印象だってー』

『それは良かった。今後もいつ会うか分からないからな。印象良くて助かったぜ』

『優希君、気にしすぎだよー。お父さん優しいから大丈夫。そういえば、ちゃんとご飯は買いましたか?』

『もちろん。そのためにコンビニに行ったんだしな』


メッセージとともに画像が添付されており、そこには食パン、カップ麺、パックごはんが並んでいた。

桜はベッドに寝転がりながら、その画像を確認すると衝撃を受けた。


『主食ばっかりなのでアウトです!』


可愛らしいNOというスタンプとともにメッセージを送る。


『大丈夫、ふりかけもバターもあるから』

『それおかずじゃないしー!もう!身体壊しちゃうよ?』

『いつも心配掛けてすまんな』

『それは言わない約束でしょ』


定番のネタを交えやりとりを続ける。


『仕方がない。明日おかずを買いに行くから許してくれ』

『ちゃんと野菜も摂るんだよ?』

『分かってるよ。おっと、悪いな遅くに連絡して。こんなに時間を取らせるつもりは無かったんだが』

『大丈夫だよー』

『それじゃあ今日はこの辺で。おやすみ、桜』

『うん、おやすみー!』


桜はそのメッセージを送りスマホを閉じる。

そして一度伸びをすると机に向かい、学校から出されている課題に取り組むのだった。

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